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2011年2月

2011年2月27日 (日)

解散と引き替えに予算関連法案の成立を(No.50)

首相の首と引き替えに予算関連法案の成立を野党にお願いする案が与党の中で出ているが、野党としてはとんでもないと言うに決まっている。首相が変わって支持率を上げられては困るのだ。このままでは予算が執行できないから国民生活に重大な影響を及ぼす。誰も言わないのだが、1つの解決策は解散と引き替えに予算関連法案の成立を野党に約束させることだ。そして、総選挙後は、どちらが与党、野党になろうとも、政局のための政治でなく、与野党協力して国民のための政治をすると約束することだ。

これだけ長引くデフレの中で増税を強行すれば、それは世界大恐慌を引き起こしたフーバー大統領の政策、あるいは昭和恐慌を引き起こした井上準之助蔵相の政策と同じで日本経済に大変な悲劇を起こす。今は増税でなく、減税をやるべきであり、河村名古屋市長の主張は正しい。

日本は金持ちの国だ。経常収支は30年間黒字を続けているし、外貨準備を100兆円、海外純資産も270兆円もある世界一の金持ちだ。それなのに、なぜ政府の借金が膨らんだのか。これは次のような家計に例えると良い。【】の中にあるのが日本経済との比較だ。ある大金持ちの家庭があったとする。しかし、なぜかお金は全部銀行口座【日銀の口座】にしまっていて、そのお金は使おうとせず、借金【国債】をしながら暮らしている。銀行口座【日銀】のお金を使えば借金はもちろん全部返せるのだが、それをせず借金を繰り返し、返済が大変だから新たな借金【借換債】をする。お金が無い【財源が無い】という理由で家族には小遣い【歳出】を減らしていく。またアルバイトをして家計をもっと助けろ【増税】と命令する。この家庭では借金を減らすことが子供達にツケを残さない我々の義務だということになっている。

この漫画チックな家庭だが、今の日本経済がまさにこの状況であり、日銀からお金を引き出すべきでないという間違えた考えから今の貧乏暮らしを強いられている。日銀からお金を引き出せば一挙に貧乏から抜け出せることができる。日銀から引き出せるお金は、国の借金よりはるかに大きい。日銀からお金を引き出すには、引き出したい額を書いた伝票【国債】を日銀に持って行くだけでよい。政府が直接持って行くことが、法律で規制されているなら、銀行や郵便局が代理で持って行くだけでよいのだ。日銀が受け取りを拒否するようなら、そんな中央銀行はいらない。日銀法を改正し、中国のように政府の政策に協力させるようにするべきだ。今の日銀法は、インフレを止めるには都合がよいが、デフレを止めるのが難しい仕組みになっており、これが日本経済を疲弊させている。

これでお分かりだと思うが、減税の財源はある。いくらでも日銀からお金を引き出せるのだから、遠慮せず思い切った減税をすればよい。減税を掲げれば、そしてなぜ減税をすることができるのかを丁寧に説明すれば、国民もきっと理解してくれ、選挙では圧勝する。議席の8割取れてもおかしくない。

減税に関して期待の星は河村たかし名古屋市長だ。2007年4月には、日本経済復活の会の定例会で講演をして下さった。「お金を刷れば、お金はいくらでもある」と彼は言っていた。講演の中で私に「小野先生、私を総理大臣にしてちょうだいよ」と冗談を言っていた。彼の率いる減税日本が衆議院選で大躍進すれば、政権を握るのも夢ではなくなる。心から応援したい。

1929年の世界大恐慌の際には、世界各国、中央銀行から勝手にお金を引き出せない仕組みになっていた。つまり金本位制だ。この制度の下では、保有する金の量によって、お金を引き出せる額が厳しく制限されていた。そこで各国は金本位制を離脱し管理通貨制度に移行し、自由にお金を引き出せるようにした。そして、それを行った国から経済が復活していった。金本位制が遅れた国は経済の立て直しも遅れた。今こそ日本も日銀から日本経済復活に十分なお金を引き出すべきである。

現在の国会運営だが、解散なくして予算関連法案の成立は難しい状況だ。谷垣さんも、解散に追い込めなかったら党首を辞めろと言われているから、全力で解散を勝ち取ろうとするだろう。予算関連法案を人質に取るのが最良の戦略だし、これを逃すと後がないとなれば絶対に譲れないだろう。であれば解散を条件に予算関連法案の成立という妥協案しか、与野党が合意できる解決策は無いような気がする。

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2011年2月25日 (金)

消費税を15%に上げても国の借金は増え続ける(No.49)

2月20日の毎日新聞に内閣府のシミュレーションについての記事がトップ記事として大きく載った。昨年5月上旬に鳩山由紀夫氏と菅直人氏が内閣府から報告を受けていた。内閣府が作成した「消費税増税シミュレーション」だ。それによると、消費税率を15%にまで引き上げても、国の借金のGDP比は増え続けるというもの。このグラフを見て、彼らは「うーん」とうめいたまま、言葉を失ったそう。我々が日経新聞社の経済モデルを使って行ったシミュレーションの結果と同じだ。

しかし、彼らは驚くべき事に、この事実を公表させなかった。そして菅首相はその2ヶ月後の参議院選では「消費税10%」を唱え民主党は大敗した。菅首相は消費税を10%にすれば、景気は悪くなり、デフレは悪化し、失業率は増え、自殺者も増え、国は貧乏になるだけでなく、国の借金も増えてしまうことをよく知っていたのだ。それでも消費税増税を唱えるということは、国を破滅に導こうとするテロリストと同じではないか。そうでないというなら、消費税増税が何のためか国民に説明すべきだ。当然の事ながら内閣府が作成した「消費税増税シミュレーション」は公表すべきだ。自分にとって不都合なシミュレーションを隠すということは、国民に背を向け、ひたすら首相という身分を守ろうとしているということだ。

