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2011年4月29日 (金)

悪化する日本経済と政府債務(No.70)

企業の生産活動の状況を示す11年3月の鉱工業生産指数は、東日本大震災の影響を受け、過去最大の下げ幅となった。経産省が28日に発表した11年3月の鉱工業生産指数は82.9で、前月比で15.3%低下した。これは過去最大の下落幅である。また個人消費も昨年の同じ月に比べ8.5%減少した。

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確かに今回の落ち込みは大震災によるものだ。しかし、上図を見て頂きたい。2008年には110を超えていたのが、今は82.9だ。リーマンショックと大震災のダブルパンチだと言うだろう。しかし、リーマンショックの後、麻生内閣の景気対策で急激に回復していた日本経済だったのに、民主党は景気対策を止めた。麻生内閣の景気対策のうち3兆円分も削減。事業仕分けでも、日本経済を伸ばすための事業予算を次々カットした。このグラフからも、民主党政権のお陰で、生産の伸びが止まり、更に大震災で大幅落ち込みとなったことが分かる。

国の借金が多いから、歳出削減と増税で減らしていくのだと主張する。しかし、その方法で国の借金を減らすのは不可能だということは計量経済学が証明している。ラッファー曲線の議論を使うともっと分かりやすくなる。次の図がラッファー曲線である。税率が0%であれば当然税収は0だ。税収が100%ということは、売上のすべてを税収で払うことになるから、経済は成り立たなくなって、GDPが0となり税収も0となる。ということは、その間で税収が最高値になるところがあるということ。それ以上いくら増税をしても、税収は経済を縮小させ、税収は減っていく。つまり税率にも限界値があって、その限界値を超えると税率を増やせば増やすほど税収は減っていく。

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これは次のような例と比較して考えると良い。大きな湖で魚を捕っていたとする。網を大きくしていくとたくさん捕れるが、大きくし過ぎて魚を全部捕ってしまったら、それ以後漁獲量はゼロになる。つまり網の大きさには限界値があって、その大きさの網のところが漁獲量は最大であり、それ以上網を大きくしても、逆に漁獲量は減ってくる。

国の借金のGDP比も同様だ。税率は増やしていくと、限界値までは税収も増え、国の借金のGDP比は減っていくが、それ以上に税率をすると、GDPが減り税収が伸び悩み、結果として借金のGDP比は増えてしまう。税率を100%にするとGDPは0になるから、国の借金のGDP比は無限大となる。現在の日本はその限界値を大きく超えており、増税をすると、借金のGDP比は逆に減っていく。このことは様々な計量モデルによる試算で確かめられている。

以下のような記号を導入してみよう。
国の借金 ・・・D 
GDP   ・・・Y
国の借金のGDP比 ・・・D/Y  → 実質的な借金の重さ
税率   ・・・T

次の図を見て頂きたい。一見すると難しそうだが、実際は馬鹿馬鹿しいほど単純なグラフである。横軸のTは、現在の税率からどれだけ税率を上げて増税するかと示している。縦軸は、その増税によって、実質的な借金の重さ(借金のGDP比)が増えるか減るかを示している。①の場合は借金のGDP比が小さいときのグラフだ。税率を少し増やすと借金のGDP比の変化率は負になっているから借金のGDP比は減ってくる。しかし、税金を取りすぎて、例えば売上の全部を取り上げたらGDPがゼロになるが、政府の借金は残る場合は借金のGDP比は無限大になる。

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ということは、どこかに増税の限界値があり、その手前では増税により借金のGDP比は減るが、それ以上増税すると借金のGDP比は逆に増えてしまう。国の借金を多く抱えている国でも日本以外では①なのだが、どんどん借金が増えてくるとグラフは上に移動して②に移る。この場合は増税によって借金のGDPは増えるばかりである。

その理由を知りたい方のために、簡単な説明をする。増税をしたとき借金 D が t だけ減り、GDPが at だけ減ったとしよう。そのとき借金のGDP比が減るか増えるかを計算してみよう。簡単な式の変形により

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であることが分かる。aD-Y は借金のGDP比が大きくなってくるといつも正の値になる。つまり増税により、必ず借金のGDP比が増えるようになる。だから上のグラフのように借金のGDP比が増えると(①から②に移動すると)グラフは上がってくる。これが日本経済の問題点だ。人は増税すれば借金が返せると思っているが、実はグラフは①から②に上がってしまっていて、増税しても借金は重くなる一方なのだ。

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経済・政治・国際」カテゴリの記事

コメント

>国の借金を多く抱えている国でも日本以外では①なのだが、どんどん借金が増えてくるとグラフは上に移動して②に移る。

計量モデルの上記解説、移動する理屈が理解できないのですが。
どなたかご解説をいただけますと助かります。

また計量モデルの②ですと、無税が一番良いとなりますが何かおかしくないでしょうか?

