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2013年12月 9日 (月)

量的・質的金融緩和(異次元金融緩和)の出口戦略(No.142)

4月から始まった異次元金融緩和の出口戦略について、黒田日銀総裁は11月22日の 財務金融委員会で量的・質的金融緩和からの出口の具体的な手段という観点からは、保有国債の償還や各種の資金吸収オペレーションのほか、いわゆる付利、補完当座預金制度の適用金利の引き上げなどが考えられると語った。

もちろん、まだまだ出口戦略を考える時期ではないし、それが必要になる時期はずっと先になりそうだが、しかし今まで景気対策を少しやっては、景気回復前に中断し、また景気悪化をくり返してきただけに、今回も過ちをくり返させないためにも、出口戦略について少し書いてみよう。

通常の金融緩和であれば、黒田総裁の言うように、「国債の償還」や「売りオペ」や「金利引き上げ」が景気が過熱したときの戦略になる。しかし、今回の異次元金融緩和においては、状況は全然違う。2%のインフレ目標が達成されたら、当然のことながら金融機関は国債を売り始める。2014年末には日銀は長期国債の保有残高を190兆円にするというのだから、その時期にはかなり銀行は国債を手放しているのかもしれない。ある程度、この金融緩和が成功していたとすると、当然資産インフレがある程度進んでいると考えるのが自然だ。デフレの時代、銀行貸し出しが一気に伸びるとは考えにくいからだ。しかし、資産インフレから需要が伸び、2年で2%のインフレ目標達成は、余りにも非現実的だが、しかしそれが起きるとして以下話を進める。

インフレは。お金の価値の下落だ。そうであれば、お金を貸す者としては、その「損失補償=金利」なくしては貸すと損をするわけだから当然金利は上がる。金利とインフレ率の関係をグラフで示すと
1421

となる。

資産インフレが進むときは、過去の例からも高利回りの金融商品が出てくるものである。そうなれば、国債の金利を上げない限り、国債の買い手が激減する。そのとき、日銀が売りオペをやれば悲惨で、まさに国債の暴落(金利の暴騰)を招くだろう。日銀が償還によって国債の保有残高を減らそうという試みさえ極めて難しく、そのような日銀の方向性を見れば、市場から国債の買い手が消えてしまう。そのとき、政府は更なる国債の発行が不可能となり、まさに財政破綻が現実味を帯びる。財政破綻はあり得ないと誰もが考えるのは、どんなときでも最後の国債の買い手として日銀がいるからと思っているからである。こう考えると、出口戦略に「日銀による売りオペ」も「償還による国債減らし」もあり得ないと考えるべきだ。逆に、金融機関が国債を売り始めたら日銀が買い支えるしか無い。そうすることによりインフレは更に加速する。

それでは日銀は景気が過熱したとき金利を上げることができるのだろうか。これもつらい決断となる。2014年末には日銀当座預金には175兆円の残高があることになっている。1%金利引き上げは、これに対して払う金利が年間1.75兆円、2%なら3.5兆円になる。そして日銀は190兆円の長期国債をもっていることになっているので、かなりの値下がりで含み資産を失う。また銀行も国債等を持っており、1%の金利上昇で約6兆円の損失、2%で10.6兆円の損失が出る。

難問山積であり、一つ一つ解決していかねばならぬ大問題が次々発生するわけで、通常の金融緩和の出口とまるで違う。銀行の損失や、政府の借金の利払いの増大は、国が通貨発行権を持っていることを考えれば、解決の手段はある。しかし、刷ったカネが出て行けば出て行くほどインフレは加速する。このインフレを止めるにはどうすればよいのか。

①預金準備率を上げて、カネの流れに制約をかける。こうすれば、金融機関の経営を悪化させる。金融機関を救うには、保有国債を物価変動型の国債に切り替えたり、株式の保有を増やさせたりして資産インフレに適応できるようにし、それでも経営悪化した所には資本注入する。

②インフレ率が少々高くなりすぎても容認する。バーナンキなどはインフレ目標でなく物価水準目標にせよと主張している。1998年から2012年までに消費者物価は4%下がった。ありそうもないが、例えば物価が来年10%上がったとしよう。1998年から比べれば6%しか上がっていない。14年間で6%上昇したのであれば、平均で年率0.4%の上昇にすぎない。

③最後の手段は増税だ。来年消費税増税はもっての外だが、3%や4%のインフレ率になり始めたら増税という手段もある。デフレに逆戻りしないよう、慎重に行うことが求められる。しかし、一般的に言えば、インフレ率以上に賃金が上がっていないとおかしい。新しい機械や発明等で生産性が上がった分だけ、多くの財サービスを入手できるようになるということは、賃金の上昇率はインフレ率以上でなければならない。賃金が大きく上昇すれば、累進課税になっているので所得税収は大幅に伸びるし、企業の利益が伸びれば法人税収も大きく伸びる。ということは増税なしでも、相当の税収増で、それが市中にだぶつく資金を吸収する。それでも吸収しきれず、インフレがどんどん進むようなら増税で資金を吸収できる。

以上、出口戦略の一部を書いた。しかし、混乱は少ない方が良いに決まっている。いつになったら出口にたどりつけるのか。消費増税のお陰で出口がずっと先になってしまったのは間違いない。先になればなるほど、混乱は増す。金融緩和の拡大がそれだけ長く続き、日銀の長期国債の残高が増え続きマネタリーベースが増えるからだ。増えれば増えるほど元に戻すのが大変になる。一刻も早く出口にたどり着けるよう、政府日銀はあらゆる努力をすべきだ。そのためには消費増税を撤回し、財政規模を拡大しさっさと2%のインフレ目標を達成するべきだ。

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コメント

 久方ぶりです。higashiyamato1979です。今だに「増税やむなし」「増税まったなし」的な事を言い出す者が多いのは困ったことです。諦めずに増税をやめさせる努力を続けなくてはなりませんね。
 それでは決まり文句! お金が無ければ刷りなさい! 労働はロボットに!人間は貴族に!

投稿: higashiyamato1979 | 2013年12月13日 (金) 16時51分

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