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2011年7月

2011年7月25日 (月)

終戦直後の電力不足は、大規模財政出動で乗り切った(No.93)

稼働中の浜松原発を止め、地元が苦渋の決断の末、再稼動を容認しかけていた玄海原発もストレステスト導入とやらでストップを掛け、地元と調整を続けてきた経産相・海江田万里は二階に上がってはしごを外された。政権延命を狙い原発を全部止めてしまう勢いの菅首相だ。現在の日本の電力の約3割は原子力なのだから、一気に止めてしまうのは無理がある。原子力の発電能力は4884万kWであるが、菅首相は企業の持っている自家発電設備を活用すれば、原発分を補充できると思っていたようだが、実際調べさせてみたら116万kWしかなく、遠く及ばなかった。

このような国民生活にも経済にも重大な影響を及ぼす決定を、政権延命に使った菅首相に怒りを覚える。果たして電力不足は乗り切れるのか。停止中の火力発電を再稼動することによって原発分を補充できたとしても次のような問題が残る。
① 燃料代で年間3兆円が余分にかかり、それによって電気代が値上げになれば、それは増税と同じで、デフレで苦しむ日本経済を更に落ち込ませる。
② 原油は中東に頼っており、紛争多発地点であるだけに、リスクは大きくなる。
③ 現在のように、政府が電力確保に不熱心であり、電力供給が不安定でしかも値上げが目前となれば、多くの企業が海外に流出してしまう。実際日経新聞社の調査では、3年以内に何らかの機能を海外へ移転せざるを得ないとしているのが調査した企業の約4割だったという。

どうすればよいかと言えば、ストレステストは諸外国のように、原発を稼働させながらやればよいだけだ。テストの有効性も危険性も変わらない。原発は止めれば地震があっても、津波が来ても安全というわけではない。動かしながらテストしても危険性は同じだから、諸外国どこでもそうしているように、動かしながらやればよいのだ。それをわざわざ止めたのは、如何にも安全に気を配っているのだと菅総理が自己主張し人気を挽回しようと悪あがきをしているにすぎない。そんなもののために日本経済をぶち壊されてはたまらない。

電力不足は終戦直後にもあった。

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空襲で焼け野原になったのだから仕方がない。このとき政府は金が無かったし、国民も金を持っていなかったから増税もできなかった。しかし、戦後復興のためには電気・石炭・鉄鋼の緊急確保は必須であった。そこで国債を日銀に引き受けさせて資金を調達し、国の発展の基礎となる産業に集中的に投資をし、奇跡的といわれる経済復興に導いた。

もちろん、飢えに苦しむほどの深刻な物不足の時代に大規模に国債を発行し日銀に引き受けさせたのだから、インフレになった。しかし、物価は上がったが収入の増加はそれよりはるかに大きかったから、国民は物をより多く入手できるようになり、生活は大幅に改善したのだから「被害」は無かったと言えるのではないか。単純にインフレは悪と決めつけてよいのだろうか。

現在はデフレで物価が下がる。しかし、収入はそれ以上に下がっていて、生活はどんどん苦しくなっている。だからこそデフレは悪と言える。もしも、終戦直後国債を日銀に引き受けさせず、増税に頼ったら、デフレとなり、電力・石炭・鉄鋼等は確保できず、生活はどんどん悪化していっただろう。インフレは抑えられたかもしれないが、おびただしい数の餓死者が出ただろう。この方が良かったと主張する人がいるだろうか。

戦後の国債発行は何か問題があっただろうか。円の信認は落ちなかったし、インフレも次のグラフで示されるように、基幹産業の育成が終わったときに、ピタリ止めることができたわけで、制御不能のインフレにはならず、奇跡の経済復興へと導いた。

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将来へのツケが残ったかと言えば残らなかった。それはGNPが増加したから、債務のGNP比は次の図のように減少していった。

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現在の状況で違うのは、デフレで物余りの時代だということだ。日銀による国債引受を行ってもゆるやかなインフレしか起こらない。それにより獲得した資金(50兆円×5年)で電力不足を補い、震災復興を行い、デフレ脱却のための数々の政策を行えばよい。そうすると
①震災復興
②電力の確保
③デフレ脱却
④国の債務のGDP比の減少
が同時に達成される。

電力に関しては、少なくともある程度原発の早期の再稼動は必要になる。
①諸外国のように稼働しながらストレステストを行えばよい。
②安全確保のために、地震対策・津波対策は十分過ぎるほど行えばよい。
③風力・波力・太陽光・地熱発電等に大規模に投資
④スマートグリッドの整備
⑤福島原発事故の処理と補償は、国が肩代わりをして行い、電気料金の値上げをさせない。

