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2010年11月

2010年11月30日 (火)

NHKは反社会的集団(No.21)

 本日(11月30日)の0:15から放映されたNHKスペシャル(再)「借金862兆円への軌跡」を見ると、NHKは反社会的集団と断定せざるを得ない。国民から視聴料を徴収する資格など全くない。番組では国の借金=赤字国債を悪と決めつけた。それではNHKに聞くが、この悪者を追い払い赤字国債を発行せず、大規模な歳出削減と大増税をやればデフレ経済の日本はどうなると思っているのか。国の借金を減らそうとして行ったフーバー大統領の緊縮政策は世界大恐慌を招いた。あの政策と全く同じで大惨事を日本に招くことは間違いない。数万人の人を自殺に追い込むだろう。そのような大虐殺をNHKは推奨しようと言うのか。

 政府収支の赤字は民間収支の黒字だ。政府を赤字にすることにより、お金が国民に流れ、デフレで貧乏になりつつある日本の被害を少しでも少なくしようとしている。廣宮氏の先週の日本経済復活の会の講演から引用すると、「国の借金」は世界全体では2000年の21.4兆円から2009年には43.1兆ドルに増えている。「国の借金」を増やすことにより、世界に流通するお金を増やし、経済を拡大しているのだから、それで良いではないか。NHKはこれを無理に減らして、世界経済を破壊しようということか。このような危険な考えを押しつけようとすることは犯罪行為に等しい。すでに述べたように、日本の国の借金は、諸外国に比べそれほど増えていない。問題なのは借金の増加率ではなく、GDPが伸びないということなのだ。詳しくは
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2010/10/post-bef5.html
を見て頂きたい。

 政府収支を黒字にするということは、税収を増やし歳出を減らすということ、つまり政府がお金を国民から奪い取るということ。これが経済を悪化させることがよくある。例えば、1990年~1992年は財政黒字だったが、それがバブル崩壊を招き、日本経済を破壊した。メキシコでも財政黒字だった1994年に通貨危機が起きた。アメリカでも財政黒字だった2000年にITバブル崩壊が起きた。アイスランドも2004年~2007年に財政黒字が続いた後2008年に実質国家破綻となった。財政を黒字にするということは景気にブレーキをかけるということだから、失速の危険が伴う。国民が金に困っているときは、国は財政を赤字にして国民を助けるのが当然なことだ。国の借金は、諸外国がやっているようにお金を刷って補給すればよいのだから。

 もちろん、外国との取引で赤字、つまり経常収支の赤字が続くと外貨が無くなり貿易がやりにくくなる。そのとき、外国から借金をしていると、支払いができなくなり(デフォルト)破綻する。しかし、日本は経常収支は黒字が続いており、しかも対外純資産は260兆円もあるからそのような心配は全くない。

 日本における国の借金の問題は、全く気にしなくても良い問題だ。ノーベル賞を受賞した経済学者であるクライン教授が私にくれた手紙に、国債は日本銀行に買わせると良いと書いてあった。国の借金は日銀が買えば一件落着する問題であり、NHKスペシャルは、そこで日銀が払った代金を、国の経済発展にどのように使っていくかを特集すべきなのだ。景気が良くなり、デフレから脱却し、インフレ率や金利が高まったときどうすればよいかについてはすでに述べた。
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2010/11/post-5741.html

 国の借金がたまったのは、わざわざ借金がたまるような方法を取ったからにすぎない。例えば為替介入にしても、短期国債を発行して資金を調達してドルを買う方法を取っているから借金として残る。中国方式を採用して日銀がお金を刷ってそのお金でドルを買うなら借金にならない。ドルを買うために日銀が支払ったお金が国民に渡り、それが経済を拡大する。日本が過去の間違いを反省し、中国方式に切り替えたら、日本経済は急成長し国の借金は激減するのは間違いない。イギリス財務省が検討中の計画案を採用しても、国の借金の問題は一挙に解決する。
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2010/11/post-a945.html

 国が経済規模を拡大するには、新しく作り出された成長通貨を供給して流通するお金を増やさなければならない。新しいお金を市中に流し込めるのは政府だけだ。デフレで経済規模が縮小しているときは尚更それが必要となる。デフレ脱却のためには国債をもっと多く発行して国民に渡さなければならない事をNHKは理解すべきだ。

 NHKは公共放送なのだから、日本経済を崩壊させるためでなく、経済活性化のための報道をすべきである。

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2010年11月29日 (月)

景気を良くしたら金利が上がり、国は利払い増加で財政破綻するか??(No.20)

 これは先週の日本経済復活の会の定例会でも話題になったことだ。我々は大規模景気対策で景気を良くする提案を行っているが、景気が良くなれば当然資金需要が出てきて金利が上がってくる。それは日本経済にとって大変良いことだ。しかし金利が上昇すれば国が払う金利は膨大になるのだが、それに対してどう対応すればよいのかも示しておくべきだという意見がある。多くの政治家、官僚、エコノミスト等は、金利の急上昇つまり国債暴落を恐れて大規模景気対策を躊躇している。つまり景気は良くならない方がよいと考えている!!

 「国家破綻」の空想をしたい人は勝手にやればよい。馬鹿な連中が集まって経済運営をすればそうなるだろう。しかしながら、技術的に金利上昇に伴う混乱を避ける方法はいくらでもある。例えば長期金利がいきなり5%にまで跳ね上がったとすると、単純計算では、銀行だけで13兆円程度の含み損がでる。生損保、郵貯、かんぽ、日銀、年金積立金にも大損害が出る。混乱が出ないようにする方法をここで示す。

 第一は、日銀が国債を買い支えることだ。つまり大規模な買いオペをやるということである。例えば米国では1942年より「国債価格支持政策(Pegging Operation)」を採用した。財務省短期債券の買いオペ金利を0.375%に固定、長期債も金利2.5%で買い支えた。この政策は1951年まで続けられた。中央銀行が買い支えれば金利はそれ以上にはならない。

 第二は、政府が固定金利で発行した国債を変動金利のものに変えてやることだ。これなら金利が上昇しても国債が暴落することはない。金利が上がれば、それに合わせて金利も上がってくるので、急いで売る必要がなくなるからだ。この提案(ボンドコンバージョンン)は、経団連が行っている。

http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2003/044/honbun.html

 第三は、国債を保有する金融機関には、同時に株も保有するように指導することだ。景気が良くなれば、必ず株は上がってくる。万一上がらなければ、日銀にETFとして間接的に株を買わせればよい。しかし、景気回復局面では必ず利益の少ない国債から株に乗り移る。だから株は急騰する。実際、株と国債の両方を持っていれば、株の値上がりによる利益のほうが、国債の下落による損失よりもはるかに大きい。

