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2014年1月12日 (日)

コンピュータに仕事を奪われないための経済政策(No.145)

最近大学や民間が持つ人工知能技術を結集して東大入試に挑む「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトが話題になっている。すでに代ゼミのセンター模試を受験し、平均点以下ではあったが、私立大学の学部のほぼ半数で合格可能の80%以上の「A判定」を獲得した。2021年度東大合格を目指して基礎技術を積み上げつつある。

そのプロジェクトのリーダーである国立情報学研教授の新井紀子氏は『コンピュータが仕事を奪う』という本を書いている。この本のタイトルからして、コンピュータを作る目的を間違えていることが分かる。新井氏は「知的労働までロボットに奪われ、十分な賃金が得られなくなれば大学進学自体をあきらめる層が出てくるかもしれない」と述べている。
人の仕事を奪い、失業者を増やし、人を不幸にするためにコンピュータを作るのか。そんなコンピュータならいらない。コンピュータは人の生活を豊かにし、人を幸福にするためにつくらなくてはならない。

洗濯機は、主婦の生活を快適にした。すでにロボット(機械・コンピュータ)が人間の労働を肩代わりしつつある。例えば駅の改札、銀行のATM、自販機、百科事典、ワープロ、メール、スマホ、カーナビ、インターネット、製造業のロボット化などで多くの労働者は仕事を奪われたが、大部分は別な仕事に移った。それは少子高齢化で失った労働力を補って余りある、というよりはるかに多いというべきだ。いわばロボット(機械・コンピュータ)という新たな労働力は入ってきたために、供給過剰となり先進国では世界的なデフレになろうとしている。

需要不足・供給過剰になったとき、工場破壊をして生産力を落とすという選択肢は無い。国民は欲しい物はたくさんあるが、お金がないから買えないだけだ。例えば、今住んでいるよりもっと大きくて快適な家を建ててあげようと国が言ったら拒否する人は少ないだろう。お金が無いから結婚できない、子どもが産めないと思っている人でも、宝くじで1億円が当たれば結婚、出産も夢でなくなる。要するに需要は可処分所得が増えればいくらでも出てくる。

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デフレ脱却の処方箋は簡単だ。減税や歳出拡大で国民にお金を渡せば、国民生活は豊かになる。通貨を増やしてデフレを止めた例はたくさんある。江戸時代には何度も貨幣改鋳を行い通貨増発をし、昭和恐慌の際にも通貨創発でデフレから脱却した。ロボットが労働を肩代わりして供給を増やしても、失業者が増え生産された製品を買うお金が国民に渡ってなかったら供給力増強の意味が無い。供給を増やすときは必ず同時に需要も増やさなければならない。どんなに素晴らしい製品を作っても国民にお金を渡しておかないと買えない。当たり前だ。市場原理主義者にはこれが理解できない。

いくら日銀が国債を買って、銀行に資金を供給しても、国民にお金が渡ってなければ需要は生まれないし、需要が生まれなければ設備投資も意味が無いから資金需要が生まれない。結局資金は銀行に滞留するだけ。この壁を突破するには財政赤字を拡大・財政規律を無視・マネタイゼーション(通貨増発)の断行・財政の健全化の棚上げをすべきだ。新しい時代には新しい経済システムが必要で、過去の教訓は忘れるべきだ。

「未来の世界は人工知能が雇用を奪うから、人は、コンピュータができない仕事をしなければならない。」と新井教授は主張する。コンピュータができない仕事をしなければ給料がもらえないのであれば、将来の世界は地獄だ。誰がそんな超能力を持つというのか。どんなに努力しても、コンピュータはものすごい勢いで進歩する。折角コンピュータのできない技能をつけたと思ったら、あっという間にコンピュータに追い抜かれる。未来とはそんな地獄なのか。発想の転換があれば、未来も地獄から天国に変わる。つまり、「労働はロボットに、人間は貴族に」という考えだ。人があまりやりたくない労働はロボットにまかせ、財・サービスの供給を十分確保したら、人間は貴族の生活をすればよいのだ。そのような生活を確保するための資金は国が国民に渡せばよいだけだ。

頭の切り替えができるかどうかで、世界は天国にも地獄にも行きうる。最悪のシナリオだが市場原理主義者が財政規律一辺倒で貫き、小さな政府で市場に任せておいたらどうなるだろうか。ロボットを駆使して大規模な生産を行う企業に富が集中することは明らかだ。他を寄せ付けない巨大独占企業ができあがり、すべての利益を独り占めする。ほとんど人手はかからないから、従業員はほとんどいない。人件費はほぼゼロで、売り上げがそっくり経営者だけの利益となる。国民の大部分は失業。生活保護の生活。社会保障制度は崩壊。失業者は購買力がないから物を作っても売れずデフレが慢性化し経済は衰退する。これぞまさに地獄だ。

地獄から天国にするには市場原理主義を排し、国が積極的に経済に介入すればよい。刷ったお金で巨大独占企業の株を徐々に買い占めることから始めるべきだ。やがて経営権を握るまで株を買う。そして、経営者に利益を独り占めされるのでなく、利益の一部を国が吸収していく。そしてだんだん国はその利益吸収割合を増やし、吸収した利益を国民に還元していく。何に使えば良いか。
①減税を進めていき、やがて税金をタダにする。無税国家の実現だ。
②社会保障の充実に充てる。やがて社会保険料もタダにする。現行の社会保障制度の大転換だ。
③ロボット産業育成に巨額の投資をする。農業・漁業のロボット化、医療・介護のロボット化、教育のロボット化(コンピュータ化)などに重点投資する。一家に一台のロボットを入れることを目標とする。とはいえ、ロボットもロボットがつくるのであり、人間の役割はより高度なロボットの開発である。
④失業者を出さないためにも、公務員を増やしていく。③の事業に携わる人たちも公務員にする。
⑤国が様々な分野で活躍したい人を公務員として雇う。
音楽、絵画、彫刻などの芸術家、作家、タレント、俳優、スポーツ各種、カメラマン、記者、料理人、研究者、発明家、陶芸家、園芸家、棋士、落語家、評論家、漫画家
⑥奨学金を充実させ、誰でも大学・大学院まで行けるようにする。ただし、入試制度は維持し、成績が悪くても3流校でもよければ入学できる。

