内閣府の発表する試算は、信頼性に重大な疑問がある。(No.5)
例えば、内閣府(2005b)で発表されたシミュレーションは極めてお粗末なものと言わざるを得ない。例えば住宅投資の方程式を見るとR2Cの値は僅か0.068014である。R2Cの値は1に近ければ近いほど信頼度が増すのであり、このようなシミュレーションで使うには0.8以上であるべきであるとされている。0.06という途方もなく信頼度の低い方程式を使ったシミュレーションを発表することは、内閣府の信用を著しく落とす。ちなみに経済企画庁(1995)では住宅投資の方程式のR2Cは0.926となっている。住宅投資以外の方程式も実にお粗末だ。各方程式のR2Cの値の分布図を図2で示した。0.1以下という無茶苦茶な方程式が3つもあり、それがしかも住宅投資や消費関数など極めて重要な方程式であるというのだから、このシミュレーションは重大な欠陥を持っている。
図1
比較のために図2で経済企画庁(1995)のシミュレーションで使われた方程式のR2Cの分布を図2で示す。大部分の方程式のR2Cは0.9以上であり、最低でも0.5以上だから、その差は歴然である。内閣府(2005b)のシミュレーションがこれだけお粗末な結果であったということは、その職員の怠慢さを示しているというわけではなく、根本の仮説が間違えていたということである。つまり、内閣府(2005b)のシミュレーションが失敗した原因は『1%需要が伸びると、生産部門の多くで供給が追いつかなくなる。』という仮説が間違えていたということにある。これは潜在GDPを低く見積もりすぎたということである。1%注文が多く入るようになったとき、生産が追いつかないという会社がどれだけ現在の日本にあるだろうか。ほぼ皆無だろう。このシミュレーションで使われた方程式のR2Cの値が極めて低かったことは、「日本21世紀ビジョン」で使われた低い潜在GDPの仮説が正しくないということを意味している。日本の経済状況を説明できるモデルではないということが確認されたわけである。
図2
その後、毎年出されている経済予測だが、使われている方程式のお粗末さには変化は内容だ。新政権になっても全く変わらない。「民主党よ、お前もか」とため息が出る。これを図3で示した。内閣に都合のよい試算を出そうと、方程式を歪めてしまう結果R2Cの値が大きく下がってしまう。政府のやるべきことは、大本営発表で経済見通しを歪めるのでなく、純粋にR2Cを最小にするような経済モデルを立て、そのモデルを使って、どの程度の財政規模にすれば最小不幸社会が実現するか、国の債務のGDP比が最小になるかを徹底的に分析し、国民に示すことだ。
図3 R2Cの分布 出所:内閣府
内閣府(2005a) 経済財政モデル(第一次改訂版)資料集 平成17年4月内閣府計量分析室
内閣府(2005b) 日本経済中長期展望モデル(日本21世紀ビジョン版)資料集 平成17年4月内閣府計量分析室
堀雅博・青木大樹(2003)内閣府経済社会総合研究所ESRI Discussion Paper Series No.121
経済企画庁(1995) 第5次版EPA世界経済モデル-基本構造と乗数分析-
内閣府(2010) 経済財政の中期計画 平成22年6月22日
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コメント
R2は学術的な意味はないですよ。違う方程式のR2を比較することには意味がない。GDPの回帰式を考えても、GDPの水準を使うのか、GDP成長率を使うのかの違いだけで0.98が0.05になったりします。もちろんどちらを使っても正確性は変わりません。
投稿: 通りすがり | 2010年12月 6日 (月) 19時52分
「回帰式がよく当てはまっていると言えるためには,決定係数が幾らあればよいのか一概にはいえないが,0.7とか0.8とか全変動の7割,8割程度の説明ができればよく当てはまっていると考えることが多い.」
とあります。例えば次をご参照下さい。
http://www.geisya.or.jp/~mwm48961/statistics/coef_det1.htm
投稿: | 2011年1月17日 (月) 14時15分