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2014年1月14日 (火)

浜矩子の間違いを徹底解説(No.146)

マスコミに頻繁に登場する浜矩子だが、歯切れの良い断定的な発言を繰り返しており、彼女の発言をそのまま信じてしまう人も多いのだろう。しかし、その発言には明らかな間違いが多く含まれており、その間違いが修正されれば、日本経済に与える良い方向へのインパクトは少なからずあると思われるので、ここではその間違いを徹底解説することにする。

【間違い1】
最初に取り上げたいのは『円安幻想』という浜氏の著書だ。浜氏は、通貨を増発する人、積極財政派は問答無用で悪人、緊縮財政派は善人と決めつけているようである。
①P84
荻原重秀(1658~1713)について次のように書いている。
元禄の改鋳を敢行した張本人、その効力に味を占めて、彼はその後も第二次通貨改悪を実施している。その意味で相当けしからん人物である。・・・通貨の価値を大幅に劣化させる改鋳を仕組む悪知恵・・・元禄の庶民は、激しい物価高騰に苦しむことになった。
荻原重秀はかなりブラックな人間で莫大な賄賂を受け取っていた。

これに対しては、金沢大学教育学部教授の村井淳志氏が徹底した調査研究を行っている。
『勘定奉行荻原重秀の生涯』村井淳志(集英社新書)集英社,2007年
村井淳志の研究によれば、元禄期貨幣改鋳の後11年間のインフレ率は名目で平均3%程度と推定され、庶民の生活への影響はさして大きなものではなかった。貨幣価値の下落で 富裕層は貯蓄から投資に動いた。その結果経済は元禄の好景気に沸いた。「貨幣は国家が造る所、金でなく瓦礫でもよい」と述べ荻原重秀は管理通貨制度という考えの先駆者である。この改鋳により改鋳差益約500万両を得て幕府の財政破綻を救い、大増税を避けることができた。当時、経済はデフレに陥っており商業の発達から、通貨増発の必要性があったわけでデフレ脱却という意味でタイムリーと言える。経済学者の若田部昌澄も、重秀の最大の業績はこの改鋳であると高く評価している。当時は富裕層、商業資本が富を蓄積していたが、そこから税を徴収する課税方法が無かった。インフレでため込んだ富の価値を失わせたということで、実質的に課税したと同等の結果を生じている。結果として経済は元禄の好景気に沸いた。

元禄地震、宝永地震、富士山の宝永大噴火、宝永の大火等により幕府の出費が続いていた。
1706年 宝永銀、1710年 宝永金・永時銀と貨幣改鋳を行い財政破綻を免れた。このとき荻原重秀は批判する人に対し「改鋳を批判しているが、他にどんな方法があったというのか。元禄の大地震等があったら、改鋳以外でどんな方法で人を救うのか。将来税収が豊かになれば、金銀の品位を戻す改鋳も可能だ。」と述べ批判に反論した。それに対し新井白石は「改鋳をしなければ、天災も起きなかったかもしれない。」などと、馬鹿なことを言っている。

新井白石は萩原重秀が発行した悪貨の元禄金銀および宝永金銀を回収し、良質の正徳金銀を鋳造して、主観的にはインフレの沈静に努めた。だが、実際には経済成長に伴う自然な通貨需要増に対応した前政権の政策を無にする「白石デフレ」を引き起こすことなったとも言われる(大石慎三郎などの研究による)。

荻原重秀の業績はそれだけではない。「延宝検地」を実施して成功している。検地を地方の豪族に行わせると、賄賂を使ってごまかす。しかし近隣の大名に検地を行わせたので賄賂戦術ができなくしたので、検地に成功した。

浜氏は荻原重秀が莫大な賄賂を受け取っていたと述べているが、その記述があるのが新井白石が書いた文書だけであり、新井白石は荻原重秀を失脚させようと手段を選ばなかった人物だ。家宣の病床で、どうしても荻原を罷免しないならば、自分が殿中で刺し殺すと脅迫さえ行っているのだから、莫大な賄賂の受け取りという事が事実かどうか疑わしい。

同様に通貨増発を行った田沼意次についても、賄賂を受け取っていたということになっている。しかし当時の資料を詳しく調べた大石慎三郎氏は著書『田沼意次の時代』の中で、賄賂を受け取ったという信頼できる証拠はないと書いている。要するに荻原重秀にせよ、田沼意次にせよ、通貨発行を行った人はすべて悪人と決めつけどうせ賄賂を受け取っていたのだろうと邪推したにすぎないのではないか。歴史を正しく知るためには、もっと動かぬ証拠を見つけるべきである。

