2018年7月12日 (木)

内閣府計量分析室に電話して中長期展望について聞いてみました(No.310)

内閣府計量分析室に電話して2018年7月9日に発表された『中長期の経済財政に関する試算』について質問した。

Q 消費増税のお陰で2019年度と20年度の物価がかさ上げされるはずで、半年前の予測では確かに物価ははね上がっていた。物価上昇率は2018年度は1.1%だが2019年度は2.1%にはね上がっていたが、今回の発表では2019年度は1.5%に下がっている。これはなぜか。

A それは政府経済見通しの方で置いている前提なのだけど、消費税増税にあわせて幼児教育の無償化というのが実施される予定でして、それが消費者物価を0.3%ほど引き下げると政府経済見通しでは見込んでいるということです。19,20でそれぞれ0.3%です。試算では0.6%だけ下がったわけで、残りの0.3%は政府経済見通しが下方修正された事から来てます。

Q 2020年も下方修正されてます。

A そうですね。足下の傾向も引きずって2020年も下方修正されました。

Q 具体的に下方修正の原因となるものがあったということですか。17年も18年も下方修正されているんですよね。例えば実質GDPを見ても2017年度も前回1.9%だったのが1.6%というように全般的に下方修正されていますね。2018年も前回1.8%だったのが1.5%に下がっている。

A そうですね。2017年度はGDP速報からの修正があって、実績が速報より下がっていたということになります。

Q 17年、18年は全体的に下がっていますね。

A はい。成長率に関してはそうです。

Q これは特殊要因があったりしたのですか。

A それは政治経済見通しでやられていて、詳細は知らされていない。

Q 部門が違うので、自分の担当でないということですか。

A そうです。知らされていないということです。

Q 10年以上前からさかのぼって見ると、だいたい下方修正するんですね。どうせ毎回下方修正するくらいなら、もともとズバリこの位だという予測を出した方がよいのではないですか。毎回過大な見通しを出しておいて、毎回下方修正をするというのはみんな知ってます。そんなことをやらずに、もともとこんなものだと出すわけにはいかないのですか。どうせすぐ下方修正するんだと政治家を含めみんな思っていますよ。天気予報だって今日は晴れと言っておいて、いつも雨が降ってくればみんな怒りますよね。

A はい。

Q その年の成長見通しくらいはだいたい分かるでしょう。民間でも出しているのがあります。日経新聞が民間のデータをまとめていますよね。

A はい。そうですね。

Q ESPフォーキャストというのがあって40くらいのフォーキャスター(機関)の予測の平均が出ています。比べてみると、そちらのほうが、内閣府試算よりよほど正確です。内閣府の予測は毎回大変上振れしています。これを正しい予測にしておかないと、政府として困るのではないですか。そうしないと正しい政策が出せないと思いますが。

A そうですね。政府経済見通しがどういった目的で作られているかということが重要なところになってくると思います。毎回はずしているようじゃあ政策へのコミットメントが弱くなるのではないかと思います。

Q 政府経済見通しが出される目的は知らされていないのですか。これは予測ではなく目標だと宣言するのならよい。でも目標だけでなく、予測も出して欲しいですね。

A そうですね。

Q いつも過大な成長予測を出しておいて、その後直ぐに下方修正をするのはおかしいのではないかと思います。これでは日本経済はよくならない。改善しようよと内部から声を出して欲しいですね。

A そうですね。

Q 来年消費増税をする予定なのですね。そうすると実質GDPは落ち込むだろうなと考えます。前回の2014年のときも落ち込みました。半年前の予測では落ち込むという予測が出ていました。17、18に比べ19,20はガタンと落ちていました。今回は落ちてない。どうしてですか。民間のESPフォーキャストも実質成長率ですが2019年は0.8%、20年は0.76%というようにかなり落ち込むという予測を出しています。ところが内閣府では1.5、 1.4と出している。こんなに成長しないと我々は素朴に思うのですが如何でしょう。

A 2020年に関しては消費が少し弱くなっていると言うことはあります。

Q この位の落ち込みですむんですか。

A 政府としては駆け込み反動とかという影響を最小限に抑えるために特別な措置を講ずると骨太方針にも書かせて頂いている。それがどれだけの効果があるのかということは実際やってみなければ分からない。政府としては対策を行う予定ではあります。

Q 2014年のときは消費増税でほとんど落ち込まないという予測を出しておられた。しかし実際はガタンと落ち込んだ。5兆円の経済対策を出すのでこれは落ち込みを大きく上回る規模だと言っていた。財務省のホームページにも今でも書いてあるし、大臣もそう言っていた。しかし大きく落ち込んだ。

A そうですね。

Q 2014年の消費増税の前に、民間のESPフォーキャストは消費増税で景気は大きく落ち込むと予測していた。やはり民間予測のほうがあたった。だからESPの方が全然あたるじゃないかと素朴に思います。

A はい。政府見通しは当てにいっているのではなく、アベノミクスが上手くいったらこうなるという試算をお示ししています。

Q アベノミクス、つまり安倍首相に忖度して、首相の言う通りになったらいいなという首相の願望に沿ったものを出していると言うことですか。

A まあ、ある意味、うまくいったらということです。ベースラインでは現状のままではどうなるかというアベノミクスがうまくいかなかったらどうなるかという場合も出しています。

Q やはり消費増税は経済に大きな打撃を与えていますから、それを理解していただきたい。対策をしたつもりかもしれないが、2014年のときもこれで十分だとアナウンスしていたのですが、全然足りなかった。

A そうですね。

Q 今回も同じではないですか。もちろん希望的観測をお持ちかもしれませんし、私も希望的観測を持っていますが、現実はそんなに甘くなくて落ち込んでしまうのでは無いですか。

A おそらく2014年のときのような対応をすれば、同じような落ち込みをするだろうという危機感を持っている方は政府の中にも多くおられます。今回はその反省を踏まえて対策をしようということとになっています。補正、経済対策です。

Q 補正を組むのですか。予算案はでていますよね。100兆円を超えるとか超えないとか。4.4兆円の特別枠を設けるとか言っていますね。

A 消費税増税に伴う補正に関しては織り込んで計算はしてないです。

Q 2017年の歳出は98.1兆円になっていますが、半年前は99.1兆円と言っていましたね。下げてしまった。2018年は前回の発表と変わらない。2017年から少し下げた。2019年は99.0だから前回発表より少し増やした。4.4兆円の特別枠はここには反映されてないのですか。

A もう決まっているものだけ反映されています。将来のものに対しては反映していない。歳出がモデルの中でどのように決められているかと言えば、基本的には自然体での伸びと言います。賃金や物価に連動して増えるというような試算をしておりまして、賃金や物価が変わると歳出も微妙に変わることになっている。歳出改革といった努力を行う。19年度に関してはここだけは特殊で歳出改革は半分だけ織り込んでいる。それ以外はすべて自然体で織り込んでいる。

Q 歳出改革というのは増やす分も減らす分もあるということですか。

A 具体的には、予算のシーリングですかね。

Q シーリングは設けないと言ってなかったですか。

A 将来に関しては設けない。来年度予算では大まかな上限みたいなものは決められているかと思います。そういったものが歳出改革努力ですね。社会保障費を抑える、そうしたものを半分織り込むのが19年度です。夏試算は半分織り込むとして試算を計算しています。

Q 補正があるかもしれないと考えているのですか。

A 補正は決まっていないから織り込んでいない。

Q 2017年度の歳入が上振れしていたのですね。だからそのお金を使っていいというわけにはいかないのですか。

A 実際の政策はどうなるかということは分かりませんが、試算上は歳入が増えたからと言って歳出を増やすということはせず、歳出は物価などの伸びに従って伸びてていくという形にしています。

Q 新聞だと2019年度予算の100兆円超えは確実と書いてありますね。

A 特に報道などには左右されません。試算は試算の中で完結しています。

Q 長期金利ですが全般的に下げ気味ですよね。

A そうです。物価が足下低くなったために、日銀の2%の物価目標がうしろにずれてしまった。それで試算の前提では物価が2%ほどにいったときに0金利は止めるということにしていまして、0金利を続ける期間が長くなってしまって、金利が発射するタイミングが遅くなったのでちょっと低くなってしまった。

Q この試算で潜在成長率がかなり重要なパラメーターになっているということでしょうか。

A そうですね。この中長期試算というものは、経済財政モデルというもので基本的には、潜在成長率、まあ供給、潜在成長率が長期の成長を決めると言うことで、GDPとか実質GDPとか、実質GDP、まあ需要面が結局潜在成長率に収束するというみたいなモデルになっておりまして、ある意味経済のあすを作っているのはこの潜在成長率です。

