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2015年2月15日 (日)

内閣府試算=狂った羅針盤は、今年も狂っていた(No.172)

2015年2月12日に内閣府より『中長期の経済財政に関する試算』が発表された。
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2015/0212/shiryo_01.pdf
毎年、予測があまりにも当たらないので呆れているのだが、今年もオオカミ少年の嘘が並んでいた。

以前は、『経済再生ケース』と『参考ケース』の2種類だったが、今回の試算は『経済再生ケース』と『ベースラインケース』の2種類となった。内閣府によれば、安倍内閣の成長戦略が実行されれば『経済再生ケース』となることが予想されるが、もしもそれが実行されなければ、足元の経済状態が続けば、『ベースラインケース』の予測になるという。それでは成長戦略のうちで、どの政策がどれだけGDPを押し上げるのかを内閣府に質問したが、その答えは計算していないし、分からないということだった。要するに、ちゃんと計算をせず、鉛筆なめなめで数字を並べたということ。

内閣府の2人の人に聞いたのだが、彼らは本音を決して語ることはないが、経済再生ケースのような高い成長率になるわけがないと彼らは思っているのだろう。またオオカミ少年だったじゃないかと追求されたときに、「ベースラインケースも見てくれ、成長戦略がうまくいかなかったから低成長になったのだ」と逃げるつもりだろう。昨年までは、参考ケースとしていたが、名前をベースラインケースとした方が、「成長戦略に失敗しただけ」と言って逃げやすい。

『経済再生ケース』と『ベースラインケース』ではどこが違うのか。最も大きいのはTFP(全要素生産性)の違いだ。この違いを次のグラフで示す。

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ベースラインケースではTFPは1.0%、経済再生ケースではTFPは2.2%とされている。TFPを上げればGDP成長率も上がるので、安倍首相が望む成長率を簡単に達成することができる。ではどうやってこれほど大幅にTFPを上げることができるのかという問いに誰も答えることはできない。いい加減に決めたのだから。ましてや安倍内閣の成長戦略でTFPがこれだけ上がるのかという問いには誰も答えられない。唯一言えることは、安倍首相の願望である、実質成長率2%、名目成長率3%、インフレ率2%を達成するには、TFPをこのように大幅に上げればよいということだけだ。TFPという得体の知れない経済用語を使えば、何をどうすればよいのか誰も分からないから好都合だと内閣府は考えているのだろう。

TFPを自由に変えて政府が希望するGDPを実現するという手法は馬鹿げているし、シミュレーションの名に値しない。こんな子供だましの禁じ手で経済予測をやっている国は日本だけだ。閣議決定で成長率も経済政策も決めてしまったのだから、内閣府では無理矢理それに合わすモデルを作るしか無い。だから現実離れした狂った羅針盤になってしまう。

しかし、数字は正直であり、時々彼らの意図するものと正反対の結果も出てくる。次のグラフ「経済再生ケース」で求めたもので、赤の棒グラフは財政赤字の推移を示し、2023年度までずっと巨額の赤字が続く。基礎的財政収支もずっと赤字だ。一方折れ線グラフは国の借金の対GDP比だ。消費増税を行った2014年度だけは、増えているが、その後ずっと減り続けている。

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ここで使った名目GDPは、消費増税によりかさ上げされたものだ。「借金の実質的な重さ」を見るには、かさ上げされないGDPを使ったほうが、より正確であるので、かさ上げ分を除いたGDPを使って計算したものも以下で示す。

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点線で示したのが、かさ上げ分を除いて「公債残高/名目GDP」を計算したものだ。これではっきり分かる。2014年度と2017年度は消費増税のために景気が悪化し、GDPが縮小し、国の借金は実質的に増えている。それ以外の期間は財政赤字にも拘わらず、減り続けている。このグラフで分かることは、消費増税など行わなければ、財政赤字あるいは基礎的財政収支の赤字が続いても、国の借金はどんどん軽くなるということである。

筆者は内閣府に電話し、次のようなケースで政府債務の対GDP比を比較したらどうかと提案した。
①消費増税を行う場合と行わない場合の比較
②財政支出を削減する場合と削減しない場合の比較。
内閣府の回答は「安倍内閣の下で働いており、立場上そのような計算はできない。」ということだった。しかし、安倍首相は「基礎的財政収支にばかり気を取られ、経済を悪化させて政府債務の対GDP比は何にもならない。基礎的財政収支だけでなく、債務のGDP比を下げることも目標に入れるべきだ」と主張していると話すと、ご意見として承りましたとの返事だった。

内閣府の予測はひどいもので、毎年内閣府が繰り返して「昨年までの予測は全部間違いで、予期せぬ理由により今年の景気は大変悪くなりましたが、来年からもの凄い勢いで経済成長を始めます。」と言う。このいい加減さ次の名目GDPのグラフで分かる。

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要するに、右肩上がりで成長するグラフを毎年出してくる。これらは全部はずれたのだが、今度こそ当たりますと言って政府、国民を騙す。実際は名目GDPは1997年に521兆円になったのが最高で2013年度は481兆円まで下がっている。これほど長期にGDPが下がってしまった国はどこにも無い。成長戦略などいくらやっても成長などしない。財政を拡大し、減税を行えば、名目3~5%は簡単に達成できるし、財政健全化も同時に実現する。

