2022年1月26日 (水)

2022年1月14日に発表された「中長期の経済財政に関する試算」に関し内閣府計量分析室に電話して質問しました(No.458)

Q 成長実現ケースですが、全要素生産性は1982年から1987年までの5年間で0.9%上昇した。これと同じだけ全要素生産性がこれから上昇すると仮定して計算していますね。
A はい。
Q この時期は公定歩合を大きく下げ銀行も貸し出しを大きく増やしたりして特別な時期でしたね。
A そうでしたね、はい。
Q こういう状況が再び訪れようとしていると思っているのですか。
A おっしゃるとおり、当時とは状況が違うということがあるかも知れないのですが、我々としましては、成長実現ケースというのは、骨太の方針2021年度の中で実質2%、名目3%という成長を目指すという事を基に、それが実現した場合には全要素生産性がそのように上がっていくというのが成長実現ケースというものです。もちろん、ご意見は色々あると思うのですが、今の経済財政運営のスタンスが実現すればこういうように全要素生産性はこうなると仮定を置いているということです。
Q 最近発表された全要素生産性は0.3%~0.4%でずっと低迷していますね。
A はい。
Q それにも拘わらず何年間もの間全要素生産性が急上昇すると仮定をして計算をしていて、それが全部嘘だったわけです。これはやり過ぎだったのではないか。あり得ない仮定ではないか。バブルが今すぐに来るだろうという主張は全く適切ではないのではないか。
A おっしゃるとおりです。こういった試算の時によく言われます。
Q この試算を見て岸田内閣が現状の政策でこんなに成長すると思われてしまうと困りますね。全要素生産性はそんなに上がったり下がったりするものではなく、余程大胆な政策変更をしない限り変わらない。
A そうですね。
Q 政府の方から圧力が掛かっているかも知れませんが。
A いいえ、そんなことはありません。
Q 私は困ったものだと思っています。
  2021年度には歳出が142.6兆円という大きな額になっていますが、2022年度は107.6兆円に下がっています。つまり35兆円も歳出が下がっています。
A はい。
Q それだけ歳出が減少すると名目GDPも相当減少するはずです。それなのに試算では2021年度は544.9兆円、2022年度には564.6兆円と逆に20兆円も増えています。マクロモデルで計算してこんな結果はあり得ないと思います。
A この部分の試算は「政府経済見通し」で示されている成長率になっていて、詳しくはそちらで聞いていただいたほうがよいのですが、そこで出された経済見通しを採用させてもらっております。
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著者コメント
政府経済見通しは令和4年1月17日に閣議決定の後、発表されている。
https://www5.cao.go.jp/keizai1/mitoshi/2021/r040117mitoshi.pdf
これは「天の声」であり、どんな馬鹿げた数字が並んでいても計量分析室で変更することは許されない。
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Q どうしてこういう政府見通しになったのだろうと思いますね。計量分析室では自分たちは関係無いよというのですね。でもね、これってやり過ぎでしょう。閣議決定をされたからこれに従わざるを得なくなったということですか。
A 一応見通しの中では今回組まれた2021年度の補正予算を着実に実行することによって民需主導で自律的な成長ができるという考え方の基に22年度の成長率がつくられているというところがあります。
Q でもオミクロンもありますし、民需に期待すると言っても外国からの人も入って来られない(インバウンド)状況でどうやってこのGDPを稼ぎ出すのだろうと心配しています。
A おっしゃるとおりで、「見通し」の中でもオミクロンがでたばかりだったので、それを考慮しなかったと思います。その点に関しましてはリスクとして書いてあったと思います。
Q 毎年、「見通し」でかなり見誤っているという気がしますね。実は見通しでなく目標なのかもしれません。見通しと言いますがモデル計算ではないわけですよね。
A 確かにモデルではなかったのかもしれませんが、モデルみたいなものがあったような気がします。これは担当の方に聞いて頂ければよいのですが、確かに甘いと言われればそうかもしれません。
Q 歳出を大きく減少させればGDPは減りますよね。
A 前年度と比べたらということですね。
Q そういうモデルになっていると思うのです。その逆になっていたら信用できない。歳出を削減すればGDPが上昇するというモデルを誰が信じますか。
A 確かにそうですね。
Q 税収が随分増えるのですね。2020年度は45.2兆円しかないのに2021年度は76.0兆円に増えています。確定値ではないですよね。
A はい、確定値ではありませんが2022年度予算のとき見積もった。上振れが起きています。
Q 税収が増えた。2022年度だと、補正予算がないとすれば税収はかなり減るかと思ったのですがそんなに減らないしその後もかなりの高水準を保っている。1年前に発表された税収予測に比べても増えている。コロナで傷ついた経済なのに税収はそんなに増えるものなのか。これは基礎的財政収支の黒字化を早めるための工作でしょうか。
