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2015年4月

2015年4月29日 (水)

通貨の信認を考える:スコットランドポンド、ギリシャドラクマ、日本円(No.177)

スコットランドとギリシャは近い将来、新しい通貨を発行しなければならなくなるかもしれない。通貨の信認に関して理解を深めるのに良い機会になるのでコメントしてみる。

スコットランドは昨年独立するかどうかの国民投票を行い、一時賛成が反対を上回る世論調査もでたが、国民投票では賛成44.7%、反対55.3%で否決された。しかし、スコットランド国民党(SNP)のスタージョン党首は個人的魅力と反緊縮路線で大きくSNPを伸ばし、5月7日の下院の総選挙では、労働党とSNPが連立を組み、現在のキャメロン政権を倒すのではないかと噂されている。そうなれば、スコットランド独立に現実味が帯びてくるので、スタージョン党首は「最も危険な女性政治家」と称されている。

スコットランドが独立したがっているのは、北海油田の9割がスコットランドにあるのに、その収入はスコットランドに入っていないことに不満が高まったためだ。スコットランドが独立すれば、同じく北海油田から収入を得ているノルウェーのように豊かになるのではないかと思っているようだ。スコットランド独立となれば、通貨をどうするかは悩ましい問題となる。

英国ポンドを使いたいところだが、それに賛成する政党はいない。新通貨スコットランドポンドを発行して変動相場制にすれば、通貨高となり、石油以外の産業部門の競争力が阻害される。この現象はオランダ病と呼ばれている。そのため、ノルウェーに倣い石油の売り上げで政府系基金をつくり為替相場をポンドに固定する案が検討されている。そのためには、充分な外貨準備を積み上げて、スコットランドポンドの信認を得ることが必要だとされている。新しい通貨を発行しても石油収入があれば、通貨の信認が得られる可能性が出るということだ。反面、英国のGDPの比重はロンドンに大きく偏っており、その面でスコットランドにはウイスキー以外に強力な産業はなく、通貨の信認にはマイナスの評価になる可能性もあり、プラスとマイナスが混在して不確定要素が残る。

ギリシャの場合は、状況は大きく異なる。ユーロを導入しているため、現在は自国通貨を持たず、通貨発行はできない。しかし、財政は破綻寸前であり、EUに金融支援を求めている。しかし、EUは融資の条件としてギリシャに緊縮財政を求めている。現在のチプラス政権は反緊縮財政を公約して政権を取ったのであり、緊縮財政には戻れない。このままギリシャとEUの交渉が決裂となれば、デフォルトとなり新通貨ドラクマ(ユーロを導入する前の通貨)を発行するしかない。

しかし、ドラクマはスコットランドポンドと違い、デフォルトの直後から信認を得られる可能性はゼロだ。2012年に民間投資家に対し、債務削減を行わせている。事実上のデフォルトだが、民間投資家が自主的に行ったからデフォルトではないとされているが、大損害を被ったのに代わりはなく、政府に対する信認は失われている。今回ユーロからドラクマに切り替えたら、ドラクマは直ちに半分以下の価値に下がると言われている。

そうすると、ユーロで借金をした企業・個人の多くは借金は2倍以上になり破綻する可能性が高い。ユーロで銀行に預金したギリシャ国民はユーロでの引き出しを求めるだろうが、銀行には充分なユーロがなく、引き出しに応じられず破綻する。この大混乱からの復興には2~4年程度かかるかもしれないが、その後通貨安を背景にギリシャ経済は復活する可能性が高い。いずれにせよ、通貨の信認とは、外貨準備をどれだけ持っていて、経済がどれだけ安定しているかに関係しているのであり、外貨準備がたっぷりある日本円に関して言えば、国の借金が増えても、積極財政で経済を拡大し名目GDPを増やしたなら、円の信認は全くゆるがないのである。

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