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2013年6月

2013年6月24日 (月)

インフレが暮らしを豊かにする(No.135)

日本人はインフレを嫌い、デフレを好む。世界中捜しても、そんな国は日本だけだ。デフレは国の経済を縮小させ国を貧乏にし、国民はどんどん貧乏になる。民主党政権はそれにおかまいなしだったから国民の支持を失った。今回の都議会選ではなんと第一党から第4党へ転落した。安倍政権になってから「輪転機をぐるぐる回しお金を刷る」政策、アベノミクスを始めた。麻生財務大臣も日本の借金はお金を刷って返せばよいと発言した。デフレを脱却し、インフレを目指す政策に転換したことは、大変な進歩だ。

毎日買い物をしている主婦にとっては、インフレは大敵だし買い物に行って値上がりしていたら頭にくる。一日に何回も憤っているのかもしれない。一方で給料が上がるのは年に一度か二度程度。つまり、一年に2~3000回憤って、1~2回喜ぶ。だからインフレは怒りのほうが喜びより1000倍以上大きいのだろうか。過去130年間の賃金と物価の推移をグラフにしてみた。

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物価より賃金のほうがはるかに上がっていることは明らかだ。それだけ物が多く買えるようになった。130年前は1年間一生懸命働いても、やっと家族を養うだけの賃金しか稼げなかった。不作の年は飢餓に直面した。今は最悪でも生活保護があり、手続きさえすれば飢え死にはしない。安い外米を輸入しても買う人はおらず、高くてもおいしい米が売れる。その意味でも130年前との違いはグラフに示されるもの以上だ。さらに、現在入手できる多くのものは130年前には入手できなかった。テレビ、スマホ、メール、抗生物質、航空券等は入手不可能、つまり130年前には無限大の価値があったものだ。

ところで上図では戦前はどうなっていたか分からないので、対数グラフにしてみよう。

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賃金のほうが物価以上に上がっていたというのは戦前からだったことがわかる。つまり、インフレにもかかわらず、暮らしはどんどん改善されてきた。しかし、デフレの続く平成において状況は一変した。

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世界中で日本だけがデフレ経済で、平均給与(国税庁発表)の値下がりは物価の下落より大きい。デフレ時には積極財政や減税で国民にお金を渡せば、簡単にインフレ経済に戻ることができる。消費を増やせばよいだけだ。しかし、不幸なことに、日本人は財政健全化と少子高齢化対策として緊縮財政、増税が必要だと思い込まされてしまった。しかしデフレ時に緊縮財政は国民からお金を奪い、デフレを悪化させるので財政健全化にも少子高齢化対策にも悪影響を与える。このことに気付いた国民はアベノミクスを支持し、少しずつデフレ脱却へと歩み始めている。

かつて松方デフレの際にも賃金のほうが、物価の下落よりきつかった。

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これは西南戦争の戦費調達のため、政府はお金(政府紙幣)を刷りインフレになった。このインフレを解消しようと大蔵卿松方正義が紙幣を回収し、焼き払った。増税を行い歳出も削減したので激しいデフレをなり、農民の生活を困難にした。これは松方デフレと呼ばれている。その後、インフレ経済に戻ると、賃金のほうが物価以上に上昇している。

次に戦後のインフレの時代を見てみよう。ハイパーインフレとまではいかないが10%以上なのでギャロッピング インフレーションと呼ばれる。インフレで生活はどうなったのだろうか。

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焼け野原になった日本は戦後物不足に襲われ、傾斜生産方式による復興政策が始まると復興金融金庫から鉄鋼産業と石炭産業に大量の資金が融資された結果、復興インフレが発生した。インフレを止めるため1949年にドッジ・ラインが導入され、インフレは止まったが賃金は上がり続けた。1950年~1953年の間、朝鮮特需のお陰で日本経済は大きな恩恵を受けた。戦後の高いインフレで暮らしは悪化したのではなく、生産の回復で急速に暮らしは楽になっていった。

次に戦後の高度成長期を見てみよう。

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高度成長期には、物価も上がった。1974年にはオイルショックで23%も上がったが、それ以外の年でも数%程度ののインフレ率で、今では考えられない数字だ。しかし、このグラフでも分かるように、賃金の上昇はそれをはるかに上回り、急速に生活は改善されていった。