A そういう意図的なものは無いのですが、今回上振れたというのは2021年度の補正予算が出たことによって税収が上振れした。まず税収の発射台が上がっています。税収は我々のモデルでは経済成長に従って上昇するということで結果的には上ぶれているということになっています。
Q 全要素生産性がかなり効いているのですか。
A 回り回って、そういうことにもなりますね。
Q だから全要素生産性でさば読んでいるのではないかと考えると、これはやり過ぎということではないですか。名目GDPは実際は増えてないのに、随分増えると予測しています。実際はGDPは30年近く、ほとんど上がっていない。ドル表示で見ると下がっているくらいだと思います。
A ああ、ドル表示だと。
Q 円安になったらドル表示だと下がってしまう。それなのに、試算ではGDPが勢いよく上昇している。確かに3%成長すれば上がります。それは政府が夢見た成長なのでしょうが夢は実現してないから現実を見る必要もあるのではないでしょうか。
A はい。
Q 2022年度は3.6%成長というようにどんどん上がっていくことになっています。ほんとにそうかなと思います。
A そうですね。
Q じゃあ、どうすれば上がるのか。岸田首相は給料が上がれば良いとお考えです。給料を上げると固定費が増加し収支が悪化しますから設備投資ができなくなる。そうすると外国のお金持ちの企業に比べ設備投資が見劣りし、競争に負けるのではないかと思います。
A そうですね。岸田首相は成長と分配の好循環とおっしゃっておりまして成長すればよいのですね。でも分配を大きくすると設備投資ができなくなる。
Q そうでなくとも、時価総額で劣るわけです。平成元年の頃は時価総額ランキングでトップ10の中に7社も入っていました。今は1社も入っていなくてトップのトヨタですら40位くらいです。日本企業は随分貧乏になってしまった。私の考えでは全要素生産性を上げてGDPを上げるというのは夢物語で、あの頃のように金融緩和で大変なバブルを発生させた1987年までの5年間のような経済にできるわけがありません。金利はあの時のように下げられません。銀行貸出を大きく増やすことも、今は企業も個人もあのときのようにはできません。カネを借りて投機すれば大儲けができる環境にない。設備投資が進まないと韓国、台湾、中国にどんどん抜かれていってしまう。一人当たりのGDPも韓国や台湾に抜かれてしまう。だから内閣府計量分析室に私は非常に期待をしています。政府に教えてやって欲しい。3%成長をしようと思えば全要素生産性を大きく増やすのは無理で、やはり歳出を増やさなくてはならない。
A なるほど。
Q 歳出を増やせばハイパーインフレになるとか国債が暴落するとかと言う人もいますが、内閣府のモデルで計算してみればそんなことにはならないと分かるはずです。コロナ禍で歳出を随分増やしましたが円の信認が失われることも、ハイパーインフレになることも、国債が暴落することもありませんでした。物価上昇率はまだ低すぎるくらいです。
A はい。
Q だから歳出をもっと増やしてよいのだと思います。全要素生産性を変えずに歳出を増やした場合と増やさない場合を比較して欲しい。公開が難しければ、せめて岸田内閣の方々にだけでも結果を教えて欲しいのです。どの位歳出を増やせば3%成長ができるのかを示して頂きたい。「政府経済見通し」とは関係無く、発射台としては現状の経済データをそのまま使って計算して欲しい。インフレ率がどうなるかを正直に伝えて欲しいと思います。その結果に基づいて歳出拡大をすべきかすべきでないかを政府に検討させて欲しい。
A なるほど。全要素生産性を変える場合ではなく、歳出を増やす場合と増やさない場合ですね。
Q 全要素生産性を増やすのは大変です。1982年から1987年の5年間の経済を再現するということ、これはプラザ合意の後、日本は内需拡大を求められたわけです。金利を大幅に下げ、銀行は無茶苦茶な貸出をしました。株や土地に投資すれば、大変な収入になるのだと言い、とんでもない額の貸出をし株や地価が急騰しました。結果としてその後バブル崩壊で、不良債権が発生し、日本経済は一気に没落してしまいました。バブル発生時の経済状況にするなら、全要素生産性は上がるかもしれませんが、バブルを発生させるのは極めて危険です。しかし単に歳出を上げるだけなら、行き過ぎたと思えば歳出を下げればよいだけです。
A なるほど。
Q そうすればよいと思うのですがダメですか。
A 我々は経済財政運営はできませんので。
Q 歳出を変えるだけでコンピュータを走らすのは簡単でしょう。公開しなくても、結果を岸田さんとか高市さんとかに教えるだけでもいいですよ。
A はい。ご意見を承りましたということで。我々の試算とは別に乗数分析をやっておりまして、その表をご覧になって頂きたいと思います。
Q その乗数表を見れば歳出を増やせばGDPは増えるということになっていますよ。2021年度から2022年度で、歳出は大幅に下がったのにGDPは大幅に上がるというのは乗数分析の結果に反していると思いますよ。
A そういうことですね。
Q だから「政府経済見通し」がネックになっていているわけで、もうこの見通しを発射台にすることを止めて、現状をスタートポイントにして計算したほうがいいですよ。全要素生産性を変えるのは問題がありすぎます。全要素生産性は一般の人には縁遠い存在なので1982年からの5年間という、日本経済が異常な状況にあったむしろ極めて危険な試みを行っていた時の全要素生産性を採用するのは大きな問題だと思います。
A はい。ご意見は承りました。本当にご意見を反映できるかどうか分かりませんが、承りました。また何かありましたらお知らせ下さい。
Q はい、宜しくお願いします。