このシミュレーションの結果から毎日新聞は「日本には明日は無い」とでも言いたそうだ。シミュレーションというものは、そういうものではない。一般論で言えば、シミュレーションの中の1つの変数(例えば税率)をプラスの方向に動かせば悪い方向に進むのであれば、マイナスの方向に動かせば良い方向に進む。どうやっても悪い方向に進むばかりというシミュレーションなど無い。つまり増税が悪い方向に進む場合は、逆に減税をすれば良い方向に進む。実際、減税を含む大規模財政出動により国の借金のGDP比は下がっていくことはすでにNo.7で示した。

http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2010/10/post-bd0c.html

消費税さえ増税すれば、何とかなるというとんでもない迷信が広まっている日本だが、もう一つ、やっかいな迷信がある。それは人口が減っているからGDPが伸びないのだという説だ。これも全くの誤解だ。本日(2月25日)国勢調査の速報値が出た。その速報値を加えて人口の推移をグラフにしてみる。

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国際調査は5年ごとであり、それ以外のデータは推定だ。国際調査だけを並べると
1995年 12557万人
2000年 12693万人
2005年 12777万人
2010年 12806万人
となり、じわじわ増え続けている。外国人が入ってきて人口が増加している。このことから、人口が減るからGDPが伸びないというのは真っ赤な嘘であることが分かる。次のGDPのグラフを見て欲しい。この間イギリスやアメリカはGDPが2倍以上になっている。人口がそんなに増えたわけではない。

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日本の経済停滞が「人口の減少」によるものではないことは明らかだ。デフレにしているから経済が停滞している。原因はそれに尽きる。増税でなく減税に、歳出削減でなく歳出拡大にすれば、GDPは一気に伸びる。財源が無いというが、霞が関で埋蔵金を探しているからいつまで経っても見つからない。日本橋に行って捜すと良い。そこには日銀があり、日銀にはずっと多くの埋蔵金があり、それを使えば日本経済は一気に復活する。日銀にあるお金を引き出せばよいのだ。日銀からお金を引き出すには国債という伝票を作って提出するだけでよい。伝票が日銀の中で何枚積み上がろうとそれは将来世代へのツケとはならない。将来世代も何枚でも伝票を作ってお金を引き出せるからだ。

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2011年2月23日 (水)

減税派vs増税派の対決で衆議院選をやれ(No.48)

街のあちこちに、衆議院選向けと思わしきポスターが目立つようになった。次回の衆議院選は是非減税か増税かで争って頂きたい。日本は十数年間もの間、デフレが続いているのに、増税をしようとしている政治家がいることは、とうてい信じられないし受け入れがたい。デフレの際に国の借金を減らそうとして世界大恐慌を招いたフーバー大統領や昭和恐慌を招いた井上準之助の失敗を繰り返したいのかと言いたい。

3日前(2月20日)の毎日新聞には内閣府の増税シミュレーションがトップ記事として扱われていた。昨年5月、消費税を15%にまで引き上げても国の借金のGDP比は増えてしまうとの結論を聞いて鳩山首相、菅財務相は言葉を失ったという。実は、筆者はその7年前の2003年7月3日に鳩山由紀夫氏に会い、シミュレーションの結果を詳しく説明した。その中に消費税増税をしても国の借金は増えるばかりだという内閣府と全く同じ結論を伝えていた。同じ頃、経団連でも同様のシミュレーションを行っており、同じ結論を得ている。つまり消費税増税は確実に経済を悪化させるし、平成恐慌といった大惨事を招く可能性はあるが、財政を改善することはあり得ないことは、ずっと前から知られていた。

それでも消費税増税を主張する者が多数いる。日本経済を破滅させたいのかと言いたい。筆者の持論は増税か減税かで国民投票をすればよいということ。そして増税と答えた人だけに、お望みの増税をし、減税と答えた人には減税をすればよい。デフレに苦しむ日本経済に増税ということは、栄養失調で苦しむ人にダイエットをさせるようなものだと思う。太っている人にはダイエットはよいが、栄養失調の人にやらせたら悲惨だ。次の表をよく見て、減税と増税のどちらがよいか、冷静に考えてもらいたいものだ。増税によって次世代への負担は増え、財政は悪化するのだということをよく覚えておくべきだ。これだけ国の借金があるのに、消費税増税で更に借金を増やそうという考えには全く理解できない。

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衆議院の任期はあと2年半あるのに、今解散するわけがないという人がいる。しかし、解散せずに任期いっぱい頑張れるだろうか。予算関連法案が成立する見込みがほぼ無くなった。片肺飛行でも、かろうじて少しの間は飛行は続けられるかもしれないが、これは危険極まりなく、緊急着陸するしかない。

今の政府が民意を反映しているだろうか。直近の民意は昨年の参議院選であり、民主党は大敗した。内閣支持率20%前後ということなら、国民は現在の政治にはっきりとNOと言ったとみなしてよい。現在の衆議院の議席配分は民主党305、自民党117、公明党21だが、これはマニフェストが実現すると思って投票した結果であって、そうでないのであればこの数字は大きく変わるはずだ。実は財源は無かった、すいませんというのであれば、正しい情報を国民に与え直ちに総選挙をすべきだ。

予算関連法案を成立させるのか、内閣総辞職か、解散総選挙かをめぐってチキンレースの様相を帯びてきた。マスコミの論調次第で勝者が決まる。現在のところ、朝日新聞のみが与党側につき、それ以外は事態を静観しているように見える。財政破綻なしでどこまで頑張れるのか分からない。株価下落とか国債の格付け低下がチキンレースの終わりとなるかもしれない。ぎりぎりまでチキンレースを続け、そこで衆議院選となった場合、選挙をし、新しい内閣の枠組みをつくり、その内閣の下で、新しい予算を作るなどとやっていたら、財源切れになるだろう。妥協案としては、解散総選挙を約束することを条件に、今のままで予算と予算関連法案を通す。更に、次の内閣でも「ねじれ」は解消しないだろうと予測し、次の内閣では、政治が停滞することのないように、次の内閣からは両院協議会での決定は過半数でよいと今のうちに決めておくことだ。そうすれば、次の内閣は、今より安定したものとなるだろう。政治の停滞が経済の停滞を招かないように、与野党が協力すべきだ。

いずれにせよ、次の選挙での勝者は増税派ではなく、減税派だ。減税派は結集して国民にアピールするとよい。増税派と増税派の対決でなく、減税派と増税派の対決であれば、選挙民も不毛の選択をしなくてすむ。

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2011年2月20日 (日)

麻生内閣の末期に似てきた菅内閣(No.47)