これが景気回復による経済の拡大というものである。下図のように、2007年と比べ、現在の株式時価総額は約300兆円減っている。

201

景気がよくなったときは、この失われた300兆円を取り戻すだけでなく、それ以上の株価上昇が見込まれるのは当然だ。2007年でも事実上のゼロ金利だったのだから、金利が上昇するような景気回復の局面では、2007年の株価レベルよりずっと高い株価になるのは間違いない。そうなれば、上記で示した国債の下落による損失を補って余りある利益が出るのは間違いない。

 国がどうなるかと言えば、GDPが増えて国の借金のGDP比が下がって財政は安定する。また税収も増えるので新規国債の発行額も減ってくる。詳しくは以下を見ていただきたい。

http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2010/10/post-bd0c.html

国債はいくらでも発行できるのだから、財政破綻はあり得ない。お金はいくらでも刷れるのだ。

 国債を日銀が買うと度が過ぎたインフレになるという心配をする人がいるが、これは中国流で対応すればよい。つまり預金準備率を上げるという方法である。これなら日銀から出された資金が日銀に戻ってくるのだからインフレは抑えられる。このように、増えすぎた国債残高に恐れをなしているばかりでなく、緊急事態への対応を事前に十分準備しておけば恐れることは何もない。

 景気が良くなって損をするのは、「国家破綻」という本を売って稼ぐ悪徳業者だけだ。

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2010年11月26日 (金)

半身不随の政府を持つ日本の悲劇(No.19)

6月8日に菅内閣が発足して4ヶ月半が過ぎた。この間、この内閣は何をやったのだろう。成立した法律は、「独立行政法人年金・健康保険福祉施設整理機構法の一部を改正する法律案」と「国会議員の歳費、旅費及び手当等に関する法律の一部を改正する法律案」の僅か2つである。

 菅内閣は5兆円の補正予算の早期成立を目指している。国民生活に重大な影響を与える法案なのだそうだが、内閣府によれば、この補正のGDP押し上げ効果は0.3%、つまりたった3兆円ということだ。GDPは、この3年間で40兆円も減ってしまったのに、僅か3兆円を取り戻すだけでよいのだろうか。失った40兆円よりも、この3兆円の方が重大だとでも言いたいのか。

 昨年12月に閣議決定した民主党の2020年までの目標は平均で名目3%の成長ということだった。0.3%ではない。このままだと、いつまでも名目GDPはほとんど増えない。世界中捜しても、これだけGDPが増えない国はどこにもない。民主党が自ら設定した目標は、0.3%の10倍の3%成長なのだから、必要とされているのは、5兆円の10倍の50兆円の補正予算だ。

 他の予算を削って捻出したのであれば、削ったためにGDPは減少し、補正でGDPが拡大するから、全体ではGDPの増減は無い(又は、ほとんど無い)。民主党はもともと207兆円の予算を組み替えれば16.8兆円の財源が捻出できると言っていた。単なる組み替えであれば、GDP押し上げ効果は無い。しかし、埋蔵金等、眠っている金を使うのなら押し上げ効果はある。実際は、そんな財源は捻出できなかった。民主党の目玉政策である子供手当、高速無料化、農家の個別所得補償、高校無償化に期待して民主党に投票した人にとっては騙されたと思っているだろう。

 ありもしない財源をちらつかせて政権交代を実現するやりかたに憤りを覚える。眠っているお金を使うというのであれば、なぜ日銀埋蔵金を使わないのか。日銀には巨大な資金が眠っており、これを使えば100%間違いなくデフレ脱却も可能となるし、デフレギャップを埋めることが出来る。

 残念ながら、現政権には没落する日本経済を救うための手段を持っていない。どんな提案をしても野党もマスコミも受け入れないだろう。言ってみれば反対のための反対、政権交代を勝ち取るための反対を続けるだろう。間もなく仙石・馬淵両氏の問責決議案も参議院で可決されようとしている。過半数を持たない与党にとって、今後何ができるというのだろう。「国民生活を重視すれば、こんなことをやってる時ではない」などと民主党が反論できるだろうか。民主党が野党だったときにやった戦術で、現在の野党がお返ししてるだけだから、反論はほぼ不可能だろう。

 もともと、現在の内閣は参議院で過半数を持っていないのだから、存続のための唯一の命綱は国民の支持だったが、それも失われたら何も出来ない内閣になってしまう。来年度予算の問題がある中、衆議院の解散総選挙か党分裂による政界再編のどちらかしか選択肢は無いような思われる。しかし、谷垣氏が代表の自民党が中心の内閣が政権を取ったとしても、待ち受けるのは消費税増税の悲劇だ。菅首相が消費税増税を言ったために参議院選に大敗したのを自民党は忘れたのか。

2009年度の税務申告で黒字申告をした法人は史上最低の25.5%しかいなかった。企業の4分の3が赤字であるときに、大増税をしたら、破綻企業が続出し、我々が経験したこともないような大不況に陥ることは避けられない。国を貧乏にしGDPを縮小して、国の巨大な借金を返せるとでも思っているのだろうか。法人税減税と言うのかもしれないが、赤字企業には法人税を納めていないから恩恵は無い。一方で消費税増税は大打撃となる。 
余り知られていないが、消費税は輸出企業への実質的な補助金になっている。輸出品に対しては消費税はかからないという名目で輸出企業に対して輸出戻し税が支払われている。消費税収の23%もが輸出戻し税として輸出企業に支払われている。輸出企業10社だけで1兆円もの戻し税を支払っているという。消費税を全く払わないどころか、還付を受けているのだ。消費税率を2倍にすれば還付金も2倍になる。輸出企業にとっては消費税増税大賛成だ。

現政権も末期状態だが、政権交代をしても経済は良くなりそうもない。今こそ国民が立ち上がる時だ。世界中緊縮財政への不満が鬱積して政府への抗議デモが相次いでいる。それを最もやらなければならないのは日本だ。デフレという大不況が十年以上いているのだから、直ちにデフレ脱却予算を組めと要求すべき時である。国会へ10万人がデモをすれば馬鹿な緊縮財政を止められる。国会議員も内心国民世論の変化を望んでいるのだ。