投稿: あれ? | 2011年4月30日 (土) 08時16分

計量モデルの②のTは、
「現在の税率からどれだけ税率を上げて増税するか」
でしたか(0基準が現在の税率)。
(②のグラフが正しいとするならば)減税方向に限界値があることを示唆するのですね。

だとすると、①と②の判断基準が問題となると思うのですが、「借金のGDP比が大きい」と②になり減税が有効になる、では何かおかしくないでしょうか。どなたかご解説していただけると助かります。

投稿: あれ? | 2011年4月30日 (土) 10時39分

> また計量モデルの②ですと、無税が一番良いとなりますが何かおかしくないでしょうか?

以前、よみうりテレビ「たかじんのそこまで言って委員会」で同じような議論があった事を思えています。日本の財政をめぐる問題について、政府紙幣を発行すれば財源はいくらでも作れる、と主張する丹羽春樹教授に対し、辛抱治郎氏が「それじゃ無税国家になっちゃうじゃないですか?」と言いました。すると丹羽教授はにこやかにうなずきながら辛抱氏に握手を求め、辛抱氏はあぜんとしていました。つまり「ハイパーデフレ」の状態ではそもそも税金は必要ない、という事だと思います。税金は経済がインフレになったら取るようにすれば良いのです。

投稿: JAXVN | 2011年5月 1日 (日) 12時51分

-銀行という名の搾取システム-
↓↓↓
http://www.anti-rothschild.net/main/04.html


-お金の仕組み-
↓↓↓
http://www.anti-rothschild.net/main/01.html

「私に一国の通貨の発行権と管理権を与えよ。そうすれば、誰が法律を作ろうと、そんなことはどうでも良い。」
マイヤー・アムシェル・ロスチャイルド(1790年の発言)


-私たちは何をすべきか-
↓↓↓
http://www.anti-rothschild.net/main/08.html


国際情勢­の内幕
↓↓↓
http://www.youtube.com/user/hosizorajp?feature=mhum#p/c/8041E95EC625633E/35/GieEA5sJQsI


「 財政政策で日本を再建せよ!!」-政府貨幣発行特権の発動で無尽蔵な財源を確保せよ!
↓↓↓
http://www.youtube.com/user/hosizorajp?feature=mhum#p/c/8041E95EC625633E/1/vWSfvY3Ay2g

投稿: 星空 | 2011年5月 1日 (日) 22時08分

今こそお金をすろう
http://grandpalais1975.blog104.fc2.com/blog-entry-382.html

記事抜粋

中国ではお金をたくさん発行することによって(といっても紙幣ではなく当座預金)、為替安を誘導し、
それによって経常収支を大きくし、
大きな民間の黒字を保ちながらも政府の赤字を小さく抑え、

「国の借金が大変だー」

とは言われないようにやっているわけです。

で、どれだけ中国はカネを刷りまくっているかというと…


10年で160兆円
1年で56兆円

というような具合です。

09年までの10年間で79兆円増(+480%)、
08年から09年の1年だけでも17兆円増(+22%)