福島原発事故の処理が遅すぎる。限られた予算内で行おうとしているから、どうしても遅れる。十分な予算をつければ、一気に処理が進む。
①原発から出た汚染水を浄化する装置を並列に何台も並べ、一気に汚染水処理をやるとよい。
②人海戦術で放射能汚染された瓦礫の処理をする。福島第一原発の近くの土地を国が買い上げ、穴を掘り、防水処理をした後、瓦礫を埋めるべきだ。
③放射能汚染された全地域で除染を行う。5~10cm程度表面の土をはがし、穴を掘って埋め、その上に土をかぶせる。チェルノブイリでは事故後8ヶ月間で約500町村の除染が行われたという。
http://www.asyura2.com/11/genpatu13/msg/599.html
建物などは高圧の洗浄機で洗う。除染は早ければ早いほどよい。遅れれば、汚染牛等様々な問題が次々起き、被害が拡大する。

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2011年7月18日 (月)

内閣支持率12.5%、西岡参議院議長による菅首相を辞めさせる秘策(No.92)

時事通信によれば、内閣支持率は12.5%で、民主党政権発足以来最低となった。今までの史上最低は森内閣の10.8%であり、この調子だと、それさえも抜き去って史上最低を更新するのではないか。

「堪忍袋の緒が切れた」という民主党の中堅・若手議員(国益を考える会)が13日、菅直人首相の即時退陣を求め決起した。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110714-00000091-san-pol

 「国益を考える会」の賛同議員は次の通り。(敬称略)

 【衆院】吉良州司、長島昭久、石関貴史、北神圭朗、鷲尾英一郎、網屋信介、勝又恒一郎、杉本和巳、長尾敬、山本剛正

 【参院】金子洋一

一方、参議院議長の西岡氏は、『国難に直面して、いま、民主党議員は何をなすべきか』
という論文を発表した。
http://gra.world.coocan.jp/blog/?p=3094
菅首相を辞めさせる方法を2つ書いている。一つは民主党の両議員総会を開き、そこで総裁の解任方法を定め実行する。もう一つは衆議院に内閣不信任案、参議院に問責決議案を同時に出すこと。参議院は直接首相を解任できるわけではない。しかし、衆議院に不信任案が出ても、選挙で選ばれた民主党議員にとって賛成するには抵抗が大きい。しかし、参議院に問責決議案が出て可決されれば(野党が過半数を握っているので可決は簡単)、衆議院の不信任案に賛成し易くなるという。

西岡氏は、そういった意見に配慮したもの。先週筆者は西岡氏と直接会い色々話したのだが、西岡氏はこの方法で不信任案は可決されると思っている。「国益を考える会」の活動を更に発展させておいたほうが、不信任案の可決は容易になるのではないかと彼に話したのだが、彼はその必要もないと言い、そもそも、今の国会議員はサラリーマン化してしまっていると嘆いていた。

7月15日には、 「国益を考える会」の民主議員が菅首相の即時退陣求める決起集会を開いた。参加者は32人だという。このままでは日本は壊滅すると彼らは言うし、筆者も全く同感だ。

脱原発を主張するのは簡単だし、人気取りになるかもしれない。しかし、今緊急に政府がやらなければならないことは、電力を確保し、円高を阻止し、法人税を下げることだ。電力不安・円高・高い法人税が今のように続くなら、多くの企業は海外移転を強いられる。残った日本は、どんどん貧乏になり、少子高齢化対策がますます困難となるばかりだ。その中でも電力の問題は極めて重要だ。

電力は足りるのか足りないのか、学校が終わる7月20日から電力の激増が予想され、果たしてそれに電力会社が耐えうるのか、緊迫の情勢が訪れる。電力の問題は極めて複雑なので、いつかまた別の機会に取り上げることにする。

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2011年7月11日 (月)

原発再稼動、政府統一見解のお粗末(No.91)

政府は原発再稼動に関する統一見解を発表した。

『定期検査で運転停止中の原発については設計上の想定を超える地震や津波などにどの程度耐えられるかを比較的短期間で確認する「1次評価」で再稼働の可否を判断。そのうえで、運転中も含むすべての原発を対象に、新たな基準に基づき、「2次評価」によって運転を継続するかを判断する2段階方式とした。』

このような重要な統一見解が、後から出てくること自体、自分の延命のためなら日本経済などどうなってもよいという菅首相の焦りというか身勝手というか、本性を現したのだろう。しかし、この統一見解はお粗末というしかない。