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2010年11月19日 (金)

英国財務省の独立銀行委員会が貨幣発行特権行使の検討を開始(No.18)

 本日(11月19日)届いた情報によると、ササンプトン大学のベルナー教授とNEF(新経済財団)で共同提案された貨幣発行特権行使を含む銀行改革案が英国財務省の独立銀行委員会(ICB)に提出された。ICBでは来年9月20日までにこの案の検討結果をまとめ政府に提出し、そこで採用すべきとなれば実施に移されることになる。
http://www.positivemoney.org.uk/wp-content/uploads/2010/11/NEF-Southampton-Positive-Money-ICB-Submission.pdf

 提案者達は、この改革案は採用される可能性が高いと考えている。なぜなら、フィナンシャル・タイムズの主任編集者のMartin Wolf氏(英国を代表するエコのミスの一人)がこの案に賛成しており、ICBに入っている。また、イングランド銀行のキング総裁もこの案を後押しするような発言をし、英国の著名なエコノミストのJohn KayやLaurence Kotikoffも現在の銀行制度の欠点を指摘し、この改革案に近い案を提案しているからである。
 この案についてはすでにその内容を簡単に説明した。
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2010/11/post-6622.html

  言うまでもなく、経済規模を大きくするには、市中に出回るお金の量を増やさなければならない。現在の制度では、お金の量の調整は銀行貸出によって行われている。例えば誰かが1億円銀行から融資を受けると、借りた人はそのお金を札束として自宅や会社の金庫にしまうのでなく、銀行の口座に預けておき、ATMで支払いをする相手の銀行口座に払い込む。つまり1億円は銀行からは出て行かず、このお金を再度貸し出しに使うことが出来る。このとき、市中に出回るお金は1億円増えたことになる。つまり事実上銀行がお金を増やした(刷った?)ことになる。

  しかし、バブル崩壊で経験したように、このようにしてつくられたお金は、一瞬で消える。不況になり土地・株等が値下がりし経済に将来不安が出てくると借りた人が一斉に返し始めるし、これ以上借りようとする人がいなくなるので経済が発展しなくなる。銀行の融資の担当者は国の金融調整をするために働いているのではなく、自分の利益のために働いているだけだ。日本経済をデフレから脱却させるのが目的でなく、自分の銀行の利益が目的だ。

                         出所:日銀
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 まさにこのことが日本で起こりつつあるというのは、このグラフで明らかである。銀行貸出はピーク時より約2割下がっている。これでは設備投資も伸びず、GDPも増えず、経済は発展しない。デフレで資産価値が下がり、担保価値が減ったのが原因だ。銀行の貸し出しを伸ばすのは銀行の営業マンの仕事で、そんな人達だけに、デフレ脱却の仕事を任せてよいのかということだ。

銀行にとっては危ない企業に貸すより国債を買っていたほうがずっとよいということになる。つまり国に金を貸して儲ける。その金利を払うには国民の税金を使う。いわゆる国債費だ。それが現在は約20兆円である。内閣府の発表によれば2023年には税金を全部使っても国債費を払えなくなるそうだ。我々の税金のすべてをそんな目的に使おうという馬鹿な政府にNOを言おうではないか。

この英国の改革案では、国は借金で(つまり国債を発行して)財政をまかなうのではなく、日銀から直接借金でない資金の供給(これぞ通貨発行特権の行使だ)を受ける。これは返さなくて良いし利払いもない。インフレにならないよう、日銀の中の委員会で責任を持ってその資金供給額を決める。これならデフレ脱却も可能になる。現在は通貨発行を銀行の営業マンに頼っているが、新しい制度では徹底した分析をもとに国(日銀内の委員会)が行う。ただし、政治家には参加させないし、圧力も掛けさせない。

現在のシステムだと日本中が借金だらけになるようになっている。国の借金の908兆円もそうだし、銀行貸出も企業の借金や個人の住宅ローンなどをどんどん大きくしないと国が発展しないという制度はおかしい。そうではなくて、国の経済発展にとって必要なだけお金を日銀が国に流し、それによって経済を大きくすれば、銀行貸出や国の借金はそんなに大きくする必要はない。これが英国で検討されている制度である。これによると銀行の口座は決済口座(Transaction Accounts)と預金口座(Saving Accounts)の2種類に分ける。決済口座は窓口は各銀行に置かれるが、資金を管理するのは日銀である。無利子で振り込み口座等に利用され、元本は国が保証する。預金口座は定期預金のようなもので利子がつく。こちらは各銀行が資金を管理し融資に使い利ざやで銀行は稼ぐ。

  現行制度に比べ、日銀からの資金を使った減税や大規模財政出動等でずっと多くのお金が国民に渡される一方で、融資は今までほど受けられなくなる。直接金融は今まで通りである。現行制度では金利で景気を調整しているが、新制度では財政で景気調整を行うからデフレから抜けられなくなることもなく、国が巨額の借金をし、その利払いで国民の税金の多くの部分が使われるということも無くなる。国の借金も国民の借金も激減するというこの制度、日本でもぜひ検討して頂きたい。

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2010年11月17日 (水)

大本営発表に騙されるな ・・・ 経済は成長しているのか??(No.17)

 7~9月期のGDP実質3.9%成長というニュースがマスコミで大きく取り上げられた。これで日本経済が成長していると決して思ってはいけない。今回同時に発表された名目GDPの値をグラフにしてみよう。

                     出所:内閣府

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 確かに、2010年7-9月期は、その前の期に比べて3兆円だけ増えているが、2008年1-3月期に比べれば37兆円も減っているのだ。むしろ大不況が続いていると言うべきだ。しかも今回の成長もエコカーの補助金の打ち切りやたばこ増税の直前の駆け込み需要や猛暑といった一時的な要因によるものであり、10~12月期にはマイナス1.7%成長に落ち込むだろうと(民間エコノミスト10人の予想)予測されている。

 民主党が約束した名目3%成長の実現はどうなったのだろう。経済の低迷がよく分かるのはGDPデフレーターだ。

                           出所:内閣府

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GDPデフレーターはデフレであるかどうかを判断する重要な指標である。このように、7-9月期では-2.0であり、プラスに向かいそうもなく、全くデフレ脱却の気配がない。駆け込み需要で需要が伸びたが、この程度では供給は全く問題がなく、需要に牽引されたインフレにはならないということだ。需要増によるゆるやかなインフレでデフレ脱却を目指すには、これよりもはるかに大規模な景気対策が必要だということである。このデータと、毎年内閣府から発表されているGDPデフレーターの予測とを比べていただきたい。