次に戦前のデータを示す。

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これで分かることは、戦前も賃金のほうが、物価よりずっと速く増えていたことだ。この間で大きく物価が上昇したのは、第一次世界大戦の時だ。戦争特需で巨額の外貨を稼いだ企業が外貨(正貨)を円に替え、その円が大量に日本で出回ったためにインフレになった。しかし長期的に見れば賃金のほうがもっと上がったので、暮らしは楽になった。よく見ると1920年~1929年の間はデフレなのだが、それでも賃金は上がっている。ここで考えられる理由は労働運動の盛り上がりだ。次のグラフで分かるように1917年からストライキの件数も参加人数も急上昇している。

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第一次世界大戦頃の様子をもっと詳しく見てみよう。

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第一次世界大戦の間は、成金が手に入れたお金で商品を買いまくり、また国内で生産されたものをどんどん輸出したため、国内では物不足となりインフレを加速させた。またお金が一般国民に広く行き渡ったわけでなく、多くの場合、労働者、サラリーマン、官吏の生活はかえって苦しくなった。一方で大金を手に入れた成金たちに対し、一般国民は「俺たちにも分け前をよこせ」というわけで労働運動も活発になった。大戦景気の労働需要の高まりや大衆運動勃興の影響で、労働者間でも権利を求める活動が活発化し、やがて、労働争議の頻発に呼応して労働組合として性格を強めた。

1920年3月15日の東京株式市場の大暴落に端を発した1920年恐慌は、それまでにない大幅な価格の暴落、企業の倒産を引き起こした。しかし、日銀特融で最悪の事態は逃れた。その後も企業は支払い能力はあるとして労働組合の要求は続き、賃金は上がり続け生活は改善されている。

この例からも明らかなように、我々現代に生きる者として、次の世代に豊かな国を手渡すために必要なことは、生活を改善するよう政府に強く要求することだ。消費税増税阻止、歳出を拡大し、医療・介護・福祉・教育・社会インフラ整備、補修等に思い切った予算をつけ、デフレを脱却せよと声を上げよう。

結論としては、インフレを過度に恐れる必要は全く無い。今、万一財政が破綻し、国債が暴落し、国債に流れ込んだ資金が一気に流れ出て急激なインフレを引き起こしたとしても、過去の経験からして、それは国民の生活水準をむしろ引き上げるし、国の借金のGDP比を大幅に引き下げる。また国債の再暴落の危険も去り、円安が進み国内企業が活性化する。デフレから脱却ができ、給料も上がり始める。日本人にとって夢の世界ではないか。資産を現金で持っている人は、国の内外の株や投資信託に移しておけば、国債から流れ出た資金が一気にそれらに流れ込み、その資産が値上がりしインフレでも価値は失われない。

参考にした文献
明治以降本邦主要経済統計 日本銀行
日本統計年鑑 2 1950年
日本統計年鑑 3 1951年
長期経済統計 8 物価
大正デモクラシーの政治経済学
概説日本経済史

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2013年6月18日 (火)

国の借金「刷って返せばいい」 ―麻生財務相のこの発言は正論(No.134)

久々に素晴らしいニュースが入ってきた。

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国の借金「刷って返せばいい」=財政ファイナンスを容認? ―麻生財務相

時事通信 617()2221分配信

 麻生太郎副総理兼財務・金融相は17日、横浜市内で行った講演の中で、国の借金が膨らんでいる問題について「日本は自国通貨で国債を発行している。(お札=日銀券を)刷って返せばいい。簡単だろ」と述べた。財政法が禁じている、財政赤字を日銀の貨幣発行で穴埋めする「財政ファイナンス」を連想させる発言だけに、会場からどよめきが起きた。
 ただ、麻生氏は「お金を出し過ぎて信用がなくなったら金利は上がる」とも指摘して、際限のない通貨発行には否定的な認識も強調。その上で、「日本の借金は970兆円に膨らんだが、金利は上がっていない。日本は財政破綻の危機ということはない」と締めくくった。 

