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2014年8月

2014年8月30日 (土)

超楽観ムードの経済財政白書、歴史は繰り返すのか(No.160)

先月、経済財政白書が内閣府より発表された。「よみがえる日本経済、広がる可能性」とのキャッチがついており、超楽観的な内容だ。20年余り前の経済白書も同様に超楽観的な内容だった。1989年12月、三重野康(やすし)氏日銀総裁に就任。矢継ぎ早の金融引締め政策を実施。「平成の鬼平」と言われバブル潰しを強行し日本経済の失われた20年のきっかけをつくった。1989年に消費税が導入され1990年3月総量規制が始まった。それまで日本経済の発展に期待して流れ込んでいた海外の資金は一斉に逃げ始め1990年には株安、債券安、円安となった。逆に例えばフランクフルトはトリプル高となっていた。
 
急激な日本経済の没落を避けるために適切な助言を行わなければならなかった時期に経済白書は犯罪的と言えるほど楽観的な見通しを持ち続けた。
1991年 「日本経済は長期の拡大過程を続けている」
1992年 「景気は年度後半に回復」
1993年 「回復に向けた動きが現れている」
これから日本経済に起ころうとしていた経済の大停滞が予測できていなかったことは明かであり、白書の執筆者に白書を書く資格はなかったと言える。同様に今年の経済財政白書の筆者には、それを執筆する資格は無いように思える。1997年度には521兆円あった日本のGDPが昨年度には481兆円にまで落ち込んだ。こんなときに増税に賛成するとは気は確かかと言いたい。

経済財政白書の中身を見てみよう。消費はどうか。1997年の増税と今回の増税の比較がグラフになっている。

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今回のほうが落ち込みが大きいと認めている。その後、落ち込んだ消費は伸びてこない。

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住宅着工も大きく落ち込んでいる。7月は14%減だ。

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日本経済を復活させるには、デフレから脱却し需要(消費)を増やすしかない。それは単純で簡単で、どの内閣でもできることだが、財政支出を拡大すればよいだけだ。なぜやらないかと言えば、国の借金が1000兆円を超え、これ以上財政拡大は無理と考えているからだ。しかし、それに反し経済財政白書の中にも示唆に富むグラフがある。

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リーマンショックで各国は国債を発行して景気対策を行った。それにより国の借金を増やしている。このグラフは横軸に名目成長率、縦軸に国の借金のGDP比が景気対策によってどれだけ増えたかを示している。右に行くほど好景気の国、左に行くほど景気が悪い国と言って良い。このグラフから分かることは、名目GDPの伸びが大きい国ほど国の借金のGDP比は増えないということだ。日本が国の借金にGDP比を下げようと思えば、思い切って財政を拡大し名目GDPを伸ばせば、国の借金は実質的に増えなくなるということだ。

日本は高齢化社会で、医療・介護費が大変だから増税が必要なのだと聞かされてきたが、国際比較したグラフが経済財政白書にある。これを見ると、まだまだ諸外国に比べ医療・介護費は多くない。むしろ景気を悪化させ名目GDPが小さくなったほうが怖い。

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下図は、日米欧の単位労働コストの比較だ。日本はどんどん下落し、アメリカ、ユーロ圏は増加を続けている。これは、デフレの続く日本では、企業は利益が出ないので設備投資ができず、競争力が失われ、賃金を下げても売れなくなっていることを意味している。しかし、超楽観的な経済財政白書には「日本の労働コストが上がってきた」と書いてある。え!と思い、一瞬間違いかと思った。しかし、よく見ると右端の2013年の所で僅かに右上がりになっている。なんと、これで超楽観主義者は上がったと主張するのだ!しかし、この赤い線が右上がりか右下がりかと聞かれたら100%の人は右下がりと答えるだろう。

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有効求人倍率は上がってきた。これは間違いない。しかし正社員の有効求人倍率はまだまだ1以下だ。これでは景気回復と言えない。企業は本格的な景気回復を信じておらず、その場しのぎでパートを増やしている。そのうちまたデフレ不況となるから、そのときパートの首切りをすればよいと考えているからだ。

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日米のパート労働者比率の比較がある。日本はパート労働者がアメリカよりずっと多く、しかもますます増えている。本格的な景気回復となれば、労働者の取り合いとなり、正社員の募集が多くなるからパートの比率が下がってくる。この点から見ても日本の不況脱却はまだまだずっと先だ。

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このように、様々な観点から、日本は本格的景気回復にはほど遠い状況だと分かる。こんな時に増税など愚の骨頂だ。

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2014年8月26日 (火)

国民は生活が苦しくなった、これからさらに苦しくなると感じている:内閣府調査(No.159)

先週「国民生活に関する世論調査」の結果が内閣府より公表された。結論から言えば生活は悪化していると感じ、将来更に悪くなるだろうと思っている人が増えている。「お宅の生活は、これから先どうなっていくと思いますか」という質問の回答だが、第一次石油ショックの前、1960年代終わりから1970年代の初めにかけて「よくなっていく」が30~40%、「悪くなっていく」が10%前後だった。それがバブル崩壊後には、逆転し、リーマンショックの頃最悪となった。その後アベノミクスにより若干改善していたが、今回増税のお陰で再び悪化してしまった。

具体的には
         2013年  2014年
よくなっていく  8.5%    8.9%
悪くなっていく 24.7%   26.8%
となっている。当然のことだが、生活がよくなっていくと感じる人が増えない限り、消費は増えないし、景気回復もあり得ない。