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 GDPデフレーターの予測は内閣府が毎年発表しているもので、今年は6月18日に発表された。このグラフでは2002年~2010年の9年間の予測データを、グラフにしてある。これで分かるように、予想はいずれも右肩上がりで、現在の政策を続ければ1~2年後にはデフレから脱却できるだろうと見込んでいる。実際の値はその下の黒い線で、デフレがずっと続いている。

 9回の発表があり、それがすべて大本営発表だったと分かるだろう。政府は毎年のように、来年になればずっと経済がよくなるだろうと国民に言い、翌年になって全然よくならないと分かると、「1年前には予測できなかった事態が発生した」として下方修正し、来年こそは良くなるからと言う。これを9回も繰り返してきたのだから呆れるし、それを信じているマスコミもいい加減なものだ。

  戦争中の大本営発表と同じだ。それを信じてきた国民は、気が付いてみれば国土は焼け野原になっていた。是非、皆さんに知っていただきたい。我々は政府に騙されているのだと。このままの政策では、日本はデフレが続き、我々の財産は失われ、貧乏になっていくだけ。国の借金がどんどん重くなり、我々の未来は悲惨なものになるのだということを。

 何をやればよいのか。答は簡単だ。お金を刷ればよい。刷ったお金で大規模な景気対策をすればデフレは脱却でき、経済は素晴らしく成長する。このことはすでにシミュレーションで示したので以下を参照して頂きたい。
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2010/10/post-bd0c.html

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2010年11月14日 (日)

TPPの前に農業の大規模化とロボット化を進めよ(No.16)

 政府は政府、TPPについて「関係国との協議を開始する」と言っている。残念ながら、政権交代以後、民主党政権は国民への約束をことごとく破っている。今回も協議はすれども、どうせ参加する気は全く無いのだろうと推測してしまう。TPPよりずっと条件が緩やかなFTAやEPAには見向きもせずにTPPを急に言い出したというのも、本当はやる気が無いのではないか。

 TPPに参加すれば海外の労働者の受け入れを大量に受け入れざるを得なくなる。ベトナム人等が大量に入ってきて低賃金で働き始めてもよいと考えているのだろうか。そうでなくても失業者だらけ、大学生の就職難を放置して大量の外国人を入れるというのは誰も納得しないだろう。

 しかしながら、鎖国をしていたらこれから競争の厳しい時代、日本はやっていけない。どうすればよいかと言えば、TPPでなくEPAやFTAで開国をすべきだ。すでにフィリッピンやインドネシアとのEPAは認めているし、その場合、労働者の流入も限られたものとなっている。

 ただしEPAやFTAを始めるにしても、その前に農業の大規模化とロボット化で国際競争力を強化する必要がある。この事に関しては、日本経済復活の会の中ですら賛否両論があるが、農業の国際競争力強化なしには、日本経済はお先真っ暗である。農業従事者の平均年齢は65歳を超え、老人には大変重労働である反面低収入を強いられている。農民を救うには、巨額の補償金を差し出して、大規模化に協力を求めるしかない。 

どれだけの補償金かと言えば、ほとんどの農家が喜んで協力するだけの補償金である。日本のGDPに占める農業の割合は僅か1.6%に過ぎないのだから、刷ったお金を使えば、その程度の資金は余裕で確保できる。日本の農業だけでなく、日本の経済を救うために協力してくれとお願いすれば、大部分の農家は協力するはずだ。現在耕作放置地は40万ha近くもあると言われている。棚田など大規模化に適さない所は、耕作放棄地で大規模化に適する場所に移動すればよい。

 農業の大規模化の目途が立ったら、次はロボット化だ。それは、北海道大学等で研究が行われている。
http://avse.bpe.agr.hokudai.ac.jp/
ロボット技術は日本のお家芸であり、政府が本気でこの分野に投資すれば日本の農業は一挙に世界一になれる。管制室で遠隔操作すれば、無人のロボットがすべての農作業を行ってくれる。GPS等によるポジショニングを行い、自律的に畑のすみずみまで農作業を行う。

 正確な作物の生育状況や土壌の状態を把握するために、衛星画像だけでなく、産業用無人ヘリコプターも使用する。それらのデータを使えば、最適の農薬や肥料の量を決めることができ、環境にもやさしい農業が実現する。
 様々な農作業を行うロボットが開発されている。①自律走行で土質を改良②耕うん機③きゅうりの収穫④接ぎ木⑤水田管理⑥果樹防除機⑦田植え⑧搾乳機器の自動装着などである。現在は、需要がないため開発がなかなか進まないが、政府が巨額の投資をし、大規模農業が実現すれば更に飛躍的な進歩が見込まれる。

 農業の競争力強化は、当然農業人口の減少を招く。余った労働力をどうするのかという問題も解決しなければならない。それは農業だけでなく、環境エネルギー政策として風力発電や太陽光発電への大規模投資、共同抗による電線の地下化、花粉の出ない杉の植林、高性能林業機械の導入、工場への直接販売、林道の整備等による林業の大規模化と育成、ハブ空港・ハブ港湾の建設、東京環状道路の建設など、刷ったお金を使えばいくらでも新しい雇用が生まれる。介護の現場は現在でも人不足だとも言われている。農民は十分な補償金をもらって新しい職場に移れば十分満足できるようにすればよい。

 かつて炭坑が次々と閉山になったとき、何十万人という労働者はスムーズに別な産業に移っていった。お金さえあれば何でもできるが、お金が無ければ何もできない。政府は財源不足を言うのでなく、中国を見習って国を豊かにするために、お金を刷るべきである。

 十分お金を使えば、ロボット技術もどんどん進歩させることができる。将来はロボットが、ほとんどの能力において、人間を上回るようになる。そうなった場合には、ロボットが人間の替わりに労働を行うようになる。ロボットは高価だと思っているかもしれないが、ロボットの製造はロボット自身が行うようになるから、人手は掛からない。ある意味でタダで何台でもロボットができてしまう。原料の調達から製品の完成までロボットがすべてを行うようになる。そうすると、ロボットは優秀でしかも安い労働力を提供するので、ロボットがほとんどの職場を人間から奪ってしまう。