だんだん菅内閣の終わりが近づいてきた。民主党内部からも退陣論が出てきたが、菅総理は辞めないと頑張る。麻生内閣の末期でも、支持率低下で自民党内部から退陣要求が出ても辞めなかった。結局支持率が下がったまま衆議院選に突入し大敗した。あの時は、任期切れだったから、解散総選挙は避けられなかったが、今回はそうでなく、予算関連法案が成立するかどうかで運命が決まる。

与党議員は選挙で議席を減らしたくないし、自分も次の選挙で落選するかもしれないと考えると、せめて首相を変えてから選挙したいと思う。菅首相は、せっかくつかんだ首相の座に少しでも長く居座りたい。与党が首相の交代を迫るのであれば、解散するぞと脅して頑張る。野党は、首相交代などあって、支持率回復などさせてなるものかと頑張る。首相の首と引き替えに予算関連法案の可決など論外だ。

予算関連法案が成立しないとなれば、大混乱は必至だが、その時の責任は誰にあるのか。国民が野党側にあると判断すれば野党は妥協せざるを得ないし、与党側にあると判断すれば解散総選挙は避けられない。国民がどちらに味方するかは余談を許さないが、最近のマスコミの論調からは与党は極めて不利な立場にあると言わざるを得ない。本日(2月20日)の報道2001の調査では内閣支持率16.2%であり、鳩山内閣末期より低い。選挙があれば民主党に投票する人は13.4%しかいない。このまま選挙に突入すれば、民主党は3分の1程度までに議席が減るのではないか。

しかしながら、大逆転のチャンスはある。一昨年の選挙では、マニフェストを掲げ圧勝した。あのマニフェストを復活させればよいだけだ。マニフェストに書いた子供手当、高速無料化等財源不足で諦めたものまで復活させ、更にそれに加え河村名古屋市長に従って減税を主張すればよい。財源は日銀の金庫にあるお金を引き出すだけでよい。

駄目押しは、経済シミュレーションだ。2011年度末には、国の借金は997兆円に達するのであり、GDPの2倍となる。財政を拡大した場合のGDPの増加率と国の借金の増加率の比較をしてみればよい。ほとんどの経済モデルで、GDPの増加率のほうが大きいという結果になる。つまり借金のGDP比は減少するから、実質的に国の借金は減る。例えば我々がNo.7で示したものもその1つだ。

http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2010/10/post-bd0c.html

その試算結果を国民に示し、それを掲げて選挙すれば確実に圧勝する。自民党は増税派だから、減税派に惨敗するのは間違いない。名古屋市長選を見ればよい。財源について聞かれれば、No.7での計算では全部財源は国債発行としている。国債発行を大規模に行っても国の借金は実質的に減ることは示した。

日本人は、不思議なことに日銀からお金を引き出して使おうとしない。日銀の金庫にはお金がいっぱい入っている。いくら使っても使い切れないほどだ。今使えば、次世代、あるいは次々世代が使えるお金が減るというわけではない。使わない理由は、多すぎて恐いというのだ。霞が関埋蔵金は少なすぎるが、日銀の金庫は多すぎるのだそうだ。高橋是清やヒットラー時代のドイツ経済大臣のシャハトやルーズベルト大統領は勇気を持って中央銀行からお金を引き出し、自国の経済を復活させ歴史に残る英雄となった。誰か現在の日本を救う英雄は出てこないか。

チャンスがあるのは自民党でも同じだ。消費税増税の方針を取り消し、減税路線・積極財政路線に政策の大転換をすれば8割の議席が取れる。きちんと説明すれば国民に理解してもらえるはずだ。大規模財政出動をすれば、経済は発展軌道に乗る。そうすれば、中国のように税収が100兆円にも達する日が来る。これは日本においても夢ではない。国全体が将来への投資を考えるようになれば、銀行貸出も中国並みに前年より100兆円も増えるということになる。つまり銀行がお金を年間100兆円も刷るということだ。そうなれば、国民の将来不安も一掃する。

日本は新しい英雄の出現を待っている。

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2011年2月14日 (月)

財政破綻に関する政府の答弁書が出された(No.46)

城内氏による質問主意書、菅直人総理による答弁書、そしてその答弁書に対する筆者のコメントを書きます。これらを読む前にNo.39を読むと分かりやすいと思います。

http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2011/01/no39-8c4b.html

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財政破綻リスクに関する質問主意書
右の質問主意書を提出する。
  平成二十三年二月二日
           提出者  城 内   実

 衆議院議長 横 路 孝 弘 殿

   財政破綻リスクに関する質問主意書
平成二十二年六月二十二日に、平成二十三〜二十五年度の歳入・歳出の骨格を示す「中期財政フレーム」を含む中長期的な財政健全化の道筋を示す「財政運営戦略」が閣議決定され、『財政運営戦略概要』(以下概要という)の中に、以下のように述べられている。

2.財政破綻リスクへの断固たる対応
現状を放置して、ギリシャ等のように財政破綻に陥るようなことがないようにしなければならない。仮に、そのような状態になれば、財政自主権が失われ、社会保障サービス等の水準が大きく低下し、経済や国民生活に多大な悪影響。

また、菅直人総理大臣も平成二十三年一月八日に「このまま赤字国債を発行するような状態は、二年先は無理だ」と発言(以下総理の発言という)している。これらのことに関して、以下質問する。

一 概要の中に財政破綻とある。これは国の借金が返済不能になるということを意味していると考えるが見解如何。

二 企業の破綻と言えば、債権の放棄が発生する。国の財政が破綻すると、国債は紙くずになると考えるが見解如何。

三 国債が財政破綻により将来紙くずになる可能性があるのであれば、国債を売る際に購入者にその危険性を理解してもらう必要があると考えるが見解如何。

四 国が元本保証するから支払いは問題無いとの見解かもしれないが、財政破綻の可能性があるならその保証は信じられない。過去においても、事実上国債が紙くずになった例があると考えるが見解如何。

五 日銀が市場から国債を買うことにより、事実上政府の財政赤字を日銀が引き受けるのと同等の効果を生じさせることができる。実際、アメリカ連邦準備銀行(FRB)は約一.三兆ドルの米国債を購入し、米国政府の財政赤字を事実上引き受けた。日本政府がこのような方法を許すのであれば、日本の財政破綻は起こりえないと考えるが見解如何。