Q 1982年から87年の潜在成長率は前回の発表では0.8%だと言っていたのに今回は0.9%になっているのですが、なぜ上がったのですか。

A TFP上昇率ですね。潜在成長率は別の部署で計算するのですが、国民経済計算の基準会計というものが2年前にありましてR&Dを含めるといったことがありました。それが今まで94年までしかなかった。それが82年まで伸ばされた。こうした影響で、潜在成長率自体は変わらない。潜在成長率は労働と資本とTFPで決まるが、資本がR&Dを含めることによって大きくなった。そうすると潜在成長率も大きくなった。

Q 以前聞いた話では、昨年夏の試算だと2019年度の潜在成長率は2.4としていた。それを今年の1月の試算では2.0に下げたと聞いています。今回の試算ではどうなっていますか。

A 半年前の試算と同じ2.0です。

Q 潜在成長率を下げた理由は何ですか。

A 経済財政諮問会議の委員から下げるように意見があったので下げました。

Q 経済財政諮問会議では具体的にモデルで計算しているのですか。

A 中長期試算というものは、経済財政諮問会議の求めに応じて作られているものなのですが、昨年12月の諮問会議において、伊藤元重委員からもっと形式的なパスにしたらどうかという御指摘を頂きまして、ちょっと潜在成長率を下げました。

Q 彼はモデルを走らせて計算したということなのですか。

A そういうことではなくて、試算をご覧になってということです。

Q 試算をご覧になって成長率が高すぎるから、低くしろよと。

A そうですね。

Q 成長率を下げるには潜在成長率だけではないと思います。潜在成長率をそういう使い方をしていいのかなと思うのですが、潜在成長率を下げれば成長率も下がるからいいじゃないかというのは単純すぎる気がする。それより過去10年か20年のデータにフィットするようにパラメーターを定めて、将来の予測をしたほうがいい。単なる一学者の勘に頼るより良いのでは無いでしょうか。伊藤先生から言われたから下げましたというのでは、モデルの計算にならない。鉛筆なめなめでやってるだけじゃないかということになります。

A そうですね。供給力を過去の実績に基づいていますからいいのではないかと思いますが。

Q 供給力と言いますが、本当に供給力で頭を抑えられているのか、みんな消費しないのは供給力が無いから消費しないのではなく、むしろ将来不安があるから、将来大増税があるのではないか、国の借金がこんなに大変だから、少子高齢化で自分たちの年金がもらえなくなるのではないかとか、色んな不安を日本人が持っている。だから消費が伸びない。政府がそういう心配はいりません。政府が保証しますから大いにお金を使って下さいといい、政府自身がどんどん使っちゃうということをする、例えば田中角栄みたいにやれば需要が出てきて、物価が上がりデフレから脱却でき、潜在成長率も上がってくる。

A そういう考えもあると思いますね。

Q 増税をやって国民はお金使うなと言うと国民はお金を使わない。そうするとだんだん経済が小さくなっていき貧乏になっていく。そういう経済にしないほうがいいのではないですか。日本の財政を見ても、財政規模が拡大していない。経済規模は財政規模でほとんど決まって財政が伸びない限り経済も大きくならない。実際財政支出をどの国でもどんどん伸ばしている。日本はちょっと景気対策をして直ぐ止める。そしてまた減らす。それを繰り返しているからいつまで経っても経済は大きくならない。歳入にしても26年前のレベルを超したとか言ってますが、他の国で26年前のレベルにやっと到達したという国は他にあるでしょうか。26年前に比べると何倍にもなっている、最低何十パーセント増えてるということで日本ほど歳入が伸びない国はない。これは政策の大失敗で国民がお金を使わないから歳入は伸びない。結局それは歳出を伸ばさないからだと思うのですが。

A はい。

Q 全要素生産性は足下では0.6でそれが1.5まで上がるのですか。

A デフレマインド解消で5年間で0.9%上昇で1.5%にまで上がると考えています。

Q 5年間で均等に上がっていくのですか。

A そうですね。機械的ではありますが、均等に上がっていくと考えています。

Q 上がっていく理由は何でしょう。

A これは仮定ですが、アベノミクスによる政策効果が発現したらデフレ前の姿に戻るだろうということです。

Q ということはこれまではアベノミクスでもデフレマインドは払拭されなかったということですか。つまりこれまではアベノミクスは失敗しているということですか。

A はい。TFPでみればこれまではそれほど上がっていないということです。これからの5年間で発現するということです。

Q 期待ですね。言ってみれば忖度と言えるかもしれないですね。

A そうですね。

Q この試算はマスコミも大きく取り上げるし、政府ももっぱらこれに頼っている。だからもっと正確な予測を出して欲しいという希望はあります。だから例えばESPフォーキャストを参考にしてほしい。過去の予測を比べてみれば、あちらの方がはるかに正しい予測を出している。あれを上回るような精度にしてほしい。政府が目標を出すのはよいのだけど、実際はどうなるだろということで、やはりESPを上回る精度で出して欲しい。気象庁でもどんどん精度は上がっている。大型コンピュータを駆使してもよいし、人工知能で判断させてもよい。ビッグデータを集めてできるだけ誤差を少なくして欲しい。誤差が大きいと政府が道を誤る。消費税増税をやって、あれは失敗だったと言うだけではすまない。国民はどうなるのか。他の国は成長しているのに日本だけはどうして成長しないのか。結局緊縮をやっているから、これにつきますね。他の国は歳出を増やし続け経済をどんどん拡大させている。

A アベノミクスで重要なのはまずは経済再生。そして財政の健全化も進めていくのが一番理想的ではあるのですが。

Q 財政健全化という意味ですが、債務のGDP比が減れば、財政健全化と言えるのではないか。プライマリーバランスが気になりますか。

A プライマリーバランスは政府が一番コントロールできるものです。

Q コントロールできないですよ。コントロールできるのであればもうとっくに黒字化しているはずです。小泉さんのときも2011年度黒字化するとして一生懸命やっていたけれど実際2011年度は大赤字だった。それで2020年度に延期してまた一生懸命やっていましたがコントロールできなくて無理ということになり、更に2025年に伸ばし、更に2027年へとズルズルと後へ伸ばしている。結局プライマリーバランスは政府がコントロールできない。

A 現実はそうですね。

Q 歳出を減らすとプライマリーバランス黒字化すると誤解している人がいます。しかし歳出を減らして歳入は増えない。GDPは減る。むしろ歳入は減るかも知れない。だからいつまで経ってもPBは黒字化しない。モデルで計算してみると分かりますが、逆に思い切って財政を拡大すると歳入が増えます。意外と財政健全化は財政拡大のほうが余程早く達成できる。他の国はPBなど気にしていません。ほとんどの国はPB赤字です。PBを黒字化しようという国は聞いた事無い。トランプさんもPBを黒字化しようとしていない。大規模公共投資、大規模減税で財政赤字は拡大、でも国民の支持はそれほど落ちてない。貿易戦争は支持できませんが、すごい積極財政ですよ。

A そうですね。

Q 失われた20年、デフレ脱却には何をすればよいのか。日本も積極財政をすべきではないのか。財政拡大でインフレ率は上がってきます。

A はい。そうですね。なかなかこの辺が難しいところです。財政を増やすにしても今までのような純粋なバラマキではいけなくて、やはり乗数効果を考えて、効果のあるものを選んでやる必要がありますね。それができれば、財政にもよい影響があると思いますし経済にもよい影響があると思います。

Q 内閣府は2010年度までは乗数を出していた。そこから乗数を計算しなくなった。それを見て政治家は何をやれば良いかが分かるわけですから是非出して欲しいですね。

A 我々としてもそういう希望はあるところであります。

Q 計算しようと思えば簡単に計算できるわけですから出せばいいじゃないですか。中でそういう運動を起こして下さい。是非出して下さい。

A はい。

Q 有り難うございました。

| | コメント (1) | トラックバック (0)

2018年7月 9日 (月)

内閣府計量分析室は今年の夏もオオカミ少年だった(No.309)

2018年7月6日に内閣府は経済指標を発表した。これは長年の年中行事になってしまったが、政府に忖度し一旦政府の意向に沿った過大な成長見通しを発表しておき、その後順次現実に沿った成長率へと下方修正するのである。今回の発表もやはり半年前に予測した成長率から大きく下方修正している。例えば2017年度の名目成長率は2.0%から1.7%へ、2018年度の名目成長率は2.5%から1.7%へと下方修正された。