参考資料:
内閣府のモデルの乗数は

https://www5.cao.go.jp/keizai1/mitoshi/2021/r040117mitoshi.pdf


にあります。これによると、政府支出をGDPの1%相当を増やすと、GDPは1.16%上昇するとなっています。2021年度に比べ2022年度は35兆円政府支出が減っているので、GDPの6.4%相当減少しています。ということは2022年度のGDPは7.45%減少しなくてはなりません。これは40.6兆円GDPが減少しなければならない事になります。
しかし試算では19.7兆円増加することになっています。そんな支離滅裂な数字が閣議決定されたわけです。実際は岸田内閣はマイナス成長を容認しないでしょうから、そんなに政府支出を減らすことはせず、結果としては基礎的財政収支の赤字は拡大することになるでしょう。

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2022年1月21日 (金)

内閣府計量分析室は経済試算を偽装している(No.457)

内閣府は毎年2回、経済予測を発表してきた。
発表された試算でGDP成長率は下図のように毎年力強く成長すると予測しているが実績は成長は極めて遅い。内閣府計量分析室の職員は政府に雇われている身であり、政府が名目3%成長すると言っている限りこのようなグラフにするしかないのだ。ということはどこか国民の気付かないところで偽装するしかない。

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このような現実離れした成長率をでっち上げるために使われたのが全要素生産性である。各試算のために使われた全要素生産性が「成長実現ケース」でどう変化させたかと以下に示す。

2017年1月 全要素生産性(TFP)上昇率が足元の水準(2015 年度:0.8%)で 2016 年度まで推移した後、2020 年代初頭にかけて 2.2%程度まで上昇する
2017年7月 2019年1月 足元の水準(0.4%程度)から1.3%程度まで上昇する
2018年1月 足元の水準(0.7%程度)から1.5%程度まで上昇する
2018年7月 足元の水準(0.6%程度)から1.5%程度まで上昇する
2019年1月 足元の水準(0.4%程度)から1.3%程度まで上昇する
2019年7月 足元の水準(0.4%程度)から1.2%程度まで上昇する
2020年1月 足元の水準(0.4%程度)から1.3%程度まで上昇する
2020年7月 足元の水準(0.4%程度)から1.3%程度まで上昇する
2021年1月 足元の水準(0.4%程度)から1.3%程度まで上昇する
2021年7月 足元の水準(0.4%程度)から1.3%程度まで上昇する 
2022年1月 足元の水準(0.4%程度)から1.3%程度まで上昇する 
つまり全要素生産性が急激に上昇すると仮定して毎回計算している。全要素生産性の急上昇に何か根拠があっての仮定かというとそうではない。そもそも全要素生産性はどのように推移してきたかを示す。
                         出所:内閣府1_20220121120901