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130617-00000151-jij-pol

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国の借金「刷って返せばいい」ということが、日本国民に理解されていたら、日本は20年を失うことはしなかっただろう。「お金を刷ってはいけない。国の借金は税金で返さなければならない。日銀が国債を買って財政をファイナンスすれば、制御不能なインフレ、ハイパーインフレになる。」などと脅されて、日本はデフレから脱却する手段を失っていた。

それに対して日本経済復活の会は10年前から「お金がなければ刷りなさい」と言い続けてきた。それに従ったアベノミクスは国民に支持されている。政府が市場で発行 する国債の約7割を日銀が買うということは、もちろん財政をファイナンスすることだ。それはデフレ脱却には不可欠なことであり、国際的にも支持されている。日銀は形の上では民間企業だが、事実上国の一部だ。民間企業に通貨発行特権など与えたら大変だ。

 

政府が国債を発行して国民(主に金融機関)に買ってもらう。このことを「国が国民から借金した」と言っている。当然のことながら国の一部である日銀がお金を刷って国債を買ったら、それは「国が国民から借りた借金を返した」と言うべきだ。つまり今、日銀が国債を買っていることは麻生さんの言うように「お金を刷って借金を返している」ということだ。一度返してしまった借金は、国民の税金で返さなくてもよいのは当然だ。だから、日銀が買い取った借金は「国の借金」からはずすべきだ。今のペースでは2年後にインフレ率2%の実現はとうてい無理で、せいぜい0.6%にしかならないと民間シンクタンクは言っている。それなら、約束を守るために更に大規模に国債を買って借金返済のスピードを早めたらどうか。みるみる返済が進む国の借金を見て国民もきっと安堵し、自信を取り戻すに違いない。

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大正時代の女房一揆から学ぶ「平均給与減少でデフレ悪化の悪循環」を絶つ方法(No.133)

アベノミクスは期待するが、本当に給料は上がるのだろうか。政府は消費税増税で国民からお金を取り上げ、消費を冷やし、それを企業に渡し投資を促進しようとしている。しかし、消費が減ったら企業は設備投資などやらない。順序が逆だ。まず消費を増やす政策を行い、それで企業に設備投資を促さなければならない。

デフレが長引いている原因の一つは物価の下落以上に給料が下がっていることだろう。これでは消費が落ち込み景気は回復しない。

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賃上げを要求すると解雇され会社側は別な人を雇うだろうと思っているから労働組合もストライキを打てない。小泉さんのように「痛みに耐えろ」という政治家もいて、ますます需要が落ち込み経済が縮小していく。これにくらべ、大正バブルの後に起こったデフレでは物価が下がっても給料は上がった。大正バブルに関しては以前も書いたことがあった。
http://shimotazawa.cocolog-wbs.com/akebi/2012/10/post-08cf.html

大正3年から大正7年までの第一次世界大戦では、日本は戦場にはならなかった。逆にヨーロッパ諸国は一般商品の生産ができず、日本に軍需品や日用品の注文が殺到した。それまでヨーロッパから輸入していた東南アジアやアフリカからも日本に注文がきた。また船賃も急上昇し、日本の海運業も巨額の利益を得た。その結果、大金を稼いだにわか成金が次々と生まれた。

その成金連中が手に入れた外貨を円に替え、国内の商品を買いまくった。もちろん、そのような巨額の外貨を円に替えられるような銀行はなく、日銀が円を刷りまくって両替を行ったわけだ。成金連中がそれを使い始め、たちまち国内は物が足りなくなってインフレになった。インフレ率は大正7年からは30%を超えたが政府は「インフレは成功の報酬だ」「インフレを止めれば景気が悪くなる」として止めようとせず、設備投資を促した。また日銀も利下げをしてそれに協力した。もちろん、このお陰で重化学工業の発展もあり、日本にとってプラスの面はあった。

