成長・インフレ と 財政収支(No.96)
(これは景気循環学会会員 松浦昇氏の投稿です)
日本経済の泣き所は、財政収支の赤字と膨大な累積債務の累積である。
是に対して財務省を先頭に、マスコミを総動員して「財政緊縮と消費税をメインにした増税が不可欠」と言う洗脳が効を奏して、「消費税増税は避けられない」と言う世論が作られつつある。
これに対して、私は「財政収支の赤字は、低成長とデフレが原因である。消費税の増税と財政支出の削減は、更なる低成長とデフレに直結し、財政赤字は更に増大する。」と考えて居る。以下の小論では、この私の結論をG7諸国のデータも参照して裏付けた。
上の図1を見ると、バブル崩壊後の財政収支の赤字が、ゼロ成長とゼロ・インフレの持続と一緒に進んで居る。此のグラフを見ると、インフレと公債増発を恐れるあまり、「継続的なゼロ成長とゼロインフレを持続するような財政・金融政策を続けた」結果が、財政赤字の継続と債務累積を招いたと言う仮説を思いつくのは自然であると思う。
1.G7諸国の成長とインフレ
この点を他国の例と比較するために、IMFのDBからG7諸国のデータを入手して、色々な経済と財政の指標をグラフ化して比較した。是を見ると、日本の財政・金融の運営は、著しく他の国々と異なった原則・方針で運営されて居るのが一目して判り、是が日本経済の長期低迷と、財政赤字の続く原因であることが、容易に見て取れる。
バブル期の日本は、財政収支の点でも世界一だった。バブル崩壊後は財政も急速に悪化した。1995 年あたりから他国は一斉に財政状況を改善したが、日本だけは更に悪化を続けている。
累積純債務で見ても。日本だけが急速に拡大して居て、1997(橋本改革)以降が特に甚だしい。G7では最悪のイタリアも、1995 以降は改善に向かい、カナダが急速な改善を達成たのが目に付く。
総債務の累積で見ても、上記の傾向が更に顕著で、他国は改善が著しいが、日本は悪化を続け、ダントツに悪い。俗に「累積赤字がGDPの2倍」というのは、此の値である。
日本はバブルの最中を含めて、インフレ率(CPI上昇率)が最も低い。日銀の「インフレは僅かでも絶対に容認しない」と言う基本方針は見事に実現されている。その結果として、GDP deflator が10年以上も下降を続けると言う、世界でも希な(G7以外に広げても、日本が唯一)と言う世にも希な珍現象が起こっている。
デフレが続けば、景気が悪く、GDP成長率も落ちるからGDPは大きくならない。従って税収が落ち込んで、財政収支の赤字が累積するのは当然である。
図7はCPIの替わりに 1980 以前のデータが利用できる、GDP deflator の対前年増加率をプロットした。これを見ると、各国ともオイルショックの頃に激しいインフレに見舞われ、この収束に努力した様子が見える。ところが日本は、これをやり過ぎた。
2. 成長とインフレによる累積債務の実質負担軽減
累積債務/名目GDPの比率を軽減する方法の1つは、分母の名目GDPを大きくする方法である。名目GDPは実質GDP×deflator だから、名目GDPを大きくする方法は2つある。つまり、実質GDPを大きくする正面作戦と、更にインフレによって名目GDPを膨らませる裏口作戦がある。これは併用可能なだけでなく、(後で示すように)インフレ下では景気が良くなって実質GDPも成長すると言う相乗効果がある。
図8は、前ページ図7の代わりに、CPI(消費者物価指数)の変動率を拡大したモノであるが、消費者物価のインフレ率は2%前後に保つのが主要国の政策の主流であると見て間違いなさそうである。ところが日本だけは、ゼロ・インフレを目指していたことが読み取れる。
インフレが2%なら、実質GDP成長率の目標を2%とすると、名目GDP成長は4%となり、表1の試算では、実質債務負担は10年で68%、15年で56%に減価する計算になる。
従って現在の日本には、(クルーグマンに言われるまでもなく)インフレ目標の導入が不可欠と考えられる。
以上の様に考えると、現在の日本で名目GDP成長を加速するには、2±1%程度のインフレ・ターゲットの明示的導入と、赤字公債発行を恐れない積極的財政運営が必要である。
3.デフレ-タ と GDPの弾性値
図9の縦軸は名目GDPの対前年増分、横軸はGDPdeflator の対前年増分を%で表記した値である。従って線形回帰の係数 1.51 は、deflator と名目GDPの弾性値と解して良い。つまり deflator が1%増えると名目GDPは1.5%増えることを示す。
以上の計算と考察から、適度なインフレの効用/必要性が明らかになる。
1.GDPの成長率はインフレ率の1.5倍と考えて良い。つまり名目と実質GDP成長率をプラスに保つには、適度にプラスのインフレ率の維持が必要である。