そもそもストレステストというものは、コンピュータシミュレーションを行って安全かどうかを評価するものであり、暫定的な「1次評価」では信頼性を欠くものしかできないのであり、そんなもので原発の安全性という国民の命に拘わる重大な決定を行ってよいのだろうかという問題がある。短時間ではプログラムのバグも出る。安全だと評価し原発を再開し、「2次評価」で安全でないとの結論が出たら首相は責任を取るのか。プログラムの信頼性を、外部の専門家に評価してもらわなくてもよいのか。

ヨーロッパで行っているように、原発を稼働させながら、更に安全を高めるという主旨であれば、何の問題はないのだが、ストレステストを稼働させるかどうかの評価に使うというのであれば、それは余程信頼性の高いシミュレーションプログラムを組まねばならず、短時間では絶対無理だ。

問題はそれだけではない。稼働させるべきか、させるべきでないかという国家の命運を左右する重大な判断をコンピュータシミュレーションに委ねるというのであれば、「設計上の想定を超える地震や津波などにどの程度耐えられるかを比較的短期間で確認する」だけでは全く不十分だ。どの原発も、設計上の想定を超える地震に耐えられるわけがない。たとえば、今回のようなM9.0規模の地震が原発のすぐ近くで発生したらどうなるか。東日本大震災では震源近くでは土地が10m以上も隆起したという。そんな所に原発があれば、原形を留めないほど破壊されていただろう。極めて楽観的に見ても、シミュレーションは、原発が破壊され大事故が発生する確率は**%以下だという結論が出せるだけだ。恐らくそういった確率さえ、信頼に値する計算は不可能だろう。そしてその確率が十分小さいと見なすことが出来るかどうかを判断するのがストレステストだ。それはどんな対策を講じても同じ事だ。大事故を100%防ぐ方法などあるわけがない。

そのようなシミュレーションを行うのであれば、もしストレステストの一次評価が遅れ、原発再稼動が遅れたり、あるいは、原発の一部又は全部が不合格となり、再稼動できなかった場合に、日本経済に及ぼす影響も当然計算しておかねばならない。大和総研チーフエコノミストの熊谷氏によれば、原発が全部止まった場合GDPを9%程度押し下げる、つまり43兆円程度の損失を生じるという。これは東日本大震災の被害よりはるかに大きい。電力が不安定になれば、多くの企業が海外へ逃げていく。企業が持つ自家発電設備を使えばよいというのであれば、本当にどれだけ使えるのかを事前に調べておかねばならない。

景気が大幅に悪化すれば多くの人が職を失い、自殺者が激増する。原発の安全性さえ若干高まりさえすれば、どんなに多数の命が失われても良いのか。ヨーロッパ流に、原発を稼働させたままでストレステストを行う場合と比べ、経済的損失、失われる人命の比較し、信頼性が疑わしいストレステストを、原発の稼働の条件に使うことができるかどうか判断するには、事前の周到なシミュレーションが必要なのである。本当にストレステストが、事故を防ぐために有効かどうかを判断するには長い時間をかけ多くの専門家が検討しなければならない。これを首相の延命のために手段に使うべきでない。

このようなお粗末な統一見解を出した政府は、政権担当能力は全く無いと断言できる。

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2011年7月 7日 (木)

IMF前理事の「謀略説」、日本なら謀略説は抹殺される(No.90)

筆者は謀略説や陰謀説に関しては極めて慎重で、余程確かな証拠があると確信できる場合しか信じない。最近、前IMF専務理事のストロスカーン被告が性的暴行容疑で起訴された。その後、被害女性の供述に次々と嘘や不審な点が発覚し、訴追取り下げの可能性がでてきた。

女性の供述の信憑性を疑わせる電話の会話が当局に傍受されたというのだ。大麻180kgを保持して逮捕された男との会話で「この男(被告)は金持ちだ、だから告訴せよ」と言っていたそう。原告はこの男から800万円の送金を受けていた。その他、この女性の発言に嘘があることが次々分かってきた。

アメリカの制度のほうが日本よりずっと公正であり、国民を守ることは明らかだ。日本であれば、こういった事件で起訴すれば、99.9%が有罪となる。被害女性の電話の会話を警察が傍受して女性の発言の信憑性を確かめることは絶対にない。女性の発言内容に不審を持つような事実が発覚しても、検察はそれを必死に隠す。男は悪者、女は被害者で発言は全部正しいと決めつける。「被害者女性」に関するあらゆる事は、警察によって完璧に隠蔽され、誰も調べることすらできない。女性の発言に信憑性があるかどうかを調べることはできない仕組みになっている。被告が調べようとすると証人を脅したとして逆に罪が重くなる。日本人男性にとっては、電車は危険極まりない場所だ。近くの女性が「この人痴漢です」と声を上げたら最後、指一本女性の体に触れて無くても、起訴され、99.9%の確率で有罪となり長期に監獄暮らしを強制され、職を失い、一生の間、前科者として扱われ、二度と立ち直れない。

