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2013年6月12日 (水)

安倍内閣の成長戦略が株安・円高の洗礼(No.132)

6月5日に安倍首相は,成長戦略第3弾を発表した。その日、約200円上昇していた日経平均は、約700円急落してしまった。派手な目標は並べたものの、実現のための具体策はなく市場は失望した。6月11日の日銀の黒田総裁の発表にも市場はネガティブに反応した。

今後10年間平均で名目成長率3%、実質成長率2%が目標だという。これは民主党政権の目標と同じだ。諸外国に比べ異常に低い目標だが、日本にとっては非常に高い目標だ。民主党はこの目標実現のために何らかの努力をしたのだろうか。いや、全く努力をしなかった。下の図は名目成長率のグラフだ。赤い線は、もしこの目標通りなら名目GDPはどうなったかを示している。下図で分かるように全くその気配はない。それどころか民主党政権の間に名目GDPは下がっている。

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アベノミクスで名目GDPは急上昇していると思っているかもしれないが、今のところほぼ横ばいだ。最近1~3月期の成長率が実質で4.1%になったと内閣府が上方修正されたと発表があった。上図は、この上方修正を反映して描いたグラフだ。これからどうなるかについては民間のシンクタンクが試算を出している。最新のものを次に示す。以前示したものは「大規模金融緩和の発表以前の予測だろう」と甘利大臣に言われたから、今度は大規模金融緩和の発表以後に発表された試算を示す。実質GDPの予測(伸び率:%)は次のようになっている。

         2012年度  2013年度  2014年度  2015年度
日経センター    1.2      2.6        0.4    
三菱総研      1.2      2.6       0.4    
みずほ総研     1.2      2.7       0.6                   
ニッセイ基礎研   1.2      2.6        0.0             0.8 

---------------------------    
      平均       1.2            2.6              0.4             0.8

2013年度は景気対策と増税前のかけこみ需要もありGDPは伸びるが、2014年度以降は消費税増税のお陰で伸び率が急落し、再び不況が日本を襲う。名目GDPの予測(伸び率:%)は次の通り。

          2012年度  2013年度  2014年度  2015年度
日経センター    0.3      0.9        1.6    
三菱総研      0.3      2.1       1.7    
みずほ総研     0.3      2.0       1.5                   
ニッセイ基礎研   0.3      2.0        1.4             1.4  

----------------------------   
      平均       0.3            1.8              1.6             1.4

13年度と14年度は名目成長率より実質成長率が高い。これはデフレが続いているためだ。この差をGDPデフレーターとよび、これがマイナスである限りデフレであるとされている。14年度以降はデフレーターがプラスになって、逆転現象が解消されているように思うかもしれないが、消費税増税の効果がある。例えば14年度から3%の消費税増税があり、その中で非課税のものもあるので、物価は増税のために2.1%上昇すると言われている。同様に15年度は1%の上昇があり、それにより名目GDPは押し上げられる。こういった消費税増税分を名目成長率から除けば、14年度も15年度もほぼゼロ成長だということになる。そう考えれば、少なくとも2015年度までデフレ脱却はできない。

仮に、消費税増税による物価上昇分を引くと14年度の成長率は-0.5%、15年度は0.4%だから13年度~15年度の平均で名目成長率は0.6%程度になり政府目標の3.0%には全く達成不可能ということになる。

もちろん、アベノミクスで民主党政権から改善された点は高く評価されるべきだ。例えば株が4000円程度上がった。これはGDPを約1.7兆円(0.3%)程度押し上げる。円安になった。例えば対ドル円相場が80円から100円になるとGDPは約2兆円(0.4%)押し上げる。また日経平均が4000円上がるとGDPは1.7兆円(0.3%)程度押し上げられる。これらを合わせても3%成長にはほど遠い。成長戦略と呼ばれる様々な政策にもGDPに大きく影響するようなものはない。

結論から言えば、消費税増税はアベノミクスを失敗に終わらせてしまう。アベノミクスを成功させるには消費税増税を延期し、大規模財政出動をすることだ。

5月27日に財務省の財政制度審議会は『財政健全化に向けた基本的考え方』というレポートを発表した。それによると日銀が大規模に国債を購入すると、だんだん物価が上昇してくるだろう。そうすると国債の購入を減らさざるを得なくなり、そのときは大幅な金利上昇を招くと述べている。