このような忖度と下方修正はすでに十数年間繰り返されている。滑稽な話だが、内閣府はその年の成長率さえも正しく予測できない。これは気象庁が政府に忖度し「今日の天気」ですら、毎回間違えた予測をするようなものだ。以下に発表した年の名目GDP成長率の予測を示す。
        内閣府試算  実際の成長率
2007年度  2.0%   0.8%
2008年度  2.1%  -1.3%
2009年度  0.1%  -3.7%
2010年度  1.8%   1.1%
2011年度  1,0%  -1.9%
2012年度  2.0%   0.3%

すべてとてつもなく過大評価していることが分かる。2013年度以降は民間の機関の予測と比べてみよう。
        内閣府     ESP     実績
2013年度  2.6%   1.16%   1.8%
2014年度  3.3%   2.35%   1.5%
2015年度  2.7%   2.45%   2.8%
2016年度  3.1%   2.02%   1.0%
2017年度  2.5%   1.44%   1.7%

ESPとは日本経済フォーキャスター41人(民間機関)による予測の平均である。内閣府の予測の方が正確だったのは2015年度の1回だけ。つまり4勝1敗で民間の圧勝である。2015年度はアメリカのシェールオイル開発による原油価格の暴落でGDPが一時的に押し上げられたのだが、原油価格の暴落は誰も予測できなかった。通常ならOPECが生産調整し価格を維持するのだが、当時OPECは予想に反し米国のシェールオイル産業を潰そうとして減産しなかった。内閣府は政府に忖度しほぼ毎回過大な予測を出しでいるが、ESPはそのような忖度はなく、過大予測と過小予測が混じっている。この比較から明かである事は、内閣府の予測よりESPの予測の方がはるかに正確だということだ。そうであれば、内閣府に巨額の費用(税金)を払って、全くお粗末な予測を出す必要があるのかということだ。ESPの結果があれば十分だ。

これまではお粗末な内閣府の予測を基にして経済政策の立案がなされている。マスコミも経済評論家も日本経済の将来を語るときは必ず内閣府の予測をベースに論じた。しかし、内閣府の予測よりESPの予測のほうが、はるかに正確なのだから、今後はESPの予測をベースに考えるべきだ。政府の経済目標も、お粗末な内閣府試算をベースに立てられていたから、達成に失敗し無残な結果に終わっていた。ESPに切り替えればはるかに正確な予測が可能となり、政府目標の達成も可能となる。

政府(内閣府)は2019年度は消費増税があっても1.5%成長ができると主張している。またオオカミ少年がウソを言っているのである。これから実際起こることは、予想をはるかに超えた消費の落ち込みである。トランプが起こした貿易戦争の影響もあるし、オリンピック需要が終わることもある。失われた20年を止めデフレ脱却、インフレ目標達成、景気回復のためには来年の消費増税を撤回し、消費減税を実現し、十分な財政拡大をすることである。

| | コメント (1) | トラックバック (0)

どうすれば労働生産性が向上するのか(No.308)

6月29日働き方改革法が成立した。失われた20年で日本の発展は止まったまま。これは労働生産性が伸びないからだと政治家は思っているのかも知れない。働き方を変えれば経済は成長するのだろうか。残業時間を減らして少ない時間で同じ生産量が確保できるなら生産性が上がるから成長するのだろうか。しかし、残業時間を減らしたら、給料も減るわけだから可処分所得は減り消費が落ち込み結果としてGDPは減る。

もしもデフレ脱却しGDPを増やしたいなら、残業時間を減らして給料を減らした分を何らかの穴埋めをして可処分所得を増やし消費を伸ばす必要がある。しかし政府がやっていることはその逆で、来年は消費増税を行い可処分所得を減らす政策だ。これに残業代を減らすと労働者にとってはダブルパンチだ。

筆者は1970年代から1980年代にかけて欧米の大学・研究所で素粒子論の研究を行っていた。この頃ドイツのテレビは時々日本経済の特集をやっていた。日本の奇跡の経済復興に注目が集まっていた証拠だろう。テレビでは「日本の会社では驚くほど休みも少なく長時間労働が行われている」という点にスポットが当たっていた。あんなに働けば経済成長もできると言いたいようだった。

1990年代の初めには日本の一人当たりの名目GDPは世界トップレベルだったが今や先進国で最低レベルにまで落ちてしまった。この原因が日本人が勤勉に働かなくなったとか、非効率は働き方になったからだとかと説明する人がいるかもしれない。あるいは生産年齢人口減少が原因と主張する人がいるかもしれない。ご承知のように失われた20年で日本の経済成長は急速に落ち込んだ。名目GDPと生産年齢人口と歳出の伸びを比較してみよう。
              名目GDP   生産年齢人口   歳出
1970年から1980年  327%    109%    492%
1980年から1990年  182%    109%    159%
1990年から2000年  114%    100%    129%
2000年から2010年   97%     94%    106%

GDPの伸びの急激な落ち込みは日本人の勤務態度などほとんど関係ない。この表で分かるように生産年齢人口の減少もほんの僅かであり、とても説明できない。歳出の伸びの急激な落ち込みと関係しているのは明かだ。かつてのように大幅に財政を拡大できるのだろうかと心配する人がいるかもしれない。そんなに心配なら10兆円、20兆円、30兆円・・・と徐々に財政拡大幅を増やしていけばよい。物価の動向を注視し、行き過ぎないよう配慮すればよい。ただし、これまでデフレが続いていたのであり、適正な物価水準を取り戻すにはある程度高めのインフレ率を目指した方が良い。

日本はすでに成熟した経済なのでこれからはそんなに大きく伸びないと決めつけている人もいる。しかし一人当たりの名目GDPを国際比較しても現在の水準は1970年代か1980年代のレベルにまで逆戻りしていて、まだまだ未熟な国家のレベルである。成熟した経済でも成長しないわけではない。1990年頃スイスとルクセンブルグは日本と共に一人当たりのGDPで世界のトップを争っていた。次に示すのは内閣府の国民経済計算報告(昭和30年~平成10年)であり一人当たりの名目GDPにおいて1993年と1994年、日本が世界一であった。

302



2017年になると一人当たりの名目GDPは
日本              38439ドル
スイス             80590ドル
ルクセンブルグ    105803ドル
となっており、間違えた経済政策のお陰で日本はここまで貧乏になってしまった。日本より遥かに成熟したルクセンブルグやスイスも現在でも力強く成長を続けているのであり、経済政策を改めれば日本も今後大いに発展できる。

ルクセンブルグは年率4%~5%で成長している。アルセロール・ミッタルという世界最大の鉄鋼メーカーの本社はルクセンブルグにある。スカイプやeBay、アップルなどを筆頭として数多くのインターネット関連企業が本社機能をルクセンブルグに移転した。ユーロ圏における金融センターとしての役割を果たしている。外国の巨大企業が集まるのは税率が低いことと、様々な言語を話す人材が豊富にいることと、ヨーロッパの中心に位置していることの便利さもメリットとなっている。人口57万人の国に毎日20万人が国境をこえて通勤している。

スイスは物価が高く、高価な時計や医薬品を輸出している。金融機関の秘密性に基づく金融王国「秘密こそが収益」としている。富裕層の個人資産運用に活用されており、世界のオフシュア市場資金の3分の1を握っている。観光業も重要な産業となっている。税金が安く、独仏伊の3言語と英語においてのサービスが可能で企業の立地拠点として魅力であり世界の多国籍巨大企業がスイスに拠点を置く。対外投資収益の巨大な黒字となっていて GDP比では日本の2倍である。1990年代のバブル崩壊後も、金融システムは日本より遥かに健全な状態で維持されたから「失われた20年」を免れた。

スイスもルクセンブルグも歳出を大きく増やし続けているところが日本と異なるところである。日本もこれらの国と同様に歳出を増やし続けていたら発展できたのは間違いない。一時的な景気対策ではなく、計画的な財政拡大策が必要なのである。経済が拡大を始めれば海外の投資家にとっても日本という市場が魅力的になってくる。また外国企業の誘致には法人税を含む減税が必要となる。それに外国語教育も充実させなければならない。AIを使った外国語教育は期待できる。

労働生産性を上げるということは一人当たりの名目GDPを上げることと密接に関係しており、働き方改革だけではないことを忘れてはいけない。

| | コメント (1) | トラックバック (0)

2018年6月16日 (土)

財政健全化に関し財政の専門家と議論した(No. 307)

