日経日本経済モデルによる公共投資の影響の解析(No.115)
公共投資は無駄の象徴として、近年減らされ続けた。昨年の大震災を経験し、本当に公共投資は無駄なのかを再検討すべき時に来ている。公共投資を減らしたものの財政は改善せず、国の借金はますます増えている。しかも大震災に対する復興事業として、公共投資を増やさずにいられなくなっている。ここで、日本経済新聞社の日本経済モデル(NEEDS)を使い、公共投資を増やした場合の影響の試算を示すことにした。
まず名目GDPの伸びを示す。
名目GDPの増加幅(兆円)
例えばこの表の右上の127.8702という数字は、5年間、毎年50兆円の公共投資を続けた場合、名目GDPは公共投資を増やさなかった場合に比べ名目GDPが127.8702兆円増えるということを意味している。ただし、この規模で本当に公共投資を増やすことが可能なのか、入札不成立が続出しないかなどという疑問はあり、公共投資の増額には限度があるのではないかということは検討課題とし、ここではNEEDSから得られた結果をそのまま掲載する。
実質GDPの増加幅(兆円)
名目GDPの伸びの一部は物価上昇から来ていることが分かる。次にインフレ率を示す。
投資が偏ると、その分野の人件費を押し上げるので、それに引っ張られ全体の物価に影響を及ぼすと考えられる。経済全体を引き上げるような投資のほうが、更によい結果が得られるかもしれない。次に民間設備投資を示す。
実質民間設備投資の増加分(兆円)
公共投資の増額に刺激され、民間設備投資も増えている。
法人企業営業利益の増加分(兆円)
法人企業営業利益は2年目でピークになる。雇用者報酬が増えているので、それに利益の一部が奪われたのが原因の一つ。
1人当たりの雇用者報酬の伸び(万円)
1人当たりの雇用者報酬が伸び続けるから、所得税収は伸び続ける。可処分所得が増え消費が伸びる。
実質民間最終消費支出の増額分(兆円)
建設業界で人手不足が深刻になる。
失業率は改善する。ただし、公共投資を重視しすぎると、雇用のミスマッチが深刻になる。次は、財政赤字を考える。
政府バランスの変化(兆円)
国の借金のGDP比はどうなるだろうか。内閣府によれば2011年度の名目GDPは470兆円と見込まれている。財務省発表では2011年度末の国の借金は1024兆円であり、これはGDPの218%である。上記政府バランスの5年間の数字を加えると、50兆円の景気対策の場合は-66.5兆円となる。これだけ国の借金が増えるとすると国の借金の増加率は6.5%だ。一方名目GDPは127.8兆円増加するから、27.2%も増加することが分かる。つまり5年後の国の借金のGDP比は182%にまで減少し、将来世代へのツケを大きく減らすことが分かる。
法人税の増加分(兆円)
法人税収は大きく伸びている。これは企業の営業利益と関連がある。
所得税収の増額分(兆円)
デフレは借金を重くすることは、誰もが理解している。デフレ下で、国の借金は増え続けている。しかしいつの日が、日本もインフレ経済に移るだろう。インフレは国の借金を消してくれるが、適正な投資を行わなかったためのインフラ整備の遅れは、次世代へのツケとしていつまでも残る。電力不足、電気料金の高騰、震災復興の遅れ、道路渋滞、高速道路等の老朽化等、ただちに巨額投資を行わなければならない事業は山積している。公共投資は将来世代へのツケを増やすのでなく、減らすのだというのがこの試算の結論である。
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コメント
連日の更新、お疲れ様です。higashiyamato1979でございます。公共投資の重要性は本ブログや三橋氏のブログを読まれている方なら百も承知でしょうがやはり詳細なデータを提示した上で論じたほうが説得力がありますね。また、本エントリーにある「公共投資を重視しすぎると雇用のミスマッチが深刻になる」は大変重要な指摘だと思います。若年層が元気が無い理由のひとつは希望するポストの採用があまりにも少ないことだからです。
それでは決まり文句! お金が無ければ刷りなさい!労働はロボットに!人間は貴族に!