そのような時代に、「働かざる者、食うべからず」などと言っていたら、人間は働き場を失い、「人間は食うべからず」ということになってしまう。このような時代に人間は何をすべきかということだが、そのときは物やサービスはあるのだから、その分配だけを考えればよい。お金はいくら刷っても良い。十分お金を人間に配っておけば無制限供給に近い状態が生まれる。そのとき、人間は好きなことをやっていればよく、貴族のような生活ができる。詳しくは「労働はロボットに、人間は貴族に ・・・ ロボット ウイズ アス」という筆者の拙書を参照して頂きたい。
http://tek.learning.jp/book/

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2010年11月12日 (金)

中国並みにお金を刷れば、日本経済は急成長する(No.15)

 どの国がどれだけお金を刷っているかを見るには、中央銀行のバランスシートをくらべればよい。中央銀行が国債などを買うと、その引き替えにお金が出ていく。これが新しく刷ったお金で、買い取った資産を見ればどれだけお金を刷ったかが分かる仕組みになっている。図1は日本銀行のバランスシートである。

図1                    出所:日本銀行
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 デフレを脱却するために、さぞやたくさんお金を刷ったのだろうと思いきや、むしろバラスシートは減っている。それでは中国はどうだろう。図2が中国のバランスシートだ。

図2              出所:中国人民銀行

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日銀とは比べものにならないくらいお金を刷っていることが分かる。お金を刷るとインフレになるという人がいる。日本はデフレ経済なのだから「インフレになる」と言わずに「デフレを脱却する」と言うべきだろう。こういう人たちは、日本をいつまでもデフレにして国をどんどん貧乏にしたいということだろう。

 アメリカでも11月3日FRBは70兆円の長期国債購入を決めた。これに対して日銀は11月5日は遅まきながら5兆円の資産買い取りを決めただけだ。これも日銀保有の国債の償還で一定の自然減が常に発生していることを考えれば本当に保有資産がネットで増えるのかどうか分からない。諸外国に比べ日銀の動きはお粗末というしかない。

 中央銀行が金融資産を買い取ると言うと、その金融資産が将来値下がりしたときバランスシートが悪化し、円の信認が失われると批判する人がいる。しかし、中国人民銀行は元の値上がりで21兆円もの損失を出したと言われているが、人民元の信認は失われるどころか、値上がり確実な元を手に入れたいという人が後を絶たない。通貨の信認とは、国の経済状態で決まる。発展する経済であれば通貨の信認も高まる。

バランスシートを改善するということは、利益を上げるということだ。日銀がマネーゲームで利益を上げたいのであれば、株(というよりも平均株価に連動するETF)を大量に買えば間違いなく株は上がり巨額の利益が出る。個人では、株価全体を押し上げるほど大量に買うのは資金的に無理だが、日銀なら可能だ。必要なら株に投資すればいくらでも儲かるのだからバランスシートは全く気にしなくて良い。第一、日銀が民間から富を奪い取って金儲けをするなど本末転倒だ。中国にならって、自らは巨大な損失を被っても国を富ましたほうがはるかによい。自分でいくらでもお金を刷れる銀行は潰れることはないのだ。

中国並みにお金を刷るのであれば、年間50兆円の景気対策を5年間続けることができGDPは700兆円に近づくことは、日経モデルを使った試算で示した。
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2010/10/post-bd0c.html
TPPに参加して、平成の開国を行うなどと政府は言っているが、景気対策をやり、農業にも金を十分使い、しっかり競争力をつけてから開国をすべきだ。今のままだと、お金を渡さず経済も農業も弱体化させた後に、開国することになり競争に勝てるわけがない。お金をいう武器を取り上げて、経済戦争の真っ直中に放り出そうという無茶な話しだ。

 お金さえ確保できれば、消費税増税も不要だし、反対に大規模な減税ができる。医療、介護、教育、環境エネルギーなどの社会基盤整備等、国民が希望するものを、片っ端から実現でき、それがデフレ脱却を可能とするのだから、こんな素晴らしいことはない。

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2010年11月10日 (水)

制度の欠陥が不況を引き起こす(No.14)

 バブル崩壊の後、失われた20年と言われた不毛の時代ののち、景気回復の展望は全く見えていない。景気対策をやりたいがお金が無い。お金さえあれば、減税なり財政拡大なりで景気を良くして国を豊かにできることは知っている。お金は刷ればいくらでも作れることも知っているが、お金を刷ることは悪いことではないかと思ってしまう。政治家は平時においては、恐くて誰も大量にお金を刷ったりしない。つまり国債の大量発行を避けようとする。そうすると景気は悪化し、税収は減り、国の借金のGDP比は増える一方だ。
しかし、戦争となれば話しは別だ。チビチビ国債を発行していては戦費は賄えず、戦争には勝てないから、仕方なく国債を大量増発する。皮肉にもそうするとインフレとなり、借金のGDP比は激減する。そのような事が繰り返されてきたことが次のグラフで分かる。