しかし、成金達は更にカネを稼ごうと米を買いだめしていき、庶民には米が入手困難になってきた。この原因としては三井物産や鈴木商店などの大米穀商人たちが、米の値上がりを見越して買いだめをしていった。シベリア出兵という話が伝わっており、もし出兵が決まれば米の値上がりが期待できた。買いだめのおかげで、米価は急騰し、庶民の生活を圧迫した。当時、米代は家計の実に74%もあったという。児童の中にも欠食するものが増えてきた。政府もこのような悪徳商人の取り締まりをしなかったのは、三井などの大商社や大地主が政党の地盤となっていたからである。

大正7年、富山県魚津町の婦人たち3,4人が、井戸端会議をしていたとき、行動を起こそうという話になった。近所の家々を回り仲間を集めた。これが発端となり「女房一揆」が起こった。子どもに食べさせる米もないというとき、女性達は命がけで闘った。やがて男性まで巻き込み暴動にまで発展した。当時の新聞をみれば、その激しさがわかる。

神戸大学付属図書館の資料よりいくつか引用する。
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/directory/sinbun/vlist/kome12.html

大阪全市を恐怖に陥れたとのこと。
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100名の兵士が群衆に一斉射撃をしたという衝撃的な記事もある。ただし空砲とある。

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戦場のごとき大混乱だそうだ。それにしては扱いが小さい。言論統制の下で、これだけしか書けなかったのだろう。
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米騒動で市民23万人も集まったそう。これも警察発表だから実際はもっと多かったのだろう。

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こちらは死者12名とある。
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米一揆だけでなく、労働組合も強かった。結果として、物価の上昇率より賃金の上昇率のほうが大きかった。ただし、第一次世界大戦中は物価のほうが賃金以上に上がっていて、国民の活動が激しくなってきてから、それが逆転していることが分かる。1921年には物価は下がっているのに賃金は上がっている。もしも国民の活動がなかったら、富は少数の財閥に集中し、日本の発展を阻害していたかもしれない。

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現代もそういった危機にあるのではないか。政府は消費税増税で国民からお金を取り上げ、消費を冷やし、それを企業に渡し投資を促進しようとしている。これはすでに様々なエコノミストから指摘されていることだ。きちんと国民が主張しなければ、日本は格差社会になってしまう。6月15日の朝日新聞にもノーベル賞を受賞した経済学者のスティグリッツが「格差是正への配慮再分配を工夫せよ」と主張している。

多くの国民にお金を渡せば、需要は拡大し、企業に利益をもたらし、設備投資が進み国際競争力が向上する。それがデフレ脱却の王道だ。国民にお金を渡す方法は減税でも給付金でもよいし、財政を拡大する方法でもよい。教育、医療、介護、エネルギー開発、必要な公共投資等やるべき仕事はいくらでもあるだろう。

赤字が拡大しても国債は日銀が買い支えれば暴落しない。日本以外のどこの国でも容認している程度のインフレは、日本も受け入れれば良い。アベノミクスで景気はよくなりつつあると思っている人もいるかもしれない。確かに、補正予算での景気対策と、消費税増税前のかけこみ需要で若干景気が上向いているように見える面もある。しかし、これも一時的なもので来年度は再び景気が後退するというシンクタンクの予測を以前に紹介した。
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2013/05/no130-7cf3.html

私は、声を大にして言いたい。黙っていては日本はよくならない。大正時代、国民を救った命がけの主婦達の活動を見習おう!消費税増税粉砕!政府は大規模減税、財政出動をせよ!全国民よ立ち上がれ!夜明けは近い!

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2013年6月12日 (水)

安倍内閣の成長戦略が株安・円高の洗礼(No.132)

6月5日に安倍首相は,成長戦略第3弾を発表した。その日、約200円上昇していた日経平均は、約700円急落してしまった。派手な目標は並べたものの、実現のための具体策はなく市場は失望した。6月11日の日銀の黒田総裁の発表にも市場はネガティブに反応した。

今後10年間平均で名目成長率3%、実質成長率2%が目標だという。これは民主党政権の目標と同じだ。諸外国に比べ異常に低い目標だが、日本にとっては非常に高い目標だ。民主党はこの目標実現のために何らかの努力をしたのだろうか。いや、全く努力をしなかった。下の図は名目成長率のグラフだ。赤い線は、もしこの目標通りなら名目GDPはどうなったかを示している。下図で分かるように全くその気配はない。それどころか民主党政権の間に名目GDPは下がっている。