2018年6月13日の日経の経済教室に財政健全化に関し畑農鋭矢明大教授の記事が載った。これに関し、筆者は畑農氏に質問をし、議論した。通常経済の専門家は財政危機を煽る発言をするだけで、我々の反論を聞こうとしないが、畑農氏は謙虚な方であり丁寧に応じて下さった。
【畑農】
年利3%に上昇なら利払いは40兆円近くになる。(経済教室の記事)
【小野】
日銀は国債の発行残高の半分近くを保有しており、その利払いは国庫納付金として国庫に返って来ますが、そのことは考慮に入れておられますか。
【畑農】
今回、政府の利払い費として、国民経済計算の「財産所得」支払項目を用いています。
日銀納付金は国民経済計算では「所得・富等に課される経常税」として処理されているようなので、データ処理には反映されていないというのがお答えになります。
2017年度の納付金は総額7000億円程度です。
https://jp.reuters.com/article/boj-results-idJPKCN1IT0ZL
ここから国債利払いに基づく納付金分を切り分けることは難しいのですが、例えば5000億円程度とみましょう。
政府の利払い費10兆円のうち、約半分の5兆円が日銀に渡り、そのうち5000億円が政府に戻ってきていることになります。
少ない金額とは申しませんが、利払い費の大部分を占めるとはとても言えません。
また、時系列の推移↓を見ると、日銀納付金は上下変動が激しく、国債利払いに連動しているとは考えられません。
https://olive.saecanet.com/2016/09/19982014.html
以上を踏まえると、国債利払いが安定的に日銀納付金となって政府に環流するとは考えにくいように思います。
規模から見ても、推移から見ても、利払いが納付金として戻ってくることについては、議論する必要がないとは言いませんが、少なくとも主題にはならないと考えます。
【小野】
国庫納付金が意外と少ないのは、将来発生するであろう損失にそなえて準備金として置いておくのが一つの理由です。この準備金は将来国庫に入る可能性がある資金です。さらに異次元金融緩和期間に買った国債の金利は非常に低くて、金利の高いものは金融機関が持っているからだと思います。金融機関は利子の高いものは自分で保有しておいて、利子の低いものだけ日銀に買ってもらうようにしますよね。今後日銀が根こそぎ買ってしまったら、状況は変わります。
なおFRBの国庫納付金は
2014年  987億ドル
2015年  977億ドル
2016年  915億ドル
2017年  807億ドル
ですから10兆円程度です。
【畑農】
国庫納付金については少し勉強してみます。 情報をありがとうございました。
【畑農】
利払いを含む財政赤字GDP比を目標にすべきだ。(日経の記事での主張)
【小野】
利払いを含む財政赤字GDP比を目標にするより、債務残高のGDP比を目標にしたほうがよいのではないでしょうか。財政赤字が非常に多い国でも債務残高のGDP比は低くなっています。緊縮財政を行う国はGDPが拡大せず債務のGDP比は大きくなっています。つまり利払いを含む財政赤字GDP比を目標にするとデフレが進行し、GDPが縮小するため債務のGDP比は増大すると思いますが如何でしょう。
【畑農】
これは悩ましいところです。記事中でも触れたように、長期では、
債務残高GDP比=財政赤字GDP比/経済成長率
が成り立ちます(%表示ではなく小数表示です)。
経済成長率の想定に異論がなければ、どちらの指標をターゲットにしても理論的には同等です。財政赤字GDP比をターゲットにすると、経済成長率のことも考えなければならないので、債務残高GDP比を目標にする方が指標が単一で分かりやすいというメリットはあります。ちなみに、高い経済成長率を実現できるのであれば、許容される財政赤字GDP比は大きくなり、ご指摘のようなメカニズムは考慮されていると思います。
なお、この理論はケインジアンとして著名なドーマー教授の発案なので、元来は財政赤字を出しても良いという含意が強調されています。
限られた時間の中、メールで上手く返信するのはなかなか大変ですね。
不足や誤解があるかもしれませんがご容赦ください。
私自身も大変勉強になりました。
今後ともよろしくお願い申し上げます。
【小野】
債務残高GDP比=財政赤字GDP比/経済成長率
この式ですが、日本は長い間、成長率はほぼゼロでしたから左辺は無限大ですか。
債務残高GDP比は財政赤字を増やせば、無限大から徐々に下がってくるということで
財政拡大をすれば債務残高GDP比は下がると言ってよいのですか。そうであれば内閣府の試算や日経NEEDSを使った試算結果どおりになりますが。大部分のマクロモデル研究者はそれを認めないですね。
【畑農】
債務残高GDP比=財政赤字GDP比/経済成長率
については、成長率が0だと、許容される財政赤字GDP比も平均して0ということになります。財政拡大の評価は、財政拡大の効果、特に長期的な効果に依存します。短期的に成長率を引き上げるだけではダメで、財政拡大が長期的に成長率を引き上げるのであれば、より大きな財政赤字が許容されると思います。私の現在の認識では、財政拡大により長期の成長率を劇的に引き上げることは難しいだろうと思います。
【小野】
例えば財政赤字をどんどん拡大するとしましょう。インフレになりますよね。
そうすると名目成長率は劇的に引き上げることはできますし、赤字を続けるとすれば長期的に名目成長率を引き上げることは可能だと思いますが如何でしょう。もちろん、実質成長率はどうなるかは別の話です。日本もバブル崩壊前はそれなりのインフレ率があり、成長もしていましたが、バブル崩壊して後デフレになっては成長しなくなりました。私は財政赤字を適切なレベルまで拡大すればデフレは脱却できたし、今でもデフレ脱却は可能だと考えていますが、如何でしょう。
それから過去にインフレが進んだ国、今でもインフレが進んでいる国ですが債務GDP比は
ジンバブエ 78%
アルゼンチン 52%
ベネズエラ  34%
トルコ    28%
など、日本より遥かに低い値です。日本も思い切って財政赤字を拡大すれば債務のGDP比は一気に下落するだろうと考えてますが如何でしょう。終戦直後も一気に下落しました。
【畑農】
一般にインフレになれば、債務GDP比は低下するとは思います。
ただし、それはインフレによって貨幣や国債の価値が相対的に低下し、国民から見た資産(貨幣・>国債)が毀損したからでしょう。
つまり、増税の代わりに(国民の)資産の目減りで(国民に)負担させているに過ぎないと思います。
【小野】
インフレ税という考えですね。高度成長期にはインフレになりました。その間、1ドル360円から1ドル80円まで円高が進みました。貨幣の価値が相対的に上がったわけです。これは製造業で投資が行われ労働生産性を上げた結果でしょう。減税を続けながら税収は増えていきました。
デフレ経済では企業は投資を躊躇し、生産性が上がらず、一人当たりのGDPにおいて日本は国際順位を大きく下げました。税収も上がらなくなりました。
デフレは国民を貧しくするという証拠でしょう。どの国もデフレは絶対に避けますね。
インフレで債務GDP比を下げることができれば、国民は自信を取り戻し、将来不安を
無くし、再び消費が伸びてくるでしょう。それは国民が豊かになるということです。
【畑農】
日本では随分長い間、大きな財政赤字を出してきましたが、デフレのままですね。
財政赤字を拡大すると本当にインフレになるのでしょうか?
物価と財政の関係を表したFTPLなどの議論もありますが、実証的証拠はまだ十分ではありません。
私も十分な答えを持っているわけではありませんが。
【小野】
私はインフレになると思っております。
インフレにならないということであれば、アメリカのように大型減税を日本もやればよいと考えます。インフレにもならないし、国民も生活が豊かになりますしこんなに素晴らしいことはありません。経済学というものは、国民の生活を豊かにするためにあると考えます。
【畑農】
それから、バブル期の高成長は一時的なものと理解しています。
つまり、バブル期の高成長は長期で維持できるものではなかったように思います。
日本では随分長い間、大きな財政赤字を出してきましたが、デフレのままですね。
【小野】
バブル期の高成長は一時的なものだったかもしれません。しかし、60年代、70年代
の高度成長は一時的とは言えません。インフレでしたし、国民は生活が豊かになりつつ
あるとの実感があり将来に希望を持っていました。デフレになってからは生活が貧しく
なりつつあると感じ、将来に不安を抱くようになりました。デフレよりインフレのほうが
よいのではないでしょうか。