このようなレポートは実際の計量モデルを使った試算に基づいて書かれていないために、空理空論となっている。日銀が国債を大量に買ったからと言って、簡単に物価が上がるわけではない。アベノミクスで景気を刺激していくだけではインフレ率は2年後にやっと0.5%にしかならないと、民間シンクタングは予想している。物価上昇は需要が供給を上回ったときに起きるのだから、何らかの形で需要を増やす政策が必要である。次に日経NEEDSを使って計算した、2つの例を示す。

①毎年50兆円の減税を行う場合(マイナスの消費税も可能と考える):
これだけ大規模な減税を行っても5年後にインフレ率はやっと1.1%となった。
②毎年20兆円の公共投資を現在の予算に追加して行う場合:
5年後のインフレ率は1.5%

いずれにせよ、物価が上がってくるのはずっと先の事だ。そのとき国債の購入を減らしたら金利が上昇する。それを避けるためには、増税・売りオペ・預金準備率引き上げ等の方法もある。そんな事より、どうやってデフレ脱却をするのかという事を考えるべきだ。15年間もデフレ脱却に失敗している。①、②の例からもデフレ脱却は財政制度審議会が考えるよりはるかに難しい。全くデフレ脱却の見通しが立っていないときにインフレを抑える心配をするのは『取らぬ狸の皮算用』である。

景気はゆるやかに回復に向かっている。しかし、「財政再建」を名目に景気に急ブレーキをかけろという外野のヤジが激しい。ヤジに屈しない前に安倍・黒田両氏には政策のスピードを早めるべきだ。株や国債の激しい乱高下は市場を冷やしてしまう。株の急落に対抗して日銀がもっとETFを買うべきだ。国債の乱高下を押さえるために機動的に国債の購入額を増減させるとよい。財務省が国債を売り出す日に日銀は国債を買わないという規制は撤廃すべきだ。金利を下げ安定させたいのであれば、金利が0.6%以上にはならないよう、日銀が買い支えるとアナウンスするとよい。そうすれば国債暴落の心配が消え、政府も思い切った財政出動ができる。それにより資金が市中に流れ、需要が回復し、インフレ率が高まりデフレ脱却ができれば、こんな素晴らしいことはない。

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コメント

 おはようございます。higashiyamato1979です。つくづく野党や反日メディアには困ったものですね。ただ、ご指摘の通り「成長戦略」が悪影響を及ぼしていることは確かです。私に言わせれば小泉・竹中路線の復活でしかありません。また、これは本エントリーのテーマとは関係ないのですが児ポ法改正に代表される表現規制の動きも少なからず景気に暗い影を及ぼしているのではないかと思うのです。表現の自由は一旦規制されると簡単には覆せません。社会の空気も暗く重苦しくなります。文化産業は今や日本経済の一翼を担う存在、それを規制などしたら・・・、すいません、このへんでやめておきます。人権法案には反対するのに表現の自由規制には反対の声があまりに小さいことが私にはどうしても許せなかったのです。どうかお許しください。
 それでは決まり文句! お金が無ければ刷りなさい! 労働はロボットに!人間は貴族に!

投稿: higashiyamato1979 | 2013年6月13日 (木) 10時50分

緊縮財政論者の中には、四半期のGDP増にうかれて、早くも財政再建を口にするものが現れていますね。
民間の貸借は実需要を根拠しなければ起こりません。マイナス(の極低金利)でも借りません。そもそも金融が貸しません。
民間の貸借が停滞した状態では、政府の赤字がそっくり民間の受け取りのはず。
財政支出の増大。財政赤字の増大で実需要が増え、市中の貸借が活発になるなら、財政赤字は問題ではないはず。

いざとなったら政府は日銀保有分の国債から順に貨幣で債務処理してしまえば良い。日銀完全国有化でも良い。

そのことで、我々、市中の人間は誰も困らない。

・・そういう態度で良いと思うのですが・・・

投稿: S | 2013年6月14日 (金) 09時10分

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