内閣府は全要素生産性を1982年度から1987年度までの全要素生産性の急上昇が今の日本で起きると仮定して毎年試算を行っている。この期間はバブル期だ。日銀は公定歩合を大きく引き下げた。公定歩合は1986年に5.0%だったのが1987年2月には2.5%に下げられた。金融機関は投機のための資金を積極的に提供した。1986年にはNTT株が売り出され、2か月で売り出し価格の3倍に達し、投機ブームが起きた。地価も株価も激しく上昇していた。この試算では当時の経済が今日以後再現すると仮定している。実際は全要素生産性は0.3%~0.4%に留まっているのに、これが今日からはバブル期並に上昇すると仮定している。しかも毎年同じ仮定が使われている。全要素生産性の仮定など誰も気にしないだろうと考えたのだろうか。これは予想ではなく偽装というべきだ。

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この偽装は内閣府計量分析室に責任があるのではなく、日本経済の実態を正しく説明することを許していない政府の責任である。このような偽装を続ける限り、日本経済の没落、日本の貧困化は終わらない。

経済を成長させたいなら、唯一の方法は政府支出の増加であることは以下のグラフからも明かであり政府支出の増加で経済はどうなるかを内閣府は計算して発表すべきだ。

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出典:朴勝俊先生
Twitter https://twitter.com/psj95708651/status/1325562650978181122

府支出の増加で経済はどうなるかを示すシミュレーションは以下の文献を参照。

『毎年120万円を配れば日本が幸せになる』扶桑社 (2021/1/21) ASIN : B08T97FCHZ 井上智洋、小野盛司
『ベーシックインカムで日本経済が蘇る シミュレーションで明かになった驚愕の事実』小野盛司、荒井順、増山麗奈、山下元(宮帯出版 2022)

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2022年1月15日 (土)

ベーシックインカムで日本経済が蘇る(No.456)

シミュレーションで明らかになった驚愕の事実

日本経済復活の会は20年前から日経新聞社と契約し、NEEDS日本経済モデルを使って日本経済を復活させる方法を示しております。我々のシミュレーションに対し、世界を代表するノーベル経済学賞受賞者達から高い評価を受けています。
https://www.ajer.biz/letter.html
この計算により驚くべき事実が明かになりました。日本経済は過去30年間、世界最低レベルの低成長を続けているのですが、国民全員に一定額の現金給付を行うと見違えるように経済状態が良くなるということです。その結果を本にまとめて出版することができました。大変多くの方々のご協力、ご指導、ご支援を頂きました。深く御礼申し上げます。

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2021年12月13日 (月)

2050年カーボンニュートラルを実現するには(No.456)

筆者は2002年日本経済復活の会を立ち上げた。日経新聞と契約し、NEEDS日本経済モデルを使って日本経済のシミュレーションをして、財政を拡大すればデフレ脱却も経済成長も可能だと確信した。その方法は減税か財政拡大かであった。その中でも再生可能エネルギーの活用は最重要課題の一つだと認識していた。最も有望と思えたのが、風力発電であり、当時九州大学名誉教授の太田俊明氏の話に注目した。彼を日本経済復活の会の定例会に招き、講演をして頂いた。太田氏によると洋上風力発電で日本の全電力をカバーすることが可能であり、発電コストは原発の2分の1ということだった。新素材を使った浮体に風車や太陽光パネルを載せることで巨大な海上風力発電所を可能にする技術を確立した、と発表した。新素材を用いることで従来より低コスト化が図れるという。資金面でめどがつけば、10年程度で原発1基分に相当する100万キロワットの発電も可能になるという。

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しかし話はそう簡単ではなく、日本は再生可能エネルギーに関して苦戦している。しかし状況はそれ程単純ではなかった。日本には遠浅の海は少なく、洋上風力発電に向く所は少なかった。平地が狭い事もあって、太陽光発電と風力で死にものぐるいで増やしても、全電力に対する割合は
太陽光  25%
風力   20%
水力   10%
程度にしかならない。しかも日本での発電は大変割高である。高い電力はあらゆる分野で国際競争に不利になる。


下の表は日本の再生可能エネルギーのコストで、低減はするが外国に比べ2~3倍のコストになり、将来的に差はもっと大きくなる。
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太陽光では中国、インド、豪州の太陽光発電コストはメガワット時あたり40ドルを切る一方、日本と韓国ではメガワット時あたり100ドルを超える。
次のグラフは太陽光発電のコストの比較である。出所:BloombergNE.Note
           