内閣府のモデルでも、日経NEEDSでも財政を拡大すると債務のGDP比は下がります。
成長率も上がります。モデルが間違えてますか。
【畑農】
短期的にはその(モデル)通りと思いますが、長期で維持できるとは思いません。
伝統的なケインズ政策は短期的な拡張効果しか持たないと考えています。
逆に言えば、不況期にケインズ政策は依然として有効だと私も思います。
しかし、財政の持続可能性のような長期的課題には無力(場合によっては有害)です。
【小野】
短期的には実証済みと考えるべきでしょう。長期ではどうでしょう。
日本は失われた20年と言われております。諸外国でこのように長期にデフレが続いた例はありません。デフレは短期で終わらせなければならないと誰もが考えているからではないでしょうか。短期でケインズ政策が有効ならば、一気に財政政策でデフレを脱却させたほうがよいと考えております。財政政策を止めればまたデフレに戻るという考えがあるかもしれません。財政拡大政策を止める必要はないのです。どこの国も毎年財政を拡大し続けており、日本もそのような普通の国になればよいだけです。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2018年6月11日 (月)

デフレ脱却してないのに消費増税はやめましょう(No. 306)

日本経済復活の会は2003年に創設され、様々な活動を行っている。その活動の一つが新聞の1面を使った意見広告である。1回目は2007年10月26日の朝日新聞で「日本はここまで貧乏になった」という見出しだった。当時、マスコミの論調は小泉改革で戦後最長の景気回復になったというものだった。この意見広告で、かつて日本は一人当たりのGDPは世界最高であったのに、小泉内閣の緊縮財政政策で18位にまで落ちてしまったと説明した。これにより、マスコミはこれではいけないという論調へと急変した。2回目は2010年6月22日に読売新聞に「積極財政で財政が健全化する」というタイトルで出した。これは日経の日本経済モデル(NEEDS)を使った分析結果を紹介した。

今回「デフレ脱却してないのに消費増税はやめましょう」というタイトルで3回目の意見広告を出そうとしている。発行部数の多い読売新聞になると思う。7月か8月に出す準備をしている。2014年の消費増税は大失敗だった。折角景気回復が見え始め、失われた20年から遂に脱却できるという時に、消費増税が景気を落ち込ませ、その余波がまだ続いており、デフレ脱却の見通しが立たなくなった。あの消費増税がなかったら、その後の世界の景気回復、原油価格の下落という追い風に乗って日本経済は大きく拡大し、アベノミクスのお陰でデフレ脱却、税収増大、そして財政健全化の達成という歴史に残る快挙が達成されたと考えられる。

あの消費増税の失敗に懲りず、政府はまた来年の10月には8%から10%へ税率を引き上げようとしている。再度景気悪化が目に見えている。普通の国であれば消費増税で特に経済が悪化するようなことはあまりないと言われる。しかし日本は特別であり消費増税で通常の国では考えられないほどの深刻な消費の落ち込みがある。少子高齢化で年金が危ない、国の借金が膨大だから将来大増税があるなどという不安が伴い消費を落ち込ませる。今政府がやるべきは、需要拡大策により毎年収入は増えていくのだと国民が信じるような活発な経済状態に持って行くことである。

現在国会議員の中で我々と同じ方向性の議員グループが2つあり、これらの会と新聞の意見広告が何らかの連携が取れないか現在模索中である。
(1)日本の未来を考える勉強会:代表安藤裕
政府に対して財政政策に関する提言をした。提言は同党の衆議院3回生議員(約100名)のうち28人の連名で、消費増税の当面の凍結と2019年経済危機を乗り越えるための20~30兆円規模の景気対策を求めた。
(2)故郷を支援する参議院の会:会長吉田博美、事務局長西田昌司
自民党の西田昌司参議院議員らのグループ約100人は財政再建より20~30兆円の基盤強化投資を積極的に行い、経済成長を重視する政策を提唱している。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
日本経済復活の会では、この新聞の意見広告を出すために、同じ考えを持つ方々に寄付をお願いしています。出稿料は配布する範囲によりますが、首都圏版であれば200万円程度になります。日本経済を救うために、是非ご協力をお願いします。
【寄付金の振り込み先】
みずほ銀行 動坂支店 普通預金 8027416
日本経済復活の会 代表 小野盛司

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2018年5月26日 (土)

AIに善悪の判断を教える方法(No.305)

(1)AIに何を期待するか
最近自動運転車の話題が多くなった。人間は時々間違いを冒す。脇見運転、酔っ払い運転、アクセルとブレーキの踏み間違い、安全不確認等があり、無免許運転もある。このような人為的ミスは事故のうちの9割を占めており、自動運転車なら事故は10分の1に減ると言われている。国の経済政策も間違いだらけだ。日本はバブルの前には奇跡的な経済復興と言われていて「ジャパンアズナンバーワン」つまり日本が世界一になるとまで言われていたが、政府・日銀が徹底的なバブル潰しを行った結果経済成長率が世界最低にまで落ちてしまった。これも景気へのブレーキとアクセルの踏み間違いにすぎない。経済政策をAIに任せることが出来ていたら高成長が続いていたと考えられ大変残念である。しかし、世界一の低成長がこのまま続いてしまうのは悲惨であり、せめて普通の国並の成長率にするにはどうすればよいのか、AIに何を教えれば良いのかを検討することにする。

(2)善悪の基準と進化

AIが発達してくると、やがてAIに善悪の判断の基準を教えてやらなければならない時代が来る。それは個人によっても、国によっても変わるし、時代が変わると変化してくる。しかし、進化論から出発するなら、善悪の判断を明確にできる。ここではこの事を説明する。最近鄭雄一氏が『東大教授が挑む AIに「善悪の判断」を教える方法』を出版した。彼は古今東西の倫理・道徳から「人間の善悪」の基準を導き出そうとしている。しかしながら、AIが人間の仕事を奪う時代の倫理・道徳は古い時代のものとは全く異なるのであり、鄭雄一氏の試みは不完全なものに終わるであろう。進化論に基づいた理論でAIに善悪の基準を教える方法は小野盛司(1999)、小野盛司(2005)で示されている。

人間はサルから進化した動物である。人間の体のあらゆる部分や人間の行動は、人間が子孫を残し人類が生き延びるために都合がよいようにできている。非常に長い時間をかけ自然淘汰により『改良』が重ねられてきた。手足、脳、心臓、肺、胃、腸、生殖器などあらゆる部分は子孫を残すのに都合のよいようにできている。ただし自己保存も子孫を残すためと考える。生き延びるためのほんの少しの違いが決定的な違いになる。例えばネアンデルタールは喉の奥が短いため、文節言語を発声する能力が低くコミュニケーションがうまくできなかったためにヒトのように生き延びられなかったといわれている。

人間の行動も「子孫を残すために」最適化されている。進化の結果そのような動物だけが選ばれて生き残ったわけである。かつて動物は種の保存のために行動すると考えられていたが、それに反する事例が次々見つかった。進化は、特定の行動を引き起こす遺伝子が増える事によって引き起こされる。自分の遺伝子をできるだけ多く残すように行動した結果特定の遺伝子を持つ個体が増加するする。つまり人間の行動は「自分の遺伝子を残すために」最適化されているのだが、その結果「人間は子孫を残すために行動している」あるいは「人間の生きる目的は子孫を残すため」と言っても差し支えない。子孫を残すということと種の保存は意味としてかなり近い。人間の行動は快不快、幸不幸により支配されている。つまり子孫の残すために好都合な行動は快感であり、幸福を感じ頻繁に引き起こされ、不都合な場合は不快であり、不幸と感じ避けようとする。

この事を次のように表現しよう。人間の行動を支配しているのはディスクリミネータという判定機であり、子孫を残すために良いならプラスとなり、悪いならマイナスになる。快感、美しい、美味しい、幸福という状態はプラス、醜い、まずい、不快、苦痛、不幸の状態はマイナスであり、将来的に善悪の定量的分析が可能になる。

我々が気付かないうちに、我々はこのディスクリミネータに思想も行動も完全に支配されている。例えば「動物を人間の食料にする」ということは、全く自然に受け入れられ日常普通に行われていることである。それではその逆はどうだろう。つまり
「人肉を動物の餌にする」
ということになる。もちろんあなたはそのような考えを持ったことがないだろう。またそんな考えを持った人の話は聞いたことがない。数学者であれば、どの命題であってもその逆を自由に考えることができる。しかしどんなに自由に思想を展開できると思っている人でもこんなぶっそうな思想を持つことはできない。「人肉を動物の餌にしよう」という考えはどんな凶悪な殺人犯の心の片隅にすら思いつかないことである。このことから、いかにディスクリミネータによる思想統制が強烈であるかが分かる。