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景気がよくなったと実感として感じられるのは、将来生活が良くなると思う人の数が悪くなると思う人の数を上回るときだ。その時が来るまで、政府はひたすら景気対策を行って景気回復のためのあらゆる努力をする必要がある。このグラフをみれば、その時期が来るのはずっと先のことであり、今は増税などもっての外としか言いようが無い。

日常生活での悩みや不安を尋ねたところ、3人に2人にあたる66・7%が「感じる」と回答した。具体的には「老後の生活設計」(57・9%)が最も多かった。昨年6月の前回調査と比較すると、「老後の生活設計」が2・6ポイント増加した。政府は、消費増税を「税と社会保障の一体改革」と名付けていた。そうであれば、この改革によって国民は老後の生活設計に関する悩みが解決されなければならないはずだが、逆に悩みを増す結果となった。その意味で改革は失敗だったと言える。

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内閣府調査で「昨年と比べ、生活が向上しているかどうかの問いには、5人に1人に相当する20・9%が「低下」と答え、前回調査から4・1ポイント増加している。

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リーマンショックの時期には生活が低下していると答えた人の割合は35%近くにまで上昇していたが、その後割合は下落しつつあった。しかし、今回の増税で再び上昇に転じている。

以上まとめると、現在多くの人が生活が低下したと感じており、さらに様々な不安を抱えている。将来生活が低下すると思う人も多く、老後が心配な人も多い。このような中で消費を増やそうと努力しても無駄だ。政府のやるべきことは、国民に安心を届けること。収入も増え、これからも増え続けるだろうと思える状況を作り出さねばならぬ。さらに老後の安心も必要だ。政府は反論するかもしれない。そうしたいがお金がない。いや、お金は日銀がいっぱい刷っている。刷ったお金は金融機関に日銀当座預金として150兆円もたまっている。これを有効利用するために、政府は国債を増発しこの資金を回収し、それを財政で使って国民に渡せば良いだけだ。国債はいくらでも日銀が買ってくれる。刷ったお金は、いくら使っても無くならない。幾らでも補充できるからだ。そうすることにより、デフレから脱却でき、諸外国並の経済成長率が可能となる。

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2014年8月19日 (火)

内閣府試算『消費増税の実質GDP成長率への影響は0.1%』は嘘でしたね(No.158)

内閣府は消費増税の実質GDPへの影響の試算を発表していました。
http://www5.cao.go.jp/keizai3/econome/h24chuuchouki.pdf
12頁をご覧下さい。実質GDPへの影響はほとんど無い。具体的には、年平均0.1%程度と発表しております。予算委員会等でもこの数字が問題になっていました。消費増税と言わずに一体改革あり(=消費増税あり)と一体改革なし(=消費増税なし)と表現し、たくみに消費増税という言葉を隠しておりました。

4-6月期の実質GDPは年率換算でマイナス6.8%ということで、この数字が全くデタラメであったことがほぼ確認されました。また2013年度の実績値で実質GDPが2.3%にあったのに対し、2014年度の実質GDPの内閣府予測は1.4%。もっともこの数字もどうせ嘘でしょう。民間42人のエコノミストの平均は0.67%です。内閣府の予測より消費増税の影響ははるかに深刻でした。

消費増税で景気は悪くならないと言って国民を騙し、消費増税を強行し、日本経済に大打撃を与えた内閣府の責任は重大だと思いませんか。景気が悪化すれば当然財政も悪化します。
増税は消費者に「大きな打撃」と浜田内閣官房参与は言っています。
http://jp.wsj.com/news/articles/SB10001424052702303959804580090132912841788
来年の消費税再増税は止めるべきだと思いませんか。

このように書くと、4年間の平均を書いただけだからまだ正しいか間違いか分からないと内閣府の弁解が聞こえてきます。実際、増税決定前、国会議員達は平均でなく各年度への影響はどうなるのだろうと、私にまで質問をしてきておりました。
NEEDSを使った計算結果は、以下のサイトにあります。財務省が怖くて他のシンクタンクはどこも同様な試算を発表できませんでした。
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2010/10/post-bd0c.html
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2011/12/no106-196d.html
当然の事ながら、内閣府も4年間の平均だけでなく、上記の程度の詳しさで発表しなければならない。消費増税を国民にお願いするのであれば当然の義務dす。内閣府の出したグラフを見れば、これが増税のお願いではなく、『騙し』であるのは明白だ。内閣府のグラフを引用してみよう。

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一見してこれが騙しのグラフであると分かりますね。第一、縦横の罫線をわざわざ消しています。ご丁寧に縦の目盛りの530,540、550も一生懸命隠しています。笑っちゃいますね。これぞ国家秘密なのです。では国家秘密をばらしてあげましょう。私が逮捕されたら、皆さん抗議して下さいね。

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毎年の実質GDP成長率は、次のようになります。

        一体改革あり   一体改革なし
2013年度  2.1%     1.7%
2014年度  1.4%     1.8%
2015年度  1.7%     1.9%
2016年度  2.1%     2.0%

繰り返しますが2014年度の実質GDP成長率が1.4%であると言っているエコノミストはもういないでしょう。42人の平均は0.67%です。消費増税がなかったら1.8%だったのにということになりますから、消費増税の影響は内閣府の予測よりはるかに大きかったことは明かです。公表した消費増税の影響を示す唯一の数字が0.1%(=1.9%-1.8%)であったことは、国民を騙して増税をしようとする意図が明白だと思いませんか。

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