« 2011年7月 | トップページ | 2011年9月 »

2011年8月

2011年8月29日 (月)

野田氏を代表に選んだのは最悪の選択(No.97)

今日は、日本にとって歴史に残る悪夢の一日だった。5人民主党代表候補が名乗りを挙げ、その4人までが増税反対、日銀の協力の下に震災復興を行うと主張していて、唯一野田氏が増税派だった。不幸な選択というしかない。

フジテレビの「新報道2001」が8月25日に首都圏の男女500人を対象に実施した世論調査で、「次の首相にふさわしい人」を挙げてもらった結果は
前原 53・0%
海江田 6・2%
野田  5.0%
馬淵  3.4%
鹿野  1.0%
だった。野田氏だけが増税派であり、それ以外は全部増税反対だから、増税反対組を加えると
増税賛成:増税反対=5.0:63.6=1:12.72
ということになる。まったく国民の声を無視した馬鹿な選択だった。野田支持というよりも、反小沢ということだろう。海江田以外なら誰でも良いと前原、馬淵陣営は決めたと決選投票の前にNHKは言っていた。しかし、実際は馬淵陣営は海江田支持だった。このNHKのデマ報道が野田への雪崩現象を引き起こした可能性がある。どうせ野田が勝つのだから、ここは野田に入れておこうと思った議員も多かったのではないか。これもNHKの陰謀か。決選投票では野田氏215票、海江田氏177票だから、民主党を2分したと言った方がよいのではないか。

野田氏の勝因は「自分が総理になっても人気は出ませんから解散総選挙はありません」と言ったことというから呆れる。国民の人気の出ない首相を選んでおけば、あと2年は国会議員でいばっていられる。だから野田に入れる。全く国民不在のサラリーマン議員達に、震災復興ができるのだろうか。

円高、デフレ、株安、電力不足、震災による被害、高い法人税、市場開放の遅れによる高い関税の壁、世界経済の悪化懸念など8重苦に苦しむ日本企業に、増税という重荷を加えようという。しかも増税した範囲内での震災復興であれば、微々たる額しか出せないから震災復興放棄ということだろう。これでは日本の将来は真っ暗であり、将来世代に重いツケを残したというべきだろう。

思い出すのは2001年4月と2003年9月の自民党総裁選だ。2001年には、緊縮財政失敗で積極財政を約束していた橋本氏と同じく積極財政派の亀井、麻生の両氏に対し、唯一緊縮派の小泉氏が勝利した。2003年でも緊縮財政派の小泉氏に対抗し、景気対策による景気回復を目指した亀井、藤井、高村の3氏が争った。結局は小泉氏に決まったのだが、景気にとって最悪の人を選んでしまった。その後、世界経済は30年に一度と言われたほどの好景気になり、貿易量も倍近くまで伸びたのだから、小泉氏以外の候補が首相になっていたら、デフレ脱却は完璧に成功していたのに、本当に不幸な選択をしたものだ。

以下にインフレ率の国際比較(出所:OECD Economic Outlook)をグラフにした。インフレ率が一旦例えば3%になれば、それほど努力しなくても、その率は続いていく。日本だけがデフレであり、その他の国は適度なインフレ率を保っている事が分かる。その国の国民が優秀だからとか、努力したからとか、ヒット商品を出したからとかはインフレ率には一切関係ない。黙っていても、通常は徐々に物価は上がり、給料が上がり、売上も上がっていくというのが日本以外のすべての国で起こっていることだ。野田首相が増税すれば、更にデフレが悪化する。

971

デフレ脱却は、思い切って大規模な財政出動をしなければ不可能だし、十数年間それに失敗した。今回復興事業を思い切って行えばデフレ脱却のチャンスはある。しかし野田首相は、折角のチャンスを増税で潰そうとしている。一度デフレ脱却が実現し、インフレ率も諸外国並になればもちろん名目GDPもそれだけ押し上げられる。一度だけ誰かが思いきってやればよいだけだ。そうすれば失われた20年をストップした歴史的英雄として永遠に尊敬される。

現在の状況は下図のとおり。今こそ思い切った財政出動を期待したかったのに、野田氏を首相にしたのは最悪の選択だった。一度デフレ脱却をすれば、国の債務のGDP比は、努力しなくてもGDP増加でどんどん減っていったのだが。

972

| | コメント (56) | トラックバック (0)

2011年8月26日 (金)