「なぜ人を殺してはいけないか」は子孫を残すため、あるいは種の保存を考えれば当然だ。「戦争ではなぜ人を殺してもよいのか」という問いに対しては、太古の時代人間は縄張りを持って数十人単位のムラで暮らしていた。食糧難になったとき、隣のムラから食糧を取って来なければ生き延びられなかった。この時はムラ人が協力して隣のムラと戦うしか無く、隣のムラの人を殺すことは善ということとなった。このような戦いを繰り返すことにより、人間は協調性を獲得した。ネアンデルタールとの戦いでコミュニケーション能力のすぐれたホモサピエンスが勝ったとも考えられ、仲間のための行動が進化したと考えられる。ただし核兵器が開発されて以降、核戦争には勝者はいないことを人類は知った。それ故に、戦争は絶対悪となった。ただし通常兵器による小規模な戦争は無くなっていない。

(3)人間の思想と行動を支配するディスクリミネータ

人間の行動はすべてがディスクリミネータによって支配されており、ディスクリミネータは子孫保存・種の保存という意味で合目的に作られているということは、筆者は『人間の行動と進化論』という本の中で詳しく述べたので、ここではそのごく一部のみを紹介しよう。
では芸術は、子孫保存・種の保存とどのように関係しているのだろう。芸術作品の代表的なものを見てみよう。ミロのヴィーナスはどうであろう。これは裸体の女性であり性欲を引き起こすものだから、生殖のための行動を誘発するもの(ディスクリミネータ)があってそれが女体を見たときに美しいという信号を脳に送る。
さてミロのヴィーナスを見て美しいを感じる事に話しを戻そう。ディスクリミネータがプラスになったことと、子孫保存・種の保存との関係は明らかだ。実際絵画、彫刻に女性の裸体は非常に多いことは、女性が男性を引き付けることが極めて子孫を残すに重要であることに対応している。映画、音楽、彫刻、絵画など一般に何らかで子孫保存・種の保存と関連はしていると思われるが、直接に子孫保存・種の保存に役立っているわけでなく、むしろ人為的にディスクリミネータをプラスにしているわけであり、それが目的化している。

ディスクリミネータの目的化は悪いことと思ってはならない。人は子孫保存・種の保存とは無関係にディスクリミネータをプラスにする方法を多数発見した。言い換えると「ディスクリミネータを人為的にプラスにする」方法である。これをディスクリミネータの空作動(カラサドウ)と呼ぼう。
ディスクリミネータの作動状態は次の四つに分類できる。

1.正常作動・・・子孫保存・種の保存にとって益になるときがプラス、害になるときがマイナ
スという本来のディスクリミネータに従った作動をする状態
2.空作動 ・・・子孫保存・種の保存には益にも害にもならないが、人為的な方法等によりデ
ィスクリミネータをプラスにする状態
3.作動抑止・・・子孫保存・種の保存にとって害にならないのにマイナスになっている場合、
それを人為的な方法で消す状態
4.異常作動・・・子孫保存・種の保存にとっては害になるのにディスクリミネータがプラスに
         なるとき、または種の保存に益になっているのにディスクリミネータがマイ
ナスになる状態

本物の女性を見て美しいと感じるのは正常作動、ミロのヴィーナスを見て美しいと感じるのが空作動である。歯医者で治療を受けているとき痛みを感じる。歯の治療は子孫保存(自己保存)に益になる。しかしそれでもディスクリミネータはマイナスになるから異常作動。これに対し、心理療法とか麻酔で痛みを和らげたり、止めたりするのが作動抑止である。自殺しそうな人やひどく落ち込んだ人を励ますのも作動抑止である。宗教活動にはこういった事がよく行われている。カウンセリングも作動抑止である。

ドーキンスなど、進化生物学者は全ての生物は『自分の遺伝子を残すために行動』するのであって、『種の保存』のためではないと主張する。ドーキンスなどの生物学者は、生物は種の保存のための行動など行うことはないとまで言い、一般の人の混乱と誤解を招く。これが進化論にとっての革命とでも言いたいのだろうが、実際は『自分の遺伝子を残すために行動』(これは自分の子孫を残すということだ)と『種の保存』ということは、かなり近い意味になっていて、一般の人で、どこが違うのかを言うことができる人は少ないだろう。ドーキンスは利他行動は進化しないと言っているが、実際は進化するということが、筆者を含む三人の研究者により示された(小野、三沢、辻(2003))。ドーキンス達は、利他行動とは自分の遺伝子を残すためには害になるが、他人が遺伝子を残すためには益になるというものと定義している。このように定義しても、利他行動の進化は可能というのが筆者達が示したことだが、実際は、利他行動(協力行動)のほとんどは、自分の子供を育てるには害にならないが、他人には益になるような行動だ。ドーキンスの定義する利他行動とは、自分が子孫を残すのが不可能にしてまで(例えば自分が死んでまでして)、他人に利益を与える行動だ。確かに、そんな行動を取る人は滅多にいないし、本能的に人間がそのような行動を取るとは思えない。だからと言って、人間は種の保存の行動を取ることはないと言うのは言い過ぎだ。

(4)ディスクリミネータの解放
我々の社会はゆとりがでてくるにつれ、できるだけ多くの人のディスクリミネータのプラスが大きくなるように、そしてマイナスを避けるように様々な工夫をしている。このように、子孫保存・種の保存を達成しながらディスクリミネータを上昇させるよう社会を変えることを「ディスクリミネータの解放」と呼ぼう。
誰も現代の社会がどちらの方向に向かって変化しているか気が付いていない。人類は数百万年もの間、ぎりぎりで子孫保存・種の保存が達成できる状態だった。こういう時代には、苦痛に耐える(ディスクリミネータが強くマイナスになるような)行動も敢えて取らざるを得なくなるのだ。例えば人口が増えすぎたり、干ばつ等で食糧が不足したときなど、人は口減らし目的で生まれた赤ん坊や働けない老人を殺したりした。
ところが子孫保存・種の保存が容易に達成できるようになり、物があふれゆとりがでてきた現代においては、ディスクリミネータがマイナスになるような行動は徹底して排除し、できるだけディスクリミネータを上げるように工夫し始めたのだ。要するに快を求め不快を避けるということだ。これがディスクリミネータの解放であり、それに合わせて法律を制定し、犯罪や善悪を定義し、道徳・倫理を定めた。どのように行動を取るべしと法律等を定めるとき、実は無意識のうちにディスクリミネータ解放の方針で行われていることがほとんどである。逆に言えば、今後新しい法律を考えるとき、そしてAIに善悪を教えるときはディスクリミネータの解放の意味を充分理解しておくべきである。

ディスクリミネータの解放の例
○[プラスにする](空作動が多く混じっている)
奴隷解放
人種差別撤廃
男女平等
身分制度撤廃
社会福祉の充実
労働時間が短縮され娯楽に使う時間が増える。
強制された労働でなく自分に適し楽しめる労働をするようになる。
レジャー施設の充実
旅行の増加
趣味が多様化し各自自分に合った楽しみ方をする。
性の解放
女性解放
風俗産業等の性欲を利用したレジャーが盛んになる。
食を楽しむ。
○[マイナスを防ぐ](作動抑止)
医学の発達により病気や手術の痛みを和らげ、苦しまなくても済むようになる。
法律を定め犯罪を防ぐ
セクハラ防止
公害問題の改善
戦後制定された労働三法は、労働者の権利を拡大し労働者の苦しみを和らげる働きをする。
戦後制定された憲法も基本的人権を認め、個人の苦しみを和らげる働きをしている。
離婚の増加(結婚生活による行動の制限の解除)
カウンセリングが盛んになる
現代のようにゆとりのある社会では、人間全体が利他的でなればなるほど、様々な作業の分業化が可能となり子孫保存・種の保存が容易に、そして生活が快適(ディスクリミネータがプラス)になる。つまりディスクリミネータの解放のためには、利己を押さえ利他を奨励することが重要である。セクハラの場合のディスクリミネータは男性はプラス、女性はマイナスだ。だんだんゆとりが出てきた社会では、男性の性的快感は風俗で満たせばよいではないかということで、セクハラを禁止する。奴隷制度も奴隷を使わなくても機械化で十分ということになり、奴隷は禁止された。つまり時代の流れはディスクリミネータのマイナスを少しでも無くそうという方向である。