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 借金を「返す」には国債を大量発行してインフレを起こすしかないのだろうか。しかし、返すと言っても激しいインフレを起こし、事実上、国債を紙くずにしてしまったのだから乱暴なやり方というしかない。現在、増加した国の借金のGDP比だが、次の戦争まで待っているわけにいかない。実際全面戦争となれば、我々は生き残れる可能性は少ないからだ。
このような欠陥だらけの制度が最悪であるとイングランド銀行総裁が発言し、英国では制度改革の議論が熱を帯びていると前回紹介した。
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2010/11/post-6622.html
彼らの改革案は、中央銀行から政府に、経済発展のために最適な規模の資金を直接流せるようにするというもの。この資金は成長資金だ。経済が成長するためには、当然市中に出回るお金を増やす必要がある。お金が増えなければ経済規模の拡大はない。中央銀行の金融政策委員会が責任を持ってその額を決定し、インフレターゲット内に収めるようにし、政府等からの圧力は一切排除する。
 もしこの改革案が採用されたとすれば、国債の乱発も必要無いし、国債がインフレで紙くずになって政府の信用が失われることもなくなる。経済を発展させるための成長通貨は中央銀行から政府に直接供給されるのだから。
 このように改革された新制度の下では、デフレも恐慌もあり得ない。不況になれば、それを脱却するために十分な資金が中央銀行から供給されるからである。これは返済不要な資金だから、利払いもなく、誰も不安に思わない。すべての国でこの制度が採用されれば、通貨の信認に関しては何の問題もなくなる。将来再度必要になれば必要なだけ追加でいくらでも供給を受けることができる。現行制度では、国の借金を増やすのが恐くて、十分な経済対策が打ち出されず、大量の失業者を生み、自殺に追い込まれる人が後を絶たない。
 現在の日本のデフレの前にはバブルがあったのだが、このように改革された新制度の下ではこのようなバブルは発生しなかっただろう。バブルはアメリカから内需拡大を求められ、それを強引な金融緩和で行おうとしたことで発生した。貿易の不均衡是正のため、内需拡大を求められたのと、急激な円高不況に対応するため金融緩和策が取られた。これは金利を下げて貸出を増やして景気を回復しようというものだ。つまり国民の借金を増やし使ってもらうことによる景気刺激だ。財政支出を増やすには国債を発行なければならず自分で借金を増やすことになる。それよりは国民に借金を押しつけた方が「安全」だと思ったのだろうか。
 国民の側も、低金利で金を借りてくれと言われても使い道がない。それなら株や土地などに投資買っておけば、何もしなくても値上がりして儲かる。その方が真面目に商売して儲けるよりずっと楽だと人は考えた。しかし、やがてバブルは崩壊し、優秀な経営者ですら投機に失敗し人は破産し自殺に追い込まれる人も続出した。無理な融資をした銀行も巨額の不良債権を抱え、正常な貸出ができなくなり機能不全に陥った。これにより日本は「失われた20年」に突入するのである。
 何が悪かったのかと言えば、制度が悪かったのだ。借金に頼らなければ景気回復のための財政出動ができないという現在の制度は最悪だ。提案されている新制度であれば、借金に頼らなくても財政出動ができる。それならば、国民が本当に求めている減税を行い医療・教育・福祉・年金・環境エネルギーなどの社会基盤整備にも、必要なだけ資金を振り向けることが出来る。その方が、国民に借金を押しつけてバブルを引き起こすより余程健全だ。
 一般的に言えば、借金というものは返さなければならない。そうでなければ現在の経済システムは成り立たない。しかし、政府の借金は返そうと思うと大恐慌を招くことがある。フーバー大統領が行った緊縮財政で世界大恐慌が起きたのはよく知られている。橋本内閣も国の借金を返そうとして不況を招き、後でその失敗を認めた。今、日本の政府の借金は904兆円で、これを本気で返そうとすれば大恐慌になるのは間違いない。このように借金返済という社会常識からして当然のことを行えば大惨事になるような制度は良いわけがない。言ってみれば、日常歩く道路に地雷が仕掛けてあるようなもの。制度を改正し地雷を取り除かなければならない。
 お金とは、財・サービスを分配するための手段にすぎない。デフレとは、国民に十分にお金が渡されていない状態である。現在の制度では、政府がお金を国民に渡そうと思うとその手段は金融と財政の2つである。金融では、融資という形で国民に借金を押しつける。財政は国債発行という形で政府自ら借金をして、そのお金を国民に渡す。デフレという将来が不安な大不況の時代に国民も政府も借金をするのをいやがるから、いつまで経ってもデフレは解消されず財・サービスは国民に十分分配されず、結果として国民はどんどん貧乏になる。このような馬鹿な制度を変えることこそが構造改革だ。

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2010年11月 6日 (土)

英国でお金を刷る政策の議論が盛り上がっている(No 13)

日本では、国の借金が増えたから消費税増税が不可欠だとか、事業仕分けをして無駄を省くなどと、景気を悪くして日本を貧乏にしようという議論ばかりで、制度を変えて経済を復活させようという気力は見られない。

イングランド銀行総裁が「現在の世界の金融制度は最悪」と発言した。日銀総裁にも、一向に良くならない経済を根本から立て直すための制度改革に言及して欲しいものだ。英国では様々なサイトで、お金を刷る政策の話題が盛り上がっている。同じ考えの人々が次々とサイトを立ち上げている。その中で「イングランド銀行法改正案」と称した次のサイト(英語)は必見である。

http://www.bankofenglandact.co.uk/

自分たちは、エコノミスト、弁護士、大学関係者、企業人達の集まりであるとしている。通常、「お金を刷る」方法としては次の3つの方法が提唱されている。

①政府貨幣発行

②日銀による国債の引き受け

③日銀が国債を市場から買い入れ

このうち③は、すでに日銀は始めている。この3案共に賛否両論があり、あれこれ議論しているうちに「失われた20年」が過ぎ、恐ろしいほど日本経済は没落してしまった。英国で提案されている改革案は、このいずれでもない。もっとずっと単純明快で、イングランド銀行が直接政府に新しく発行された通貨(と言っても実際はコンピュータに書き込まれている残金の数字を書き替えるだけだが)を供給するというもの。国債も残らないので将来世代への借金ではなく利払いの義務も無いし、国債の暴落等の心配もない。国庫にある残金の書き替えの作業は20分で終わり、たったそれだけで国家の危機が救われるのだからすごい。

必ず問われるのはインフレにならないかということだが、この答えも極めて明快だ。通貨発行はイングランド銀行のMonetary Policy Committee(MPC、金融政策委員会)で、政府等、いかなる圧力からも隔離された状態で、透明性を保って行われる。新しく発行されたお金は減税や公共サービスや政府の借金の返済等に使われる。経済が安定し、政府の借金が軽減されるにつれ、マネーサプライも増加し、生産力も強化され人口も増えてくる。

金融政策委員会がどれだけ通貨を発行すべきかを決定するが、それは政府によって定められたインフレターゲットに従う。政府は通貨発行量について金融政策委員会に圧力を掛けることは許されない。金融政策委員にとっては、通貨発行量を多くし過ぎるとインフレターゲットからはずれてしまい責任問題になり、何のメリットもないから、この仕組みでインフレになるという心配は全くない。その点で政府貨幣発行より優れているし、国の借金やその利払いに対する不安、国債の暴落の心配から解放されるという意味で中央銀行による国債買い入れより優れている。

通貨発行の仕組みだけでなく、銀行制度も変えようというのが、改革案である。その主張は次のサイトにも見られるので紹介する。

http://www.positivemoney.org.uk/

今の制度では、どんどん借金が膨らむばかり。借金を「マイナスのお金」と呼び、その代わりにお金を刷って「プラスのお金positive money」で経済を動かすような制度にしようというもの。このサイトの呼びかけに2033名の人が会に加わった。今日と明日(11月13日と14日)にロンドン大学で彼らは会議を開く。入場券は売り切れだそうで、議論がヒートアップしているのが伝わってくる。

http://www.positivemoney.org.uk/students/conference-november-2010/

銀行制度は、不安定で持続不可能で非生産的でしかも不公平である。

法律では、お金を刷るのはイングランド銀行に限るとされている。しかし、実際には、お金は紙幣や貨幣の形ではなく、銀行の預金通帳に書かれる数の形で増えていく。これを数のお金(number money)と呼ぶことにしよう。お金の97%は数のお金だ。