六 日銀が国債を購入すると、過度のインフレになるという説もあるが、アメリカでは過度のインフレの恐れよりも、むしろデフレの恐れがあり、日本のようにならないようにと神経を使っていると言われている。この例を見ても、日銀が国債を購入するだけで、すぐに過度なインフレになるとは言えず、むしろデフレ脱却の期待が膨らむのではないかと考えるが見解如何。

七 前述の概要の中に、「財政自主権が失われ」とある。これは日本がIMFの支配下に入るという意味と考えるが見解如何。

八 IMFは、外国から借金をしている国において借金の返済が不能になっている場合に、自国通貨を発行させ、それをドルや円などの国際通貨と交換することにより返済を助けている。日本は外貨を十分持っており、IMFへの出資金も世界第二位である。しかも円が国際通貨であるために、IMFの行う交換は全く意味をなさない。つまり現在の国の借金を放置すれば、財政自主権が失われるという表現は正しくないと考えるが見解如何。

九 前掲の総理の発言であるが、赤字国債発行が二年先は無理というのであれば、赤字国債に替わる案があるということだと考えるが見解如何。

十 一月二十一日に内閣府から、経済財政の中長期試算が発表されている。そこに示されているのは、二年先には赤字国債の発行を止めるというのでなく、赤字国債は少なくとも平成三十五年度まで出し続けるというシナリオである。このシナリオは総理の発言と矛盾すると考えるが見解如何。

十一 経済財政の中長期試算で例えば成長戦略シナリオによれば、平成三十五年度には国債費が税収を上回る。国民が納める税収のすべてを使っても国債費を払うことができなくなるという経済は、正常ではないと考えるが見解如何。
右質問する。

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内閣衆質一七七第四〇号
 平成二十三年二月十日
内閣総理大臣 菅 直人  
衆議院議長 横路 孝弘 殿

 衆議院議員城内実君提出財政破綻リスクに関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。

 衆議院議員城内実君提出財政破綻リスクに関する質問に対する答弁書

一について
 御指摘の『財政破綻』は、財政状況が著しく悪化し、財政運営が極めて困難となる状況について記述したものである。

二から四までについて
 国債の元金償還及び利子支払については、政府が責任を持って行うこととしている。

五及び六について
 日本銀行は、市場への安定的な資金供給のため長期国債の買入れを行っているが、これは、国債価格の買支えや財政赤字のファイナンスを目的としたものではないと承知している。なお、財政法(昭和二十二年法律第三十四号)第五条は、公債の日本銀行による引受けを原則として禁止している。これは、戦前・戦中に財政需要を満たすために多額の公債を日本銀行による引受けにより発行した結果、急激なインフレが生じたことへの反省に基づき規定されたものである。
 また、政府としては、日本銀行において、我が国経済がデフレから脱却し、物価安定の下での持続的な経済成長経路へ復帰することが重要な課題であると認識し、金融緩和措置を講じているものと承知しており、「包括的な金融緩和政策」(平成二十二年十月五日日本銀行政策委員会・金融政策決定会合決定)の一環として資産買入れ等の基金による長期国債の買入れ等を行っていると承知している。

七及び八について
 御指摘の「財政自主権が失われ」とは、必ずしも御指摘のような意味ではなく、財政運営が極めて困難となり、財政運営の自由度が失われる状況について記述したものである。

九について
 御指摘の発言は、国債発行に過度に依存した財政運営はもはや困難との認識を示したものである。

十について
 御指摘の「経済財政の中長期試算」(平成二十三年一月二十一日内閣府公表。以下「中長期試算」という。)計量経済モデルを用いて、一定の前提に基づき行っているものであり、中長期試算における各年度の歳出と税収等との差額が、そのまま当該年度における新規国債発行額になることを示しているものではないが、政府としては、「財政運営戦略」(平成二十二年六月二十二日閣議決定)に沿って、平成二十四年度以降の新規国債発行額について、財政健全化目標の達成へ向けて着実に縮減させることを目指し、抑制に全力を挙げることとしている。
 なお、御指摘の総理の発言については、九についてで述べたとおりである。

十一について
 中長期試算の成長戦略シナリオにおいては、名目長期金利の上昇等を反映して、平成三十五年度の国債費は大幅に増加することとなっており、結果として税収を上回る形となっている。このことは、成長率が高い成長戦略シナリオにおいても、平成三十五年度の財政状況は深刻であることを示している。

――――――――――――――――――――――――――――――――――
答弁書に対する筆者のコメント

コメント

一について
財政破綻とは、国家財政の資金繰りが付かなくなってしまうことであり、単に「財政状況が著しく悪化し、財政運営が極めて困難になること」ではない。したがって、財政運営が困難になるかもしれないが、完全に資金繰りが付かなくなることはないというのであれば、この文章は撤回すべきである。

二から四について
どんなに国債を発行しても国債の元金償還および利子支払いを、政府が行うことが出来るのであれば財政運営が困難になることはあり得ないし、ましてや財政破綻の可能性は無い。したがって財政破綻の可能性を政府は撤回すべきである。

五及び六について
終戦直後のインフレと同様なことが、現在の日本で起こり得るとの主張である。政府は終戦直後と現在の経済状態との違いを全く理解していない。

終戦直後は、空襲で生産力が落ちて物不足になっていた。終戦の翌年の1946年、日本のGDPは戦前のピーク1938年の2分の1まで下がっていた。鉄鋼の生産量は戦前の7%にまで落ち、鉱工業生産は戦前水準の27.8%しかなかった。農業でも、戦時動員による人手不足で作付面積が減少したところに冷害などの災害が加わり、1945年の米作は、587万トンという記録的な凶作となった。ちなみに1940~44年度の平均は911万トンだった。それ故、食料が足りず飢餓に苦しんでいた。

戦費捻出のために発行された戦時国債の償還、軍需物資に対する支払い、復員兵の帰還費用の捻出等、政府には巨額の出費が迫られた。財政破綻だ、財源はあるのかなどとのんきなことを言っている時ではなかったのであり、お金を刷って支払うしかなかった。