(5)善悪の基準
 未来社会はどのような経済システムが良いのかを考えるときは、善悪の基準は何なのかから出発する必要がでてくる。昔、食糧が足りなかった頃の物語では老女を山に捨てに行く。働けなくなった老人を山に捨てなければ子供に充分な食事を与えることができない。だから老女を山に捨てることはよいことということになっていた。働けなくなった老婆を山に運び自殺を助けようとした物語である。老女を山に捨てることが子孫保存・種の保存にとって好都合だから、これが良いこととなっていた。しかしこの物語では最後には老婆を連れ帰る。口減らしが必要な時代から不必要な時代への変遷を描写する内容になっている。食糧がだんだん豊富になってきたのだからもう口減らしで老人を捨てるという習慣は止めようと呼びかけているのである。つまり、食糧が豊富になることにより、老人を山に捨てることが善から悪へと変化する。
 例えばシジュウカラは、夜明けから日没まで餌を探し回らなければならず、一日に1000匹以上の虫を、巣に持ち帰らなければヒナを育てることができない。一日のほとんどすべての行動が子孫保存・種の保存のためのものになっている。
 人間の未来社会は、それとは対照的に機械化・ロボット化が進み食糧集めの仕事は人間にとってほとんど必要なくなる。そのようなときに人は何をするのか。それが貴族の生活であり、ディスクリミネータの空作動又はディスクリミネータの解放と表現した行動である。もともとディスクリミネータは子孫保存・種の保存のための判定装置のようなものであったのだが、それが目的化し、それを人工的にプラスにするよう、またマイナスになるのを防ぐように行動する。この多くは子孫保存・種の保存とは無関係な行動だが、それが目的化したために、善悪の基準もディスクリミネータのプラスマイナスで決まるようになる。つまり、ディスクリミネータをプラスにすることが善であり、マイナスにすることが悪となる。もちろん、子孫保存・種の保存に益になることは善、害になることは悪であることには変わりはない。しかし、ゆとりの時代においては子孫保存・種の保存には、益にも害にもならないが、ディスクリミネータのプラス、マイナスには関係するという場合は、プラスが善、マイナスが悪となる。つまりこの判定装置をあらゆる方法で人為的にプラスにしようとしているのだ。
 例えば未来社会ではスポーツが盛んになるだろうし、そうすべきである。何のためにスポーツをするのか。例えば野球。ボールを投げる。これが快感となるのは太古の時代の人間にとって投石は獲物獲得の一手段だったから。バットを振り回す。これも快感だ。なぜならその頃はこん棒で殴り殺して獲物を獲得することもできた時代であったからだ。それに対し現代は石を投げたりこん棒を振り回しても、直接食糧の確保になるわけでないが、今もその頃の名残りでディスクリミネータがプラスになる。その他殴ったり蹴ったり速く走ったり獲物を取るためには様々な能力が必要になってきて、自分の能力を伸ばしたいといつも思っていただろう。それは直接食料の確保につながり、身を守る武器になったのだから。当然ディスクリミネータもそれらの能力を伸ばすことができればプラスとなる。それに加えて闘争本能も利用している。その空作動を利用したのがスポーツの持つ意味である。他のスポーツでもほぼ同様の意味を持っているし、それを観戦するのも同様である。だから、スポーツを楽しむことはディスクリミネータの空作動を起こさせるという意味で『よいこと』ということになる。もちろん健康によいとか、筋肉を強化すると仕事の効率が上がるという面もあり、正常作動の面もある。
 未来社会では生活にゆとりがでてくるから、郊外に出て大きな家を建てる人が多くなる。その大きな家のよく手入れされた庭には池があり澄んだ水が流れ込んでいて、その中に大きなコイが泳いでいる。こんな住居での生活は現在の、ごくありふれた人のひそかな願望であり、現在は豪邸とよばれる家に、未来社会では多くの人が住むことのできるようになる。どうしてこんな庭が欲しいのであろうか。現代、あるいは未来の豊かな時代にはその意味が解らなくなっているのだが、人間は太古の時代、狩猟生活をしていた。古代人は食糧を探して毎日野山を歩き回っていただろう。そのときこの庭のような場所を発見したときの喜びを想像するとよい。澄んだ水は喉の渇きをいやすことができる。大きなコイの発見は貴重な食料の発見なのだ。
 しかしこのような解釈にあなたは反論するかもしれない。飲み水は水道水で十分だし、大きな魚も魚屋かスーパーに行けば十分だ。池の水は飲料水ではないし、庭のコイは食べるためではない。あくまで観賞用だと。
もちろんあなたは正しい。これは観賞用だ。しかしこれを見てよい気分になる、つまりディスクリミネータが正になるのは、古代人が狩猟生活を送っていたころの名残りであり、生まれながらにしてそのようなディスクリミネータを我々は持っているのである。その頃、自然選択の原理により子孫保存・種の保存のために作られたディスクリミネータがそのまま残っていて、現代人の生活形態を支配している。すべての人は無意識のうちに、このディスクリミネータに行動を支配されているから、このような庭がある家に住みたがる。無意識と言ったのは、意識の中にこのような場所を探し回っていたという記憶も経験も無いからだ。古代人が獲得したディスクリミネータは済んだ水を持つ池(飲めるから綺麗と感じる)がプラスと反応し、その中で動いている魚(食べられるから綺麗と感じる)もプラスと反応する。これらのものが目に留まると注意して観察するようにディスクリミネータが命ずるようにできている。
 子孫保存・種の保存のためだけなら、こんな家に住まなくてもよいかもしれないが、ディスクリミネータをプラスにするという目的なら、こうした家に住むことは良いということになる。このように「贅沢をする」ということは、ディスクリミネータの空作動でありディスクリミネータの解放でもあり良いことだ。
必要な物が豊富に供給されるゆとりの時代においては、人間は利己的な行動を制限もしくは禁止し利他的な行動を取った方が、より子孫保存・種の保存の達成を容易にし、多くの人が快適に住める(ディスクリミネータをプラスにできる)ことを知っている。だから利他的行動は善、利己的行動は悪と定義されることが多い。これは現代に生きる人間の特殊事情による定義であり、決してどんな動物にも当てはまると思ってはならない。すでに述べたように一般に利他的な行動は進化しづらいし、実際多くの動物は人間より利己的である。

(6)AI/ロボットに善悪を教えるには
 人間社会において善悪の基準は徐々に変化する。AI/ロボットに何が善で何が悪かを、どうやって教えればよいかが問題になる。しかし、人間の生きる目的が、子孫を残し人類という種を保存することであることは、未来永劫変化しない。ロボットは自分自身を保存するのではなく、あくまで人間を助けるのだと教えればよい。ロボットは、場合によっては、自己を犠牲にしてまで人間を救うことが善であることを理解させる。
 もう一つ教えなければならないのは、「ディスクリミネータの解放」の意味だ。現代において、人間は種の保存の達成が余りにも容易に達成されてしまうので、「ディスクリミネータの解放」ということが重視されてきている。人間は快を求め、あるいは幸福になるために(ディスクリミネータをプラスにするために)生きている。これが目的化されるようになってきた。だから、どういう行動に対し、ディスクリミネータがプラスになり、どういう行動に対し、それがマイナスになるかを覚えさせねばならない。それにより、ロボットは様々なシチュエーションで善悪を、正確に判断できるようになる。そのためには、快不快をどのようなときにどのような強度で感じるか、また幸不幸だと思うのはどのようなときで、それはどの程度かについて膨大なアンケート調査を行うべきである。それには無作為抽出された数多くの標本が必要となり、それはビッグデータとして保存し利用されなければならないし、その結果は数値としてクラウドに乗せる必要がある。しかも時代により刻々と変化するわけなので常に調査は続ける必要がある。
 ロボットに人間と同じようなディスクリミネータを持たせるというのは、一つのアイディアである。そうすれば、ロボットも人間と同じような「感情」を持つようになり、より親しみが湧いてくる。但し、あくまでロボットは人間に仕える立場にあることは、はっきりしておかねばならない。つまり、ロボットは人間のディスクリミネータの解放を助けるために作られるのである。人間対人間の場合、利害が対立することはある。例えば、自分の家でピアノを練習すれば、隣がうるさいと感じるかもしれない。しかし、ロボットと、その所有者の場合は、利害の対立はありえない。ロボットの所有者は、第三の手を持ったようなものだ。自分の願望を正確に実現してくれるように、ロボットをセットすればよいだけだ。究極には、人間のディスクリミネータを正確に読みとり、それをロボットに記憶させ、主人のディスクリミネータをプラスにするにはどうすればよいのかを分析して行動するようになれば、完璧なロボットになる。