しかも現行犯で逮捕されてしまえば、外界からは一切遮断され、長期に勾留され、執拗に自白を迫られる。こうしたやり方に対し、国連・拷問禁止委員会は、2007年6月21日、拷問禁止条約の規定に基づき、自白強要、冤罪の温床とされる代用監獄などを改善するよう求める勧告を発表した。日本は被告の人権を無視しているとの見解だ。

植草一秀氏が上記事件と同様な事件で、二度逮捕されたが、それが陰謀であるという動かしがたい証拠が多数ある。詳しくは以下の本を読んで頂きたい。
『植草事件の真実』植草一秀事件を検証する会、ナビ出版、
『暴かれた[闇の支配者]の正体』ベンジャミン・フルフォード、扶桑社

それだけではない。積極財政を主張する識者の声は、ことごとく消されてきた。植草一秀氏と同様積極財政を推奨してきたリチャード・クー氏もマスコミで見かけなくなった。森田実氏や勝閒勝代氏などは、「テレビ局の指示通りの発言をするなら」テレビに出してやると言われたと言っている。

筆者も積極財政を行ったらどうなるのかのシミュレーションを行っていただこうと様々なシンクタンクと交渉した際に、大きな困難に出くわした。どこもやりたくないようだ。やっと一カ所、日本経済新聞社だけが引き受けてくれたのだが、しかし自分たちがこのシミュレーションをやったことを絶対に言わないようにときつく注意を受けた。挙げ句の果てには、このシミュレーション結果を公表しないようにとまで言い出した。370万円も払ってシミュレーションを行っても結果を公開させてもらえないとは、詐欺ではないかと思ったくらいだ。

積極財政でどうなるかシミュレーションで知りたかったのだが、結論としては、国は豊かになり、デフレ脱却でき、国の借金も軽減される。素晴らしい結果が出た。日本国民の全員がこれを理解したら、直ちに積極財政が始まるだろうし、日本の未来は一気に明るくなる。しかし、そうさせたくない一握りの連中がいて、絶対にそうさせないように鉄壁の監視網が張り巡らされている。一体それを行っているのは誰なのか。アメリカだと言う人がいるが、それは違う。アメリカは、一貫して日本に内需拡大を求めている。日本が景気対策を行って、景気が回復し内需が拡大すれば、アメリカから日本への輸出が増え、アメリカ経済にとって利益になるからだ。

日本の景気回復を恐れ、断固阻止しようとしているのは日本の財務省だ。景気が良くなれば、国内需要の伸びで売上が伸び、企業に利益が出るようになる。そうなると設備投資をしてもっと稼ごうとするから資金需要がでてきて、資金を取り合いが始まる。そうすると少々高い金利でも融資を受けた方が得だということになり、金利がじわじわ上がってくる。この金利上昇をなんとしても避けたいから、財務省は積極財政=景気回復を絶対阻止しようとしている。国は1000兆円の借金を抱えており、1%金利が上がるだけで10兆円もの金利負担増となる。国債価格も下がる。平成21年の日銀の試算によれば、金利1%上がれば大手銀行で2兆円、地方銀行で4.12兆円の損失となり不良債権問題が再燃する。

財務省は、なりふり構わす日本の景気を悪くしようとする。彼らは税金をふんだんに使うことができるから強い圧力が可能となる。日本中のシンクタンクに、金をばらまいて、「景気対策をしても景気はよくならないだけでなく、国の借金が増えるだけだ」という嘘の情報を流し世論操作をする。それに違反するところには国からのシミュレーションの受注が来ない。シンクタンクはそれではやっていけなくなるから、財務省の命令は絶対だ。マクロ計量モデルの専門家の会合で筆者は内閣府の計量モデルを批判した。その後で、この会合の主催者である日経新聞社に電話が入った。次回から小野盛司を会合に出させるなという命令だった。日経新聞の担当者はおびえていた。頼むから来ないでくれと泣きつかれた。こういう形で圧力を彼らはかけてくる。言論統制だ。景気対策を阻止し日本の景気をよくさせない。財務省の強い決意が見えてくる。

筆者は内閣府や財務省に何度も電話して彼らの真意を確かめている。彼らは増税すると国の借金は減ってくるのだという。その原因を聞くと税収が増えるからではない。増税をしても景気は落ち込んで税収はのびないことを彼らは知っている。しかし、景気が悪くなると資金需要が落ち込み金利が下がるから、国の借金の利払いが減り財政が改善するのだそうだ。ゼロ金利なのにどうしてこれ以上金利が下がるというのか。架空の話しに騙されてはいけない。

そろそろ財務省の陰謀に国民が気付いて欲しいと思う。増税は国民には良いことは何もない。大規模景気対策で景気回復を実現させよう!!