   2020年、太陽光発電のコスト
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このコストの差異に影響を与えているのはプロジェクトの規模である。大規模太陽光発電プロジェクトの平均規模はインドと豪州ではそれぞれ48メガワット、60メガワットであるのに対し、日本と韓国では8メガワット、4メガワットである。特に日本と韓国では平地が不足していることや所有者不明の土地が多く顕在しているといった地理的制約により、規模の経済が働きにくく、他国と比べ初期投資費用が高止まりしている。

東北大学の小濱泰昭教授はマグネシウムを利用した太陽光発電を提案した。臨海砂漠地帯でマグネシウム(Mg)を精錬して太陽エネルギーを封じ込め,国内に運搬してMg燃料発電(MgFC)で電気エネルギーや熱エネルギー, そして構造材料として使用する社会を構築するという提案である。

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まず砂漠で太陽熱を使ってマグネシウムを精錬する。マグネシウムは海水に大量に含まれていてほぼ無尽蔵に確保できる。最大の難関は太陽熱でマグネシウムを精錬することだ。実験室レベルでは成功しているが、採算に合うほどの効率性で精錬が可能なのかが、この構想の成否を決めるポイントとなる。精錬されたマグネシウムはタンカーで日本に運ばれ、酸素と化合させて電力を発生させるか、水と反応させ水素を発生させたりする。

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筆者はソフトバンクの孫社長に手紙を書き、このアイディアを実現してもらえないかとお願いしたら、会社に来て詳細を説明して欲しいとの返事だった。そこで小濱氏と私の二人でソフトバンクに行って説明した。ソフトバンクは、このプロジェクトの採算性をきっちり計算して欲しいと言われた。

いずれにせよ、日本では再生可能エネルギーに関して明るい話題はない。外国では、はるかに安く大容量な再生可能エネルギーが可能という話が伝わってくる。例えば中国は「2030年までに、風力発電と太陽光発電の総設備容量を12億kW以上とする」と宣言した。これは原発1200基に相当し、日本全体の発電応力の4倍以上である。内モンゴルや青海(セイカイ)では発電コストは3.2~4.8円/kWhだそうだから日本よりはるかに安い。筆者が20年前から考えていることは、電力を海底ケーブルを使って輸入できないものかということだ。海底ケーブルを使い直流送電で行えばよい。ヨーロッパでは盛んに行われている。1000kmで3%の電力ロスしかない。

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上図で実線は既設プロジェクトでその他は進行中のプロジェクトである。北欧の安い電気が輸出されている。またフランスの原発は夜間も発電を続けるので、ドイツを経由してスイスやオーストリアに送られている。イギリスは電力取引のハブになっているオランダから大量の電力を輸入しているし、北欧の安価な水力・風力の電力を輸入する計画が進んでいる。

下図で分かるように送電距離が50km以上になると、直流送電のほうが交流送電よりコストが低くなる。

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ヨーロッパにはDesertec計画というものがあった。

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サハラ砂漠に当たるすべての日射量がエネルギーにそのまま使われるとしたら、ヨーロッパで消費される電気の7,000倍ものエネルギーを生み出すとされている。これを直流送電でヨーロッパに送ろうという計画であった。しかしアフリカは政情不安なので、設備が爆破されれば大変なことになるという理由で計画は進んでいない。

東日本大震災の際には東北の多くの発電所がストップし、電力を他の地域から送電する必要があったのだが、送電網が貧弱で上手くいかなかった。特に東日本と西日本で周波数が異なるために、西日本から東日本への大規模な送電はできなかった。九州では風力と太陽光の発電量(VRE:Variable Renewable Energy)の出力抑制が行われている。VREを限られた地区内で使おうとすると気象条件により出力が大きくなりすぎるので、出力抑制をしなければならなくなっている。また北海道は風が強く風力発電に向いているが、送電網が整っていないので風力発電ができないでいる。そこで登場するのがジャパン・スーパーグリッド構想である。

 

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投資額は僅か2兆円規模であり、これがあれば電気を日本中で融通できる。

筆者が様々な場所での講演で提言していたことは、電力を海底ケーブルを使って輸入することだ。交流で遠距離送電をするとロスが大きい。しかし50km以上だと直流送電の方が安くなり、1,000kmの送電でロスは僅か3%程度だ。ジャパンスーパーグリッド構想では北海道から九州まで直流海底ケーブルで結ぶ。総距離は2,000kmで投資額は僅か2兆円だ。東日本大震災の際には電気を融通しあう必要がでてきたが、東日本と西日本とで周波数が違うので電気の融通は小規模に終わった。また九州では再生可能エネルギーでの発電ができても送電能力が貧弱なために、発電を制限しなくてはならなくなっている。僅か2兆円で強力な送電網ができるのであれば国が全額出資して整備すべきだろう。