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アベノミクスで名目GDPは急上昇していると思っているかもしれないが、今のところほぼ横ばいだ。最近1~3月期の成長率が実質で4.1%になったと内閣府が上方修正されたと発表があった。上図は、この上方修正を反映して描いたグラフだ。これからどうなるかについては民間のシンクタンクが試算を出している。最新のものを次に示す。以前示したものは「大規模金融緩和の発表以前の予測だろう」と甘利大臣に言われたから、今度は大規模金融緩和の発表以後に発表された試算を示す。実質GDPの予測(伸び率:%)は次のようになっている。

         2012年度  2013年度  2014年度  2015年度
日経センター    1.2      2.6        0.4    
三菱総研      1.2      2.6       0.4    
みずほ総研     1.2      2.7       0.6                   
ニッセイ基礎研   1.2      2.6        0.0             0.8 

---------------------------    
      平均       1.2            2.6              0.4             0.8

2013年度は景気対策と増税前のかけこみ需要もありGDPは伸びるが、2014年度以降は消費税増税のお陰で伸び率が急落し、再び不況が日本を襲う。名目GDPの予測(伸び率:%)は次の通り。

          2012年度  2013年度  2014年度  2015年度
日経センター    0.3      0.9        1.6    
三菱総研      0.3      2.1       1.7    
みずほ総研     0.3      2.0       1.5                   
ニッセイ基礎研   0.3      2.0        1.4             1.4  

----------------------------   
      平均       0.3            1.8              1.6             1.4

13年度と14年度は名目成長率より実質成長率が高い。これはデフレが続いているためだ。この差をGDPデフレーターとよび、これがマイナスである限りデフレであるとされている。14年度以降はデフレーターがプラスになって、逆転現象が解消されているように思うかもしれないが、消費税増税の効果がある。例えば14年度から3%の消費税増税があり、その中で非課税のものもあるので、物価は増税のために2.1%上昇すると言われている。同様に15年度は1%の上昇があり、それにより名目GDPは押し上げられる。こういった消費税増税分を名目成長率から除けば、14年度も15年度もほぼゼロ成長だということになる。そう考えれば、少なくとも2015年度までデフレ脱却はできない。

仮に、消費税増税による物価上昇分を引くと14年度の成長率は-0.5%、15年度は0.4%だから13年度~15年度の平均で名目成長率は0.6%程度になり政府目標の3.0%には全く達成不可能ということになる。

もちろん、アベノミクスで民主党政権から改善された点は高く評価されるべきだ。例えば株が4000円程度上がった。これはGDPを約1.7兆円(0.3%)程度押し上げる。円安になった。例えば対ドル円相場が80円から100円になるとGDPは約2兆円(0.4%)押し上げる。また日経平均が4000円上がるとGDPは1.7兆円(0.3%)程度押し上げられる。これらを合わせても3%成長にはほど遠い。成長戦略と呼ばれる様々な政策にもGDPに大きく影響するようなものはない。

結論から言えば、消費税増税はアベノミクスを失敗に終わらせてしまう。アベノミクスを成功させるには消費税増税を延期し、大規模財政出動をすることだ。

5月27日に財務省の財政制度審議会は『財政健全化に向けた基本的考え方』というレポートを発表した。それによると日銀が大規模に国債を購入すると、だんだん物価が上昇してくるだろう。そうすると国債の購入を減らさざるを得なくなり、そのときは大幅な金利上昇を招くと述べている。

このようなレポートは実際の計量モデルを使った試算に基づいて書かれていないために、空理空論となっている。日銀が国債を大量に買ったからと言って、簡単に物価が上がるわけではない。アベノミクスで景気を刺激していくだけではインフレ率は2年後にやっと0.5%にしかならないと、民間シンクタングは予想している。物価上昇は需要が供給を上回ったときに起きるのだから、何らかの形で需要を増やす政策が必要である。次に日経NEEDSを使って計算した、2つの例を示す。

①毎年50兆円の減税を行う場合(マイナスの消費税も可能と考える):
これだけ大規模な減税を行っても5年後にインフレ率はやっと1.1%となった。
②毎年20兆円の公共投資を現在の予算に追加して行う場合:
5年後のインフレ率は1.5%