(7)日銀も銀行も財務省もAI/ロボットが代行したら

非常に単純な話だが、インフレ率がインフレ目標を下回ったら積極財政、上回ったら緊縮財政を行うだけで、日本経済はデフレ脱却、景気回復し経済は飛躍的に活性化し失われた20年からの脱却が可能になる。AIを使う必要もなく、小学生でも分かる簡単なことだ。馬鹿な政治家の主張を無視すればよいだけだ。AIを使えば更に高度な政策運営が可能だ。
未来の世界ではAIが人間の快不快、幸不幸に関するデータを経済財政政策に利用することができるようになる。それにより政策の善し悪しが計算できるようになる。国民を豊かに幸福にすることが政府日銀の役割である。貧困は人を不幸にする。格差が拡大し過ぎても貧困世帯を増やす事になり、不幸な人を増やすことになる。格差が全く無くなれば、働いても働かなくても同じなら多くの人は労働意欲を失う。AIならビッグデータを利用しどうすればよいか計算で求めることが出来る。それには経済学者が協力してモデルを作る必要がある。複数のモデルを作らせ、競わせ、どのモデルが最も過去のデータを再現できるかで優劣を決め、最も高い評価を得たモデルをAIに教える。そのうちAIが更に優れたモデルを考案する可能性も出てくる。

人工知能の発達は素晴らしい。チェスや将棋のみならず囲碁でも人間を上回った。一方ではかつて驚異的な経済発展をしてきた日本経済は、馬鹿な政治家の間違った政策により、一気に世界一発展しない国に成り下がってしまった。筆者の提案は政府・日銀を人工知能に置きかえてしまうことである。その方が人間よりはるかに正しい政策を打ち出すから。
世界一豊かな国になりつつあった日本経済を、不況のどん底に落としたのが1990年頃から始まったバブル潰しだ。馬鹿な政治家は、当時高騰を続けていた地価を半分に引き下げれば、国民は2倍の土地を買えるだろうと考えた。しかし、領土の面積は一定なのだから、日本人一人当たりが所有できる面積の平均は37万k㎡を人口で割った面積であって、地価には関係ない。政府は総量規制を行い融資に枠をかけ更に1990年には公定歩合を6%に上げ土地を買いにくくした。カネがなければマイホームは買えないから土地は下がった。マイホームの値段は下がったが、新築住宅着工件数は下がっていったから本来の目的とは逆の結果となった。
バブル潰しのお陰で深刻なデフレ不況に陥り現在に至るまでデフレ脱却はできていない。その間何度も景気対策は打たれているが、いずれも規模が小さすぎデフレ脱却は実現していない。現在の日経平均株価は1989年の38915円よりずっと低い。デフレ脱却できていないのに消費税増税をする。これも馬鹿な話だ。デフレ脱却をしたいなら当然増税でなく減税だ。
もし政府・日銀がAIであったら、地価を半分に下げようなどという暴挙は行うわけがない。バブル崩壊は不良債権を発生させ経済に深刻なダメージを与えるのだから、AIなら崩壊しないよう、ソフトランディングを試みるだろう。不況になりそうなら直ちに金利を下げ、強力な経済対策を行っただろう。経済対策が十分でないと判断されれば、十分景気が回復するまで追加の対策を次々打ち出しただろう。「経済対策は有効でないのかもしれない」などと迷うことはあり得ない。AIは過去の膨大な経済データを記憶しており、どの規模の経済対策がどれだけ効くかを完璧に定量的に理解しているからだ。
AIは「国の借金」とか「財政規律」とか「プライマリーバランス」とかに縛られることなく、どうやって経済を発展させ国民を幸福にするかということに集中する。通貨発行権を有する国だからデフレ脱却にはこの権利を行使すればよいだけだ。なぜ今までこの権利を行使しなかったかと聞くと、「一度行使すると歯止めが掛からなくなるから財政規律を守らなければならないのだ」と答えが帰って来る。しかしそれは人間が財政政策、金融政策を行った場合のことだ。AIが取って代わればそれはあり得ない。AIは必ず国民を最も豊かに、幸福にする方法を選択する。1997年度の日本のGDPは533兆円であったが2017年度はまだ550兆円にすぎない。AIに経済政策を任せていたら3%成長は容易に達することが出来ていたはずで、その場合2017年度のGDPは963兆円に達していただろうし国民の給料もほぼ倍増していただろう。

もちろん、どの国でも通貨発行をすれば金持ちになれるわけではなく、インフレで悩む国であれば、単にインフレ率を更に高めるだけでありメリットはない。しかし長期のデフレに悩まされる日本には通貨発行は値千金なのである。

AIが代行した日銀は国債の購入を更に進め、事実上国の借金は日銀が刷ったお金で返済する。その後必要に応じて国債の日銀引受が行われるようになる。これは人間が行えば歯止めが掛からなくなるという理由で禁止されていたが、AIにはその心配は無用である。景気が過熱したときは、金利を上げることもできるが、増税もすることもできる。景気過熱なら税収が増え財政黒字にさえなることもある。その場合は政府が余った財源で日銀保有の国債を買い戻すこともできる。国債の日銀引受のメリットは間に金融機関を入れることによる中間手数料が必要なくなることである。このとき金融機関の経営は苦しくなるが、フィンテックの進歩により人は現金を使わなくなり、ATMも必要無くなるから、いずれにせよ銀行の役割は大幅に縮小する。融資もAIが代行できるから銀行は行員を大幅削減し、貴重な人材は他の分野に回す事になる。

ディスクリミネータの解放という観点から経済改革を進めるAIは、「貧困からの解放」から始めるだろう。カネ不足の日本に通貨増発によるカネを配るとき、富裕層に配ってもそれほど大きな喜びを与えないが、貧困層に配ると値千金である。物余りの現代でも生活苦の人が多数いる。例えば2017年に生活苦で3464人の人が自殺した。日本国内で本来食べられるのに捨てている「食品ロス」は500万~800万トンもある。生活保護世帯は1995年には60万世帯だったものが、2017年2月現在163万世帯にまで増加し全体の1.69%である。生活保護費は総額3.7兆円であり政府は更にこれを削減しようとしている。1年を通じて勤務し給与が100万円以下の労働者数が400万人を超えた。AIであれば増発された通貨を使い国民を幸福にする最適な方法を提案してくれ困窮する世帯に大きな喜びを与えるだろう。

(8)「通貨増発=悪」という考えが日本の未来を地獄にする

「働かざる者食うべからず」という労働に関する慣用句がある。更にオックスフォード大学と野村総研の研究では10~20年後には日本の約49%の職業はAI/ロボットで代替可能だという。数十年後、大部分の職業がAI/ロボットに取って代わるとすれば人は失職する。ということは人は働かざる者ということになり「人は食うべからず」ということになる。それは地獄の世界だ。しかしAI/ロボットが人間が欲しい物を必要なだけ生産するのであれば、人間に適量のお金が渡されていれば、ほぼ無制限供給の社会が実現し、人間は嫌な労働から解放され、自分がやりたいことを自由にやれることになり、まさに貴族の生活が実現する。そのためには次の2つの事を容認しなければならない。
(1)政府による通貨増発は善とする。
(2)政府が発行した通貨が循環するシステムをつくる。

かつて奇跡的経済復興で世界で最も豊かな国であった日本が、バブルを崩壊させ世界で最も成長しない国へと没落してしまったのは「通貨増発=悪」だと国民が信じてしまったからである。「通貨増発=善」だと国民が思うようになれば、増発された通貨で国の借金を買い取り、増発された通貨で財政を拡大し、デフレから脱却・インフレ目標達成・景気拡大で再び経済成長が始まる。財政拡大で非効率な分野をAI/ロボット化し生産性を向上させ、余った労働者を生産性の高い分野に振り分ける。

ただしこの作業を繰り返すうちに、AI/ロボット化を進める巨大独占企業へとお金が流れ続ける。この巨大企業もAI/ロボット化が進み人を雇わないから巨額なお金は経営者だけに流れ蓄積する。それが余りに巨額であるためその経営者は何にお金を使ったらよいのか分からなくなる。そこでそのお金を国民に流す仕組みを作る必要がある。これはどんな偉大な経済学者も予想しなかった世界であり、小野盛司(2005)にはどのようなシステムが可能かを議論してある。つぎのような可能性がある。
(1)法人税として吸い上げる
(2)国がその会社の多くの株を買い、配当等で吸い上げる

参考文献
(1)小野盛司 「人間の行動と進化論―ドーキンスの利己的遺伝子説の限界とその改良―」ナビ出版(1999)
(2)小野盛司「ロボット ウィズ アス 労働はロボットに人間は貴族に」ナビ出版(2005)
(3)小野、三沢、辻(2003)Ono S, Misawa K, Tsuji K: Effect of group selection on the evolution of altruistic behavior. J Theor Biol; 2003 Jan 7;220(1):55-66 . PMID: 12453450.

| | コメント (2) | トラックバック (0)

«トランプのドタキャンと北朝鮮の低姿勢は予想したとおり(No.304)