成長・インフレ と 財政収支(No.96)

(これは景気循環学会会員 松浦昇氏の投稿です)

 日本経済の泣き所は、財政収支の赤字と膨大な累積債務の累積である。

 是に対して財務省を先頭に、マスコミを総動員して「財政緊縮と消費税をメインにした増税が不可欠」と言う洗脳が効を奏して、「消費税増税は避けられない」と言う世論が作られつつある。

 これに対して、私は「財政収支の赤字は、低成長とデフレが原因である。消費税の増税と財政支出の削減は、更なる低成長とデフレに直結し、財政赤字は更に増大する。」と考えて居る。以下の小論では、この私の結論をG7諸国のデータも参照して裏付けた。

961

  上の図1を見ると、バブル崩壊後の財政収支の赤字が、ゼロ成長とゼロ・インフレの持続と一緒に進んで居る。此のグラフを見ると、インフレと公債増発を恐れるあまり、「継続的なゼロ成長とゼロインフレを持続するような財政・金融政策を続けた」結果が、財政赤字の継続と債務累積を招いたと言う仮説を思いつくのは自然であると思う。

1.G7諸国の成長とインフレ

 この点を他国の例と比較するために、IMFのDBからG7諸国のデータを入手して、色々な経済と財政の指標をグラフ化して比較した。是を見ると、日本の財政・金融の運営は、著しく他の国々と異なった原則・方針で運営されて居るのが一目して判り、是が日本経済の長期低迷と、財政赤字の続く原因であることが、容易に見て取れる。

バブル期の日本は、財政収支の点でも世界一だった。バブル崩壊後は財政も急速に悪化した。1995 年あたりから他国は一斉に財政状況を改善したが、日本だけは更に悪化を続けている。

962

累積純債務で見ても。日本だけが急速に拡大して居て、1997(橋本改革)以降が特に甚だしい。G7では最悪のイタリアも、1995 以降は改善に向かい、カナダが急速な改善を達成たのが目に付く。

963

総債務の累積で見ても、上記の傾向が更に顕著で、他国は改善が著しいが、日本は悪化を続け、ダントツに悪い。俗に「累積赤字がGDPの2倍」というのは、此の値である。

964

日本はバブルの最中を含めて、インフレ率(CPI上昇率)が最も低い。日銀の「インフレは僅かでも絶対に容認しない」と言う基本方針は見事に実現されている。その結果として、GDP deflator が10年以上も下降を続けると言う、世界でも希な(G7以外に広げても、日本が唯一)と言う世にも希な珍現象が起こっている。

965

 デフレが続けば、景気が悪く、GDP成長率も落ちるからGDPは大きくならない。従って税収が落ち込んで、財政収支の赤字が累積するのは当然である。

966

967

図7はCPIの替わりに 1980 以前のデータが利用できる、GDP deflator の対前年増加率をプロットした。これを見ると、各国ともオイルショックの頃に激しいインフレに見舞われ、この収束に努力した様子が見える。ところが日本は、これをやり過ぎた。

2. 成長とインフレによる累積債務の実質負担軽減
 
累積債務/名目GDPの比率を軽減する方法の1つは、分母の名目GDPを大きくする方法である。名目GDPは実質GDP×deflator だから、名目GDPを大きくする方法は2つある。つまり、実質GDPを大きくする正面作戦と、更にインフレによって名目GDPを膨らませる裏口作戦がある。これは併用可能なだけでなく、(後で示すように)インフレ下では景気が良くなって実質GDPも成長すると言う相乗効果がある。

968

図8は、前ページ図7の代わりに、CPI(消費者物価指数)の変動率を拡大したモノであるが、消費者物価のインフレ率は2%前後に保つのが主要国の政策の主流であると見て間違いなさそうである。ところが日本だけは、ゼロ・インフレを目指していたことが読み取れる。

インフレが2%なら、実質GDP成長率の目標を2%とすると、名目GDP成長は4%となり、表1の試算では、実質債務負担は10年で68%、15年で56%に減価する計算になる。

 従って現在の日本には、(クルーグマンに言われるまでもなく)インフレ目標の導入が不可欠と考えられる。

969

以上の様に考えると、現在の日本で名目GDP成長を加速するには、2±1%程度のインフレ・ターゲットの明示的導入と、赤字公債発行を恐れない積極的財政運営が必要である。

