内閣府=オオカミ少年がまた欺瞞的な経済財政試算を出してきた--これは予測ではなく目標だから当たらなくて当然だって!?-(No.139)
今年も8月8日に『中長期の経済財政に関する試算』が発表された。
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2013/0808/agenda.html
例によって超高速でデフレ脱却し経済成長をするという予測だが、同様な予測を十年以上繰り返しているが、現実はまだデフレは脱却しておらず、GDPは1997年より10%近くも低いのが現状であり、予測ははずれっぱなしである。緊急地震速報ではずれたら気象庁は謝罪し、再発防止に全力を挙げると言うが内閣府は全く反省の色はないし、マスコミも政治家も疑うこと無く騙され続けている。
まず、名目GDPの馬鹿げた予測を見て頂きたい。
今年は例年以上に高度成長を予測している。しかもこれは消費税増税という大きなハンディーがあってもこれだけ成長が可能だと言いたいのだ。しかし、内閣府に直接聞いてみると、これは目標であって予測ではないという。こんなに成長するわけがないと彼らも予測している。過去の「目標」もすごい。8年前の目標は、なんと2012年に645.2兆円になるというもの。現実は474.7兆円だから目標と現実の差はあまりにも大きい。アベノミクスだからこんなに成長するのだと絶対に思ってはならない。日銀がお金を刷って国債を買っているが、今のところそのお金は銀行に「タンス預金」として日銀当座預金に眠っているだけで実体経済には流れていない。消費税増税で不況が深刻化すれば、タンス預金は動かない。
GDPデフレーターの予測もひどい。
この図で示したように毎年のように、内閣府はデフレは1~2年で脱却(デフレーターがプラスになる)が可能と主張してきた。しかしこの予測は最近十数年間外れっぱなしだ。内閣府も、これは目標であって予測ではないから、この調子でデフレ脱却できるとは信じていないことに注意が必要だ。
これらが予測でなく目標だというならマクロ計量経済学もシミュレーションプログラムもいらない。目標なら政府や日銀がすでに出している。なぜ多額の税金を使って人をたくさん雇って計算する必要があるのか。目標と言うのなら「これらの結果は目標であって、予測ではありません」と最初のページに大きく書いておくべきだ。今の政府の政策では、このような結果にはならないと内閣府は思っている。
この試算は2010年に発表されたモデルをそのまま使っている。ということは、同じように見当違いの予測になっているということだ。正確に将来の日本の経済状況を予測するための努力は一切行っていない。だからこそ大本営発表だと思うべきだ。その発表をずっと信じていたら国中が焼け野原になっていたという過去を思いだそう。
内閣府は消費税増税の悪影響は決して示さない。昨年の試算では、一体改革として消費税増税と社会保障を同時に行った場合と行わない場合とを比較していた。消費税増税の影響はどうなっているかと聞かれたとき答えるための試算だった。これも欺瞞的で、消費税増税を行ってそれを打ち消すための景気対策を同時に行って景気への影響はないという馬鹿げた結果を出していた。ではその景気対策の中身は具体的に何かと聞いても一切公表しなかった。今回は消費税は増税されるものとして計算され、増税する場合としない場合の比較は一切触れない。首相に「増税か見送りか」の選択肢を与えない試算になっている。首相は増税の悪影響について知りたがっているのだが、首相に謀反を起こした形になっている。増税の影響を計算せずして内閣府計量分析室の存在価値はない。
間が抜けた話だが内閣府は日銀の国庫納付金に関して理解していない。これもこの試算の重大な欠陥だ。日本銀行法53条によれば、日銀は各事業年度の損益計算上の剰余金の額から準備金および配当金を控除した残額を、当該事業年度終了後2か月以内に国庫に納付することになっている。日銀が国債を大量に買い入れると、国が払う国債への利払いはかなりの部分が日銀へ行くことになる。このうち95%が国庫に戻るのだから、国債費のうちのそれに相当する部分が国庫に戻ることになる。「国の借金が増えると利払いが大変」と思っているかもしれないが、この利払い費の一部又は全部が国庫に戻ることを知れば、安心できるだろう。これなら金利がいくら高くなっても財政破綻しない。
バーナンキFRB議長も2013年7月18日に量的緩和策は最終的に納税者に有益な政策になると述べている。実際FRBは2011年には5.9兆円、2012年には7.8兆円を剰余金として国庫に納め財政赤字削減に貢献している。内閣府はこのことも考慮して計算し直すべきだ。
さらに今回の試算で注目して欲しいことは、財政赤字や基礎的財政収支の赤字が巨額であっても、経済成長すれば国の借金のGDP比は減ってくることが示されたことだ。内閣府の計数表の一部をとり出すと
国・地方の借金のGDP比は2014年度をピークに減少に転じることがわかる。ここで注目して頂きたいのはこの間巨額の財政赤字は続いているということだ。日本人は99%までが財政赤字が続く限り将来へのツケ(借金のGDP比)は増え続けると思っている。内閣府の表はそうではないことを示している。巨額の財政赤字が続いても、経済成長が続けば将来へのツケは実質的に減ってくるという重大な事実を是非一人でも多くの日本人に知って頂きたい。国の借金はどこの国でも増え続けているが、GDPも同様に増え続けているので借金のGDP比は増えないというが標準的な国家のパターンだ。日本も経済成長すれば、そのパターンになるということである。
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コメント
日本銀行法39条じゃなくて53条の5だと思います。
投稿: | 2013年8月 9日 (金) 19時53分
旧日銀法では39条のようです
投稿: | 2013年8月10日 (土) 03時00分
人は借金の事を過大不安しすぎてると思う。
こんな考え方もあるよ。http://blogs.yahoo.co.jp/sakudrada31/63124697.html
投稿: 平井政司 | 2013年8月10日 (土) 08時47分
そうでしたか。53条ですね。世界大百科事典の記述はそんなに古いのですね。
http://kotobank.jp/word/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E9%8A%80%E8%A1%8C%E7%B4%8D%E4%BB%98%E9%87%91
投稿: 小野盛司 | 2013年8月13日 (火) 10時13分