戦後の混乱期を財政破綻も制御不可能なインフレも起こさず乗り切った歴史に学べ(No.10)
本屋に行くと、財政破綻とか預金封鎖とか、人を恐怖に陥れて本を売ろうとしている悪質な連中が書いた本が並んでいる。これは悪徳業者と言うしかない。戦後の混乱期と現代を重ね合わせて恐怖を起こさせる卑劣な手法に怒りを覚える。我々は、終戦直後の混乱期を当時の政治家がどのように乗り越えて、世界を驚かす奇跡の経済成長に導いたかをもっと勉強すべきだと思う。
現在、財政危機だと言われているが、終戦直後の財政は現在と比較にならないほどの危機に直面していた。国が10年物国債が1%を切る金利で売れる現代とは比較にならない。1945年の財政規模は約215億円だったが、戦時中に政府が民間(企業・個人)に支払いを約束した戦時補償(戦時保険支払いの政府保障、工場・設備・船舶などの戦時動員にともなう損失補償)だけで、総額565億円にのぼっていた。結局GHQに従ってこの補償は事実上打ち切るしかなかったし、それが企業の財務内容を悪化させ、緊急支援を行わざるを得なくなった。
戦費捻出のために発行された戦時国債の償還、軍需物資に対する支払い、復員兵の帰還費用の捻出等、政府には巨額の出費が迫られた。財政破綻だ、財源はあるのかなどとのんきなことを言っている時ではなかったのであり、お金を刷って支払うしかなかった。
図1
刷ったお金が出回り、需要が増えそれに耐えられる生産設備があったならインフレにならなかっただろうが、戦争で焼け野原になった日本に残された生産設備は僅かで鉱工業生産は戦前水準の27.8%しかなかった。農業でも、戦時動員による人手不足で作付面積が減少したところに冷害などの災害が加わり、1945年の米作は、587万トンという記録的な凶作となった。ちなみに1940~44年度の平均は911万トンだった。人々は生きるためにモノを求めて買いあさったために、終戦4ヶ月後の1945年12月には月間のインフレ率が66.4%となり、このまま1年間続いたら1年で物価は451倍になるところだった。日銀券発行額とは桁違いの物価上昇は、需要が供給をはるかに上回り通貨の流通速度が激増した結果である。
しかし、日本人はインフレが制御不能になるのを防ぐ知恵を持っていた。預金封鎖である。1946年2月、当時の幣原内閣は既存の日銀券の日銀券を失効させ、日銀券を強制的に預金させ、その預金を封鎖した。そして封鎖預金の引き出しは毎月一定額に制限した。世帯主300円、その他一人あたり100円とし、この額で生活しなさいというわけだ。これがインフレ抑制に劇的な効果をもたらした。
図2
もちろん、現代は預金封鎖など全く必要はない。モノ余りでデフレの時代に終戦直後のモノ不足の時代の真似をしなければならない理由は全くない。預金封鎖で恐怖を煽っている人を見つけたら金儲けしか考えない『悪党業者』だと思えばよい。預金封鎖は過度な需要を抑えるのが目的であり、デフレの時代は逆にどうやって需要を伸ばすかを考えなければならないのだ。
このようにして刷ったお金で見事に日本経済を奇跡の復興へと導いた。インフレは制御が可能であり、生産力が回復した後は財政を健全化し(ドッジ・ライン)インフレも抑えることができた。歴史から学ぶべき教訓は、必要なときには必要なだけお金を刷って、経済を立て直しなさいということだ。それが、我々の次の世代のために我々がやらなければならぬことだろう。インフレを恐れることはない。終戦直後よりはるかに経済状況はよいし、当時でも経済を奇跡の復興にまで持って行けたのだから、今やれないわけがない。お金を刷って、第二の奇跡の経済復興を目指そうではないか。
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コメント
お金は道具だから、必要な時には刷って使えばいい。そうすべき。
刷りすぎの弊害が出るようになったら、刷る度合を減らせばいい。
言われてみれば、至極当然です。
今すべきことをせよ、ということですね。
投稿: | 2016年7月 3日 (日) 00時05分