投稿: higashiyamato1979 | 2012年3月15日 (木) 18時42分
公共投資と雇用のミスマッチですが、GDPを高めるためにはまずは政府最終支出を増加させる必要があります。(三橋ブログより)
まずは公共工事を拡大し、それにつれて他産業も拡大し、次第にミスマッチは減っていくと思います。
この辺をもう少しご解説ください。後、職はあっても有期雇用であれば、若者は魅力を感じません。年金制度なども終身雇用をベースに
作られたものであります。その点を意識しなくては若者は希望をもてないと思います。
投稿: | 2012年3月16日 (金) 20時08分
公共投資を行うときは、5年計画とか10年計画に基づいて行うべきでしょう。2~3年で打ち切られるような事業だけでは、若喪にに魅力を感じさせないでしょう。やはり、医療、福祉、介護、教育、科学技術等、投資すべきことはたくさんありますから、同時に始めれば全国の労働資源を有効に使うことができます。ロボットへの投資は重視して欲しいですね。キャノン等はロボットを使った工場をどんどん進めてますし、中国あたりでもiPhoneをロボットに作らせ、そのロボットもロボットに作らせて人件費を減らそうとしてるそうですね。ロボットで中国に負けたくはないですね。
投稿: 小野盛司 | 2012年3月18日 (日) 10時16分
ロボットにロボットを作らせる?
人間過剰、労働力過剰の中国で?
なんです、そりゃ?
中国は慢性デフレにむけてまっしぐらですか。
以前、少しお話ししましたが、労働をロボットに委ねるのは慎重であるべきです。
労働は今後も人類の本質的なものでありつづけるでしょう。もちろん賃金労働の形態が変わるだけなら話は別です。
一方、人間の能力をハイテクで拡張するのは大いに進めるべきだと思います。
現在、だいたい2〜3%が日常生活の支障を抱えている肢体不自由者・高齢者です。50人にひとり以上と言うのはかなりの高率です。
しかしロボットスーツの普及があれば、相当数減らせます。
現在不自由な思いをされている方々のかなりが、走ったり、泳いだり、労働に勤しんだり出来るようになります。
サイバーダイン社に遠い合わせた所、現在、四肢の衰えや不具飲みを対象に製造していますが、近い将来は脊椎分離や湾曲にも対応できるそうです。数年とおっしゃってました。
また、ブレインマシーンインターフェース(世代的にはサイコミュと言いたいですが)の開発の具合によっては頚椎損傷や脳性麻痺の方であっても、体を動かすことが出来るだろうとのことです。
こういう技術で身体の補助あるいは代替が出来るようになっても、労働市場が不公正で搾取されたり、デフレ経済で労働が報われないのであれば、これらの方々を新たな地獄に落とすことになります。
技術の発達と経済の発達(量的拡大と配分の公正)は歩調を同じくしなければなりません。
おそらく大企業経営者と一部有力政治家はこの視点を持っていません。
それが腹立たしい。
投稿: S | 2012年3月18日 (日) 20時59分
現在の日本に必要なのは、デフレ対策です。デフレに苦しむ現在の日本は、新自由主義者がお嫌いの「政府による資源配分」
を増やすべきと思います。
特に、有効需要としての「投資」拡大が何よりも望まれます。法人税を減税し、企業の可処分所得を増やしたとして、
内部留保に回るだけならまだしも、株主への配当金が増えるだけなのではないの、との見方もあります。
どの方法が国民にとって有効なのでしょうか?
投稿: | 2012年3月23日 (金) 20時57分
国がお金を刷って多額の財政出動をしても、当面は企業は将来の不安のため、内部留保をため込む。
しかし、国民(労働者等)に行き渡らせるためには、多額の財政出動をし続けるしかないでしょうか?
投稿: | 2012年3月25日 (日) 10時02分
平成2年にはじけたバブルとそれに続くデフレ状況を突破するためには、この間、最も価格下落した「地価」問題に正面から立ち向かうべきだと考えます。
詳細を省くとして、デフレ対策には、銀行の融資にあたっての担保評価としての「地価」を上げることだと提案します。
路線価評価額の三倍に評価した地価をもって「担保評価価格」として、その8割をもって融資を行う。
企業の土地および建物建設への投資意欲が高まれば、建設業界をはじめ様様な物への需要が高まり、経済が活況化するであろうと、考えます。
投稿: 車屋久兵衛 | 2012年3月29日 (木) 17時22分