上図を見て、またオオカミ少年だと思わない人はどうかしている。要するに右肩上がりのグラフを右に平行移動して国民を騙している。今の政策を大転換しない限り、日本経済の衰退は続く。消費増税の影響については次のサイトで2012年1月24日に予測されていた。
http://www5.cao.go.jp/keizai3/econome/h24chuuchouki.pdf

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要するに、内閣府によれば、消費増税を行っても、行わなくても成長率はほとんど変わらない。4年間の実質GDPの合計で、その差は僅か0.1%だと主張した。ところが実際は実質GDPは2013年度が2.1%、2014年度がマイナス0.5%という甚大な影響があったわけで、内閣府のモデルが如何にデタラメかが分かる。

下図は図Aが2014年1月に、図Bが2015年2月に内閣府が発表した試算結果である。消費増税の悪影響が強く表れたことを認めざるを得なくなって、図Bでは図Aに比べて2014年度と2017年度の実質GDP成長率を大きく下げざるを得なくなったことが分かる。しかし、それでも2015年度と2018年度にはV字回復するとしているが、本当にそうなるか大いに疑問が残る。消費増税で可処分所得が減り消費が落ち込むのだが、それはずっと先まで残り景気の足を引っ張り続ける。1997年の消費増税の後も、大規模な景気対策にも拘わらず、ずっと景気は良くならなかった事を忘れてはならない。

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以下に2つのグラフを重ねてみた。2014年予測は、消費増税の影響は小さいとした成長率でこれは完全に間違いだった。2015年予測は、消費増税の影響は大きいとしながらも、理由もなくTFPを意図的に大きくして成長率をわざと大きくしたことが分かる。要するに、安倍内閣の目標を実質成長率2%としているから、それに合うようにTFPが調整されているだけで、これは予測はなく、安倍総理の願望に過ぎない。
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今回発表された試算で長期金利は下図のようになると発表された。

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2023年には経済再生ケースの長期金利は4.6%にも達する。金利が1%上がれば、金融機関の持つ債権に7.6兆円の損失が出ると日銀が発表した。4%金利が高くなれば単純計算で約30兆円の損失が出ることになる。しかし、そこまで損失が出る前に金融機関は保有する国債を売るのではないか。経済再生ケースで名目長期金利は、2014年が0.4%、2015年が1.2%、2016年が1.8%、2017年が2.3%といように一本調子で上がるとしている。そんなに急激に金利が上昇してきたら、日銀が国債を買って金利上昇を抑えるのではないか。

現在、日銀当座預金の残高は180兆円あり、更に日銀券発行残高は約90兆円ある。しかも日銀は毎年国債を大量に購入し、残高を年間80兆円増やす。こういった利子がつかない現金は、金利が4.6%の時代にはどうなるのか。ゼロ金利時代にはタンス預金でもまだ我慢できたが、長期金利が4.6%になると、タンス預金はあり続けるという内閣府の仮定は余りにも不自然である。こんなに借金が増えるから緊縮財政をしなければいけないとアピールしたかったのだろう。この状況ならもちろん、多額の現金を持つ金融機関は国債を買う。国債を買いたい人が殺到すれば金利は当然下がるから4.6%の金利はあり得ない。

内閣府によれば、日銀は短期金利を上げていくとのこと。国債の購入も止めるようだ。金融政策を全く理解していない人が日銀総裁になれば、このような支離滅裂な政策が実行され大混乱が起きるかもしれないが、この試算では大混乱の様子も記述されていない。例えばベースラインケースを見るが良い。2023年度は実質成長率が0.9%、名目成長率が1.4%、消費者物価上昇率が1.2%、GDPデフレーター上昇率0.5%という不況の真っ只中だ。それでも長期金利は2.7%だ。これだけの不況で、政府目標にはほど遠いのだから、まだまだ量的緩和は続いているはずなのだが、国債買い入れは止めたのだろうか。内閣府からはこれに対する明確な回答はなかった。

もし国債買い入れを続けていたら、国債の大部分は日銀に買われてしまっているはずだ。そうなれば、金利は日銀を通じて国庫納付金として日銀に入っているはずだ。国庫納付金は「その他の収入」として扱われているそうだ。金利上昇も国庫納付金を増やす。2つの理由でその他の収入はどんどん増え続けるはずだが、内閣府の試算では増えておらず、2014年が6.8兆円だったものが逆に2023年度には5兆円に減っている。一方で国債費はどんどん増加し2023年度には40.3兆円に達している。ということは、日銀は2015年度には国債の購入を止め、日銀は逆に国債保有残高を減らしているということだ。不況が続く中、そんな金融政策があり得るのだろうか。

この点を問い詰めると、内閣府の回答は、国債の売買に関する事は計算に入っていないと主張を繰り返す。それでは日本経済の予測は全く無理である。

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コメント

 今日は。higashiyamato1979です。つくづく内閣府には困ったものです。我々はディズレーリのこの格言を心に刻み込む必要があります。
 「軽い嘘は只の嘘、重い嘘は真っ赤な嘘、最も重い嘘は政府の統計」
 それでは決まり文句! お金が無ければ刷りなさい! 労働はロボットに!人間は貴族に!

投稿: higashiyamato1979 | 2015年2月15日 (日) 12時49分

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投稿: Jerry | 2015年3月 9日 (月) 05時35分

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