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2013年6月 3日 (月)

スマートアグリ … 農業のIT化が国際競争力を飛躍させる(No.131)

5月20日、NHKのクローズアップ現代ではスマートアグリが取り上げられた。オランダは日本に比べ農地面積は4割しかなく、農業人口は約20分の1、緯度も樺太の北部に相当し寒く日照時間も短く、決して農業に最適な気候とは言えない。パートタイムの人件費も時給2000円と高い。しかし、農業輸出額では世界第2位だという。

農業輸出額ランキング
 1 アメリカ   1188億ドル
 2 オランダ   773億ドル
 3 ドイツ     667億ドル
 4 ブラジル   621億ドル
 5 フランス    616億ドル
  ・・・・
 51 日本      32億ドル

         日本        オランダ
農地面積   461万ha     192万ha
農業人口   290万人       15万人

このランキングから明らかなのは、農地が少なくても国際競争に勝てるということだ。逆に広い農地を持っていても、国際競争に勝てるとは限らない。それは以下の比較から明らかだ。

耕地面積ランキング
インド       :  1億6965万ha
オーストラリア   :   4716万ha
オランダ            :    192万ha

   
農産物輸出額
インド       :      173億ドル
オーストラリア   :    241億ドル
オランダ           :       790億ドル

当たり前の事なのだが、広い耕地面積があれば、農産物の競争力が上がるというわけではない。しかしそのような誤解が、「日本は農地が少ないから、農業は保護しなければならない」という間違えた考えが生まれている。

日本は畑さえ持っていれば国の減反政策で耕さなくてもカネが入るから工夫の必要が無い。こんなことをしている間に諸外国はITを使ってどんどん生産性を上げてきている。オランダの穀物自給率はわずか14%(2007年)しかない。つまり自給率を捨て安い農産物は輸入し、チーズなど高付加価値の農業に徹したところに成功の一因がある。戦争になったらどうするのかという言う人がいる。アメリカを含む世界中の国を敵にし、日本が経済封鎖をされたら北朝鮮と違い日本は生き残れない。日本のエネルギー自給率は4%しかなく、食料生産も燃料が無ければ農業用の機械が動かないので止まる。生産ができたとしても輸送する手段が無く、我々は死ぬしか無い。唯一生き残れる方法は平和に生きることだ。食糧自給率を上げようとする努力は無駄と言いたい。

オランダの成功を更に後押ししたのは、巨大なグリーンハウスだ。グリーンハウス内の湿度、温度、光はITにより徹底的に管理されている。これにより常に最高の環境を維持し、質の高い作物を効率よく栽培できる。害虫でさえ繁殖する前にその天敵の虫を放ち、農薬を使わずに駆除している。トマトやパプリカなど極めて効率的に生産をしている。

    出所:NHKクローズアップ現代

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パソコンでハウス内の環境を制御を制御する。害虫でさえ繁殖する前にその天敵の虫を放ち、農薬を使わずに駆除、トマト畑では6m以上の高さで、二酸化炭素濃度を高めることにより面積あたりの収穫は日本の3倍になる。

出所:NHKクローズアップ現代

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ITと言えば日本のお家芸だったはずで、日本ならもっと上手くできる。耕地面積はオランダよりはるかに広いし、減反政策で広大な耕作放棄地もある。しかも気候・日照時間等でもオランダより有利だ。現実問題では、農家が国からの補助金で生活できる「快適さ」が忘れられなくて、政治家が農業の生産性を上げる改革をしようとすると農家の猛反対に直面する。しかし、世界中で始まっている農業のIT化の流れは止まらない。アメリカやヨーロッパ、オーストラリアでは、ほとんどの農機にGPS受信機が搭載され、機械が自動的に肥料や農薬をまいているのだが、日本はそれができない。国際競争に敗れれば、保護政策で過酷で低収入で非効率な農業をいつまでも続けるか、消えていくかしかない。

日本にも積極的に農業のIT化の動きがあり、いくつか紹介する。
①アイメック農法 ・・・ オランダ農法の改良版
詳しくは次のサイトを参照して下さい。
http://www.agri.tohoku.ac.jp/agri-revival/houkoku/5.html
大地を止水シートで覆い、栽培部分と大地とを完全に遮断する。

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大地が細菌、塩分、放射能等で汚染されていても、植物は完全に守られるので、東日本大震災の被災地の復興にも役立つ。

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根毛がフィルムに付着し養分を含んだ水を吸うため、水の使用量は、従来の水耕栽培の10~20%ですむ。作物の栄養価を高め、糖分、グルタミン酸の含量は水耕栽培の2~3倍に、GABA、リコピンなどの機能成分は数倍に増加する。設備コストは、水耕栽培の数分の一でよく、土作りが不要なため全く農業の経験が無い人でも1~2年で栽培技術を習得できる。
農事組合法人和郷園、農業生産法人株式会社つくば菜園、など約20施設に導入され、総面積は27,000坪(9ヘクタール)に達している。トマト、メロン、きゅうり、パプリカ、レタスなどでアイメックス技術が確立した。
次の写真はアイメック農場の例(耕地面積600坪)である。

