基礎的財政収支に関する質問主意書とその答弁書(No.182)
質問主意書に対する安倍総理からの答弁書が返ってきたのでそれにコメントする。まず最初に日本経済はデフレ脱却していないことを政府は確認した。安倍内閣が発足してから2年半経過した。アベノミクスで経済最優先の政策だったはずだが、まだデフレ脱却の見通しが立っていない状況に何の反省もないのだろうか。「持続的な経済成長は、財政健全化に資する」と断言している。デフレ脱却の失敗は、財政健全化の失敗とも言えるのだから、財政健全化の取り組みを進めているとは言えない。
骨太方針2006では社会保障費の自然増を年2200億円削る歳出枠作りで経済財政諮問会議が与党とぶつかった。デフレ脱却前に歳出削減を行っていたために、デフレは脱却できず、国の借金は増える一方であった。今回も過ちを繰り返しそうである。
答弁書によれば、現時点では乗数を算出する基となる方程式の係数の見直しが困難だそうだが、そうであれば、今年2月12日に発表した「中長期の経済財政に関する試算」はどのようにして計算したのか。この試算は十分なデータの確保ができなかったので、信頼度が劣るということを認めているということか。そうだとしても、2月12日の試算では方程式の係数は定めたはずであり、その係数を使って乗数は求められる。信頼度は2月12日の試算と同程度であるとの注釈付きで乗数を計算して公表すべきである。リーマンショックや東日本大震災でおかしくなるようなモデルはモデルと言えない。実は、計算してみたものの、財政拡大により、国の借金の対GDP比が大幅に減少してしまうことに危機感を感じて公表しなくしたのだろう。
質問第264号
基礎的財政収支に関する質問主意書
提出者 福田昭夫
政府が月内に取りまとめる2015年度の経済財政運営の基本指針「骨太の方針」において基礎的財政収支の赤字を2018年度に対国内総生産(GDP)比で1%程度に縮小することを盛り込むとの報道がある。この方針は、内閣府の試算(予測)をベースに考えられているようであるが、この予測はあまりにも現実とかけ離れている。名目GDPと基礎的財政収支の甘すぎる予測と実績は、各年度の「経済財政の中長期試算」をつぶさに検証すれば、現実離れしている事は明かである。
これに関連して質問する。
1.日本経済はデフレから完全に脱却したのか。
2.基礎的財政収支はその対GDP比を見ればあきらかなように、景気がよくなれば改善し、景気が悪くなれば悪化する。つまり基礎的財政収支を改善したいなら、思い切った景気対策を行いデフレ脱却し景気回復をさせるしかない。これにより一時的に基礎的財政収支は悪化するものの、経済が拡大軌道に乗れば、税収も増え基礎的財政収支は改善すると考えるが、同意するか。
3.骨太方針2006では、2011年度に基礎的財政収支を黒字化することを目標に掲げた。現実には基礎的財政収支は対GDP比でマイナス6.9%にまで大幅に悪化したから、この試みは完璧に失敗した。想定外のリーマンショックが原因で失敗したとの見解かもしれないが、世界経済はいつ不況に襲われるか誰にも分からない。デフレが続いていた当時、歳出削減で景気にブレーキをかけていたためにリーマンショックに耐えられず大きく傷口を広げてしまった。結果としてその後大規模な景気対策を強いられ基礎的財政収支を大幅に悪化させる結果となった。この大規模な景気対策を2006年に行っていたら、デフレ脱却が確実になり、リーマンショックでも景気減速幅は限定的で、基礎的財政収支もそれほど悪化しなかったのではないかと考える。今年の骨太方針も骨太方針2006と同じ失敗を繰り返すことにはならないか。病気は悪化させる前に完治させるべきではないのか。
4.基礎的財政収支の改善はどのようなメリットがあるのか。財政破綻の危機にあるギリシャの基礎的財政収支は黒字である。2014年に基礎的財政収支が黒字の国は182ヶ国中53カ国にすぎず、景気が良い米国も大幅赤字である。基礎的財政収支が黒字化しても、国債費で国の借金は増え続けるし、名目GDPが減少すれば、国の借金の対GDP比は増加し、将来世代へのツケは増える。将来世代へのツケを減らしたいのであれば、国の借金の対GDPを減らすことを目標にすべきではないか。
5.アベノミクスの3本の矢のうちの第2の矢である「機動的な財政運営」について検討するには、経済財政運営モデルの乗数の計算が不可欠である。内閣府は2010年度を最後に乗数の値の発表を行っていない。国の借金も大幅に増え、異次元の金融緩和も行われ、為替相場も変化し、経済状況が大きく変化しているわけであるから、一刻も早く最新の乗数の値を発表すべきではないか。ちなみに2010年版では、5兆円公共投資を増やせば、公債等残高の対GDP比は1.65%PT減少し、将来世代へのツケは減るとなっている。国の借金が当時より大幅に増加した現在では、この減少幅は更に拡大したはずである。
右質問する。
内閣衆質189第264号
平成27年6月19日
内閣総理大臣 安倍晋三
衆議院議長 大島理森 殿
衆議院議員福田昭夫君提出基礎的財政収支に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。
衆議院議員福田昭夫君提出基礎的財政収支に関する質問に対する答弁書
1について
安倍内閣においては、長引くデフレからの早期脱却と日本経済の再生のため、大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略の「三本の矢」からなる経済政策である「アベノミクス」を一体的に進めてきた。その効果もあり、景気の緩やかな回復基調が続く中で、これまでのところ、デフレ脱却に向けて前進しているが、デフレ脱却にまでは至っていない。
2について
一般論としては、持続的な経済成長は、税収の増加を通じて財政健全化に資することとなる。安倍内閣としては、経済再生と財政健全化の両立を目指しており、成長戦略の実行等を通じて、民需主導の持続的な経済成長を実現していくとともに、財政健全化の取り組みを進めることとしている。
3について
仮定を前提として過去の経済財政状態についてお答えすることは差し控えたい。また、お尋ねの「今年の骨太方針」が策定されていない現時点において、「今年の骨太方針も骨太方針2006と同じ失敗を繰り返す事にならないか」というお尋ねについてお答えすることは困難である。さらに、お尋ねの「病気は悪化させる前に完治させるべきではないのか」の意味するところが必ずしも明かでないが、安倍内閣としては経済再生と財政健全化の両立に向けて、引き続き取り組んでまいりたい。
4について
基礎的財政収支の改善は債務残高の縮小に資すると考えている。政府としては、財政健全化目標として、国・地方を合わせた基礎的財政収支について、2015年度までに2010年度に比べ赤字の対GDP比を半減させ、2020年度までに黒字化し、その後、債務残高対GDP比を安定的に引き下げることを目指すこととしている。一般論としては、経済再生を実現しGDPを拡大することと債務残高を抑制することが債務残高対GDP比の安定的な引き下げにつながることになる。したがって、経済再生と財政健全化の両立に向けて、引き続き、基礎的財政収支の黒字化を目指し、その改善に取り組んでまいりたい。
5について
お尋ねの乗数については、「経済財政モデル(2010年度版)」(平成22年8月内閣府公表)において公表したものであるが、リーマンショック、東日本大震災等の影響を受けていない期間のデータが不足していることから、現時点では乗数を算出する基となる方程式の係数の見直しが困難であり、大きな変更は行っていない。
今後、十分なデータの確保が可能となった際には、新たな乗数等の公表を検討してまいりたい。
| 固定リンク
| コメント (1)
| トラックバック (0)