3.デフレ-タ と GDPの弾性値    

9610

図9の縦軸は名目GDPの対前年増分、横軸はGDPdeflator の対前年増分を%で表記した値である。従って線形回帰の係数 1.51 は、deflator と名目GDPの弾性値と解して良い。つまり deflator が1%増えると名目GDPは1.5%増えることを示す。

以上の計算と考察から、適度なインフレの効用/必要性が明らかになる。

1.GDPの成長率はインフレ率の1.5倍と考えて良い。つまり名目と実質GDP成長率をプラスに保つには、適度にプラスのインフレ率の維持が必要である。
2.累積債務の実質負担額は、インフレで名目GDPが水増しされる分だけ軽くなる。

 図5と図8を見ると、日本以外の国々はオイル・ショック時代の高インフレを克服する過程で、賢明にインフレのオーバーキルを避けて、2%程度にコントロールして居たことが読み取れる。言い換えると我が日銀だけが自分たちの職責を、「円の信認と物価の安定を守るだけ」と自己規定し、バカ正直に「円は高いほどハッピー」で「間違ってもCPIはゼロ以下でなければならない」と思い込んで居て、経済成長などは金融政策の目標と責任範囲ではではないとして来たことが「失われた20年」の原因の、大きな要素だったと思われる。

                                      以

| | コメント (10) | トラックバック (0)

2011年8月10日 (水)

消費税を上げるとGDPが減少し、累積赤字が増える(2)(No.95)

  (これは景気循環学会会員  松浦 昇 氏による投稿です。)

2.消費税がGDPを減らすメカニズム

2.1 「税収の直間比率是正」の影響

橋本政権の財政構造改革の目玉は「税収の直間比率是正」で、その中身は累進率の大きい所得税の上限税率を40%に押さえ、この減収を補うために消費税を2%上げて5%にし、税収としてはプラマイでゼロの筈でした。何故これが「是正」か?と言うと、この奧にはサプライ・サイダーの主張があるのですが、この点は後で考察します。

消費税がGDPを減らす理由は、「徴収額の何倍か消費が減るから」です。消費税の最大の特徴は「全ての人から、買い物の額に比例して平等に徴収出来る」ことです。だから泥棒でも、麻薬・覚醒剤やヤミ風俗の業界の人でも、町で買い物をする限り課税を免れません。これは大きな長所なのですが、税をきちんと払って居る善良な人々を対象として考えると、其の負担が低所得の人ほど重いからです。その理由は、消費性向(所得のうち、実際に消費に回る比率)が、高所得者ほど下がるからです。此処では「所得階層別消費性向」を、所得7分位階層毎のデータを発表して居る、東京都の「都民のくらしむき」から採ました。

951_2

この結果、最高所得の第7階層は、年収でのウエートが 30.7 % あるのに、消費支出のウエート(つまり消費税負担のウエート)では 21.2 % しかない。これが「消費税の逆進性」と言われる所以です。他方で所得税の上限を40%に下げると、年収で約 4000 万以上の人だけが恩恵を受けますが、この減税分はマルマル(消費性向の最も低い)7分位の人々の財布に収まることに成ります。(第7階層の年収平均は 1577万だから、年収4000万以上の人の消費性向は31.8% より更に低い筈です)だから消費税の増税が、消費性向が高い低所得者層の懐を直撃し、見かけの%の数字以上に正味の民間消費支出を減らす一方で、所得税の減税分は消費性向の低い高額所得の人々だけが恩恵を受けるから、増減税が同額なら差し引きで民間消費支出が減り、乗数効果を伴って、GDPを引き下げる原因になります。表2の階層別消費性向の違いから、1998 の(直間比率是正による)消費支出の減少を額を推計すると約4500億円になりますが、乗数効果を考えると、GDPはもっと減った筈です。

2.2 消費税が、その年のGDPを減らす効果の見積もり

 日本の場合は、民間消費支出がGDP全体に占める割合は約57%で、消費税によって実質購買力が減価すれば、これに対応する売り手側の実質手取り額は、其の分だけ下がります。そうすると、其の売り手が次の商品を仕入れたり、売り手自身の消費支出に回せる額も目減りする筈です。つまり「売り手は次の買い手」になる仕組みが乗数効果の生まれる源泉だから、消費税で、その年の消費支出全体が目減りする割合は、1年間でこの売り買いのサイクルが平均して何サイクル回るか?で決まる筈です。しかし、この回転の回数は消費支出の対象分野ごとに大きく異なることが予想されるし、回転数の平均(乗数)を統計データから単純に見積もる方法を思いつきません。