 数のお金はイングランド銀行ではなく、私企業である銀行で作られる。銀行はお金を預かり、そのお金を融資するとそれは誰かの借金となる。融資されたお金も銀行戻ってきて、そのお金を更に融資する。このようにして数のお金がどんどん作り出されていき借金も増えていく。あなたの銀行預金は、誰か他の人の融資に充てられて借金となっている。言い換えれば借金を基にしてマネーサプライを制御している私企業であり、利益を追求する企業(銀行)である。もし、不況になれば人は借金を返そうし、マネーサプライは減少し不況を加速する。

 これが経済を不安定にする。通貨発行が私企業で働き利益を追求している個人によって行われるのはよくない。それよりは通貨発行の権限を国が取り戻し、専門家が国の利益を考えて通貨発行を行った方がよい。改革案を詳しく説明する雑誌Prosperityのサイトは

http://prosperityuk.com/

である。また貨幣発行特権行使をマニフェストに掲げる政党もある。

http://www.sovereignty.org.uk/features/articles/manifesto07/mreform2.html

 この改革案を日本に適用したらどうだろう。お金を刷るとか通貨発行と言えば、何か悪いことをしているような気持ちになる人でも、「日銀が政府に資金を供給する」と言えば、受け入れられるのではないか。むしろ、政府が困っているのになぜやらないのと思うだろう。資金を供給し過ぎてインフレになると反論されるなら、日銀の理事会で資金の供給量が決定され、例えば1~3%というインフレ目標から外れたら理事は罷免されると決めておけば、日銀の理事達は供給する資金を過度に増やそうとはしない。また供給する資金が少なすぎればインフレ目標は達成されないからデフレはすぐに脱却できる。

 もちろん、インフレ目標から外れると罷免されるとなると、日銀は必死になってマクロモデルでシミュレーションをし、どれだけ資金供給をしなければならぬのか、必要な減税の規模や財政支出の規模を研究するだろう。これにより日本の第二の奇跡の復興が始まる。もし改革が無かったら、デフレ下の消費税増税で中小企業がバタバタ倒れるし、2023年には国債の利払い費等の国債費が、税収を上回ると政府が発表している。何十兆円という恐ろしい額の無駄なお金が金融機関への補助金として流れていき家計を圧迫する。あなたは本当にこんなに悪い制度を改革しないで満足ですか。

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2010年11月 3日 (水)

国の借金908兆円は税金では返せない(No.12)

事業仕分けでマスコミは盛り上がっている。財政が厳しいから、少しでも無駄を省くという。借金は次の世代へのツケになるのだそうだ。しかし、908兆円を将来世代が税金で返すとでも思っているのだろうか。それは絶対不可能なことであり、あり得ないことであり、返そうとすること自体極めて危険な試みなのだ。
毎年3兆円ずつ返していけば300年後には完済できるとでも思っているのか。今年の新規国債発行額は44兆円だ。3兆円増税しても借金は44-3=41だから41兆円借金は増えてしまう。3兆円返そうと思えば47兆円(44+3)の増税が必要だ。いやこれでも足りない。橋本内閣の消費税増税を思いだそう。当時は医療費負担増も合わせると9兆円の国民負担となったために、回復しつつあった景気は、一気にどん底へと突き落とされ、借金返済には何の役にも立たなかった。
このデフレの時代に、そうでなくても下降局面にある経済に、橋本内閣時代の数倍の規模の大増税をやれば、企業はバタバタ倒れ、大恐慌に陥り税収が激減して、国の借金返済どころではなくなるからだ。初年度より2年目、2年目より3年目と経済は急激に悪化し、大部分の人は職を失ってしまう。生産設備が失われ流通もストップし、多くの人は餓死してしGDPはゼロに近づく。そんな経済でどうやって908兆円もの借金が返せるというのか。もっと小規模の増税はどうかと言えば、それでは借金を返すどころか雪だるま式に増え続けるのだが、増税により景気は悪化するのだから踏んだり蹴ったりといったところだ。
ではどうすればよいか。正確な経済のシミュレーションの予測が必要だ。はやぶさがイトカワまで往復60億kmの飛行の後、予定着陸地点から僅か400mしか離れていない場所に着地した。これもきちんとしたシミュレーションがあったからだ。政府のやっている事業仕分け、1兆円程度の財源を見いだすのがやっと。しかもそれを削減すれば、間違いなく経済には悪影響を及ぼし、税収を減らす。
908兆円の借金があり、新たに44兆円の新規国債を発行する一方で、この僅かの歳出削減を行えば少しは財政健全化に役立つだろうと考えている人がいたとしたら、それは大馬鹿者というべきだ。言ってみれば北朝鮮のミサイルだ。どこに跳ぶか分からないが、ともかく飛ばしてみようというもの。本気で財政健全化をするつもりならきちんとした経済モデルでシミュレーションをやり、本当に財政を健全化できる政策を行わなければならない。すでに日経のモデルによる予測を示した。
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2010/10/post-bd0c.html
 結論から言えば、現在の日本のように国の借金のGDP比が高くなっている国では、歳出削減や増税は、借金のGDP比を逆に高める結果になるだけだ。逆に思い切って大規模な景気対策を行えば、GDPが拡大し財政は健全化する。
政府は10月26日に約5兆900億円の補正予算を閣議決定した。これは11年ぶりの国債発行を伴わない補正だという。国債発行を悪玉と決めつけて、国債発行を伴わないことを自慢したいのだろうが、不況で国債発行を躊躇すれば、景気回復は遅れるばかりで結果的に財政も悪化する。
財源は、財源には10年度税収の当初予測を上回った分の2兆2470億円などを活用するというが、これも馬鹿げている。税収が予想を上回れば、その分を景気対策に使い、下回れば予算を削減するというのだろうか。これほどの経済音痴に政権を任せてよいのか。景気が良くなって税収が増えれば景気対策を控え、景気が悪くなって税収が減れば景気対策を強化して景気を回復させるというのが正しい政策だ。民主党政権になって、景気が悪化し市場金利の低下したために、国の借金に対する利息が減り、国債の発行額を抑えられたなどという事は全く自慢にはならない。景気を悪くしたことを自慢できるわけがないだろう。米国の民主党は景気対策が足りず、景気回復が遅れ財政が悪化していることを理由に中間選挙で大敗した。日本の民主党は米国以上に景気対策に後ろ向きで、景気を悪化させている。民主党政権の外交での失敗以上に、経済政策の失敗は罪が重い。

