OECDの日本への提言:日銀は長期国債をもっと買え(No.66)
4月21日にOECDが日本に対して重要な提言を行ったのだが、日本のマスコミは一切報道しないので、ここで皆さんにそれを紹介する。重要なポイントは2つである。
①日銀は長期国債をもっと買うべきであり、そうすれば長期金利が低下し、それがインフレ期待を上昇させるし、下落した地価に好ましい影響を与える(つまり地価を上昇させる)可能性がある。
②インフレ目標は2±1%にした方がよい。
日銀が国債を買えば、国債が暴落(長期金利が暴騰)するなどということはあり得ないと言っているのだ。それどころか、国債は上昇(金利低下)だと言っている。また諸外国のインフレ目標を引用し、それに準ずるとよいということで、インフレ目標は2±1%がよいとし、比較のために、表も示している。
これは白川日銀総裁の発言が完全に間違えていることを痛烈に批判しているのである。
またこれは、日本経済を救う極めて重要な提言であり、マスコミはこれを大々的に報じなければならないのに、財務省が見事にこれを封印した。ことごとくマスコミは財務省の圧力に屈した。是非皆さんには真実を知って頂きたいので、原文のままここに引用する。もともとは
http://www.oecd.org/dataoecd/6/5/47651437.pdf
に、日本語で掲載されている。
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金融政策
日本銀行は、デフレの克服を確かなものとするため緩和的なスタンスを維持すべきである…
日本銀行は、金融市場の安定化を目的として大規模な流動性を供給することにより、地震の後迅速に対応した。また、為替レートの変動を抑えるためのG7財務相・中央銀行総裁による多国間のコミットメントの一環として、外国為替市場への介入が行われた。加えて、日本銀行は、企業の景況感の悪化やリスク回避の高まりを防ぐために資産買入プログラムの規模を10兆円(GDPの2%程度)に倍増することを発表した。資産買入プログラムは元来、
i. 長期金利の引き下げやリスクプレミアムの減少のため、3.5兆円の国債、1.5兆円の社債、CP、不動産投資信託の買入を含む、当初、5兆円の追加的な資産買入プログラムを創設する、
ii. 政策金利を0.1% から、ゼロから0.1% の間へと引き下げる、そして、
iii. 「物価の安定が展望できる情勢」になったと判断するまで、実質的なゼロ金利政策を維持することを約束する
といったことにより、デフレと戦うために2010年10月に開始された「包括的な金融緩和政策」の一部であった。日本銀行は、地震による影響を含む下方リスクに注意を払い、現在の緩和的なスタンスを維持するとともに、先行きが悪化した場合には更なる措置を講じる準備をすべきである。そのような場合においては、高いリスクの民間金融資産を購入することには注意を払う一方、長期国債の購入拡大を通じて長期金利を低下させることに焦点を当てるべきである。こうした取組みは、インフレ期待をも上昇させるかもしれない。デフレの克服は、資産価格、特に19年連続の下落の後に1975年の水準まで低下した地価に好ましい影響を与えるかもしれない。
…他方で、金融政策の枠組みを改善する
金融政策の枠組みについても改善の余地がある。2009年12月、金融政策委員会は、ゼロ%の下限を除くことにより、0 から2%程度とする物価安定の「理解」を改定した。この措置は依然として物価安定の理解を非常に低いままに留めている。なぜなら、この範囲のインフレが展望できる情勢になった時には、原則的に物価安定の理解が満たされることになるからである。より高いインフレの目標は、デフレに対して更なるバッファーを提供するであろう。加えて、仮に1つの値を中心とした範囲により表される場合、日本銀行の政策意図はより明らかになり、その結果より信認のおけるものとなるであろう。1つの典型的な目標は2%、プラス、マイナス1パーセントポイントといったものである。物価安定の理解を設定する際のメカニズムを改定するといったこともなされうる。いくつかのOECD加盟国では、インフレの範囲は中央銀行により独立的に設定されるというよりは、政府もしくは政府と中央銀行による協議によって設定されている。そうした取組みは、インフレ目標に対する政府の支援を促し、中央銀行がより独立してその目標を達成することを認めることになるかもしれない。枠組みの変化は、信頼性をさらに高めるとともに物価安定の実現に向けた力強い取組みを確かなものとすることを助け、それ故、今後長期間にわたる財政健全化の過程で経済を下支えすることになるであろう。
© OECD 2011
1. 各年1月1日の地価(住宅地、商業地、工業地全てについて)。
出典: Ministry of Land, Infrastructure, Transport and Tourism.
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コメント
OECDの提言もよいが、今の政府のやっていることは全くおかしい。
復興のための財源を基礎年金の財源、子供手当の見直し、高速道路休日千円廃止で
補う、つまり国民に全てしわ寄せしようとしている。日本の景気回復など
どうでもよい連中なのかと思いたくなる。国債暴落・・・(NO63)
のブログで書かれていたが、経済を完全に理解した上で、国民が苦しむように
わざとしている。というのは本当でしょうか?財務省が自分たちの利権を守るために
しているとしたら、OECDなどの外圧で切り開いていけるのでしょうか?
