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2011年6月21日 (火)

「社会保障と税の一体改革」の名目で増税を許すな(No.84)

政府は社会保障と税の一体改革として、消費税率10%への引き上げを2015年度までに行うという内容を盛り込んだ改革の成案決定を目指している。しかし、増税への異論が与党内に根強くある。

なぜ、この時期に増税をしてはならないのかをまとめてみよう。日本のGDPデフレーターは1994年にはマイナスとなり、デフレが続いている。1997年に消費税増税による見かけの物価上昇があったが、これもデフレを解消するものではなく、結局17年連続でデフレが続いていると言うべきだ。

GDPデフレーターの国際比較  出所:Economic Outlook 89 (2011)

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デフレは物価も給料も下げ、実質的に購買力はそれほど落ちないと思うかもしれないが、税収は落ち、国の借金は決して減ることはない。むしろ増加するだけだ。増税は、どのような形で行おうと、可処分所得を減らし、消費を減らす。失業者を増やし、デフレを悪化させ、国民所得を減らす。

デフレが続く限り、経済は縮小を続けるのだから、1000兆円にもなろうとする国の借金の返済は難しくなる一方である。失業者の増加ということは、労働資源の無駄遣いを増やすことであり、自殺の増加、生活保護世帯の増加となり、少子高齢化に対応するのが不可能となる。

政府の判断を常に誤らせてきたのが、内閣府によるデフレーターの予測だ。

内閣府の発表したデフレーターの予測と実際の値  出所 『改革と展望』『進路と戦略』など
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 各グラフの近くに書かれた数字は政府が発表した年である。2002年から2011年まで10年分のデータをここに示した。どのグラフも急激なGDPデフレーターの改善を予測し、景気の回復を印象づけたものと思われる。しかし、実際のデフレーターは2001年度が-1.2%で2010年度が-2.0%だから9年間で0.8%悪化した。平均を取れば年率約0.1%ずつ悪化していることになる。もしも内閣府の発表が、政治的に一切歪められていなければ、年率の改善率は実際の値である-0.1%の前後でばらつくはずである。実際に発表された、年率の改善率(3年間に限る、例えば2002年に発表されたものだと、2004年の予測値から2001年の値を引き3で割っている。)は、2002年のものが0.77%、2003年が0.57%、2004年が0.67%、2005年が0.80%、2006年が0.73%、2007年、が0.5%、2008年が0.23、2009年が-0.20%、2010年が0.5%となっている。つまり実際は悪化したのに、20009年の発表を除き、猛スピードでデフレ脱却が進んでいると、現実とは遠くかけはなれた毎年発表している。これではまるで「計量経済モデル予測に偽装が行われている、大本営発表だ。」と言われても仕方がない。デフレ脱却は政府が考えているよりはるかに難しいことは、このグラフより明らかだ。

消費税増税を提言している人達は、まだ内閣府の予測に惑わされているに違いない。つまり、彼らは増税してもデフレ脱却は可能という、恐ろしく楽観的な考えを持っている。しかし、現実はそれほど甘くない。小渕内閣や麻生内閣の景気対策より更に大規模な景気対策を長期に行わない限りデフレという地獄から抜け出すのは不可能だ。

例え消費税増税が少ししかデフレを悪化させないとしても、デフレを克復させる必要があるときに逆に悪化させる必要がなぜあるのだろうか。2004年には100年間は安心とされてきた年金財政が景気悪化のお陰で、2030年にはすでに年金積立金が枯渇する見通しとなった。このことからも好景気を維持することが年金財政にとっても如何に大切かが分かる。今は増税をせず、景気を良くするためにあらゆる努力をすべきであり、そうすれば株価も上昇し、年金積立金も運用益を見込める。

1000兆円になろうとしている国の借金についても、景気を良くすれば必ず減ってくる。インフレ率(GDPデフレーター)3%、実質成長率2%になれば名目GDPは5%成長となる。そのお陰で、国の借金のGDP比は約5%下がる。分母が5%増えれば分数は約5%減るからである。1000兆円の借金の5%分は50兆円だから、名目5%成長が続けば毎年国の借金を約50兆円分ずつ減らしていくことに相当する。どんな大増税をしても毎年50兆円も国の借金を減らすことは不可能だ。このことからも、国の借金を実質的に減らすには増税よりも、逆に景気刺激をし、名目GDPを5%成長にまで引き上げることのほうがはるかに効果的であることが分かる。