ソフトバンクの孫社長はアジアスーパーグリッド構想を打ち出していた。これは
東京、ソウル、ウラジオストック、ゴビ砂漠、北京、上海、台北、マニラ、香港、成都、ブータン、ダッカ、バンコク、デリー、ムンバイ、クアラルンプール、シンガポールなどをケーブルで結ぶというもの。総距離は36,000kmで総工費は僅か10~20兆円程度ではないか。これを関係国で負担し合えば、どの国にとっても大変大きなメリットになる。Desertec構想と違い、アジアにはテロリストは少なく、爆破される危険は少ない。電気の輸出入が政治的に利用される恐れはあるが、日本経済は輸出入に大きく依存しなければ成り立たないのであり、政治に利用されたとしても、いずれにせよ輸出入なしではやっていけないのだから、この案は最重要課題として扱うべきだ。

「東アジアスーパーグリッド構想」は、日本創成会議(座長:東京大学大学院客員教授・元総務相 増田寛也氏)が提唱しているもので、孤立している日本の電力網(グリッド)を外国と相互接続し、国境を越えて電力を融通しあう仕組みである。手始めに、韓国との間で双方のグリッドをつなぐ海底ケーブルを敷設する計画を提案している。

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ソフトバンクグループ創業者で自然エネルギー財団設立者の孫正義氏と環境エネルギー政策研究所の飯田哲也氏は、日本国内の「スーパーグリッド構想」と、将来的には日本を含めアジア各国を大容量の高圧送電線で連結し、互いに電力を融通する「アジアスーパーグリッド構想」を提唱した。これが実現すれば自然エネルギーの弱点と言われる「コストが高い」「大量に電力を供給できない」「不安定である」という問題は、すべて解決する。たとえばモンゴルのゴビ砂漠では一年を通して素晴らしい風が吹き、太陽が照っている。この風力と太陽光を使った電力の潜在量は2テラワットにのぼり、今日の世界的な電力需要の3分の2に匹敵する量である。モンゴルと日本をスーパーグリッドでつなげば、日本の電力問題はいっきに解決する。ブータンでは1キロワット時あたり2セントで、これは日本の電気料金のわずか1割に過ぎず、これは日本の電気料金の10分の1、しかもブータンでは電力が余っている。

 

 

脱炭素では、車を電気自動車(EV)に替える必要がある。EVは軽量化して走行距離を伸ばす必要があるので車体をアルミニウムで軽量化しなければならない。アルミは生産過程で大量の電力を消費するが、現状では石炭火力に頼っているからCO2の排出量は増えてしまう。

太陽光発電や風力発電は砂漠で行うと極めて低価格で行える。
ゴビ砂漠   1,295,000k㎡
ゴビ砂漠全体に太陽光パネルを設置すると、地球に暮らす全人類が使用するエネルギーをまかなえる。
サハラ砂漠  9,200,000k㎡
サハラ砂漠でソーラー発電を行った場合、約1.2%の面積を使うことで世界の電気をまかなうことができる。
ファティ・ビロルIEA事務局長:2026年までに、中国の風力と太陽光設備の容量が1200GWに到達する。つまり原発1200基に相当する容量だ。

① ソーラーパネルを設置する方法

 


これはサハラ砂漠での太陽光発電である。

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日本にはこのような大規模な設置場所は無い。
「ほうとくエネルギー」のソーラーパネル

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小規模だし、山を切り開くために費用が掛かるし、災害を引き起こすこともある。更に送電設備も必要なので、費用が掛かるのは当然である。

② 太陽熱発電 トラフ型
溶融塩などの熱媒体を用いた蓄熱によって、昼間だけでなく、陽のささない夜間にも発電できる。ソーラーパネルを設置するより効率よく発電できる。

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このように雨どいのような集光ミラーで光を集め溶融塩の入った管を熱する。約400℃に熱せられた溶融塩で蒸気タービンを回して発電する。余った溶融塩をタンクに貯めておけば夜でも発電を続けることができる。

③ タワー型太陽熱発電システム
溶解塩などの熱媒体を用いた蓄熱によって、昼間だけでなく、陽のささない夜間にも発電できる。太陽光を集め、溶融塩に熱を吸収し、蒸気タービンを回し電気に代える。効率は太陽光発電の2倍である。高温に熱することができ最も効率よく発電できるが設備に費用がかかる。