【間違い2】P126
1877年 西南戦争の際戦費調達のための通貨大増刷となりインフレになった。戦争となれば歳出削減という選択肢はなく、通貨増発は当然の成り行きだ。浜矩子は「このままだと、歯止めなきハイパーインフレのなかで、経済大混乱のうちに明治政府は瓦解したかも」と述べている。「このような事態になだれ込むのを防ぐために乗り出したのが明治の傑物松方正義。1881年に大蔵卿に就任し緊縮財政と通貨価値の回復に向けて奔走、増税と歳出削減、紙幣償却、その準備として正貨蓄積し日銀による銀本位の紙幣発行」

このように浜氏は松下正義を褒め称えているが、この緊縮政策で経済は松方デフレとよばれる深刻なデフレに陥った。米価暴落で中小自作農家は大打撃を被った。米価が下がっても地租は減額されず、租税が払えなくなった農民が農地を手放し小作農民に転落した。
当時国民の大多数を占めた農民の階層が分解し貧民が都市へ流入した。一部の地主,高利貸、銀行へ土地が集中し貧富の差が拡大した。

結果として秩父事件などの社会的動揺が起きた。これは租税の軽減・義務教育の延期・借金の据え置き等を政府に訴えるための蜂起であり、事件後、約14000名が処罰を受けた。このように松方デフレ政策は国民に大変な犠牲を強いる結果となったのにも拘わらす、松方正義を英雄扱いにする浜氏の考えは間違えている。参考のために米価の推移を示す。松方デフレが分かる。西南戦争の終結後はゆるやかなインフレに導く政策にすべきだった。

1461

【間違い3】P156
「金本位制を維持していたら、太平洋戦争時の通貨増発はなかった。」

金本位制万能主義者の浜氏だが、その致命的な欠陥に気付いていないようだ。1936年2月26日に有名な226事件が起き、高橋是清大蔵大臣等が暗殺され、軍部の暴走が始まった。国債の乱発で軍事予算が爆発的に拡大した。

1462


これに対して浜氏は金本位制を維持していたら通貨発行の歯止めをかけることができただろうと言う。
反論:日本は、そんなに金を持っていなかった。

1463

第一次世界大戦時の特需で日本は巨額の正貨を手に入れた。しかし、その後の大正バブル崩壊とデフレ、そして昭和恐慌と続き、金の大半を失っていた。それでも金本位制を維持していたら、金の海外流出が続き、通貨発行ができず、昭和恐慌から立ち直れなかっただろう。世界大恐慌の後、金本位制からの離脱が早いほど景気回復が早かったことが分かっている。このことは下図で示される。
第一グループ:金本位制でないか1931年までに離脱した国
第二グループ:1931年に離脱(英、独、日本)
第三グループ:1932年~1935年に離脱(アメリカ等)
第四グループ:1936年にいたっても離脱せず(フランス等)

1464


デフレ脱却には、浜氏の大嫌いな通貨増発しかないことは明らかだ。

【間違い4】
次に『経済政策の射程と限界』扶桑社という本の中の浜氏の発言にコメントする。
P141
「いくら金融緩和の規模を大きくしたとしても、ザルのごとくそのお金は投機的なリスク資産に流れていってしまう。実体経済が活力を取り戻す方向には向かわない。」

 これは明らかな間違いだ。アベノミクスで金融緩和の規模を大きくした結果、円安・株高になった。株の時価総額は次のグラフで分かるように約200兆円増えた。

1465


200兆円の多くは日本国民の資産となった。年金積立金も2012年が9兆円、2013年が18兆円、合計27兆円もの運用益が出た。実体経済の活力を取り戻すために役立っている。もちろん、消費増税の後はどうなるか不安は残る。これは別問題だ。株が上がれば消費は伸びる。企業も資金を調達しやすくなる。家計金融資産も増加し、消費に良い影響を与えている。

1466

【間違い5】P142
インフレターゲットは、インフレが高すぎる国がインフレを何%にまで下げるという目的で掲げる。「物価を上げるために目標を決める」という国はない。意図的にインフレを起こそうとしている国は日本以外にない。

反論:デフレを十数年も続けている国は他に無いから、他の国がやったことがない政策を行うしかない。「インフレを起こしてはいけない」ということはデフレ脱却はいけないということ。こんなことを言う馬鹿なエコノミストは日本にしかいない。