いろいろなブログを見ても、国民の政府に対する切実な怒りが出ています。
負け犬の遠吠えなのか?国債発行が国民を幸せにすることを知っていて、それを
意図的にしようとしない。許せません。
投稿: | 2011年4月22日 (金) 23時25分
はじめまして。
小野先生、いつも貴重な情報発信有難うございます。
私は、以前から思っていた事なのですが、
政府が本来持っている紙幣発行権を発動し、
新円(政府発行券)を相当額発行して、
それと同額の国債を日銀に買い取らせる。
日銀が買い取った国債は利払い無しで恒久的に塩漬け。
と言うアイデアは如何でしょうか。
特に、震災が発生し、経済の停滞も著しい今の日本で
増税論議は全くナンセンスだと思います。
私は経済を勉強してきたわけでもなく、
素人ながら日頃感じていた疑問を書かせて頂きました。
失礼致しました。
投稿: ishikawa | 2011年4月23日 (土) 11時12分
こんにちは。
この提言が大手マスコミの手にかかるとこうなります。
「消費税20%引き上げも求められる」 OECDが日本に指摘
2011.4.21 14:30
経済協力開発機構(OECD)は21日、日本経済の財政状況や経済見通しを分析した2011年版「対日経済審査報告書」を公表した。日本の東日本大震災後の財政健全化に向けた取り組みについて、「被害を受けた地域の復興に考慮しつつ、11年度中に税制改革の詳細を公表し、増税はできる限り早く始めるべきだ」と注文、「消費税率は20%程度まで引き上げることも求められる」と指摘した。
報告書では震災後の日本経済の見通しについても指摘。「震災によって短期的には経済活動が下押しされるものの、その後は復興に向けた民間や政府投資が見込まれるため、経済の低迷が長期化される可能性は低い」とした一方で、「12年の終わりまで需給ギャップを解消させるほどの経済成長は見込まれずデフレ圧力は持続する」と強調した。
OECDは加盟各国の経済の現状やマクロ経済政策などを相互に審査した報告書を作成しており、日本に対する報告書は1年半ごとに発表されている。前回は09年9月に公表された。」
http://sankei.jp.msn.com/economy/news/110421/fnc11042114300011-n1.htm
報告書の中の「消費税増税」のみ取り上げ、「長期国債の買い入れの提言」に関する記述は全くありません。しかも報告書は「増税の可能性」に言及しただけなのに、まるでOECDが消費税増税を求めているかのような記事になっています。この記事は産経新聞ですが、他のマスコミもほぼ同じです。中には日経のように「日銀には『長期国債の購入拡大などさらなる措置の準備をすべきだ』と指摘」と付け足し程度に記載している所もありますが、あくまで「付け足し」で見出しは「消費税20%が必要」です。この報道振りは、もはや犯罪と言っていいのではないでしょうか。
投稿: JAXVN | 2011年4月23日 (土) 11時19分
OECDにも財務省の息の掛かった人が圧力を掛けているのでしょう。しかし、常識的に考えて、今の日本の危機を救うには、日銀が国債を買うのがよい。それによりハーパーインフレが起きるなどと考えるのは、日本国内の一部の連中(白川日銀総裁を含む)だけでしょう。国債を買う人が増えれば、需要と供給の関係で当然国債価格は上がる(金利は下がる)わけです。この当然のことを知らない連中が日本にいる!!日銀が国債を大量に買えば国債が暴落するなどと言っているのですね。そんな市場原理がありますか。買う人が増えたとき価格が暴落したら、売る人はいなくなりますね。取引がなりたたないじゃあないですか。
政府貨幣についてですが、どんな制度でも大丈夫ですね。政府貨幣を発行するのならそれを日銀に買わせればよいわけで、国債を日銀に買わす必要はないですね。国債を日銀に買わせるのであれば政府貨幣を発行する必要はないです。
投稿: | 2011年4月23日 (土) 14時56分
国債発行をせず、増税の必要性ばかり唱える、財務省、日銀に対して追求して
いくべきだと思います。しかし、国会で追及しても言い訳しながら、逃げる日銀、
財務省には、OECDなどの外圧をかける。また、国債発行に賛同している国外の
有名な経済学者に答申を行っていただく。そして、小野先生を先頭に日本経済
復活の会の顧問の国会議員から国会追求や運動を広げてほしいと思います。
そして、このブログでこうした運動を書き込んでほしいと思います。
私達は経済に素人ですが、情熱をもって積極財政を広げていく気はあります。
積極財政の賛同者名簿の作成など取り組みが急がれます。
投稿: | 2011年4月23日 (土) 18時58分
そろそろ、日本経済復活の会の地方での活動が必要かと・・・
投稿: | 2011年4月23日 (土) 20時12分
既存マスコミなどが国債発行の報道に圧力をかけて増税論議ばかりをやっていますので、
一般国民になかなか浸透しないのが現状です。それであれば、復活の会のHP上などでも
増税論に反対や国債発行にかかる積極的に意見などを掲載するようなサイトをもうけたら
いかがでしょうか?一般国民の積極財政の意見を拡大しなければ展開していきません。
投稿: | 2011年4月24日 (日) 09時14分
復活の会顧問の先生方から地方議員等を紹介してもらい、地方自治体および議会議論
などを展開していくことが必要です。地方から中央政府や財務省に強行に訴えてもらいましょう。
投稿: | 2011年4月24日 (日) 09時16分
OECDのレポート。
三橋氏の評価と違いますね。
で、読んだのですが、こりゃダメですね。
新自由主義者が書いたようです。
財政緊縮をするべきだとか、TPPに参加するべきだとか・・・。
金融緩和は新自由主義に反しないですしね。
ちょっとがっかり。
投稿: あれ? | 2011年4月24日 (日) 10時59分