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米国の南西部の「モハーベ(Mojave)砂漠」の中のイバンパ太陽発電所 原発約4基分の発電量。

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新疆ウイグル自治区にあるタワー式溶融塩太陽熱発電所

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アジアスーパーグリッド構想(ASG構想)
2011年3月11日の東北大震災による東京電力福島第一原子力発電所の事故後、ソフトバンクグループ代表の孫正義氏が提唱したアジアスーパーグリッド(ASG)構想。日本・モンゴル・中国・韓国・ロシアなど各国を送電網(グリッド)で結び、ゴビ砂漠の豊かな自然エネルギー資源を共有するというアイディア。
クリーン・エナジー・アジア社(ソフトバンクグループのSBエナジーとモンゴルのNewcomグループの合弁会社)が、2017年10月にゴビ砂漠でツィツィー・ウインド・ファーム(50MW)を運営開始。ソフトバンクは再エネ開発のため、ゴビ地域において3,670平方キロメートルの土地の使用権を獲得している。東京都の約1.6倍にあたるこの土地には、15GWを超える風力・太陽光発電のポテンシャルがあるとのこと。

モンゴル政府は官民一体でプロジェクトを全面サポートする姿勢を示している。さらに中国、ロシア、韓国も政府レベルもしくは国営の電力会社がASG構想に賛同している。2018年7月に政府が発表した最新版のエネルギー基本計画で、エネルギー相互接続の有効性について初めて言及があったが2021年のエネルギーの基本計画にはそのような言及は無かった。

 

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2021年11月22日 (月)

2050年カーボンニュートラルを実現するには(N0.456)

筆者は2002年日本経済復活の会を立ち上げた。日経新聞と契約し、NEEDS日本経済モデルを使って日本経済のシミュレーションをして、財政を拡大すればデフレ脱却も経済成長も可能だと確信した。その方法は減税か財政拡大かであった。その中でも再生可能エネルギーの活用は最重要課題の一つだと認識していた。最も有望と思えたのが、風力発電であり、当時九州大学名誉教授の太田俊明氏の話に注目した。彼を日本経済復活の会の定例会に招き、講演をして頂いた。太田氏によると洋上風力発電で日本の全電力をカバーすることが可能であり、発電コストは原発の2分の1ということだった。

しかし状況はそれ程単純ではなかった。日本には遠浅の海は少なく、洋上風力発電に向く所は少なかった。平地が狭い事もあって、太陽光発電と風力で死にものぐるいで増やしても、全電力に対する割合は
太陽光  25%
風力   20%
水力   10%
程度にしかならない。しかも日本での発電は大変割高である。例えば太陽光発電でも、規模が小さく、土地造成費用が高く、所有者不明の土地が多いのが原因である。例えば中国やインドに比べ2~3倍のコストになり、将来的には差は更に拡大する。

外国のもっと発電環境のよい所で発電し、電気分解で水素をつくっても、日本まで運ぶのにコストが掛かる。液体にすると体積は小さくなるが、そのためにはマイナス252.6℃以下に冷やさなければならず、爆発の危険もあり、扱いにくくコストがかかる。東北大学の小濱泰昭教授は太陽熱でマグネシウムを精錬し、それを日本に運び、マグネシウム電池としてEV車のバッテリーなどに使うという提案をした。筆者はソフトバンクの孫社長に手紙を書き、このアイディアを検討して下さるようお願いした。ソフトバンクからは説明に来て欲しいという返事があり、小濱氏と筆者はソフトバンクに行って説明した。ソフトバンク側からの答えは、この案の採算性をきちんと計算して欲しいという答えだった。

筆者が様々な場所での講演で提言していたことは、電力を海底ケーブルを使って輸入することだ。交流で遠距離送電をするとロスが大きい。しかし50km以上だと直流送電の方が安くなり、1000kmの送電でロスは僅か3%程度だ。ジャパンスーパーグリッド構想では北海道から九州まで直流海底ケーブルで結ぶ。総距離は2000kmで投資額は僅か2兆円だ。東日本大震災の際には電気を融通しあう必要がでてきたが、東日本と西日本とで周波数が違うので電気の融通は小規模に終わった。また九州では再生可能エネルギーでの発電ができても送電能力が貧弱なために、発電を制限しなくてはならなくなっている。僅か2兆円で強力な送電網ができるのであれば国が全額出資して整備すべきだろう。