いずれにせよ、物価が上がってくるのはずっと先の事だ。そのとき国債の購入を減らしたら金利が上昇する。それを避けるためには、増税・売りオペ・預金準備率引き上げ等の方法もある。そんな事より、どうやってデフレ脱却をするのかという事を考えるべきだ。15年間もデフレ脱却に失敗している。①、②の例からもデフレ脱却は財政制度審議会が考えるよりはるかに難しい。全くデフレ脱却の見通しが立っていないときにインフレを抑える心配をするのは『取らぬ狸の皮算用』である。

景気はゆるやかに回復に向かっている。しかし、「財政再建」を名目に景気に急ブレーキをかけろという外野のヤジが激しい。ヤジに屈しない前に安倍・黒田両氏には政策のスピードを早めるべきだ。株や国債の激しい乱高下は市場を冷やしてしまう。株の急落に対抗して日銀がもっとETFを買うべきだ。国債の乱高下を押さえるために機動的に国債の購入額を増減させるとよい。財務省が国債を売り出す日に日銀は国債を買わないという規制は撤廃すべきだ。金利を下げ安定させたいのであれば、金利が0.6%以上にはならないよう、日銀が買い支えるとアナウンスするとよい。そうすれば国債暴落の心配が消え、政府も思い切った財政出動ができる。それにより資金が市中に流れ、需要が回復し、インフレ率が高まりデフレ脱却ができれば、こんな素晴らしいことはない。

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2013年6月 3日 (月)

スマートアグリ … 農業のIT化が国際競争力を飛躍させる(No.131)

5月20日、NHKのクローズアップ現代ではスマートアグリが取り上げられた。オランダは日本に比べ農地面積は4割しかなく、農業人口は約20分の1、緯度も樺太の北部に相当し寒く日照時間も短く、決して農業に最適な気候とは言えない。パートタイムの人件費も時給2000円と高い。しかし、農業輸出額では世界第2位だという。

農業輸出額ランキング
 1 アメリカ   1188億ドル
 2 オランダ   773億ドル
 3 ドイツ     667億ドル
 4 ブラジル   621億ドル
 5 フランス    616億ドル
  ・・・・
 51 日本      32億ドル

         日本        オランダ
農地面積   461万ha     192万ha
農業人口   290万人       15万人

このランキングから明らかなのは、農地が少なくても国際競争に勝てるということだ。逆に広い農地を持っていても、国際競争に勝てるとは限らない。それは以下の比較から明らかだ。

耕地面積ランキング
インド       :  1億6965万ha
オーストラリア   :   4716万ha
オランダ            :    192万ha

   
農産物輸出額
インド       :      173億ドル
オーストラリア   :    241億ドル
オランダ           :       790億ドル

当たり前の事なのだが、広い耕地面積があれば、農産物の競争力が上がるというわけではない。しかしそのような誤解が、「日本は農地が少ないから、農業は保護しなければならない」という間違えた考えが生まれている。

日本は畑さえ持っていれば国の減反政策で耕さなくてもカネが入るから工夫の必要が無い。こんなことをしている間に諸外国はITを使ってどんどん生産性を上げてきている。オランダの穀物自給率はわずか14%(2007年)しかない。つまり自給率を捨て安い農産物は輸入し、チーズなど高付加価値の農業に徹したところに成功の一因がある。戦争になったらどうするのかという言う人がいる。アメリカを含む世界中の国を敵にし、日本が経済封鎖をされたら北朝鮮と違い日本は生き残れない。日本のエネルギー自給率は4%しかなく、食料生産も燃料が無ければ農業用の機械が動かないので止まる。生産ができたとしても輸送する手段が無く、我々は死ぬしか無い。唯一生き残れる方法は平和に生きることだ。食糧自給率を上げようとする努力は無駄と言いたい。

オランダの成功を更に後押ししたのは、巨大なグリーンハウスだ。グリーンハウス内の湿度、温度、光はITにより徹底的に管理されている。これにより常に最高の環境を維持し、質の高い作物を効率よく栽培できる。害虫でさえ繁殖する前にその天敵の虫を放ち、農薬を使わずに駆除している。トマトやパプリカなど極めて効率的に生産をしている。

