悪化する日本経済と政府債務(No.70)
企業の生産活動の状況を示す11年3月の鉱工業生産指数は、東日本大震災の影響を受け、過去最大の下げ幅となった。経産省が28日に発表した11年3月の鉱工業生産指数は82.9で、前月比で15.3%低下した。これは過去最大の下落幅である。また個人消費も昨年の同じ月に比べ8.5%減少した。
確かに今回の落ち込みは大震災によるものだ。しかし、上図を見て頂きたい。2008年には110を超えていたのが、今は82.9だ。リーマンショックと大震災のダブルパンチだと言うだろう。しかし、リーマンショックの後、麻生内閣の景気対策で急激に回復していた日本経済だったのに、民主党は景気対策を止めた。麻生内閣の景気対策のうち3兆円分も削減。事業仕分けでも、日本経済を伸ばすための事業予算を次々カットした。このグラフからも、民主党政権のお陰で、生産の伸びが止まり、更に大震災で大幅落ち込みとなったことが分かる。
国の借金が多いから、歳出削減と増税で減らしていくのだと主張する。しかし、その方法で国の借金を減らすのは不可能だということは計量経済学が証明している。ラッファー曲線の議論を使うともっと分かりやすくなる。次の図がラッファー曲線である。税率が0%であれば当然税収は0だ。税収が100%ということは、売上のすべてを税収で払うことになるから、経済は成り立たなくなって、GDPが0となり税収も0となる。ということは、その間で税収が最高値になるところがあるということ。それ以上いくら増税をしても、税収は経済を縮小させ、税収は減っていく。つまり税率にも限界値があって、その限界値を超えると税率を増やせば増やすほど税収は減っていく。
これは次のような例と比較して考えると良い。大きな湖で魚を捕っていたとする。網を大きくしていくとたくさん捕れるが、大きくし過ぎて魚を全部捕ってしまったら、それ以後漁獲量はゼロになる。つまり網の大きさには限界値があって、その大きさの網のところが漁獲量は最大であり、それ以上網を大きくしても、逆に漁獲量は減ってくる。
国の借金のGDP比も同様だ。税率は増やしていくと、限界値までは税収も増え、国の借金のGDP比は減っていくが、それ以上に税率をすると、GDPが減り税収が伸び悩み、結果として借金のGDP比は増えてしまう。税率を100%にするとGDPは0になるから、国の借金のGDP比は無限大となる。現在の日本はその限界値を大きく超えており、増税をすると、借金のGDP比は逆に減っていく。このことは様々な計量モデルによる試算で確かめられている。
以下のような記号を導入してみよう。
国の借金 ・・・D
GDP ・・・Y
国の借金のGDP比 ・・・D/Y → 実質的な借金の重さ
税率 ・・・T
次の図を見て頂きたい。一見すると難しそうだが、実際は馬鹿馬鹿しいほど単純なグラフである。横軸のTは、現在の税率からどれだけ税率を上げて増税するかと示している。縦軸は、その増税によって、実質的な借金の重さ(借金のGDP比)が増えるか減るかを示している。①の場合は借金のGDP比が小さいときのグラフだ。税率を少し増やすと借金のGDP比の変化率は負になっているから借金のGDP比は減ってくる。しかし、税金を取りすぎて、例えば売上の全部を取り上げたらGDPがゼロになるが、政府の借金は残る場合は借金のGDP比は無限大になる。
ということは、どこかに増税の限界値があり、その手前では増税により借金のGDP比は減るが、それ以上増税すると借金のGDP比は逆に増えてしまう。国の借金を多く抱えている国でも日本以外では①なのだが、どんどん借金が増えてくるとグラフは上に移動して②に移る。この場合は増税によって借金のGDPは増えるばかりである。
その理由を知りたい方のために、簡単な説明をする。増税をしたとき借金 D が t だけ減り、GDPが at だけ減ったとしよう。そのとき借金のGDP比が減るか増えるかを計算してみよう。簡単な式の変形により
であることが分かる。aD-Y は借金のGDP比が大きくなってくるといつも正の値になる。つまり増税により、必ず借金のGDP比が増えるようになる。だから上のグラフのように借金のGDP比が増えると(①から②に移動すると)グラフは上がってくる。これが日本経済の問題点だ。人は増税すれば借金が返せると思っているが、実はグラフは①から②に上がってしまっていて、増税しても借金は重くなる一方なのだ。
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