ソフトバンクの孫社長はアジアスーパーグリッド構想を打ち出していた。これは
東京、ソウル、ウラジオストック、ゴビ砂漠、北京、上海、台北、マニラ、香港、成都、ブータン、ダッカ、バンコク、デリー、ムンバイ、クアラルンプール、シンガポールなどをケーブルで結ぶというもの。総距離は36,000kmで総工費は僅か10~20兆円程度ではないか。これを関係国で負担し合えば、どの国にとっても大変大きなメリットになる。電気の輸出入が政治的に利用される恐れはあるが、日本経済は輸出入に大きく依存しなければ成り立たないのであり、政治に利用されたとしても、いずれにせよ輸出入なしではやっていけないのだから、この案は最重要課題として扱うべきだ。

 

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2021年11月15日 (月)

労働はAI/ロボットに、人間は貴族に(No.455)

2005年に筆者は『ロボット ウィズ アス 労働はロボットに、人間は貴族に』という本を出した。将来はロボット/AIが労働を代替してくれるので、人間は国からお金を受け取って、自分で好きな事を職業として選ぶようになるという説だ。しかし現在の日本では実現は困難を極めると感じることがある。2009年に自民党清和会の政策研究会の講師として招かれ、様々な政策提言を行った時のことだった。全般的に好意的に受け入れて頂いたのだが、農業のAI/ロボット化に関する北大の研究を紹介したときだった。これは紹介しただけで、政策提言ではなかったのだが、議員の一人が凄まじい怒鳴り声でこの研究を非難した。農民の事が分かっていないといい、くだらない研究はするなと言いたいようだった。農民の立場だと小規模農家で多額の助成金を貰い、町に出かけて副業で稼ぐといった生活を守りたいということだろう。零細農家を続ければいつまでも零細のままだ。大規模農家でつくった農産物が外国から入ってきてどんどん苦しくなる。

これはゲームの理論でいう囚人のジレンマだ。農家が共同で大規模農場を経営すれば、お金持ちになれるのにそれをやらないから貧乏なままだ。例えば北海道十勝にある更別村にはお金持ちが多い。農地の大規模化をして農家1戸当たりの平均収入は約5000万円である。同村は国家戦略特区「スーパーシティー」指定を目指している。稼働する自動走行のトラクターは400台以上。東大大学院農学生命科学研究科は今年11月にサテライトキャンパスを設置。教員も常駐させ、村は演習農場を東大に提供する。農薬散布のためのドローンは約5台で、衝突防止のため、電波の規制緩和の実験をしたいという。全地球即位システム(GPS)で自動走行するトラクターの規模はおそらく日本一だそう。村内には高速通信規格5Gの基地局が5基ある。

元々日本は今より大規模農業を行っていた。戦後(1946~48)、農地改革を行った結果、小作農を行っていた人達の暮らしは大幅に改善された反面、農地を小さく分割してしまった。政府は農地バンクという制度を利用して農地の大規模化を進めている。外国人労働者も入れにくくなっている現在、平均年齢66.8歳の農業従事者にとって、農業は重労働だろう。政府は大至急「スーパーシティー」指定された特区を全国に広めて農民を助けてほしいものだ。

農業は必ずしも広い国土を必要とするわけでもない。オランダのような小さな国でも、農産物輸出額は米国に次ぐ世界2位である。巨大なハウスの運営において経営者、栽培のスペシャリスト、営業など、分業化が進んでいる。ハウス内の環境整備が徹底しており、湿度、温度、二酸化炭素濃度、外の天気、与える水の量、誰がどこでどのように働いているかなど、栽培に必要なあらゆるデータが一括でコンピュータにより管理されている。要するに徹底した生産性を上げる取り組みだ。例えば1ヘクタール当たりの穀物の収量は、世界平均の2倍以上の約8300kg/haある(日本は5900kg/ha)。先進的な農業には、巨額の資本が必要であり、個人で始めるのは簡単ではない。大企業の参入を助けるか、国が助成するかが必要になるだろう。大規模な植物工場なら黒字の可能性はある。

7~9月期のGDPは年率3.0%減と発表された。他の先進国がコロナ禍から経済を建て直している今、日本は落ち込んだままだ。余程大規模な財政出動をしないと立ち直れない。是非岸田首相にはじっくり考えて頂きたい。

 

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«小規模の現金給付だけでは、日本経済の復活はできない(No.454)