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2010年11月 2日 (火)

終戦直後に復興金融公庫により大量発行された国債が日本を救った(No.11)

現在、政府が国債を大量発行して景気対策をしデフレ脱却を試みようとしないのは、終戦直後のインフレの再来を恐れているからだと言われている。しかしそれは誤解にすぎない。当時の経済を詳しく調べれば、インフレは国債の大量発行も原因の一つではあるが、むしろ物不足が原因で貨幣の流通速度の上昇したのがより大きな原因になったものだと分かる。国債の大量発行は、生産力を回復させ、物不足を解消させるための緊急措置であり、実際生産力が回復した1950年以降はインフレは起きていない。

終戦の翌年の1946年、日本のGDPは戦前のピーク1938年の2分の1まで下がり、鉄鋼の生産量に至っては戦前の7%という有様だった。外地からの復員や引き揚げによって国内人口が増加するなかで、食料物資の不足、住宅の不足が極めて深刻となり、需要が供給を大幅に上回り、それに加え終戦処理の財源を通貨発行で対応したために、激しいインフレとなった。

生産力を増強するには、電力の供給を増やさねばならず、そのためには石炭供給の増強が必須であった。石炭業では1944年まで年産5300万トンの水準だったが、中国人・朝鮮人を強制的に働かせて生産を維持していた。終戦後、強制労働が解除されると年産1000万トンを下回るまで激減し極端な石炭不足に陥った。そこで1947-1948年に基幹産業の発展を最優先する「傾斜生産方式」が実施された。

まず復興金融公庫(復金)が大量の国債(復興債)を発行し、それを日銀が引き受けることにより資金を獲得、それを石炭・電力・海運を中心に基幹産業に重点的に投入した。一般金融機関の資金供給力が低下する中、復興金融金庫による融資の割合は大きく、設備資金では1949年3月末現在の融資残高の74%は復興金庫融資で占められていた。お金を刷って復興資金にしたわけだが、これが生産回復に大きな役割を果たした変面、復金インフレと呼ばれたように、インフレを加速する結果となった。

この財政・金融政策をどのように評価すべきだろうか。もし、このような政策が行われなかったら、政府は財政難で生産力を回復させる強力な政策は出せなかっただろうし、石炭・電力・鉄鋼の生産不足が続いていただろうから、物不足つまり需要が供給を大幅に上回る状況が続きインフレは長期化しただろう。そして奇跡の経済復興はあり得なかっただろう。戦後の混乱期のような非常事態においては、通貨発行権を行使し政府に十分な資金を確保し、それによって基盤産業を緊急に育てるという政策は正しい。国民に対しては、激しいインフレに耐えてくれと、つまり暫くは痛みに耐えて日本経済を復興させようと協力を求めたわけだ。

もし、通貨発行をせず、歳出削減という緊縮財政政策を行っていたら、景気悪化でしかも物不足のインフレが続くスタグフレーションとなっただろうし、物不足がいつまでも続く絶望的な経済状態となっただろう。実際には生産力が回復してきた頃の1949年2月に来日したドッジは、「ドッジ・ライン」と呼ばれた一連の経済安定化策(超緊縮財政)を実施した。消費者物価は1948年には193%の上昇だったものが、1949年には62.7%にまで下落、1950年には-1.8%とデフレーションの様相を呈した。このことはインフレというものは、完全に制御可能である事を意味している。

その後、1950年6月25日に始まった朝鮮戦争のお陰で特需が生まれ、それをきっかけに日本経済の奇跡的な復興が始まっていく。このような奇跡を起こせたのも通貨発行権という、絶大な特権を最大限に利用した結果である。国民はたしかに激しいインフレに耐えなければならなかったし、配給によって与えられる最低限の物資に頼って生きていくしかなかった。しかし、みるみる復興していく日本経済に希望を持てただろうし、しかも大量の国債発行にも拘わらず、インフレにより国の借金のGDP比は全く増えなかったから、将来世代へのツケを心配する必要もなかった。希望の光が見えていたことを考えれば現在の日本人より余程幸せだったのではないか。

筆者の提案は、あの頃を見習って第二の奇跡の経済復興を目指すことである。日本経済が活力を取り戻し、将来へのツケを消し、奇跡の経済復興が再開するのであれば、インフレを我々は我慢すべきではないだろうか。小泉流に言えば、「痛みに耐えよ」である。どの位のインフレに耐えなければならないかと言えば、すでに日経のモデルによる予測を示した。

http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2010/10/post-bd0c.html

 50兆円規模の景気対策を数年続けるのであれば、2~3%のインフレ率だ。そうではなくて、その10倍の500兆円の景気対策を数年続けるとかなり激しいインフレになるだろうし、将来世代へのツケは一瞬で消えてしまうが、そんな規模にしなければならない理由は全くない。2~3%のインフレ率は、どの国の国民でも我慢にして受け入れているのであり、我々も受け入れるべきだ。

 一部の識者は、この提案に対して「制御不能のハイパーインフレになったらどうするのか」と反論する。しかし、ドッジ・ラインの経験から我々は知っている。インフレを抑えるには、財政支出を削ればよいだけだ。もちろん増税、金利引き上げ、預金準備率引き上げ、売りオペ等、インフレを抑える手段はいくらでもある。しかも終戦直後が物不足だったのに対して今は物余りの時代だ。需要が供給を下回る状態を作り出すことは財政金融政策で簡単にできる。

 国の債務のGDP比を「将来世代へのツケ」と呼ぶなら、デフレを我慢しているとツケは増えていくが、インフレを我慢しているとツケはどんどん減っていく。どうせ我慢しなければならないのであれば、インフレを我慢したほうがよいではないか。高度成長期も我々は常にインフレを我慢してきた。その間、常に賃金の上昇率はインフレ率を上回り、暮らしはどんどん改善された。

約60年ぶりに通貨発行権を行使することは政治家にとって勇気がいるかもしれない。しかし、それによりデフレを脱却し、将来世代へのツケを減らし、豊かな経済を次の世代に残してやれるのなら我慢できるだろう。政治家に決断と実行を期待したい。

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