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2013年7月 2日 (火)

かつての日本は軍事費が巨額で超積極財政だったが借金はそれほどでもなかった(No.136)

平成の日本人は積極財政が大嫌いのようだ。国の借金がGDPの2倍以上もあるのだから節約すれば減っていくと誤解している。実際は、政府が思い切って歳出を拡大すれば、借金のGDP比はみるみる減っていく。これが真実だということを知るには、例えば戦前の日本を見れば良い。軍事費のGNPを次に示す。

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これから分かるように、軍事費のGNP比は約5%程度で戦争が起きると激増している。現在の価格に直すと、年間予算は平時で25兆円、日清戦争のときは50兆円、日露戦争のときは130兆円にも昇ったことが分かる。最近の防衛費のグラフを以下に示す。

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GNP比は僅か1%前後で諸外国に比べても非常に低い。だから防衛費を戦前並にせよと言うつもりはない。ある元首相の亡国的発言もあり、尖閣防衛のためにしっかり予算をつけて欲しいとは思うのだが、防衛以外にもやらなければならぬことは山ほどある。次に戦前の財政の中に占める軍事費の割合を示す。


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当然の事だが戦争の度にすさまじい戦費を必要としていたことが分かる。現在、少しでも財政を拡大しようとすると、馬鹿な連中が「ハイパーインフレになる」とか「次世代へのツケを回す」などと言う。しかし、この時代、ハイパーインフレなど来なかったことは次のグラフで分かる。

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日清・日露・第一次世界大戦と日本は3連勝だったのだが、この中で最も戦費がかさんだのは日露戦争だった。今の価値で言えば750兆円程度の戦費がかかった。そんなに政府が使えばハーパーインフレになると馬鹿なエコノミストは言うだろう。しかし、この3つの戦争の中でインフレ率は最も低かった。実は、戦費を外債(つまりイギリス等からの借金)でまかなったから大したインフレにならなかった。逆に借金の返済のためお金が海外に流出したため、国内にそれほど巨額の資金は残らなかった。

3回の戦争の中で、最も戦費が少なかったのは第一次世界大戦だったが、逆にこのときが最もインフレ率が高かく、年率30%を超えた。このことからも、政府が多くカネを使えば、インフレ率が高くなるという単純思考は当てはまらないことが分かる。第一次世界大戦では日本は戦場にならず、本格的な戦闘に巻き込まれなかったし、戦争による特需で潤った。巨額の外貨を稼いだ成金連中が、それを円に替えて国内で使いまくったからインフレになった。

それでは、国が巨額の借金をして戦費を払った3回の戦争だが、それが将来世代へのツケにはなっていないことは、次のグラフよりはっきり分かる。

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確かに戦争の度に「国の借金」は増えるのだが、それはしばらくするとGNPの拡大のために、借金のGNP比は減って行っていることが分かる。日清戦争のときは、巨額の賠償金(3億円、国家財政の4倍)は国内に入ってきてインフレとなり、GNPが増加し、借金/GNPは減少した。日露戦争の際は、カネを使いすぎたために、増税も必要となり、戦費も外国からの借金で支払い、賠償金ももらえなかったが巨額の戦費がかかった。それでもたいしたインフレにならなかったし、GNPが大きく伸びることもなかった。そのため借金のGNP比の減少速度は遅かった。外国からの借金の返済で苦しみ、破綻寸前のところまで追い込まれていたときに第一次世界大戦の特需が入り巨額の利益を得た。稼いだ外貨が日本に入ってきてインフレになりGNPが急増し、借金のGNP比は激減した。その後第二次世界大戦でも莫大な借金がたまり、戦後にインフレでそれが消えた。

現在、債務のGDP比は200%を超えているのだが、戦前は、今よりずっとカネを使っていたのに債務のGDP比は今より低い。それは税収が伸びたというよりGDPののびが債務のGDP比を押し下げていたことは明らかだ。安倍政権が意を決して財政を大規模に拡大すれば、債務のGDP比は下がってくることは間違いない。

財政を拡大してインフレになれば、生活は苦しくなると思っている人には、次のグラフをお見せしたい。

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賃金のほうが、物価以上に上がっている。これは人間の知恵で、効率よく物が作れるようになったために、より多くの物を買えるようになった証拠だ。ついでに実質GNPのグラフも示す。