    出所:NHKクローズアップ現代

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パソコンでハウス内の環境を制御を制御する。害虫でさえ繁殖する前にその天敵の虫を放ち、農薬を使わずに駆除、トマト畑では6m以上の高さで、二酸化炭素濃度を高めることにより面積あたりの収穫は日本の3倍になる。

出所:NHKクローズアップ現代

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ITと言えば日本のお家芸だったはずで、日本ならもっと上手くできる。耕地面積はオランダよりはるかに広いし、減反政策で広大な耕作放棄地もある。しかも気候・日照時間等でもオランダより有利だ。現実問題では、農家が国からの補助金で生活できる「快適さ」が忘れられなくて、政治家が農業の生産性を上げる改革をしようとすると農家の猛反対に直面する。しかし、世界中で始まっている農業のIT化の流れは止まらない。アメリカやヨーロッパ、オーストラリアでは、ほとんどの農機にGPS受信機が搭載され、機械が自動的に肥料や農薬をまいているのだが、日本はそれができない。国際競争に敗れれば、保護政策で過酷で低収入で非効率な農業をいつまでも続けるか、消えていくかしかない。

日本にも積極的に農業のIT化の動きがあり、いくつか紹介する。
①アイメック農法 ・・・ オランダ農法の改良版
詳しくは次のサイトを参照して下さい。
http://www.agri.tohoku.ac.jp/agri-revival/houkoku/5.html
大地を止水シートで覆い、栽培部分と大地とを完全に遮断する。

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大地が細菌、塩分、放射能等で汚染されていても、植物は完全に守られるので、東日本大震災の被災地の復興にも役立つ。

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根毛がフィルムに付着し養分を含んだ水を吸うため、水の使用量は、従来の水耕栽培の10~20%ですむ。作物の栄養価を高め、糖分、グルタミン酸の含量は水耕栽培の2~3倍に、GABA、リコピンなどの機能成分は数倍に増加する。設備コストは、水耕栽培の数分の一でよく、土作りが不要なため全く農業の経験が無い人でも1~2年で栽培技術を習得できる。
農事組合法人和郷園、農業生産法人株式会社つくば菜園、など約20施設に導入され、総面積は27,000坪(9ヘクタール)に達している。トマト、メロン、きゅうり、パプリカ、レタスなどでアイメックス技術が確立した。
次の写真はアイメック農場の例(耕地面積600坪)である。

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わそう農園

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次の表で示すように、この農法により大変高い収益が得られる。

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また、水の消費量が少ないので砂漠の真ん中でも栽培が可能になる。
         ドバイのアイメックトマト農場

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②クラウドを使った農業  AgriSUITE
農産物は取り過ぎると価格が暴落し赤字となるから、過不足ないように注意しながら生産をする必要がある。日立ソリューションズ東日本と株式会社石巻青果等4社1大学はクラウドを使い、販売計画に基づいた生産計画を立案、生産者と販売者で情報を共有し農産物の価格の乱高下を防ぎ、安定収入を保証する試みを始める。

生産者はタブレット端末で毎日生産状況を報告し、それがクラウドに保存され、生産計画作成に利用される。

実証フィールドとして選ばれた石巻青果花き地方卸売市場の外観 市場では農作物のせりなどを行う。出典:石巻青果
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③2013年1月23日 - 玉川大学(東京都町田市)の渡辺博之教授は、LED光源を使って野菜を室内 栽培できる植物工場「サイ・テック・ファーム」を公開した。
http://matome.naver.jp/odai/2135907717107522601
渡辺教授はLEDを使った野菜栽培を20年間研究しており、野菜工場プロジェクトを推進している。そして2月1日より、LED農園産のリーフレタスの販売を開始した。ここでは1日600株のリーフレタスを生産していて、投資金額は5年後には回収できるとのこと。

結論としては、日本にはオランダに負けない高い技術がある。その技術を生かす投資を進めていけば、農業においてもオランダに追いつき追い越せる可能性は十分あるのではないだろうか。

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