生産力を増強するには、電力の供給を増やさねばならず、そのためには石炭供給の増強が必須であった。石炭業では1944年まで年産5300万トンの水準だったが、中国人・朝鮮人を強制的に働かせて生産を維持していた。終戦後、強制労働が解除されると年産1000万トンを下回るまで激減し極端な石炭不足に陥った。そこで1947-1948年に基幹産業の発展を最優先する「傾斜生産方式」が実施された。

まず復興金融公庫(復金)が大量の国債(復興債)を発行し、それを日銀が引き受けることにより資金を獲得、それを石炭・電力・海運を中心に基幹産業に重点的に投入した。一般金融機関の資金供給力が低下する中、復興金融金庫による融資の割合は大きく、設備資金では1949年3月末現在の融資残高の74%は復興金庫融資で占められていた。お金を刷って復興資金にしたわけだが、これが生産回復に大きな役割を果たした変面、復金インフレと呼ばれたように、インフレを加速する結果となった。

この財政・金融政策をどのように評価すべきだろうか。もし、このような政策が行われなかったら、政府は財政難で生産力を回復させる強力な政策は出せなかっただろうし、石炭・電力・鉄鋼の生産不足が続いていただろうから、物不足つまり需要が供給を大幅に上回る状況が続きインフレは長期化しただろう。そして奇跡の経済復興はあり得なかっただろう。戦後の混乱期のような非常事態においては、通貨発行権を行使し政府に十分な資金を確保し、それによって基盤産業を緊急に育てるという政策は正しかった。国民に対しては、激しいインフレに耐えてくれと、つまり暫くは痛みに耐えて日本経済を復興させようと協力を求めたわけだ。

終戦直後と現在と同じ経済状態とでも政府は主張したいのだろうか。極端に生産力が不足していた当時と違い、今はデフレで逆に生産力が余っている。外貨が不足し輸入が思うようにできなかった当時と違い、現在は外貨も十分あり輸入はできる。鉄鋼、石炭等資源が極端に不足していた当時とは全く違う。米の備蓄もあり多くの国民が飢餓に苦しんでいるという状況ではないし、食料が不足すればいくらでも輸入は可能だ。

財政法第五条は終戦直後の昭和二十二年に定められたのであり、当時は意味があったが、全く異なる経済状態の現在では逆にこの法律がデフレ脱却を不可能にし、国民を苦しめている。新しい時代には新しい法律が必要であることは言うまでもない。法律改正をしないとしても、時代が変わったのだから、この法律を柔軟に適用し、日銀の国債価格の買い支えや、財政赤字のファイナンスも認めるべきである。

七及び八について
国語辞典によれば「自主権とは他から干渉を受けず、自主的に決定することができる権利」である。政府は、どこから干渉を受ける恐れがあるといっているのか。金融機関の言うなりになるということなのだろうか。それともIMFからの干渉なのか。他からの干渉を受け、財政運営の自由度が失われると主張するのであれば、干渉するのは誰なのかを明らかにすべきである。

九について
総理大臣が国債発行による財政運営が2年後にできなくなるというのであれば、国民に対し、他にどのような方法があるのか示す義務があり、示せないなら総理としての資格はないと考える。

十について
歳出と税収の差額が新規赤字国債発行額にならないのであれば、それ以外の財源があるということであり、それは何なのかを明らかにすべきである。

十一について
政府は、税収を全部使っても、国債費さえ払えないという経済状態に日本を陥らせようとしている。それでよいと考えているのだろうか。消費税を福祉目的税にしようと言っているのは増税のための詭弁にすぎないのではないか。思い切った改革は必要ないと考えているのか。

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2011年2月13日 (日)

やはり正しかった支持率の法則(No.45)

筆者の提唱した法則はNo.41で述べたとおり「国会閉会中には支持率が上がり、開会中は下がる」というものだったが、今回もやはり法則は正しかった。

「共同通信社が11、12両日に実施した全国電話世論調査によると、菅内閣の支持率は19・9%と1月中旬の前回調査から12・3ポイント下落し、発足後最低となった。20%を割り込んだのは、鳩山内閣が退陣直前に記録した19・1%以来となる。」

支持率低下を恐れて国会をできるだけ閉めておこうとしていた政府だが、予算を通さなければならぬとなれば、もはや国会は開きっぱなしにしておくしかない。支持率アップは、このままの国会論戦を続けていれば期待できない。野党としては小沢問題、与謝野問題、マニフェスト違反問題と追及のネタに困らないのだから、すでに危険水域にまで落ちた支持率は更に落ちる可能性がある。野党に協力を求めても、沈みゆく船には乗りたくないだろう。

もしここで衆議院選をやれば、300名を超す民主党議員のうち200名近くが落選の危機に晒される。解散するかどうかは、予算関連法案が通るかどうかで決まるだろうが、通すには支持率アップが絶対条件だ。消費税増税を唱えていれば支持率がアップすると考えるのは幻想にすぎないことはすでに昨年の参議院選で民意が示された。更に名古屋市長選で減税派vs増税派の戦いでは減税派の圧勝という結果が出た。

民主党の中にも日本経済復活の会の顧問の議員はいるし減税支持派もいる。今朝(2月13日)の報道2001の番組でも河村・大村両氏が出演し、減税vs増税の議論が行われた。決まって行われるのが減税の財源はどうするのかという議論。減税すれば景気を良くし、税収を増やし、それが財源になるというのはおかしいと増税派が主張。そんな反論は何の意味も無い。確かに減税の効果をすぐに出るわけでない。しかし、長期に考えてみれば、間違いなく効果が出てきて、デフレの時には減税がよいに決まっている。更に、単にプラスマイナスの議論ではなく、債務のGDP比の議論をしなければならぬことを忘れてはならない。しかも、財源を言う前に、国というものは通貨発行権を持っているということも忘れないで欲しい。必要ならいくらでもお金は刷ってよい、というよりデフレ脱却のためなら刷らなければならないのは当然だ。

今、お金を刷ったからと言って、将来世代に負担などかからない。必要なら将来またいくらでも刷れるからだ。それより、未来に向けて必要な投資を確実に行っていって、豊かな社会をつくっていくほうが、余程将来世代へ貢献することになる。テレビもいつかこのような当たり前のことを議論するようになって欲しいと思う。

