日経日本経済モデルによる消費税増税の影響の解析(No.106)
野田内閣は政府・民主党は30日、消費税率を2014年4月に8%、15年10月に10%に引き上げることを柱とする社会保障と税の一体改革の原案を確定した。消費税増税が与える影響を日経のNEEDS日本経済モデルを使って計算した結果を以下に示す。日経は消費税増税賛成なのだから、増税に有利になるように歪んだモデルになっているかもしれないことを念頭に置いて、以下の計算を評価していただきたい。消費税収の増加を以下に示した。10%にすると1年目は11.28兆円の増加となるが、だんだん景気が悪化し5年目には9.95兆円に留まる。
これがそのまま財政の健全化に役立つか(政府バランスの改善)と言えばそうではない。その理由の一つは、消費税増税のために政府支出も課税されて、それだけ多く支出をしなければならなくなる。第二の理由は、景気悪化で他の税収が減ってしまうことだ。下の表で分かるように、1年目には11.3兆円改善するが、その後景気悪化により改善幅は劇的に減少し、5年目には僅か2.55兆円しかない。5年間で60兆円近くの大増税を行ったにも拘わらず、たったこれだけの財政赤字の削減しかならない。
その理由は、景気の悪化のためそれ以外の税収が減ったためである。例えば法人税や所得税は以下の通りである。その他地方税まで考えて計算すると上記の政府バランスの結果となる。つまり初年度には数十兆円という財政赤字を数分の1程度改善するものの、数年するとその効果は景気悪化で消されてしまうという結果だ。
消費税増税によって得られる税収をどのように「配分」するかを議論するというのは「捕らぬ狸の皮算用」に過ぎないことが分かる。消費税増税による景気後退のために、数年後には、その以外の税収がほぼ同額減っており、消費税増税は税収増にはならない。
次に、GDPへの影響を示す。
当然のことながら、景気悪化でGDPも減少する。ただし、1年目だけは、名目GDPが上昇する。これは価格が消費税分だけ上がるのでGDPに消費税分だけ上乗せされ、見かけの上では上昇したように見えるだけだ。もちろん、実質GDPだと1年目から下落する。10%の場合、5年後には23兆円も押し下げられる。約5%の下落だ。1000兆円の借金を5%減らすには50兆円借金を減らさなければならない。ところが5年間の政府バランスの改善額は、31.8兆円しかない。つまり、5年間で財政まで考えると景気が悪化しただけでなく、財政も悪化したことになる。つまり、事実上増収だとは言えず、増収分を社会保障の財源に充てようとする試みは完全に失敗するのである。
参考までに失業率の増加と金利の下落幅を上の表で示す。実際は、現在ほとんどゼロ金利であり、更なる金利下落は考えにくいのだから、そういった事情まで考慮に入れれば、ここに示した以上に景気も財政も悪化すると考えるべきである。
新聞各紙は、財政破綻を避けるため、消費税増税は避けて通れないなどと主張しているが、消費税増税が財政を改善するなどという予測は余りにも甘すぎ、楽観過ぎ、経済学的には何ら根拠が無い。
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