このような社会制度を導入する際重要なことは、様々な活動評価を行い、評価の高い人は高い給料が得られるようにする。がんばった人は報われ、がんばらなかった人でも生活はできる社会にすることだ。時代の変化に対応しなければならない。

過去の歴史より学んだことは、生産力が不足しているときは社会主義・共産主義は経済の発展を妨げるということだ。生産力アップにはより多くの労働と創意工夫を引き出す必要があった。努力しても努力しなくても報酬が同じなら人は最小限の労働しかしない。だからソ連や東欧の共産主義は成功しなかった。

生産力があり余っているときは事情が違う。逆に、市場原理主義は経済の発展を妨げる。 ロボットのお陰で、人間が労働から解放されたのであれば、社会制度を工夫すれば人間は貴族のような生活を送ることができるはずである。かつてのように、競争を利用して人間に苦痛を伴う労働を強制する必要がなくなる。もちろん上記理想社会でも競争は残す。しかし、競争に敗れても十分快適な生活を送れるという種類の競争であり、弱肉強食社会ではない。

時代に相応しい社会制度に変革ができるのかどうかで、国民生活は天国にも地獄にもなりうる。上記のような社会制度改革に成功すれば、労働はロボットに、人間は貴族にといった理想社会=天国で生活ができるようになる。

2014年1月9日の朝日新聞に「女性ロボットの表紙をめぐり“炎上”という記事が載った。

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人工知能学会誌が上記のようなデザインを採用したことに対する批判だ。この種の議論は、これから始まろうとしているロボット社会における大論争の序曲だ。これからこの種の論争は大爆発するだろう。批判は「無自覚な性差別」、「ひどすぎ!うつろな目で掃除をする女性型ロボット!」、「なぜ女性なのか理由付けが必要」、「公共性への配慮を欠く」という批判だが、このデザインは学会員らの投票で一番人気だった。賛成派は「過剰反応だ」と主張する。

雑誌の表紙に可愛い女の子の写真を使うのは、ありふれたことであり、誰も気にしない。ここで問題になったのは見苦しい電線だ。実際のロボットは電磁誘導等非接触充電方式などもっとスマートな方式があるだろうから、まさかこんな電線はないだろう。この電線がまるで奴隷少女のような印象を与えたのかもしれない。

論争がエスカレートすることが確実な理由は、やがてロボットは家族の一員となる時代が来るということだ。将来は『動物愛護管理法』に相当する『ロボット愛護管理法』が制定されるだろう。ペットに愛着を感じた人間はペットを食肉用動物とは別扱いして特別な保護をするための法律を制定している。この表紙にあるようなロボットが自宅に入ってきたらペット以上に愛着を感じるのは間違いない。

ロボットに対する虐待禁止を法律で定めるようになるになるだろう。マネキンの人形なら動かないから特に愛着は感じず、特別保護する必要はなく、不要なら普通のゴミとして処分して構わない。しかしロボットとは自由に会話ができ、「心が通じ合う」。炊事、洗濯、掃除、老人の介護、子どもの教育等言われたとおり何でもやってくれる。医学の知識は医者以上、法律の知識は弁護士以上、欲しい商品の情報も瞬時にインターネットを検索し教えてくれる、学問の知識は大学教授以上という才女のロボットを自由に購入が可能となったらどうだろう。そこまでの才女でなくても楽しい会話ができる少女ロボットの段階ですでに大論争が始まるだろう。

もちろん、人身売買は遠い昔に禁止されている。しかし、身売りは日本でも行われていた。特に不況になると激増した。昭和恐慌の際には青森県だけで7083人の娘が芸娼妓(げいしょうぎ)に売られたとされている。金持ちは少女を買いたがる。人工知能学会の表紙にあるような見かけ上、少女とあまり変わらないロボットが売買されるようになったとき、ロボットは機械だから単なる機械の販売に準ずるのか、それともそれに異を唱える議論が出るのか分からない。上記の表紙ですでに“炎上”するのだから、その販売が始まろうとしたときそれとはケタ違いの大論争になりそうな予感がする。

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コメント

 明けましておめでとうございます。higashiyamato1979です。毎回素晴らしい主張を発信し続ける日本経済復活の会ですが本日の記事は群を抜いています。久々に感銘を受けました。私はしがない警備員ですがここにかかれていることのを実現すべく微力を尽くすつもりです。
 それでは最後にいつもの決まり文句に代えてかつてテレビ朝日系列で放送された「100人の20世紀」の「アラブの大統領 ナセル」の回でエジプト政府のあるスタッフがナセルについてのコメントをそっくりそのまま借用した文章を小野先生に捧げ、私の拙いコメントを締めくくりたいと思います。
 「小野盛司は愛国者であり、未来から訪れた指導者でした。ただ、彼が登場するのは早すぎたのです。」

投稿: higashiyamato1979 | 2014年1月12日 (日) 16時33分



素晴らしいですね!

投稿: | 2014年1月13日 (月) 19時13分

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