民主党にとって大逆転のチャンスはある。前回マニフェストで約束した子ども手当、高速無料化等を全部公約通り実現する、消費税増税はやらないと断言、逆に大減税をやると公約すればよい。医療・介護・教育等様々な分野で予算を増やし地方交付税も増額の約束。こういった国民の利益のための政治をすると約束すれば支持率は飛躍的にアップする。日本経済のデフレ脱却という歴史的な瞬間を民主党で実現すれば長期政権も可能だ。

最後に1つデータをお見せする。
                        出所:日銀

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最近は、輸出などで、儲かっている企業で出てきているのだが、そんな企業でも賃上げしないし設備投資をしないでじっとお金を持ち続けている。いわゆる内部留保だ。このグラフで分かるように、そんなお金がどんどん増えている。一種のタンス預金と言える。企業はけしからんと言うより、むしろ政府の不用意な発言がこういう事態を引き起こしているのだと理解すべきだ。国の借金が1000兆円近くにもなり、財政は破綻しそうだし、増税が待ったなしと言われれば、経営者として会社を守らねばと責任を感じるし、それならお金を留保しておこうという気持ちになる。

河村市長のように、減税だ、お金が必要ならいつだって刷ればよいと政府が主張したら、それだけで皆さんお金を使い始める。このあたりで消費者や経営者のマインドを大転換させるような政治家の発言を期待したい。

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2011年2月 7日 (月)

減税支持派の河村・大村両氏が増税支持派に圧勝!!(No.44)

減税派が増税派に圧勝した。この快挙に日本経済復活の会の顧問の河村氏に心からお祝いを申し上げたい。日本経済復活の展望を示せない民主・自民に対する反発、これぞ本当の民意だろう。馬鹿なマスコミは、減税の財源はどうするのかとの発言を繰り返している。国家で最も重要なものは通貨だ。国を始めようと思ったら通貨を印刷することを最初にやらねばならない。最初に印刷した通貨だけでは、国家の発展は無い。必要な時に必要なだけ通貨を増刷をしながら国は発展していく。諸外国はすべてその仕組みを理解し受け入れているのになぜ日本だけは通貨発行を拒否するのだろうか。

河村氏の持論は「お金を刷れば財源はある」ということだ。マスコミがその持論を言いにくくしているから最近彼はその発言を控えている。減税に対し財源はどうするかという問い、つまりなにがなんでも均衡予算に持って行きたいようだ。マクロ経済に対する無知がデフレを十数年も長引かせてしまった原因だ。デフレ脱却には財源を通貨発行で確保して思い切って財政出動をしなければならない。減税、歳出拡大によって国民が豊かになれば、必ず税収も増え国家財政も健全化できる。

http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2010/10/post-bd0c.html

イギリスが消費税を上げたから日本も消費税を上げる?日本の消費税率はまだ低い??消費税増税の前にやることがある。2010年、イギリスは1995年に比べGDPは2倍になっているが、日本は1995年よりGDPが下がっている。まず、イギリス並の経済成長率にしてから税制改正の議論をやって下さい!!どんどん給料が下がり、消費税を払えない中小企業が続出している時に消費税増税などできるわけがないだろう!

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2011年2月 6日 (日)

現在の経済情勢は昭和恐慌前夜に似てきた(No.43)

歴史は繰り返すと言われているが、大正と昭和初期に起きたことと、現代とが共通点が多い。歴史をしっかり学んでいたら、バブルとその崩壊による経済の混乱を避けることができたのにという思いが強く感じられる。

バブルと呼ばれる経済情勢は1989年頃以外に大正時代にもあった。そのバブルが崩壊した後、長いデフレの時代があり、その不況の真っ直中に政府は緊縮財政を行って、昭和恐慌に陥ったことは有名である。現在のマスコミの論調や政治家の発言で、デフレの中で緊縮財政をせよとの主張が台頭してきて、昭和恐慌前夜に酷似してきており、危険水域に入ったように思える。

順を追って話しを進めるため、1914年頃の背景から始める。日本はアメリカ、イギリス、イタリア、フランスに並ぶ世界五大国の1つであった。当時の対立する二大政党は緊縮財政の民政党と積極財政の政友会であった。この頃は日本製品に国際的競争力がついておらず、貿易赤字が続き、外国からの借金も積み上がり、利払いさえ危ない状況だった。1913年に高橋是清が大蔵大臣に就任し積極財政を展開し、貿易赤字は拡大したが、大規模な外資導入でなんとか賄っていた。つまりこの頃は外国からの借金が積み上がり、ギリシャのようになろうとしていた。

しかし、それを救ったのは1914~1918年の第一次世界大戦だった。日本は戦場にならず、食料・日用品・軍需品の供給基地となりアジア市場を席巻した。ライバルであったヨーロッパ諸国は戦争で輸出の余裕が無くなり、その代わりに日本製品が進出していった。海運においても運送料の暴騰で巨額の利益を得た。1914年には500万円の貿易赤字だったものが、1915年~1918年の4年間の経常収支黒字累計額は27億円となった。この頃のGNPが47億円であったことから、この額が如何に巨額だったかが分かる。ヨーロッパの戦争により日本は債務国から純債権国になり1919年には正貨保有高は20億円に達した。

注目しておかなければならないのは、金の輸出入である。当時は金本位制にするのか、金本位から離脱するのかで、国の経済の命運を分けていた。金本位制度なら、金が不足すると通貨を十分発行できず、デフレに陥ってしまったし、離脱すると為替が不安定になったからである。1917年金輸出が禁止された。つまり金本位制からの離脱である。貿易赤字で金の流出が続いていた戦前と違い、一気に戦争特需で金保有を増やした時に金輸出の禁止を行ったのは矛盾するように思えるが、アメリカが禁輸出の禁止を行ったのに足並みを揃えての禁止措置だった。

戦争特需で外貨(当時は金)が稼げてよかったと思うかもしれないが、高橋是清による度を超した積極財政でインフレとバブルを発生させてしまった。1919年の消費者物価は1915年の2.37倍になった。次のデータは卸売物価指数である。