 表3は、この「買い→売り→次の買い→次の売り・・」のサイクルを2回として試算しました。この表で、乗数効果をある程度考慮した時の消費税のGDPへの影響は、税率10%ならGDPは -13.2%、15%なら -19.8% になります。

952_2

3.「税収の直間比率是正」を実現させた、サプライ・サイダーの論理

 2章で述べた「税制の直間比率是正」が正味消費支出の減少を通じてGDPを減らすメカニズムは、単なる事実関係ですから、経済学上の立場には無関係です。

 にも関わらず、これが強行された理由は2つあると思います。一つは「何が何でも、景気に左右されない安定財源である消費税を増やしたい」財務省の思惑と、他は、「高額所得者の税負担を減らして、(設備)投資の原資を確保することが、生産力増強→GDPの成長の必須条件である」とするサプライ・サイダーの論理です。

E(消費)≡P(生産) は恒等式ですが、これを因果関係を表す方程式にすると、次の
2つの視点(主張)に分かれます。

E=P(生産力) ……(1) 消費できる財の量は、生産できる量(生産力)で決まる。
P=E(需要)    …… (2) 実際に生産出来るのは、需要(消費)がある分だけである。

 資本主義発展の初期段階には(1)の制約が明らかで、「全ての生産物は(価格次第で)全部が市場で売れる」言うセーの法則は自明の理であり、リカードも当然の前提としました。

 ところが19世紀の後半になると、近代資本主義の先頭を走って居た英国で、「生産力は充分あるのに、モノが売れない為に起こる恐慌」が発生します。

 この問題に正面から取り組んだのがマルクスとケインズですが、ケインズは「セーの法則は、もはや成り立たない。近代産業国家では、(2)が表すように、需要がある分しか生産出来ないのだから、経済全体を大きくするには、先ず有効需要の増大が不可欠な事を前提として、理論と政策を組み立てるべきである。」として、ケインズ経済学を構築しました。(森島通夫は挑発的に、これを「逆セーの法則」と呼びました。)

 このケインズ理論は、1929年の大恐慌に立ち向かったルーズベルトのニューディールや、ナチス・ドイツの急速な経済復興と、これをバックにした強大な軍事力の構築に威力を発揮し、日本でも高橋是清の積極財政で有効性を証明しました。

 素直に考えると、日本を含む全ての先進産業国家では「有効需要制約説」が妥当すると思えるのですが、戦後のアメリカでは是に反対する、新自由主義、新古典派とサプライサイダー(御三家)の人気が高くなり、シカゴ大学を先頭に、アメリカの名門大学の教職や、ノーベル経済学賞を殆ど独占する迄になりました。

 しかし学会の主流となったフリードマンやルーカスの新古典派は、象牙の塔とノーベル賞を制しましたが、実際の経済政策立案には役に立たない現実を、「科学者エンジニアとしてのマクロ経済学者」と言う論文で指摘したのは、マクロ経済学の教科書で定評があるマンキューです。彼は、「実際に政府の役職に就いて経済政策を仕切って居るのは、全てニュー・ケインジアン達である」と書いて居ます。たしかにバーナンキにしても、クリントン政権で経済諮問委員会委員長を務めたスティグリッツにしても、ニュー・ケインジアンです。
 ところが日本政府から派遣される留学生や、アメリカで学位をとって国内の有力企業に就職する人々の多くの行く先は、シカゴ大学などの、学会の主流である新自由主義・新古典派の講座が殆どです。つまりアメリカ留学帰りの連中は、竹中平蔵氏のように「実地には役に立たないばかりか、むしろ有害な経済学」を叩き込まれて帰って来たとさえ言えます。

 以上で、「なぜ景気を悪くする事が判りきって居るのに、直間比率是正による成長力の強化を売り物にした、財政構造改革が強行されたか」を、私なりに説明しました。その後の日本経済が、実質的にゼロ成長路線を抜け出せない現実からから見ても、橋本内閣の「財政構造の抜本的改革」に始まり、小泉・竹中政権へと続いた「サプライ・サイド重視の財政縮小均衡指向」の政策が「間違い」だったことを理解されれば、「消費税を上げると、財政赤字が増えます」と言う此の論文の主題の方向性も、判って頂けると思います。

| | コメント (42) | トラックバック (0)

