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2010年10月28日 (木)

日経のモデルによる経済予測 (No.7)

 国債をもっと発行して景気対策をやるとどうなるかについて、日経新聞社の日本経済モデル(日経NEEDS)を使って計算をしてみた。これは日経新聞社が経済予測を新聞紙上で発表するときにいつも使っている経済モデルであり我が国で最も信頼できる経済モデルの1つである。様々な試算を行ったが、その詳細は

『これでいける日本経済復活論』小野盛司著、ナビ出版

http://tek.learning.jp/book/

に示されている。

ここではその1つを紹介する。景気対策の規模としては10兆円、20兆円、30兆円、40兆円、50兆円の5種類の計算を行った。これは毎年この規模の景気対策を5年間続けたときの経済効果であり、現状維持のものと比べてある。示したのは法人税減税と公共投資を組み合わせたものだけだが、その以外の結果は『これでいける日本経済復活論』を参照して頂きたい。

図1

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 ここに示されたように劇的な経済成長が見込まれる。デフレギャップを利用して最初は10%程度の成長さえ可能である。ただし、長く続けていると、だんだんインフレ率が高まり、実質成長率は頭打ちになってくる。

図2

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  図2は、インフレ率を考慮する前の名目GDPである。これは景気対策を行えば確実にどこまでも拡大する。政府が本気で名目GDPを拡大する気なら10倍でも100倍でも可能だ。これは人口減少とも生産性とも全く関係ない。景気刺激が行き過ぎるとインフレ率が高くなり、その分を引いておかねばどれだけ国が豊かになったか分からない。インフレ率を次のグラフに示す。

図3

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景気対策をしてもすぐにはデフレ脱却はできない。需要が伸び、企業が設備投資をし、人員を拡充しているうちに失業者が少なくなる。失業率が2%に近づくと、企業間で人の取り合いとなり、給料を上げないと人を集められなくなる。これが需要牽引型の緩やかな物価上昇で、デフレ脱却も可能になってくる。デフレ脱却は数十兆円の景気対策を複数年間続けないと無理だと分かる。

図4

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 景気がよくなれば失業率は大幅に減る。

図5

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 このようにして、景気回復と共に次第に給料も上昇する。政府が何もしないと、どんどん給料は下がっていくことが予測されている。

図6

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 GDPが大幅に上昇し、税収が増えてくると国の借金のGDP比は減少してきて、財政は健全化する。単に節約するだけで、財政が健全化すると考えるのは、間違いだと計量経済学は教えてくれる。逆に大規模な景気対策を複数年続けると、経済のパイも大きくなり、税収も増え、GDPが拡大する。GDPの増加率の方が、国の債務の増加率の増加率より大きいために国の債務のGDP比は減ってくる。それがこのグラフの示すものである。

図7

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 こんなに、財政赤字が大きいのにもっと国債を発行せよと言うのかとお叱りをうけるかもしれない。しかし実際は財政赤字を減らすために、一時的に財政を拡大し、経済のパイを大きくし景気をよくし、税収を増やそうというものである。現在の政府のように、デフレなのに十分な経済対策を行わないと、デフレは脱却できず、税収は伸びないので財政赤字は膨らむ一方だが。ここで示すのは、毎年50兆円の景気対策を行った場合である。最初の3年間は赤字幅は拡大するが、それ以後はどんどん回復し5年目では赤字幅は10兆円にまで縮小している。景気が十分良くなれば財政が黒字化することも考えられ、そのために景気対策をやらねばならないのだ。

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経済・政治・国際」カテゴリの記事

コメント

極めて明快で正確なご意見だと思います。
せめて財務省のトップがこれくらいは認識して欲しいものですが。。。

投稿: 磯部 | 2011年12月14日 (水) 06時39分

経済学者ではないから、よく解りませんが、我々はガソリンは急激に高騰したが、景気が良くなったとは感じません、デフレを脱却するには消費税値上げは遅いほうが、良いとおもいます。 

投稿: | 2013年9月17日 (火) 08時32分

よく分かる説明です。

消費税増税の凍結が必要なのですね。

投稿: 眞部正一郎 | 2013年9月18日 (水) 15時22分

この予想モデルには物価変動率が加味されてない。
稼ぎ額が大きくなっても物が高けりゃ意味が無い。

投稿: | 2014年10月 9日 (木) 07時33分

最近景気回復したのは、増税の駆け込み需要からだろうし、
あるいはサブプライムショックやユーロ危機で欧米のグローバル競争力が落ち込んでたからだろう。
通貨刷って国債発行して景気がよくなるとしても、グローバル的に負けてしまう構造があれば、日本の高景気感は外国に吸われていくのではありませんか?

投稿: | 2014年10月 9日 (木) 08時32分

付加価値創出力up・産業競争力upは、これはこれで熱心にやるべきです。
それと並行して 積極財政を行うべき。 そう考えます。

投稿: | 2016年7月 2日 (土) 23時39分

「この予想モデルには物価変動率が加味されてない」との指摘がありますが、図1の実質GDPとは物価変動率を加味したGDPという意味です。もっと最近同様の試算を行っています。
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2020/05/post-9b9dee.html
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2020/03/post-055de9.html
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2020/03/post-2ef90f.html

投稿: 小野盛司 | 2020年7月22日 (水) 11時25分

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