2.累積債務の実質負担額は、インフレで名目GDPが水増しされる分だけ軽くなる。
図5と図8を見ると、日本以外の国々はオイル・ショック時代の高インフレを克服する過程で、賢明にインフレのオーバーキルを避けて、2%程度にコントロールして居たことが読み取れる。言い換えると我が日銀だけが自分たちの職責を、「円の信認と物価の安定を守るだけ」と自己規定し、バカ正直に「円は高いほどハッピー」で「間違ってもCPIはゼロ以下でなければならない」と思い込んで居て、経済成長などは金融政策の目標と責任範囲ではではないとして来たことが「失われた20年」の原因の、大きな要素だったと思われる。
以
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コメント
お久しぶりです。higashiyamato1979でございます。久々の投稿ですね。前回に続き、データを駆使した極めて論理的に説得力のある文章です。既存のメディアにはまず載らないでしょう。なぜなら今まで吐いてきたウソがばれるから。韓流ゴリ押しと云い既存のメディアの悪あがきにとどめをさす時です。ちなみに私は最近の気温の変化の激しさ故か体調を崩しております。皆様もどうかご自愛くださいませ。
それでは決まり文句! お金が無ければ刷りなさい! 労働はロボットに!人間は貴族に!
投稿: higashiyamato1979 | 2011年8月26日 (金) 18時43分
いつも訴えていることですが、国会で議論されないのは大変残念です。民主党の代表選も積極財政を理解できる方がなってほしいと期待はしているのですが、小野先生からどなたが代表になってほしいですか?教えてください。
投稿: | 2011年8月27日 (土) 12時18分
丹羽氏は、高橋洋一氏、田村秀男氏の政府紙幣発行論をどのように論評しているだろうか。
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/1078fbc8d02acb9c9b5944bcb3ec66dd
記事
●丹羽氏の高橋案・田村案への論評
丹羽氏は、高橋洋一氏、田村秀男氏の政府紙幣発行論をどのように論評しているだろうか。
丹羽氏は、平成21年(2009)4月、「政府紙幣発行問題の大論争を総括する」という論文を発表し、自らの見解を明らかにしている。
「実は、政府紙幣を新規に発行するという高橋氏・田村氏の政策案には、見逃しえない問題点がある」と丹羽氏は指摘する。「ちょっと考えればすぐわかるように、現行の日銀券と併行的に、新規に政府紙幣を実際に発行・流通させるためには、国内に無数に存在する種々様々な自動販売機やATMなどを全てやり換えねばならない。このことをとってみただけでも、諸種の社会的トラブルがきわめて数多く発生するであろうということは、明らかなところであろう。しかも、現在の日銀券の流通額が約76兆円程度のものなのであるから、それに加えて新規に政府紙幣を数十兆円、数百兆円も発行・流通させることは無理である。高橋洋一氏が提言している25兆円でも、かなり難しい。そして、肝心の景気振興政策の規模そのものが、その額に制限されてしまい、しかも線香花火のように短期的に一回だけ実施される施策にすぎないというのであれば、現下の大不況を克服するには、あまりにも非力である。ましてや、800兆円を超す国家負債の処理ということにまでなると、まったく役に立たない」と言う。
丹羽氏は、自らについて、「私自身(丹羽)は、十数年も以前から、『国(政府)の貨幣発行特権』(seigniorage、セイニャーリッジ権限)の発動によって国の財政危機を救い、わが国の経済の興隆をはかれと提言し続けてきた者であり、いわば元祖である」と述べる。そして、次のように言う。
「しかし、私は、『国(政府)の貨幣発行特権』を活用するやり方としては、政府紙幣を刷らないで、しかも、トラブル的な問題も起こさずに政府財政のための『打ち出の小槌』となるような、『スマートで容易な方式があるよ!』と指摘・詳述し、それを採用・実施することこそが『救国の秘策』のための秘策であると、今日まで提言し続けてきたのである」と。
ここが重要な点で、丹羽氏は政府紙幣つまりお札を印刷して流通させるという案ではない。
「『スマートでトラブル的な問題も起こさない容易な方式』とは、国(政府)が無限に持っている無形金融資産である貨幣発行特権のうちから、所定の必要額ぶん(たとえば、500~600兆円ぶん)を、政府が(ある程度はディスカウントでもして)日銀に売り、其の代金は、日銀から政府の口座に電子信号で振り込むことにするというやり方である。しかも、このことは、現行法でも、十分に可能なことである。この方式であれば、新規の「政府紙幣」をわざわざ印刷・発行するようなことをしなくても、そして、言うまでもなく、増税をするわけでもなく、政府の負債を増やすこともなく、事実上、政府の財政財源のための無限の「打ち出の小槌」が確保されることになるのである」