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物価は上がったり下がったりだが、実質GNPは着実に増加を続けていることが分かる。案ずることはない。生活は着実によくなってきているのだがから。

参考にした文献
明治以降本邦主要経済統計 日本銀行
日本統計年鑑 2 1950年
日本統計年鑑 3 1951年
長期経済統計 8 物価
長期経済統計 1 国民所得
長期経済統計 7 財政支出
大正デモクラシーの政治経済学
概説日本経済史

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コメント

 お晩です。higashiyamato1979です。良い記事が続いています。戦費が一番かさんだ日露戦争でのインフレ率が一番低く、最も戦費が安上がりの第一次大戦時のインフレ率が一番低かった。さらに戦前は現在より遥かにおカネを使っていたのに債務問題は現在より遥かに軽微だった・・・直前のエントリでの事実とあわせて重要な事実です。広く日本中に知らせなければなりません。マスゴミの葬式は国民が出す!
 それでは決まり文句! お金が無ければ刷りなさい! 労働はロボットに!人間は貴族に!

投稿: | 2013年7月 6日 (土) 18時14分

お世話になります。とても良い記事ですね。

投稿: レイバン サングラス | 2013年7月29日 (月) 00時29分

初めて拝見しました。 朝鮮戦争から国の借金をサーチしてたらたまたまヒットしたんです。

なんか目から鱗とはこのことをいうんですね。

なんで国は増税ばかりして、先生の仰るような造幣局に刷れと指示しないんでしょう。

上念司氏も同じようなことを仰ってると思いますが、国際的に増税しないといかんとかの圧力

がかかってるんでしょうかね? 先生のデータを基に説いても国は動かないんでしょうか?

不思議です。

投稿: 大右翼 | 2014年1月 2日 (木) 16時46分

発展途上国から先進国へ、という伸びしろを無視してないだろうか。
GDPが大幅に伸びることを前提条件としているが、もうすでに日本は先進国である。
先進国が、発展途上国の近代化のように、飛躍的にGDPを伸ばせるのだろうか。
戦争特需を期待し、湾岸・イラク戦争のように意図的に戦争を起こすならば、世界平和にとって深刻な悪影響を及ぼす。

投稿: 通りすがり | 2015年8月12日 (水) 13時53分

グラフに単位を書いてください想像はつきますが確かなものとできず引用できません

投稿: とある受験生 | 2015年8月16日 (日) 09時59分

私も通りすがりさんと似た感想を持ちました。1945年以前の日本、発展途上国経済が10年ごとに戦争を行ってどういう豊かな経済ができたのかと言うことを考えると単純に財政規模を拡大すれば社会の為になるとは信じられない。縦軸と横軸に単位を入れると言う統計図の基本はまもって下さい。戦費借金を外国からにするか、日本国内からするかでインフレ・ハイパーインフレの生起確率が変わるのは分かる。太平洋戦争後は借金が戦時国債(国内借金)だったので、ハイパーインフレでチャラにしなければ日本経済再建ができなかったんですよね。最大の被害者・貢献者は大企業と政府・軍部以外の全国民でした。特に田畑地主は発狂者がでるほど打撃は大きかった。戦前の日本は貧しく遅れた経済だったので、軍事費出費がケインズの右のぼ田山を左に移し、左のぼ田山を右に移すと言う需要喚起政策がGDPの拡大を促した。だけど、GDPの内容は貧弱な国民生活と過大な軍事設備だけだった。ケインズは真に有用な事業に政府支出をすべしと言うべきところを、出身階級の制約で算数の応用問題のような経済政策しか提出できなかった。提出しないより良かったけど、歴史的には。労働者の生活費が下方硬直性があるとの見解は彼が古典派経済学者のようなバカではなかったことを示す。発展した経済は発展した経済政策を要求する。だから、定型的経済政策が永遠に妥当するとは言えない。ところで小野盛司くんの提言の妥当性やいかん?すでに日銀が歴史上まれなQQEをアメリカの後を追って実施しているけどなかなか2%どころか1%のインフレも実現できていないね。黒田君、かわいそうだけど安部と不仲になって、アメリカの真似はうまくいかなかったという結論になるかも。個人消費がアメリカはGDPの70%、日本は60%、それにアメリカは世界の金融の総本山、移民も低賃金で働いてくれるし、アメリカは永遠に発展途上国ですよ。

投稿: 山石 寸木 | 2015年12月30日 (水) 14時23分

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