2011年8月 7日 (日)

消費税を上げるとGDPが減少し、累積赤字が増える(1)(No.94)

 (これは景気循環学会会員  松浦 昇 氏による投稿です。)

足下での日本政府の累積債務と名目GDPは 951兆円と479兆円で、比率を取ると199%、約2倍です。是だけ見ると日本の財政の現状は、あのギリシャよりずっと悪い。

 そこで、「このままではパンクして金利が急騰し、ハイパーインフレが来る。これを防ぐには、みんなが我慢して消費税を先ず10%に引き上げ、其の先も更に引き上げて、急いで借金を返すしかない。」と言う話を、新聞やテレビが一斉に流して洗脳した結果、世論調査をすると過半数の国民が、「消費税引き上げは止むを得ない」と思い込んで居るのが現状です。(日本人は本当に素直で、まじめな人々だと思います)

 ところが「みんなが少し我慢して、消費税を10%、15%へと引き上げる」と、本当に累積債務/GDPの比率が下がって財政状況が健全化すれば良いのですが、困ったことに、そうは成りません。家計の健全化と国家財政の健全化は本質的に違うからです。

何処が違うかと言うと、家計では支出と収入は独立して居て、支出を減らしても収入は変わらないから、支出を減らしただけ債務が減ります。ところが国家財政では、(正味)財政支出を削減するとGDPが減少して、税収も大きく減るからです。だから、消費税を引き上げて歳入だけを増やすと、肝心のGDPは其の額以上に減って、累積債務/名目GDP比の分母が小さくなって比率が悪化するだけでなく、GDPが減ると消費税以外の税収(所得税や法人税など)も大きく減って歳入が落ち込むから、翌年度には借金を返すどころか、今年よりもっと沢山の赤字国債を出さないと、予算が編成出来なくなります。

従って、日本の財政状況を「年収400万の家計で、借金が790万円あるのと同じだから云々」と描写するのは、上で説明した「家計と国家財政の根本的違い」を故意に無視して、世論を自分たちに都合の良い方に誘導する、悪質なデマ宣伝です。もし自分たちも、本当にそのように信じて居るなら、是は恐るべき無知・不勉強と言わざるを得ません。

 以上は簡単な算術の問題ですが、此の「基本的な思い違いが招いた大失敗」には身近な先例があります。それは1997年に橋本内閣が実行した「行財政の抜本的構造改革」と、その後の日本のGDPや税収と、国家債務累積の推移です。

1.橋本行財政改革の大失敗

 橋本龍太郎と言う人は大変な勉強家で度胸もあり、「財政通」と言われて居ました。其の彼が1997年の解散・総選挙に勝利し、「政治主導による抜本的行財政再建」を掲げて、「行政改革」「財政構造改革」「金融システム改革」「経済構造改革」「社会保障改革」「教育改革」などを断行したのですが、この中で特に経済と財政に大きく影響したのは「財政構造改革」でした。その中身は「直間比率是正」と称した、「所得税率上限の40%への引き下げ」と、税収面で此の減収を補う「消費税の2%引き上げ」及び、公共事業費削減、社会保障費を賄う各種保険料引き上げなどによる財政支出の圧縮でした。

 ところが同時に強行した金融機関の不良債権の即時処理の結果として、幾つかの大手金融機関が破綻した「金融危機」が重なって、98,99年には急激な景気後退に見舞われ、橋本政権は退陣を余儀なくされて、橋本行財政改革が完全に間違いだったことが明らかになりました。

941

表1で見ても1998 1999 はマイナス成長でGDPが下がり、税収が減って公債発行額が急増しました。ところが2000 年には各指標が大きく改善しましたが、これは 1999 年に橋本内閣が総辞職した後を継いだ小渕首相が「2兔は追わず」と宣言し、国債を追加発行して財政支出を増やし、景気回復に専念した結果です。この時の公債発行額は、前年までのGDP低下の結果である税収減少の尻ぬぐいに必要な34兆円に、僅か3.5兆円を上乗せした37.5兆でした。

 しかし 2000 年に小渕首相が急逝すると、後を継いだ森内閣も小泉内閣も(財務省好みの)歳出削減一点張りの(所謂)財政再建型に戻り、GDPは伸びず、税収は減って累積債務は増え続けました。

| | コメント (9) | トラックバック (0)

« 2011年7月 | トップページ | 2011年9月 »