アベノミクスは砂上の楼閣 ―消費税増税で崩壊の危機―(No.130)
5月23日、日経平均株価は1万5900円から暴落し一気に1500円近く下げた。中国の景気指標悪化が原因だと言われている。消費税増税は、これに比べれば景気への悪影響は桁違いに大きいから、アベノミクスを跡形も無く崩壊させる可能性がある。長年株価下落で苦しんだ投資家は、僅かの悪材料でもすぐに資金を引き揚げることを忘れてはならない。
1 主要民間シンクタンクの経済予測
最新の実質GDPの予測(伸び率:%)は次のようになっている。
2012年度 2013年度 2014年度 2015年度
日経センター 1.2 2.6 0.4
三菱総研 1.2 2.6 0.4
みずほ総研 1.2 2.7 0.6
ニッセイ基礎研 1.2 2.6 0.0 0.8
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平均 1.2 2.6 0.4 0.8
2013年度はアベノミクス効果もあってか、結構なGDPの伸びであるが、2014年度になると消費税増税のお陰で成長率は大きく落ち込む。2%のインフレ目標どころの騒ぎでは無い。我々がうんざりしている不況がまたやって来る。
不況の原因は消費税増税で実質所得が減少したことによる消費の落ち込み、駆け込み需要の反動と景気対策を続けなかったための財政削減効果などだ。次に民間最終消費(実質)の予測(伸び率:%)を示す。
2012年度 2013年度 2014年度 2015年度
日経センター 1.6 1.9 -0.7
三菱総研 1.6 1.8 -0.2
みずほ総研 1.6 2.2 -1.2
ニッセイ基礎研 1.6 2.0 -1.3 0.3
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平均 1.6 2.0 -0.9 0.3
当然の事ながら需要不足の現在、消費の伸びなくしてデフレ脱却はあり得ない。2年後デフレ脱却どころか、デフレは悪化するという予測だ。2015年度には更に過酷な増税が待っている。次に景気に大きな影響を与える民間住宅投資(実質)の予測(伸び率:%)を示す。
2012年度 2013年度 2014年度 2015年度
日経センター 5.3 9.3 -6.0
三菱総研 5.3 6.7 -3.8
みずほ総研 5.3 7.6 -8.4
ニッセイ基礎研 5.3 9.0 -13 1.4
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平均 5.3 8.2 -7.8 1.4
これで分かるように消費税増税は景気に深刻な悪影響を与える。アベノミクスによる株価高騰で株式時価総額は160兆円も増加したと言われている。消費税増税によりそれを一夜にして失ってよいのだろうか。消費税増税による税収増は僅か8兆円足らずにすぎないというのに。
2.浜田宏一内閣官房参与が消費税増税先延ばしを提言
5月24日号の週刊朝日で浜田宏一氏が消費税増税を先延ばしするように進言している。デフレ下で増税を行って経済が回復した例は無いとし、消費税増税を実施するための条件は次の3つだとしている。
① デフレギャップが解消されること
② 失業率が3%台に下がること
③ 有効求人倍率が1.5倍~2倍にまで上昇すること
消費税は景気の上向きの芽を摘む。財務省は増税リスクを説明すべきだと浜田氏は主張している。
またFACTA 2013年6月号には次の見出しで高橋洋一氏の記事が掲載されている。
消費税増税「来年スキップ」浮上 英国の二の舞を避けよ。マネーストックは2年後の経済を決定する。増税はインフレ目標を達成してからでいい。
3.実質GDP 1-3月期 3.5%成長 の実態
2013年1-3月期の実質GDPは前期比年率3.5%となったことで、景気回復と思った人がいるかもしれない。しかし景気の実感は名目GDPに関係している。名目GDPの推移を下図で示した。内閣府の名目GDPのデータによると、1997年10-12月期は524兆4361億円だったのに、2012年10-12月期には473兆1483億円、2013年1-3月期には474兆8873億円になった、つまり今期は前期に比べ1兆7千億円増加しただけだ。しかし16年前と比べると、まだ49兆5千億円も減少している。この間に中国に抜かれてしまい世界第3位に転落した。このペースで増加していくと1997年のレベルまで回復するのに
29年もかかってしまう。こんな経済状態で消費税増税を行い更に経済発展にブレーキをかけてよいのだろうか。
国際的にも日本の経済不振は際立っている。次の図は2005年を100とした、先進5カ国の名目GDPの比較である。諸外国はリーマンショックの水準と取り戻し、更に発展し続けているが、日本だけはその水準よりはるか下のレベルだ。
もっと長期的にも日本経済の凋落は明らかだ。1993年を100として比較して下図に示した。これらのグラフを見て、日本経済の低迷は深刻であると分かる。失われた20年の絶望の中で、アベノミクスはかすかな希望を日本人に与えてくれた。しかしその希望の光を絶ってしまったら日本の経済回復のチャンスは二度と訪れないのではないか。賃金が上がらない中で、消費税増税で物価だけが上がってしまったら、消費は低迷、需要不足は更に深刻化する。弱体化した日本経済を襲うのがTPPなど市場開放で、国際競争の荒波に身をさらして、本当に生き残れるのだろうか。
外国人投資家が逃げ去り、再び株安に陥った日本で何ができるだろう。金融緩和策も万能ではない。行き過ぎた円安は諸外国からの厳しい批判を浴びるだろう。
国を貧しくしてしまったら、巨額の国の借金は返せない。アベノミクスの提唱者浜田宏一氏の助言に従い消費税増税は延期し、景気回復に全力を尽くし、本格的に景気が十分回復してから財政健全化の方法を考えるべきではないか。
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コメント
今晩は。higashiyamato1979でございます。コメントが遅れ申し訳ありません。体調不良の為今日は一言だけです。「祖国日本に栄光あれ!」
それでは決まり文句! お金が無ければ刷りなさい! 労働はロボットに!人間は貴族に!
投稿: higashiyamato1979 | 2013年6月 1日 (土) 21時04分
・消費税導入(1989年)で翌年バブル崩壊(1990年~)
・消費税率2%アップ(1997年)で翌年デフレ突入(1998年~)
ま~ね~、GDPのエンジンは消費活動ですからね。消費行動に対して抑制効果をもたらすのが消費税なんですから
GDPを増やそうとする時期(デフレ→インフレの移行期)には一番導入したらいかん課税方式なんですよ。コレ、アダムの林檎ですわ。
金融経済の金がダブついて実体経済に金が回らないから不況なんですよね?
だったら、金融経済そのものである株式やFXの売買、M&Aや株式上場やら企業買収とかに課税した方が税収増えますよ。
「市場取引税」と称して、株式やFXやらM&Aとか債券などの金融市場での売買行為全般に対して、消費税と同等の税金をかけるべき。
加えて、上場企業に対する「上場税」みたいなものは、きちんと徴収すべきですよ。何のための上場なんですってばw
あと、株式市場が活況になると、株価に連動して黒字利益の企業が増えるから、法人税増税も効果大。減税ではなくて増税です。
法人税は、「企業の利益に対する課税」であるから、赤字企業は法人税の課税対象外です。
このため、法人減税には赤字企業に対する救済効果はゼロであり、黒字企業からの税収は減少をもたらします。
むしろ、好況時に黒字企業からがっぽり法人税を毟る方が、税収は増えるということですね。
投稿: ばしくし | 2013年6月 8日 (土) 00時39分