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2011年12月

2011年12月30日 (金)

日経日本経済モデルによる消費税増税の影響の解析(No.106)

野田内閣は政府・民主党は30日、消費税率を2014年4月に8%、15年10月に10%に引き上げることを柱とする社会保障と税の一体改革の原案を確定した。消費税増税が与える影響を日経のNEEDS日本経済モデルを使って計算した結果を以下に示す。日経は消費税増税賛成なのだから、増税に有利になるように歪んだモデルになっているかもしれないことを念頭に置いて、以下の計算を評価していただきたい。消費税収の増加を以下に示した。10%にすると1年目は11.28兆円の増加となるが、だんだん景気が悪化し5年目には9.95兆円に留まる。

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これがそのまま財政の健全化に役立つか(政府バランスの改善)と言えばそうではない。その理由の一つは、消費税増税のために政府支出も課税されて、それだけ多く支出をしなければならなくなる。第二の理由は、景気悪化で他の税収が減ってしまうことだ。下の表で分かるように、1年目には11.3兆円改善するが、その後景気悪化により改善幅は劇的に減少し、5年目には僅か2.55兆円しかない。5年間で60兆円近くの大増税を行ったにも拘わらず、たったこれだけの財政赤字の削減しかならない。

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その理由は、景気の悪化のためそれ以外の税収が減ったためである。例えば法人税や所得税は以下の通りである。その他地方税まで考えて計算すると上記の政府バランスの結果となる。つまり初年度には数十兆円という財政赤字を数分の1程度改善するものの、数年するとその効果は景気悪化で消されてしまうという結果だ。

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消費税増税によって得られる税収をどのように「配分」するかを議論するというのは「捕らぬ狸の皮算用」に過ぎないことが分かる。消費税増税による景気後退のために、数年後には、その以外の税収がほぼ同額減っており、消費税増税は税収増にはならない。

次に、GDPへの影響を示す。

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当然のことながら、景気悪化でGDPも減少する。ただし、1年目だけは、名目GDPが上昇する。これは価格が消費税分だけ上がるのでGDPに消費税分だけ上乗せされ、見かけの上では上昇したように見えるだけだ。もちろん、実質GDPだと1年目から下落する。10%の場合、5年後には23兆円も押し下げられる。約5%の下落だ。1000兆円の借金を5%減らすには50兆円借金を減らさなければならない。ところが5年間の政府バランスの改善額は、31.8兆円しかない。つまり、5年間で財政まで考えると景気が悪化しただけでなく、財政も悪化したことになる。つまり、事実上増収だとは言えず、増収分を社会保障の財源に充てようとする試みは完全に失敗するのである。

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参考までに失業率の増加と金利の下落幅を上の表で示す。実際は、現在ほとんどゼロ金利であり、更なる金利下落は考えにくいのだから、そういった事情まで考慮に入れれば、ここに示した以上に景気も財政も悪化すると考えるべきである。

新聞各紙は、財政破綻を避けるため、消費税増税は避けて通れないなどと主張しているが、消費税増税が財政を改善するなどという予測は余りにも甘すぎ、楽観過ぎ、経済学的には何ら根拠が無い。

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2011年12月23日 (金)

おかしな統計数値が政策判断を誤らせたか? 1990年代の家計調査(No.105)

(これは日本経済復活の会 幹事 松浦昇氏の論文です)

私は以前から、「消費性向が低い高所得階層の所得税を減税して、その財源に逆進性の強い消費税を当てれば、所帯数が大きく消費性向が高い、中以下の階層の可処分所得減を通じて、消費支出減→名目GDP低下のメカニズムが働き、成長を阻害することが明らかなのに、何故、橋本財政改革では直間比率是正が強行されたのか?」と言う疑問を持ち続けて来ました。

一応は、「サプライサイダーの毒気に当てられ、レーガン・サッチャー主義の流行に乗った失策」と考えて居たのですが、最近見つけた文献によると、税制改革の効果を見積もるに当たっては、所得階層別の消費行動に着目するアプローチが行われて居て、サプライサイダー云々は勝手な邪推だったことが判りました。

しかし同時に生じたのは、所得階層別の消費行動」を見積もるベースである「所得階層別の消費統計」が、1990年台には、かなり狂って居たのではないか?と言う疑問です。この判断の切っ掛けになったのは、1998年に、当時は東大の助手だった土居丈朗氏(現在は慶応大学教授)による「平成11年所得減税のねらいー所得階層別に見た消費支出への効果―」と言う論文です。推論のベースとなった所得階層別消費支出は表2にあります。

表 2

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 ところが、この表にある、所得階層別平均年収と平均消費性向を、今まで私が扱って来た東京都の「都民のくらしむきにある7分位階層別の家計データや、最近公表される様になった、総務省の所得10分位別家計調査の結果と同じグラフ上にプロットして見ると、非常に異なった値を示すことが判りました。

この事は、総務省のデータベースには、「所得10位別の年次統計」が、最近まで公表されて居なかったので、利用する機会が少なく、気が付きませんでした。

図 1  所得階層別年収と消費性向の関係

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グラフ上のトレンドは、10分位データを、次の拡張成長曲線で近似した推計値です。

Y = C+a・X+(K+b・X)/(1+m・Exp(-ρ・X))               (1)

Y 消費性向   C =  100
X 年収平均   a = -0.4
           b = -1.0
                 K =  -78
                 m = 1800
ρ  = 2.86

図 2 で見ると、土居論文では高所得層の消費性向が著しく過大に見積もられて居て、この結果として「直間比率是正」のマクロ経済的悪影響を過小評価し、その後の、GDPと税収の著しい減少を招いたことが判ります。

ただ、1990年台の統計は、現在の総務省のHP上に公表されて居ないので、元の数字が狂って居たのか、または土居氏の統計処理に問題が在ったのかは不明です。
 

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