それゆえ、政府貨幣発行特権の発動には、政府紙幣を印刷する政府紙幣発行論と、電子信号振込み論がある。前者と後者は混同されてはならない。
丹羽氏は、次のようにも書いている。「実は、私自身は、『国(政府)の貨幣発行特権』という『打ち出の小槌』を財政財源として活用するための、私自身が推奨・提言してきたやり方を、単なる緊急処置的な劇薬の一回限りの投与だなどとは、毛頭、考えていない。マクロ的なデフレ・ギャップ、インフレ・ギャップの正しく注意深い計測と観察を怠らずに、採用・実施するのであれば、それを長期的に常用することによってこそ、わが国の経済と財政は、きわめて健全化され、活力に満ちて興隆への軌道に乗るはずだと、私は論証し続けてきた。正統派的なケインズ主義的総需要管理政策の理論構成からすれば、そう考えざるをえないのである」と。
そして、丹羽氏は自らについて、次のように述べる。「すなわち、私は、高橋洋一氏や田村秀男氏が提言してきたようなレベルよりも、さらに踏み込んで、はるかにスケールの大きな高次元の財政政策・経済政策システムを構想し、それを実現すべきだと提言してきたわけである」と。
エコノミストであれ素人であれ、丹羽氏の主張を批評するには、高橋氏・田村氏との方法と理論の違いを認識した上で批評する必要があることを強調しておきたい。
投稿: | 2011年8月28日 (日) 09時09分
リンカーンのグリーンバックス:
納税者は計り知れないほどの金額の利子を節約できる
http://satehate.exblog.jp/9649822
闇の世界金融の超不都合な真実
菊川征司著
http://www.911myreport.info/newpage27.html
闇の世界金融の超不都合な真実
菊川征司著
より
▼リンカーンの言葉▼=政府貨幣
”政府は政府の費用をまかない、一般国民の消費に必要なすべての通貨、銀行の預金を自分で発行し流通させるべきである。 通貨を作製し、発行する特典は政府のたった一つの特権であるばかりでなく、政府の最大の建設的な機会なのである。
この原理を取り入れることによって、納税者は計り知れない程の金額の利子を節約できます。 それでこそお金が主人でなくなり、人間らしい生活を送るための人間の召使になってくれるのです。”
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国際銀行家たちの地球支配/管理のしくみ
安部 芳裕著
http://www.anti-rothschild.net/index.html
投稿: | 2011年8月28日 (日) 10時09分
田原総一朗VS馬淵澄夫対談 Vol.2 「増税よりもまずデフレ脱却を」
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/16683
記事より
馬淵: 私が何度も申し上げているのは、景気の低迷の最大要因はデフレですから、この15年間続いたデフレを脱却する強い決意を示すことです。マネタリーベースが、2000年から10年間何も変わっていないどころか下がってさえいるんです。
世界中の国々は、2000年を100とすると350とか500にまでマネタリーベースが上がっているんですから、円高になるのは当たり前ですよ、為替は通貨の交換レートなんだから。だから円高が止まらないし、デフレも脱却できないんです。
バーナンキは、さらに量的緩和をやると言っているんです。世界中がそちらに舵を切っているのに、日本だけがそうしないなら、当然日本だけが一人負けになってしまいます。
投稿: | 2011年8月28日 (日) 10時13分
勉強会 亀井静香氏 youtube
↓↓↓
http://www.youtube.com/user/hosizorajp?feature=mhee#p/c/55C1D2AB0547E18C/122/YIKTadHaSqM
投稿: | 2011年8月28日 (日) 10時14分
馬渕議員 03 YouTube
↓↓↓
http://www.youtube.com/user/hosizorajp?gl=JP#p/f/12/nYKGAc9C0Qo
投稿: | 2011年8月28日 (日) 10時16分
増税を主張できない腰抜け政治家とメディア
2011年08月28日(日) 坪田 知己
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/17426
こんなバカ記事がありましたww
橋本政権下の大蔵省主導による、消費税増税、緊縮財政により、
景気、雇用の悪化税収減も実証済み!