【間違い6】P144
「インフレになれば、商品に高い値段がつけられるから、一見すると売り上げは伸びるがコストも上がる。円安にしているから原材料等の輸入コストも上がる。しかし、購買力は高まっていないからコスト削減を考えねばならない。そのために、人件費を削るだろう。これは本末転倒だ。」

反論:浜氏の頭の中はゴチャゴチャになっているようだ。このように経済は個々の現象だけに注目するとマクロ経済を見失ってしまう。円安が日本経済にどのような影響をもたらすかということに関しては、マクロ計量モデルを使って試算を行ってみるしかない。その影響の詳細に関しては、どのモデルを使うかによって異なる結果が出るかもしれない。しかし、方向としてはどのモデルでも同じ結果が出る。つまり円安は日本経済にとって良い結果をもたらす。これは近隣諸国の経済を悪化させながら自国の経済を発展させる政策なので近隣窮乏化政策と呼ばれている。例えば日経NEEDSによる試算では、円安は実質GDPを増加させ、雇用者報酬を増加させる。ただし財政を拡大したほどの劇的な効果ではない。実質消費は1年目、2年目は輸入物価の上昇で落ち込むが、その後伸びてくる。法人企業利益も伸びてくるがそれを賃上げに回すか、内部留保にするかは分からない。

【間違い7】P147
インフレターゲットはうまくいく確率が非常に少ない。
物価が上がり、賃金は上がらない。

 
反論:
日本においてインフレターゲットはデフレ脱却目標を意味する。消費増税をすれば物価は上がり、賃金は上がらないという状況は作り出せる。しかし、インフレターゲットで言うインフレ率は消費増税の影響を除いたもので考えるので、これは当てはまらない。円安に伴う輸入物価の値上がりであっても、マクロモデル(例えば日経NEEDS)で試算をしてみても、賃金は上がる。一般的に言って賃金が上がらないときに物価だけがどんどん上がり続けることはない。一時的にそのような状態になっても、誰も物を買えなくなるからやがてデフレに戻るだけ。物価が継続的に上がるには賃金が上がり需要が伸びることが絶対条件である。

過去の平均給与の推移をみるとよい。インフレ時には給与はインフレ率以上に上がった。
デフレ時には給与は物価の下落率以上に下がった。

1467

内閣府による「国民生活に関する世論調査」でも、インフレ時には、生活がよくなると思う家庭が多かったがデフレ時には、生活が悪くなると思う家庭が多くなった。
1468


【間違い8】P161,162
日銀の手元に不良債権がどんどん溜まっていく。これじゃあもう日銀経営ダメだなと、海外投資家に思われたら、円という通貨は円安どころか値段が付かない消滅の危機に瀕する。

反論:
浜矩子の著書『1ドル50円時代を生き抜く日本経済』と完全に矛盾する。
円暴騰論の後は円暴落論では無責任極まる。読者を馬鹿にするのもほどほどにしろと言いたい。

【間違い9】P163
日本経済は未来永劫大きくならなければいけない、などということは不可能。
    
反論:経済の拡大が止まった国など世界のどこにもない。日本が世界一成熟した国だというわけでもない。下図のように、成長率がマイナスの国は世界中で日本だけだ。経済を停滞させようという浜氏の主張に同意できない。

出所:OECD Economic Outlook 91 2012
1469

長期的にみても、実質GDPは戦争時を除いて一貫して増大を続けている。

14610

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コメント

 今晩はhigashiyamato1979です。浜氏の言動は現今の日本の知識人の問題点を如実に現すものだと思います。
 それでは決まり文句! お金が無ければ刷りなさい! 労働はロボットに!人間は貴族に!

投稿: higashiyamato1979 | 2014年1月14日 (火) 22時54分

富とは財・サービスの獲得であって通貨ではない。生産力が本当に一定ならば通貨の増発は通貨価値の下落につながり、獲得される財・サービスが縮小する。そういう理屈なのでしょう。
ところが労働も商品なわけで、通貨価値の下落で労働の価値が高まれば労働強化無の賃金上昇につながる。
単位当たりの通貨価値が下落しても、下落率以上の賃金上昇・所得向上があれば必ずしも辛いインフレと言うわけではなくなる。もちろん価格に占める賃金の割合に左右されるはずだが、少なくとも生産力が一定でも労働との関わりで通貨発行が必ずしも庶民いじめのインフレにならないことも考えられる。

まして、現代のように潜在生産力の余力が莫大な場合、我々が考えている程度の通貨増発ではそれに応じて商品が出そろうだけではないのか?

・・・などと考えました。

投稿: S | 2014年1月16日 (木) 09時11分

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