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わそう農園

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次の表で示すように、この農法により大変高い収益が得られる。

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また、水の消費量が少ないので砂漠の真ん中でも栽培が可能になる。
         ドバイのアイメックトマト農場

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②クラウドを使った農業  AgriSUITE
農産物は取り過ぎると価格が暴落し赤字となるから、過不足ないように注意しながら生産をする必要がある。日立ソリューションズ東日本と株式会社石巻青果等4社1大学はクラウドを使い、販売計画に基づいた生産計画を立案、生産者と販売者で情報を共有し農産物の価格の乱高下を防ぎ、安定収入を保証する試みを始める。

生産者はタブレット端末で毎日生産状況を報告し、それがクラウドに保存され、生産計画作成に利用される。

実証フィールドとして選ばれた石巻青果花き地方卸売市場の外観 市場では農作物のせりなどを行う。出典:石巻青果
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③2013年1月23日 - 玉川大学(東京都町田市)の渡辺博之教授は、LED光源を使って野菜を室内 栽培できる植物工場「サイ・テック・ファーム」を公開した。
http://matome.naver.jp/odai/2135907717107522601
渡辺教授はLEDを使った野菜栽培を20年間研究しており、野菜工場プロジェクトを推進している。そして2月1日より、LED農園産のリーフレタスの販売を開始した。ここでは1日600株のリーフレタスを生産していて、投資金額は5年後には回収できるとのこと。

結論としては、日本にはオランダに負けない高い技術がある。その技術を生かす投資を進めていけば、農業においてもオランダに追いつき追い越せる可能性は十分あるのではないだろうか。

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経済・政治・国際」カテゴリの記事

コメント

そうなんですよ~。
よくぞ書いてくださった。
農業は技術的ブレイクスルーが起こる寸前の状態。
今、国内産業の特化が利益ですよと言われても、それはあまりに近視眼的。

投稿: S | 2013年6月 6日 (木) 09時28分

農業や工業に限らないんですけど


下手に移民を入れて治安がボロボロになったヨーロッパの国がありますね。手のつけられないところもあります。


移民を積極的に受け入れた結果、白人ではなくヒスパニックの大陸と化したのがアングロアメリカ。暴動が乱発してますよね。

それに比べて日本は、一君万民の形をとることによって、実質的にほぼ単一民族国家として機能しております。このため、世界一ずば抜けた治安のよい国となっているわけであります。


ここへ、移民などというおかしなことをやってしまえば、国が瓦解するのは目に見えております。


農業でも工業でも商業でもそうですが
敵性外国人・排他的異教徒・攻撃的他民族を受け入れると言うことは

国内を破壊することと同義です。低賃金による経済効率以上に、外部不経済が大きいのです。


移民の代わりにITを活用すれば、毎月の人件費を払う必要がなくなります。

また、IT自体は人間ではないため、民族性もなければ信仰も持ちません。使用者の通りに動きますし、当然プライベートもないため暴動も起き得ません。


イニシャルコストはゼロだけど、毎月のランニングコストがかかる移民政策と
イニシャルコストは高いけど、ランニングコストがゼロのIT化政策。


一般的なコスト観で言うと


比較的短期間の範囲に収めるなら、ランニングコスト重視の方が安いけど

中長期的に継続するならイニシャルコストを重視した方がトータルで安く仕上がります。


農業とは

ランニングコストを重視すること(移民政策)で安くつく短期的な事業ですか?

イニシャルコストを重視すること(IT化政策)で安くつく長期的に継続していく事業ですか?


また、

移民政策によって治安リスクが高まる方がよいか

IT化政策によって、治安リスクは従来通りに抑える方がよいか。

考えるまでもないですねw


持てる技術は業種の垣根を越えて、オールジャパンでしっかりと活かしていかねばなりません。

投稿: ばしくし | 2013年6月 7日 (金) 22時57分

7月25日には、スマートアグリの日本の第一人者を招いて日本経済復活の会で講演をして頂きますので、乞うご期待。

投稿: 小野盛司 | 2013年6月 8日 (土) 15時53分

工業原材料の生成や鉱産物資源の収集まで視野にいれると、今農業をつぶしたり保護しないのは愚だと思います。
農業の内部で何らかのシフトが起こるのはやむをえないと思いますが・・・。

投稿: S | 2013年6月12日 (水) 08時43分

とても魅力的な記事でした。
また遊びに来ます!!

投稿: 履歴書の書き方 | 2014年1月 2日 (木) 11時08分

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