この方、学習能力皆無のようですww
しかし、騙される方も多いのでしょうね・・・
投稿: | 2011年8月28日 (日) 16時24分
ご参考
リビアの真実:なぜ英米欧がカダフィ打倒に
http://quasimoto.exblog.jp/15340888/
投稿: | 2011年8月29日 (月) 19時35分
真に危機感を煽るべきこと
三橋貴明
http://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/
記事抜粋
日本政府がギリシャやアイルランドのように「外国」からお金を借りているならば、
「このままでは、私たちの孫子の世代に天文学的な負債、借金を背負わせることになる」
でもいいんですけどね。まあ、経常収支黒字国、世界最大の対外純資産国の日本では有り得ない話なのですが。
経済関連の「危機感」は、デフレという極めて深刻な問題を除き、特に解決が難しいものではありません。デフレにしても、政治家がオーソドックスなデフレ対策(金融政策と財政政策のパッケージ)を実施すれば、長くても五年で解決します。
しかし、冗談でも何でもなく「日本国家の危機」というのは存在しており、危機感を煽ることが嫌いなわたくしであっても、危機感を煽らなければならない件というものが存在するのです。すなわち、大震災の連鎖です。
・・・
日本は現在、「国家存亡」のために、全国的な耐震工事をしなければならない時期なのです。特に、東京の「皇居」「国会議事堂」など、日本国家の根幹である皇室の方々や、政治家が首都直下型地震の直撃を受けないように、今のうちに備えておかなければなりません。
東日本大震災でも分かりましたが、「行政」が機能しなくなると、救援活動はままなくなります。現地で状況を調査し、中央政府に救援を求める「機能」が失われてしまうので、当たり前です。
これが首都直下型地震の場合、中央政府の行政機能そのものがダメージを受ける可能性があるわけです。下手をすると、西日本に救援を求めることも、自衛隊を出動させることもできなくなってしまうかもしれません。
現在の日本はデフレすなわち需要不足、通貨不足です。供給能力は余っており、それ故にデフレで経常収支黒字国なのです。
そんな国が、「大震災の連鎖」という極めて深刻な危機を迎えようとしています。無論、首都直下型大地震も、西日本大震災(東海、東南海、南海地震のこと)も、今後、数十年は起きないかも知れません。
しかし、もし起きたらどうなるのか? 過去の事例を見る限り、大震災の連鎖の確率は極めて高いのです。
日本は今こそ、国内の供給能力をフル稼働させ、東日本大震災の復興および全国の耐震化に努めなければならないのです。お金は、政府が日銀に通貨を発行してもらい、使えば済む話です。政府が方針を明確にし、インフレ率がプラスになれば、民間が投資を始めるでしょう。
政府や民間の投資はGDPの需要項目です。すなわち、日本国民が将来の震災の連鎖に備え、国土やインフラストラクチャー、生活基盤の強靭化に備えれば、GDPが成長していきます。
GDPが成長すれば、国民の所得が増え、税収が増え、財政が健全化すると同時に、将来の日本の安全のために投資できる原資が増えます。日本のGDPが1000兆円に増えた段階で、首都圏や西日本が大震災に見舞われても、我が国は速やかに回復することができます。
ところが、このままデフレや耐震化を放置し、GDPが300兆円に縮小した段階で大震災に見舞われたら・・・・。しかも、大地震が首都圏を直撃し、政府機能がマヒし、自衛隊の出動さえ出来なくなってしまったら・・・・。
恐らく、アメリカは世界の混乱を避けるために、日本を再占領するでしょう。すなわち、日本国民が主権を持つ日本国が、終焉を迎えるということです。
日本国を、そんな有様にするわけにはいきません。もちろん、何とかしなければならないわけですが、「何とかできる」のは、わたくしたち日本国民以外にはいないのです。
投稿: | 2011年8月29日 (月) 20時18分