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2011年7月 1日 (金)

少子高齢化は経済がしっかりしていれば心配無用(No.89)

日本人は少子高齢化を心配し過ぎている。「社会保障と税」というとすぐに消費税増税を言い出すのもその表れだ。将来は現役世代**人で老人を1人養わなければならなくなるという話しをされると憂鬱になってしまう人も多いのだろう。次のグラフを見て頂きたい。

出所:農林水産省

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これは全就業者に対する農業就業者の割合だ。激減していることが分かるだろう。1947年には半数以上が農家だった。つまり1軒の農家が2軒分の食糧をつくっていた。1人で、やっと2人を養うことができただけだったと表現しよう。2010年には1軒の農家で約30軒分の食糧が生産できるようになった。1軒当たり15倍も生産できるようになったのだが、それは労働時間が15倍になったわけではない。生産性が15倍になったのだ。生産性が1500%アップしたと言っても良い。これは毎年4.5%ずつ生産性が向上すれば達成される。

なぜ生産性が上がったのか。それは米などの品種改良で単位面積当たりの収穫量が増え、冷害や害虫に強くなり、肥料や農薬が改良され、農業機械が普及してきたことなど、様々な創意工夫があり生産性が上がったのだ。昔は、くわで朝早くから毎日毎日汗水流して畑を耕していたが、今は耕耘機で一気に耕せる。それでは、今より更に働き手が少なくなり、1人当たりの生産高を増やさなければならないときに、我々はそれに対応できるかを考えてみよう。

どのくらい働き手が減るのかを、見てみよう。

出所:国立社会保障・人口問題研究所

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つまり、約50年かけて67%から52%までに減少するということだ。生産性上昇でこれをカバーするには30%程度の生産性の向上が必要であり、このためには毎年約0.5%生産性が向上すればよい。すでに述べたように農業においては、この約10倍の速度で生産性は上がった。日本の農家の保有する農地の面積はオーストラリアの100分の1,ヨーロッパの10分の1だと言われている。大規模農業にすれば、30%程度の生産性向上は簡単に達成可能だ。

更に重要なのは農業のロボット化だ。日本が得意とするロボット技術を駆使すれば、田植えも収穫も自動で行えるGPS付きのロボットを開発することは可能だし、飛躍的に生産性を上げることができる。農民にとって、自分たちの仕事が奪われるとか心配するかもしれないが、農家の所得補償を行えばよいだけだ。農業就業者の平均年齢は平成22年で65.8歳だという。きつくて収入の少なく、国際的競争力も失った農業を放置するべきでなく、農業の近代化は欠かせない。

それにしても平均年齢が65.8歳と聞くと、果たして65歳以上は生産年齢ではないと決めつけてしまってよいのかと考えてしまう。平均寿命が伸びるに従って、健康で暮らせる年齢も伸び、より高齢でも働けると考えるのが自然だ。自分は働きたいのに、無理に引退させられるほど、不愉快なことは無いだろう。高齢で働きたい人達にも職が捜せるようにするのも、政府の役割だ。

デフレの時代、需要が増えればそれに対応して生産を伸ばせるような商品は多い。50年かけて、30%供給を伸ばせれば、少子高齢化に対応できるということだ。例えば、今はネットを使ったビジネスも多い。そのビジネスを利用したい人が30%増えたとき、それに対応は可能かと言えば、50年と言わず、1年でも対応可能だろう。

大量生産の時代、余程選り好みさえしなければ、30%の生産性向上を50年で達成することなど、容易なこと。供給は十分なのだから、有り余る財サービスをうまく分配さえできればよく、それは十分にお金を子どもにも、大人にも、老人にも渡すことが大切だ。それも単に給付するのでは失敗するということは、かつての共産圏で実証済みだ。適度に成功報酬的な側面と、生活の最低保障の側面を持たせた分配の仕組みを考えればよい。

人間に代わって働いてくれるロボットを開発できたら、それは生産性は30%どころか、無限大に近い。そのことは
『労働はロボットに、人間は貴族に -ロボット ウィズ アス-』小野盛司著
に詳しく書いたので参照して頂きたい。結論は社会保障と税の一体改革という名目で消費税増税をデフレ時に行うということは、全く間違えているということだ。

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