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コメント

IMFのお仕事

http://jun-nihonjinkai.blog.eonet.jp/default/2011/06/imf-f402.html

記事抜粋

ギリシャ乗っ取りのニュースが出ています。
近い将来、ギリシャ人はギリシャの高速道路を走る時、外国人に通行料を払う事になるでしょう。
その他、銀行、不動産などなどの様々な経済活動をする際、外国人に一定の利益を払わないと活動できなくなりそうです。

第二次世界大戦後の1946年に米国主導で世界銀行と共にIMFが設立されました。
設立時の目的は経常収支(貿易+貿易外のお金の収支)が赤字なった時に融資する制度ですから、一言で言えば倒産しそうになった時の金貸しです。
それに対し、倒産しそうになる前にお金を貸すのが世界銀行。

言ってる事は立派なのですが、やってる事は色々な国に無理な計画を持ちかけ、世界銀行がお金を貸し、失敗してその国の政府が支払い不能に陥るとIMFが出てきて政府の資産を二束三文で売り飛ばさせる。


そして無理な計画を持ち掛ける仕事をするのがエコノミック・ヒットマン。
彼らが色々な国々の大統領に話を持ちかけ、言う事を聞かないと狙撃手が登場したり、事故死させてしまったりと言うことなのだそうです。
そういう仕事をしてきたジョン・パーキンスと言う人が真実を告白して懺悔しています。

そのIMFですが、代表団がやってきて、日本にも日本経済を潰すような政策を持ちかけています。
消費税を上げろ!とか、財政再建をしろ!とか潰すための提言をしています。
しかしギリシャと違い、日本は経常収支は減ったとは言え、巨額な黒字ですし、対外純資産は250兆円あまり。
民間企業のお金ではありますが、円高を恐れて日本に持ち込んでいないだけで、日本経済が駄目になって円が安くなれば戻ってくるお金が多いと予想されます。
外貨準備も1兆1,395億2,400万ドルもあります。

金詰まりの国に金を貸す機関のIMFにアメリカについで二番目の出資国の日本に如何だのこうだの言うなら顔を洗って出直しなしと日本政府は言うべきです。
ところが事大主義文化の政治家が主導権を握る日本政府はIMFの顔色を伺ってばかりです。


投稿: | 2011年6月22日 (水) 15時28分

お金が回らなくなり、
過剰貯蓄と言う形で金融機関にお金が滞納し続ける問題を考えて欲しいですね。
この過剰貯蓄を誰かが借りて支出しない限り、
過剰貯蓄は増えつつけ、
流通するお金の減少は止まらない。
過剰貯蓄という滞貨の山を解消することの重要性をどうして誰も主張しないのでしょうか ?
この状況下で増税なんて自殺行為でするね。
日銀のオペレーションに対し非難が少ないのだから、
誰かか過剰貯蓄の解消オペレーションも非難されるべきではないですね。
むしろ、
政府が過剰貯蓄の解消オペレーションをしないことが非難されるべきですね。

投稿: inadak | 2011年6月22日 (水) 17時45分

皆様今晩は。higashiyamato1979がお邪魔します。小野先生の増税阻止の闘い、本当に頭が下がります。さて、前回予告した通り、交通量調査の「強烈な個性の持ち主」紹介の第一弾として世田谷の用賀のマクドナルドの真ん前で仕事をした時のことですが、自動車のカウントに一生懸命な私に何やら意味不明な発言を繰り返す男がいました(もちろん同じ交通量調査員ですが)。言われた時は適当に聞いたふりをしていたのですが仕事が終わり、用賀駅に行こうとすると道に迷ってしまい、余り馴染みがないとはいえたどり着くまで二時間近くもかかってしまいました。私のこの怪しげな話をどうとるかは皆様の良識に委ねたいと思います。

投稿: higashiyamato1979 | 2011年6月22日 (水) 23時25分

200人の国家議員が賛同しましたが、その議員さんの声があまり聞こえません。
国会で発言できなければ、ツイートすることもできるはず、一般大衆に叫ぶ姿勢を
見せてほしい。社会保障と一体改革には賛同しませんよね。

投稿: | 2011年6月24日 (金) 19時01分

景気刺激政策の一環として日銀による国債引き受けが至る所で叫ばれていますが、
日銀は渋るだけではなく、開き直ってこんな素っ頓狂な事を言いそうです。

「私達は日本国のために日夜『激務』にあたって
おります。私達の仕事は『インフレ抑止』です。日本はバブル崩壊後ずっと右肩下がりの
デフレです。
つまり私達の仕事は功を奏していると言えるのではないでしょうか。
日銀の国債引き受けを提唱しておられる方々は今一度再考をお願いする次第です。」

『何もしない』事が仕事だなんて
日銀はつくづく給料泥棒だと思います。

投稿: | 2011年6月28日 (火) 14時01分

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