なぜ97年の歴史的大失敗の反省をしないのか(No.141)
内閣府と財務省は1997年の消費増税を行った後の深刻な不況は増税が主因でなく、アジア通貨危機や金融危機が主因だと分析した資料を8月22日の公明党の会議で配ったそうだ。
1997年、橋本内閣の緊縮財政・消費税増税とアジア通貨危機が重なり、日本はデフレに突入した。万一、消費増税が来年4月から強行されたとしたら、97年の失敗を繰り返すのは間違いない。あの失敗の反省は無いのだろうか。97年の景気落ち込みの主因はアジア通貨危機であり消費税は関係ない、もしくはほとんど関係ないという説は明らかな矛盾がある。デフレは16年後の今日まで続いているがアジア通貨危機も金融危機もとっくに終わっているからだ。
実際あの通貨危機で経済が大きく落ち込んだアジアの国々は確かに存在する。タイ、韓国、インドネシア、フィリピン、香港、マレーシア等である。しかし、それらすべての国が1999年~2001年までにすべて景気回復に成功しており、日本以外デフレに陥った国はない。それから考えても、97年の日本の景気悪化の主因がアジア通貨危機だという主張には無理がある。実質GDPの比較を次に示す。
97年の金融危機の影響で98年には実質GDPは軒並み落ち込んでいる。しかし翌年の99年には日本以外はすべて景気回復に向かっていることが分かる。このことからも、日本の景気落ち込みがアジア金融危機だけではなかったことは明らかだ。次にGDPデフレーターを見てみよう。
こちらは若干遅れて影響が現れているが、日本以外は落ち込みは1年間だけで、そのすぐ後に急回復しているが、日本だけは十数年後の現在もまだデフレーターは回復していない。
日本だけデフレーターをもっと詳しくみてみる。消費増税がデフレのきっかけになったことを否定するのは難しい。
デフレは需給ギャップから起きる。誰もが需要不足の存在を認める。総需要を増やさなければならないときに、消費増税をすると消費が落ち込みデフレギャップを拡大させデフレを悪化させる。このグラフからも今は消費増税のタイミングではないことは明らかだ。
出所:栗林世
なぜこのような需要不足が発生するのだろうか。それは生産性の上昇に需要が追いつかないからだ。生産性の上昇率を見てみよう。
これで分かるようにデフレの期間にも生産性の上昇は続いている。物が効率よく生産できるようになっていることだ。一方で雇用者報酬は下がっている。
雇用者報酬が下がれば、物が買えなくなる。生産能力が拡大したのに消費を抑える政策を行えば物余りとなり、投げ売りが始まりデフレとなる。政府のやらなければならない政策は消費増税ではなく消費税減税なのだ。
デフレは中国等から安い商品が入ってきたことが原因だという人がいる。それでは輸入物価を見てみよう。
当然のことだが、円高になれば輸入品は値下がりするのだが、それでデフレになるのだろうか。このグラフで分かるように、日本がデフレになっている間、輸入物価はむしろ上昇気味である。急激な円高で輸入物価は急激に下がる。
次のグラフで分かるように1986年には急激な円高が進んだ。
そのお陰で輸入物価が大きく下がったのだが、それでもデフレにならなかった。次のグラフで示すように名目GDPは増加し続けている。
このようなことから、デフレは輸入物価の下落で起きたわけではなく、需要不足で起きたことが分かる。
金融危機、山一証券や北海道拓殖銀行の破綻も主因の一つといいたいようだが、その影響が今でも続いているとは考えられない。いい加減な資料を内閣府や財務省は配布するのは慎むべきだ。
97年には需要不足を引き起こす政策が行われた。消費増税、健康保険の自己負担率の増加、特別減税の廃止で約9兆円の国民負担が増えた。これで国の借金を減らすことができたかというと、全くその逆で次のグラフで明らかなように借金が増え方が加速されるだけだった。
このグラフから分かることは、景気が悪化すると借金は増加速度を増し、景気がよくなると借金は余り増えなくなるということだ。来年、消費増税を強行し景気を悪化させれば借金はどんどん増え出すが、増税凍結し景気回復に専念すれば、借金はそれほど増えなくなる。つまり消費増税は財政健全化に悪影響を与える。
97年の緊縮政策で景気を悪化させた後行われたのが景気対策だ。1998年 橋本内閣 16兆円超、1998年 小渕内閣 17兆円超、1999年 小渕内閣 17兆円超
2000年 森内閣 11兆円といったように大規模景気対策が行われたが景気は回復しなかった。景気対策が行われなかったら、日本経済は今よりもずっと悲惨な状態になり国の財政も比べものにならないくらい悪化していただろう。
諸外国は不況に陥ってもすぐに立ち直れるが、日本だけは一度不況に陥ると立ち直れない体質だという説もあるかもしれない。もしそうなら、今回の消費増税は危険極まりない。景気腰折れなら、日本経済は二度と立ち直れなくなるのだから。
ドイツ連銀 8月の月報ではアベノミクスによる景気押し上げ効果は「わらについた火」だそうだ。2013年にGDPを1.25%押し上げるだけで、2014年には消費増税で効果は大幅に縮小、2015年にはマイナスの効果になると主張している。
日経の日本経済モデル(NEEDS)の予測では、実質GDPの伸びは2012年度1.2%、2013年度2.7%、2014年度0.2%だから同様に来年度は急激な景気の落ち込みを予測する。となると2年間で2%のインフレ目標は夢のまた夢だ。もちろん、消費税でゲタをはかせた「インフレ率」であれば2%のインフレは可能だが、そんなもの意味がない。ゲタの部分を除けば、そんな景気の落ち込みがあれば目標は達成できるわけがない。
それでも2015年度になれば景気が回復するのではないかと期待しているのかもしれない。しかし、それは余りにも楽観的すぎる。97年不況の後デフレはまだ続いている。こんなに長期間デフレが続くことも、増税が国の借金を逆に増やしてしまうということも誰も予想しなかったのだろう。増税が行われば2014年度には97年と同じ事、いやもっと厳しい不況が来る。長年デフレに苦しんだ国民は景気の落ち込みに過剰反応を示すことを忘れてはならない。国民の不安が頂点に達し、消費を抑え、借金を減らそうと一斉に行動を起こし、それが不況を加速させる。是非、思いとどまって欲しい。過ちを繰り返してはならない。2014年に我々が突入しようとしている大不況は抜け出す方法が無い。もうこれ以上国は借金はできないと国民が信じている限り景気対策はできないのだから。
(注)この記事では、8月22日の栗林世氏の講演とその配布資料を参考にした。
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