自粛・節電・増税・公務員給与削減の後に大不況が日本を襲う(No.61)
大震災の後、次々と対策が取られている。大震災への犠牲者への弔意から様々な催し物は中止又は延期され、電力不足に対応するため節電・計画停電あげくは総量規制にまで発展する。今夏の計画停電・総量規制は避けられないと決めつけている。また公務員給与5%カットの案が民主党内部から、自民党からは増税案も出されている。また子ども手当、高速無料化、高校無償化等の予算を削減せよという声も野党から上がる。日本全体に自粛・節約・増税・緊縮の嵐の渦に巻き込まれた感がある。
ニューヨークタイムズが極めて的確な論評を載せたので以下引用する。
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【ワシントン=古森義久】米紙ニューヨーク・タイムズは3月28日付で「津波後の日本は自粛という新たな強迫観念に襲われた」との見出しの記事を掲載し、日本国民の多くが地震や津波の犠牲者への弔意から日常の活動を縮小するようになり、国民経済への悪影響が懸念されると伝えた。
東京発の同記事は、日本で「地震、津波、原発で何十万という国民が被害を受けたことから、被災地以外でも、少しでもぜいたくにみえる活動はすべて非難されるようになった」とし、日本国民のすべての層が生活面での「自粛」をするようになったと報じた。
自粛はまず電力の節約という形をとり、日本国民が「電灯、エレベーター、暖房、トイレ座席の暖房まで止めるようになった」とし、安売りカメラ店の客案内の音声やカラオケ店への出入り、桜の花見、高校野球応援、東京都知事選の候補の音声までが自粛されていると指摘した。
同記事は自粛が過剰になっていることを示唆し、企業や学校の行事のキャンセルが日本の経済全体の60%に及ぶ消費支出を大幅に減らし、「もともと停滞していた日本経済に侵食効果をもたらし、倒産を急増させるだろう」と述べている。
また「東京都民にとっての自粛は被災地の人々との連帯を示し、自粛をする側を何か良いことをしているという気分にさせる安易な方法だ。しかし、当人たちは実際にどんな効果をもたらすかはあまり考えていないようだ」とも論評した。
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これは昭和恐慌の前夜の情勢に似ている。関東大震災の後、復興のための費用とデフレで国の借金が増大し、緊縮を行って耐乏生活を我慢すれば日本の未来が開けると国中が錯覚した。その結果『緊縮小唄 (西條八十/作詞 中山晋平/作曲)』まで登場し、これが日活映画「一番目の女」の主題歌にもなった。その歌詞は
『咲いた花でも しぼまにゃならぬ ここが財布の あけた財布の締めどころ 他人の金なら よそ見て済もが 借りた五十億は 返す五十億は頭割り 向こう鉢巻 肩には襷 はらえ日本の たたえる不景気の貧乏神 おまえ塩断ち 私は茶断ち 金解禁 うれし解禁とげるまで』
となっている。当時の贅沢品だった塩やお茶を断って、国の借金の50億円をみんなで返そうと言っているのである。塩やお茶を断てば、それを製造・販売している業者がどうなるかまで、考えが及ばなかったようだ。1929年8月には時の首相、浜口雄幸はラジオ放送で緊縮を訴え、それに国民が協力したわけだが、その結果国の借金を返すどころか、消費が停滞し、昭和恐慌という大変な悲劇を生んだ。国を挙げて緊縮に走ることの怖さを物語っている。その後高橋是清が、お金を刷って景気を回復させ、デフレ下での緊縮が間違えだったことを示した。
今まさに歴史は繰り返そうとしている。我々の選択は2つだ。浜口内閣流の緊縮で国の借金を返そうとし不況を深刻化させるのか、高橋是清流にお金を刷って積極財政で経済を活性化させるのか。国の借金のGNP比を考えると、浜口流緊縮財政では増え続け、高橋流の積極財政に移ってからは増加が止まり、減少に転じていた。
当然の事だが、今緊縮に走れば、不況で苦しむ企業の倒産が続出、失業者が増大し、震災復興どころではなくなる。日銀の国債引き受けで日銀からお金(50兆円)を引き出して震災復興と経済活性化に使えば、国民総力戦で復興に協力することができる。節電より金を惜しまず電力供給力増強に努力すれば、何とかなるものだ。被災した自治体に思い切って復興支援金を渡せば、復興のための様々なアイディアが出てくる。
インフレを恐れるのかもしれないが、節約、給料カット、増税、予算削減に耐えるのでなく、インフレに耐えた方が国の復興という事を考えた場合、ずっと良い。どのくらいのインフレ率かと言えば、日経NEEDSを使って計算したところ、50兆円の景気対策で0.5%だけインフレ率を押し上げるということになった。この程度であればデフレ脱却に向けた第一歩といえるのだから、耐えられないという人はいないだろう。
電力不足を放置すれば、企業活動の停滞、そして生産の停滞が物不足を生み、それが悪性のインフレを招く。
円の信認が失われるのは耐え難いという人がいるかもしれない。円の信認が失われるということは日本中どのお店も日本円を受け取らなくなるという主張かもしれないが、それなら「円を受け取ろう」とマスコミで呼びかければよい。もっとも、それが無くても、50兆円の復興対策が行われたから円を受け取らないという店は一軒もないだろう。では円の信認が失われるということは、円安に向かうということか。我々は本当に円安に耐えられないのか。いや、むしろ円安で輸出企業を助け、経済の活性化をすればよい。輸入品が高くなるのが心配か。外貨はあるし、海外純資産もたっぷりある。世界中で日本を助けようという動きがあるのだから、心配しなくてよい。復興資金確保のために50兆円使ったとしても、諸外国から非難を受ける可能性はない。今は政府・日銀の決断の時だ。
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