インフレ経済なら100年安心な年金が、デフレなら20年で破綻(No.88)
2004年の年金法改正の際に言われてきたことは、100年安心な年金制度だということだ。それが最近は2031年、つまり約20年後には年金積立金が枯渇すると言われ始めた。これは2009年5月26日の第15回社会保障審議会年金部会の配付資料の中で示されたもの。2004年の年金改正で導入されたマクロ経済スライドの仕組みがうまく機能しない場合で、経済状態が悪化すれば、たちまち年金制度が崩壊することを意味している。
【標準シナリオ】100年安心な年金制度であるというときの前提は
物価上昇率 1.0%
賃金上昇率 2.5%
運用利回り 4.1%
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/nenkin/nenkin/pdf/seido-h21-point_008.pdf(44ページ)
となっており、
【デフレシナリオ】20年後に年金積立金が枯渇するとシナリオの前提は
物価上昇率 -0.2%
賃金上昇率 -0.7%
運用利回り 1.5%
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/05/dl/s0526-6f.pdf(6ページ)
である。
マクロ経済スライドは物価の変動に伴い年金の給付額を調整するものだが、その調整機能がうまくいかず、年金積立金が枯渇するという特殊なケースが例示されている。もちろん、実際そのような特殊な状況になれば、給付額の計算式を修正すればよいだけで、この結果を見て年金制度の崩壊が近いと考えるのは行き過ぎだ。そもそも物価上昇率-0.2%、賃金上昇率 -0.7%、運用利回り1.5%という異常な状態が長年続くということはあり得ないし、あってはならない。
標準シナリオさえも楽観的過ぎて、実際はデフレシナリオが現実に近いという論調を多く見られる。しかし、日本の常識は世界の非常識である。賃金上昇率2.5%でも決して高すぎない。次のグラフを見て頂きたい。
OECD Economic Outlook 89 2011
日本のように、賃金が下がり続けているのは余りにも異常で、これに慣れきっている国民も異常だ。このグラフからは、普通の国なら年率4%程度ずつ賃金が上がるということだ。日本だって、適切な規模の景気対策を行って普通の国並の経済成長を達成できるようになれば、もちろんその程度の賃金上昇率になるし、そうなれば年金シナリオも上記標準シナリオよりも更に上昇幅の大きいものでなる。
ちなみに、日経新聞社の日本経済モデルを使って計算した賃金の伸びは次のようになる。
毎年50兆円の景気対策を5年続けると5年目の賃金の伸びは7.5%に達し、ここまでくると少々景気が過熱気味になったことを意味する。なおこのモデルでは、50兆円の景気対策を行った初年度には株価は初年度で27%上昇すると予測した。標準シナリオの運用利回り4.1%の6~7年分だ。今の日本は悲観論ばかりで、景気が良かった過去の記憶を忘れてしまったようだ。
これだけ極端に景気が悪い日本で、税と社会保障の一体改革のための増税、復興税、B型肝炎対策のための増税と、増税論議ばかりやっている。増税でデフレを加速すれば、税収も減り、年金財政も破綻し、国民生活も破綻する。逆に、きちんと景気対策を行えば失われた20年分を取り返すのに10年とかからないし、財政も年金財政も健全化する。
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