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米や綿花等はもっと激しく値上がりし、1919年には大戦前に比べ米価は3.6倍、綿花は7倍に暴騰している。なぜこのように物価が上がったのかといえば、戦争特需で海外で稼いだ外貨を円に換えたために、日本国内で出回るお金が増えたことに加え、国債を増発、金利引き下げたことで、更に通貨発行のテンポが早くなったことにある。しかも、その金は米とか綿花等投機の対象になるものに向かい、買いだめして値上がりを待ったため、戦争特需の恩恵を受けなかった庶民には逆に生活が苦しくなっている。1919年には全軍事予算が一般会計の45.8%に上っており、国民生活のためにお金が使われていない。

現在の日本や中国でも外需で金を稼いでいるが、インフレにならないのはなぜだろう。現在の日本の場合、稼いだドルは日本に持ち帰らない。日本国内で投資できるものが無いからだ。米や綿花を買っても値上がりの見込みが無い。土地投機も値下がりが続いていてとても買う気にならない。一方中国では、インフレを防ぐために預金準備率を上げて、お金が銀行から出きにくくしたり、金利を上げてお金を借りにくくしたり、売りオペでお金を吸収したり、近隣諸国に元を準備通貨として保有を義務づけたりしている。

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大正時代の日本はそのような努力は全くしていない。それどころか1916年3月には公定歩合の引き下げを行っている。戦争特需で大成功した自信で、限りない発展をする日本をイメージしており、インフレを気にせず積極財政を続けている。軍備を増強して将来の戦争に備えることが念頭にあったのだろう。しかし、海外からの需要の急増に生産が間に合わず、ボタンを糊付けしただけの衣服を輸出したとのエピソードもあるくらいで、粗悪品でも何でも売れた。その反動で1918年11月の休戦により、ヨーロッパの企業が戻ってきて競争に勝てなくなり、海外需要の減少、物価の下落で経済は大きな打撃を受けた。

ところが、翌年の1919年には、再び経済は根拠の無い熱狂的なブームになり、地価、株価、商品相場などが異常な高騰を示した。学校の先生やサラリーマンなど、ありとあらゆる人々が株などの投機に熱中していた。株価が38915円の最高値をつけた1989年にそっくりだ。無謀にも銀行も設備投資に積極的に応じた。次の企業新設及び拡張計画資金のグラフをみれば、その異常さが分かる。

出所:望月和彦『大正デモクラシーの政治経済学』

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特需が終わり外需が減少し、設備投資が過剰になっていたのだから、この大正バブルは間もなく終わり、その反動が一気にやってくる。特需でインフレになったのと逆のことがバブル崩壊で起きた。輸出減少で再び貿易赤字となり、輸入を維持するには円を外貨に交換してもらわねばならないのだから、円が市中から消えていきデフレとなった。株、商品相場等も大暴落した。投機に走っていた人、企業が次々自己破産、倒産をし、銀行の取り付け騒ぎが続発し、休業が相次いだ。当時は預金者保護の仕組みが無かったので銀行が危なくなればすぐに取り付け騒ぎとなった。それに対し政府は緊急融資で対応した。この頃の経済をしっかり学習していたら、1989年のバブルとその後のバブル崩壊に伴う不良債権問題の発生は無かったろう。この1920年不況によるダメージは昭和恐慌より大きかったというのが鈴木正俊氏『昭和恐慌に学ぶ』の主張であり、その比較は次の表で分かる。

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1920年不況を深刻にしたのは、「退場すべき企業は退場すべき」という考えであり、小泉・竹中路線でもあった。政府の失政によりバブルを発生させ、失政によりバブル崩壊となったのに、企業が潰れるのは企業に責任があると政府が決めつけた。このため、不況を深刻にさせ景気回復を困難にした。実際は政策の失敗のために退場させるべきでなかった企業を多数退場させてしまった。

1904~1905年の日露戦争、1914~1918年の第一次世界大戦、1931年の満州事変と続き、この時代は常に戦争と向き合わざるを得ない状況で、軍事支出が増大しやすかった。少なくとも大正時代には外国からの借金は気になっても、国債残高の増大にはそれほど気になっていなかったように見える。次の図は債務(国債発行残高)のGNP比である。

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景気がよく、積極財政を行っていた第一次世界大戦中には債務のGNP比は減少。しかし、デフレが続いた1920年~1930年の間では、債務のGNP比は徐々に増加している。高橋是清の積極財政(大量の国債発行)で経済が立ち直った1931年~1936年になると増加は止まり、減少に転じている。これを見ても、景気が悪ければ国の借金(国債発行残高のGNP比)は増えていき、大量国債発行で景気を回復させれば実質的に借金は減るのだと分かる。

大正バブルで発生した過剰な投資が、その後の日本経済の足を引っ張った。更に悪いことに。1923年には関東大震災が発生し、日本のGNPの約3分の1の45億円の損害を出した。これに関連して発生した負債が金融恐慌の震源地になった。

1927年には台湾銀行の営業停止をきっかけに大規模な取り付け騒ぎが起きた。昭和金融恐慌が発生し、高橋是清蔵相は井上準之助日銀総裁と協力し、3週間の支払猶予措置(モラトリアム)を行った。全国的な金融パニックを収めるために紙幣を増発した。印刷が間に合わず、片面だけ印刷した急造の200円札を大量に発行して銀行の店頭に積み上げて見せて、預金者を安心させて金融恐慌を沈静化させた。現在は通貨も預金が中心であり、預金が守られている限り同様な金融パニックは起こりそうもない。

10年以上続いた不景気・デフレの最終章で国全体が恐ろしい集団催眠にかかってしまう。デフレの中で「緊縮財政」を肴に盛り上がったのだ。国民は〈お前塩断ち、私茶断ち〉〈うれし解禁とげるまで〉と「緊縮小唄」(西条八十作詞、中山晋平作曲〉を歌って金解禁を歓迎した。1930年は国債発行額を0にするための超緊縮予算となった。公務員給料の引き下げも行われた。

なぜこの不景気の中で緊縮財政を行うのかというと、貿易赤字が続いており、それを改善するということだった。なぜ金解禁(つまり金本位制への復帰)が必要だと考えていたのかというと、諸外国が次々と金本位制に復帰していたことと、それが為替の安定につながり貿易を促進に経済発展に必要だと考えたからである。井上準之助蔵相はIMFに影響を受けていたのだろう。IMFは資金融資の見返りに、経済の緊縮政策を要求する。つまり緊縮財政によって国際収支の均衡を図ろうとする。デフレ下での緊縮財政に加え、1929年に始まった世界大恐慌が事態を更に悪化させ、日本経済は昭和恐慌へと突入していった。