という勢いです。

日本で「国の借金が大変だー」と寝言を言っている間に、

中国では上記のようなシステムで経済の規模、および、政府の規模を順調に拡大しております。

「GDPは日本を追い抜いた」ということはマスコミ報道で話題になっておりましたが、
軍事費もしっかり追い抜かれております。

記事抜粋以上


国際金融資本家の手先、日銀、財務官僚は日本国民を搾取して外資に奉仕

日本は余裕で、円を発行出来るにもかかわらず、
日本国民を税でとことん絞り上げ、
奴らの通貨を守るため、外資に奉仕

その後、ご褒美で、日銀、財務官僚、
国際機関へ天上りでご栄転

国際金融資本家の意に反した、中川元大臣を嵌めた、
篠原 尚之日本の財務官僚、退官後国際通貨基金副専務理事。

同様に
国際金融資本家の意に反した、中川元大臣を嵌めた、
白川氏、BIS理事会副議長に 日銀総裁で初2011.1.12 05:00
 日銀は11日、白川方明総裁が国際決済銀行(BIS)理事会の副議長に10日付で任命されたと発表した。任期は3年間。日銀総裁が副議長に就いたのは初めて。

http://www.youtube.com/user/hosizorajp?feature=mhum#p/c/8041E95EC625633E/40/d8uM2hByb48


投稿: 星空 | 2011年5月 3日 (火) 13時47分

日銀、財務官僚は国際金融資本家の手先であろうから、提案しても採用するべく動く筈がなく期待する事自体バカバカしい。
(財務官僚に、増税を提案したら大喜びで乗って来るのが目に浮かぶ、即採用でマスコミ報道されるであろう!)

政治に訴えるしかない訳ですが、
幸い以前の記事(日銀の国債引き受けで80兆円を捻出すべきだ 全国知事会(No.62)
にも有ったように、全国知事会が日銀の国債引き受けの提案をされている訳ですので、ここと日本経済復活の会が連携し、大きな政治力となる事を期待します。

国会議員も、下からの突き上げがないと、なかなか動かないように感じます。
特に幹部は国際金融資本家の手先、また、脅しも多いでしょうし、
国際金融資本家のやり口(失脚させられた例)を知っていて、
恐れている議員も多いのではないでしょうか。

なおさら、全国知事会と連携し政治力を発揮して頂きたいところです。


投稿: 星空 | 2011年5月 3日 (火) 14時32分

震災復興は当然で、その予算を国民に犠牲を強いるやり方では日本経済全体は成長しない。
高速道路、授業料、子供手当から公務員給与の増額、地方都市公共工事の増加など、国民全体が自由に消費できるものを拡大させること。さらに、高校生、大学生の就職が悪くては、健全な社会とはいえません。また、病気がちの高齢者の介護に困らないよう、特養ホームや介護職員の待遇改善等国債引き受け(お金を刷る)により、やることはたくさんあります。全国知事会や地方議員と連携して国に訴えていきましょう。目指すは全国知事会のとおり80兆円の国債引き受け実現!

投稿: | 2011年5月 4日 (水) 14時39分

もう少し説明しましょう。
Tは現在の税率からどれだけ増税するかを示しているので、このグラフでは税率ゼロは示していないです。一番左が現在の税率で、減税したときを考えてません。

①で小幅の増税をしたときには、D/Yの増加率は負ですから、借金は軽くなります。しかし、どんどん増税をして、例えば売り上げの全部、あるいは給料の全部を税金で徴収してしまうような大増税では経済活動はストップしGDPはゼロになりますからD/Yは無限大となります。当然増加率d(D/Y)dTも正になるところがあり、それを限界値と呼びました。
②は、この現在の税率がこの限界値を超えてしまったときを示しています。縦軸が限界値の右に来たと思えばよいでしょう。そうすると、増税すればするほど、D/Yは増えてきて、借金は重くなるばかり。これが日本の現状というわけです。
増税によって国の借金が全部返してしまうことができるような場合は①でも②でもなくなります。

投稿: 小野盛司 | 2011年5月 4日 (水) 20時52分

さらなるご解説ありがとうございます。
しかし問題は、①が②に移動するメカニズムです。

本文では「どんどん借金が増えてくるとグラフは上に移動して②に移る。」とあり、追加解説で「②は、この現在の税率がこの限界値を超えてしまったときを示しています」とあります。前者はメカニズムを、後者は状況を示しています。もし両者とも正しいとするのならば、借金が多ければ多いほど(借金をすればするほど)減税が有効となり、借金した者勝ちという論理になりますが、おかしくないでしょうか。

「限界地を超えた=②に移動した」メカニズムは、借金を増やしたからでなく他にあるようで、それを合理的に示すことができなければ説得力に欠ける、と思うのですがいかがでしょうか。

投稿: あれ? | 2011年5月 5日 (木) 06時14分

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