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2014年5月

2014年5月13日 (火)

公共投資を増やせば、国の借金のGDP比は減る。 ― 内閣府試算 ―(No.157)

なぜ国の借金はこんなに増えたのかという質問に、多くの人は公共投資などの景気対策のお陰だと答える。しかし驚くべきことに内閣府による試算では全く逆の結果となっている。
公共投資を増やした場合、債務のGDP比はどうなるのかという問題である。内閣府には2種類のモデルがある。中長期モデルと短期モデルである。継続的にGDPの1%(約5兆円)だけ公共投資を増やした場合の乗数表を比較してみる。2007年から2011年に発表された乗数を示す。

     中長期モデル(%)    中長期モデル(%)    短期モデル(%)
     2007年            2010年          2011年
1年目  -1.01         -1.65          -2.14
2年目  -0.22         -1.21          -3.17
3年目   0.78         -0.24          -3.82
4年目   1.78          1.08
5年目   2.64          2.43
 
例えば2007年のモデルで-1.01となっているのは、公共事業を約5兆円増額すると国の借金のGDP比は1.01%減少するという意味である。何かの間違いではないかと思う人がいるかもしれない。公共事業5兆円増額するには、国債を5兆円多く発行しなければならないから、国の借金は増えるのではないかという疑問である。しかし、景気がよくなれば税収が増えるからそれだけ国債発行額は少なくてすむ。更に重要なのはGDPが増えることだ。求めているのは

国の借金
――――
 GDP

だから、分母が大きくなればこの分数は小さくなる。この比がだんだん大きくなってきていまや200%にもなってきた。分子の増加速度と分母の増加速度を比べることになる。国の借金は1000兆円ともなれば10兆円増えても増加率は僅か1%だ。しかし、分母のGDPは10兆円増えると2%増えることとなる。この場合はこの比は減少する。

この3つの試算で、いずれの場合も公共投資を増やすと最初の1~2年は減少している。2007年中長期モデルでは3年目からは、増加に転じる。2010年モデルは3年目から増加、短期モデルはだんだん減少幅が拡大していっている。その他のシンクタンクのモデルでは短期モデルに近い乗数となっている。2007年に当時の安倍内閣に対してこの問題に関して2007年2月23日に行った質問主意書:内閣衆質166第62号の一部を示す。

二 今回の新中期方針の前身である「構造改革と経済財政の中期展望―二〇〇五年度改定」
 (以下「改革と展望」という。)は経済モデルによるシミュレーションを公表している。それによると新規国債発行額を五兆円増やし、それを所得税減税または公共投資を増額するような景気刺激策をとれば、成長は加速され、デフレ脱却を助け、少なくとも最初の一~二年度には債務のGDP比を減らして財政再建に寄与させることができると結論付けている。問題は三年目以降で債務のGDP比が増える可能性があるということか。

三 このモデルで景気刺激策をとると三年目以降で債務のGDP比が増えて問題だというのは景気回復期に短期金利が上昇すると仮定しているからであり、もしも短期金利の上昇を抑える政策をとれば三年目以降も債務のGDP比は減ると考えられるので、こういった試算を行って公表すべきではないか。

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それに対する安倍総理の答弁書(内閣衆166第62号)を次に示す。
――――――――――――――
二について
「構造改革と経済財政の中期展望十二〇〇五年度改定」(平成十八年一月二十日閣議決定) の参考試算の作成に当たって用いた「経済財政モデル(第二次版)」(平成十八年三月内閣府公表)においては、個人所得税につき国内総生産の一パーセント相当を継続的に増税する政策及び公共投資につき国内総生産の一パーセント相当を継続的に削減する政策についての乗数表を掲載している。
個人所得税を継続的に減税し、又は公共投資を継続的に増額するような景気刺激策を行った場合について、一定の仮定の下、これらの乗数表を用いて計算すると、御指摘のように、
公債等残高の国内総生産比率は、当初の一年目及び二年目は低下するが、三年目以降上昇すると考えられ、中期的にみて財政健全化に寄与しない可能性があることが示されている。

三について
「経済財政モデル(第二次版)」においては、公共投資や短期金利等の変動が経済財政に与える影響について、それぞれ個別に試算結果を公表しているところである。

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当然のことながら債務残高が増えれば増えるほど、歳出拡大による債務のGDP比の押し下げ効果は大きくなってくる。2010年の段階ですでに3年目まで押し下げ効果があるわけで、2014年に再計算すれば4年目まで押し下げ効果がある可能性がある。ましてや2011年の短期モデルでは、公共投資増額で借金のGDP比は減ってくるという結論は決定的である。

100%断定できることは、「公共投資を増やせば国の借金のGDP比は増える」とは言えないということだ。田中角栄の時代を考えればよい。公共投資だけでなくオイルショックも重なり、物価も1973年は11.7%、1974年は23.2%も上がった。今、これだけ物価が上がると、借金のGDP比は激減するのは間違いない。当時、国債発行残高は僅か2兆円程度で増えていない。

内閣府やその他のシンクタンクのモデルに従えば、公共投資を減らせば減らすほど、実質的に借金は増えてくる。実際、政府は公共投資を1998年以来減らし続けてきた。その結果、国の借金のGDP比は増え続けた。マクロモデルの予測通りの結果となっている。日本中が、間違えた方向に突っ走っている。歳出削減、増税で国の借金が減ると誤解している。家計とは話が違うのだ。今こそ、きちんとマクロモデルに真剣に向き合い、議論し合い、どうすれば財政は健全化するのか、デフレから脱却できるのかを徹底的に議論すべきではないか。

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