昭和恐慌前夜のこの危険な集団催眠に関しては現在の日本と多くの共通点がある。
①バブル崩壊後デフレが続いている。
②デフレなのに増税・歳出削減の議論が盛んである。
③緊縮政策に国民が理解を示している。
④IMFの影響を政府が受けている。
⑤公務員給与の削減を主張している。
⑥銀行の経営危機は何度も経験した。
⑦国債発行を抑えようとしている。
⑧不況で株価も下がっていた。
⑨円高容認の声も強かった。
⑩借金で歳出を計ってはいけないという論調。
以下に株価の動きを示す。高橋財政によって経済が持ち直す前は、株価は下がっていた。

出所:明治以降本邦主要経済統計 日銀

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井上蔵相により、1930年1月に旧平価での金解禁が断行された。旧平価ということは、円高にするということだ。通貨発行を拒否する菅内閣は事実上円高容認ということで、井上蔵相の政策と似ているとも言える。円高にするということは、日本製品のすべてを一斉に値上げすることに相当し、そうでなくても競争力の弱い日本製品が売れるわけがなかった。実際、翌年の1931年には、輸出は解禁前の半分に落ち込んだ。金解禁に反対した高橋亀吉は「財界攪乱罪」で警察に引っ張られた。マスコミは彼を「非国民」扱いにした。マスコミの偏向は現代も変わらない。

金解禁ということで、人々はお金を金に替え始めた。日銀の正貨準備は激減し1931年末に4.7億円と金解禁の前に比べ半減した。金本位制では金保有高が減れば、通貨もそれに比例して減らさなければならず、デフレが加速した。金が出て行く理由は簡単に説明してみよう。平価での金解禁ということは、国が金(ドル)を大安売りするということ。しかも国は金を少ししか持っていない。となると、今貯金を全部下ろして、金(ドル)を買っておけば、間もなく国は大安売りを止める。そうすれば、金(ドル)は値上がりし、そこで金(ドル)を売れば、大もうけができる。実際ドル買いをして儲けたのは住友、三井、三菱などの財閥だった。結局金本位制は2年弱で終わった。

1931年12月、政友会の犬飼内閣が成立し、新しく就任した高橋是清蔵相は金輸出を禁止、金本位制から離脱、そして積極財政による経済の立て直しを計った。それにより、日本は世界で最も早く世界大恐慌から立ち直ることができた。

出所:鈴木正俊

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最後に強調したい事は、デフレ経済で歳出削減や増税などの緊縮財政を行うことは、極めて危険であるということだ。多くの国民が消費税増税に賛成しているということは、昭和恐慌前夜と同じような非常に危険な状況に日本が陥っていると言える。

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2011年2月 1日 (火)

50兆円の政府紙幣を刷れ:テレ朝日たけしのTVタックル(No.42)

1月31日の「たけしのTVタックル」に高橋洋一氏が出演し、「50兆円の政府紙幣を1枚刷って、それを財源に国民1人当たり50万円を配れ」、あるいは「社会保険等に使え」と主張していた。これには我々は大賛成であり、まさに我々が長年主張してきたことそのものである。

むしろこれをやらない事のほうが、余程不自然だ。日本人よ、気は確かですかと言いたい。国は通貨発行権を持っており、このような方法でお金はいくらでもつくれる。金庫にいっぱいお金があるのに、それを使うと何か悪いことが起きるのではないかと思って、極貧生活をしている家族のようなもの。金庫のお金を出せば生活はずっと快適になるのは間違いない。

政府紙幣発行でも、日銀が国債を買うのでも、あるいは英国流に日銀納付金の増額でもよい。いずれかの方法で通貨発行権を行使すれば、日本経済は見違えるほど活気が出てくる。3月までに予算関連法案の可決できる可能性は全くなく、その場合政権維持は不可能になる菅政権だが、高橋氏のアドバイスに従って50兆円の政府紙幣を一枚刷る決断をすれば、状況は一転する。

50兆円の財源が生まれたら何ができるだろうか。消費税増税は必要なくなり、法人税は5%減税(1兆円)でなく20%減税(4兆円)してもよい。高速無料化(2兆円)も実現でき、子供手当も公約通り2.6万円支給でき(4.5兆円)、公立小学校の35人学級も実現、地方への一括交付金も実現可能。基礎年金の国庫負担割合を現行の50%に維持も可能(2.5兆円)。もちろん、スーパーコンピュータで世界一を目指す夢を捨てなくても済むし、風力発電、太陽光発電、デジタル教科書等、どんどん世界から置いて行かれつつある様々な分野に投資すれば、日本経済を再生させることができる。

取り敢えず、思いつくものを書き並べてみたものの、これらを全部合わせても十数兆円程度にしかならない。では他に何かやることがあるかということだが、国会議員が受ける陳情で最も多いのが道路建設だ。日本はこれ以上道路はいらないという人もいるが、国にお金が無いから、造らなくても我慢できるという意味で、何に使ったらよいか分からないほどお金があれば、道路建設も考えるだろう。下図は日本とドイツの道路ネットワークを比較したもので藤井聡氏が作成したものをここに引用した。

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この比較を見れば、如何に日本の道路整備が遅れているか分かるだろう。ドイツに長年暮らしていた筆者は、この違いを体感してきた。道路建設の他にも、公共施設の耐震化や電線の地中化、ハブ空港、ハブ港湾の建設等、日本が世界の経済発展に取り残されないためにやるべきことはいくらでもある。デフレギャップを吸収し、失業者を無くするに適当な適正な事業規模にすれば、インフレが度を超す恐れは無くなる。この点に関してはマクロ計量経済学が適正な規模をはじき出してくれる。

失業者が激減すれば、経済苦で自殺する人も年間数千人減らすことが出来る。たった1枚の政府紙幣が、日本経済を救うし、首相が毎年交代することもなくなり、国際的信用を得ることが出来るようになる。我々の次の世代のためにも、是非高橋洋一案を受け入れようではないか。

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