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2015年6月

2015年6月24日 (水)

基礎的財政収支に関する質問主意書とその答弁書(No.182)

質問主意書に対する安倍総理からの答弁書が返ってきたのでそれにコメントする。まず最初に日本経済はデフレ脱却していないことを政府は確認した。安倍内閣が発足してから2年半経過した。アベノミクスで経済最優先の政策だったはずだが、まだデフレ脱却の見通しが立っていない状況に何の反省もないのだろうか。「持続的な経済成長は、財政健全化に資する」と断言している。デフレ脱却の失敗は、財政健全化の失敗とも言えるのだから、財政健全化の取り組みを進めているとは言えない。

骨太方針2006では社会保障費の自然増を年2200億円削る歳出枠作りで経済財政諮問会議が与党とぶつかった。デフレ脱却前に歳出削減を行っていたために、デフレは脱却できず、国の借金は増える一方であった。今回も過ちを繰り返しそうである。

答弁書によれば、現時点では乗数を算出する基となる方程式の係数の見直しが困難だそうだが、そうであれば、今年2月12日に発表した「中長期の経済財政に関する試算」はどのようにして計算したのか。この試算は十分なデータの確保ができなかったので、信頼度が劣るということを認めているということか。そうだとしても、2月12日の試算では方程式の係数は定めたはずであり、その係数を使って乗数は求められる。信頼度は2月12日の試算と同程度であるとの注釈付きで乗数を計算して公表すべきである。リーマンショックや東日本大震災でおかしくなるようなモデルはモデルと言えない。実は、計算してみたものの、財政拡大により、国の借金の対GDP比が大幅に減少してしまうことに危機感を感じて公表しなくしたのだろう。

質問第264号
基礎的財政収支に関する質問主意書
                            提出者 福田昭夫
政府が月内に取りまとめる2015年度の経済財政運営の基本指針「骨太の方針」において基礎的財政収支の赤字を2018年度に対国内総生産(GDP)比で1%程度に縮小することを盛り込むとの報道がある。この方針は、内閣府の試算(予測)をベースに考えられているようであるが、この予測はあまりにも現実とかけ離れている。名目GDPと基礎的財政収支の甘すぎる予測と実績は、各年度の「経済財政の中長期試算」をつぶさに検証すれば、現実離れしている事は明かである。
これに関連して質問する。
1.日本経済はデフレから完全に脱却したのか。
2.基礎的財政収支はその対GDP比を見ればあきらかなように、景気がよくなれば改善し、景気が悪くなれば悪化する。つまり基礎的財政収支を改善したいなら、思い切った景気対策を行いデフレ脱却し景気回復をさせるしかない。これにより一時的に基礎的財政収支は悪化するものの、経済が拡大軌道に乗れば、税収も増え基礎的財政収支は改善すると考えるが、同意するか。
3.骨太方針2006では、2011年度に基礎的財政収支を黒字化することを目標に掲げた。現実には基礎的財政収支は対GDP比でマイナス6.9%にまで大幅に悪化したから、この試みは完璧に失敗した。想定外のリーマンショックが原因で失敗したとの見解かもしれないが、世界経済はいつ不況に襲われるか誰にも分からない。デフレが続いていた当時、歳出削減で景気にブレーキをかけていたためにリーマンショックに耐えられず大きく傷口を広げてしまった。結果としてその後大規模な景気対策を強いられ基礎的財政収支を大幅に悪化させる結果となった。この大規模な景気対策を2006年に行っていたら、デフレ脱却が確実になり、リーマンショックでも景気減速幅は限定的で、基礎的財政収支もそれほど悪化しなかったのではないかと考える。今年の骨太方針も骨太方針2006と同じ失敗を繰り返すことにはならないか。病気は悪化させる前に完治させるべきではないのか。
4.基礎的財政収支の改善はどのようなメリットがあるのか。財政破綻の危機にあるギリシャの基礎的財政収支は黒字である。2014年に基礎的財政収支が黒字の国は182ヶ国中53カ国にすぎず、景気が良い米国も大幅赤字である。基礎的財政収支が黒字化しても、国債費で国の借金は増え続けるし、名目GDPが減少すれば、国の借金の対GDP比は増加し、将来世代へのツケは増える。将来世代へのツケを減らしたいのであれば、国の借金の対GDPを減らすことを目標にすべきではないか。
5.アベノミクスの3本の矢のうちの第2の矢である「機動的な財政運営」について検討するには、経済財政運営モデルの乗数の計算が不可欠である。内閣府は2010年度を最後に乗数の値の発表を行っていない。国の借金も大幅に増え、異次元の金融緩和も行われ、為替相場も変化し、経済状況が大きく変化しているわけであるから、一刻も早く最新の乗数の値を発表すべきではないか。ちなみに2010年版では、5兆円公共投資を増やせば、公債等残高の対GDP比は1.65%PT減少し、将来世代へのツケは減るとなっている。国の借金が当時より大幅に増加した現在では、この減少幅は更に拡大したはずである。

右質問する。

内閣衆質189第264号
 平成27年6月19日
                  内閣総理大臣 安倍晋三
 衆議院議長 大島理森 殿
衆議院議員福田昭夫君提出基礎的財政収支に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。

衆議院議員福田昭夫君提出基礎的財政収支に関する質問に対する答弁書

1について
 安倍内閣においては、長引くデフレからの早期脱却と日本経済の再生のため、大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略の「三本の矢」からなる経済政策である「アベノミクス」を一体的に進めてきた。その効果もあり、景気の緩やかな回復基調が続く中で、これまでのところ、デフレ脱却に向けて前進しているが、デフレ脱却にまでは至っていない。

2について
 一般論としては、持続的な経済成長は、税収の増加を通じて財政健全化に資することとなる。安倍内閣としては、経済再生と財政健全化の両立を目指しており、成長戦略の実行等を通じて、民需主導の持続的な経済成長を実現していくとともに、財政健全化の取り組みを進めることとしている。

3について
 仮定を前提として過去の経済財政状態についてお答えすることは差し控えたい。また、お尋ねの「今年の骨太方針」が策定されていない現時点において、「今年の骨太方針も骨太方針2006と同じ失敗を繰り返す事にならないか」というお尋ねについてお答えすることは困難である。さらに、お尋ねの「病気は悪化させる前に完治させるべきではないのか」の意味するところが必ずしも明かでないが、安倍内閣としては経済再生と財政健全化の両立に向けて、引き続き取り組んでまいりたい。

4について
 基礎的財政収支の改善は債務残高の縮小に資すると考えている。政府としては、財政健全化目標として、国・地方を合わせた基礎的財政収支について、2015年度までに2010年度に比べ赤字の対GDP比を半減させ、2020年度までに黒字化し、その後、債務残高対GDP比を安定的に引き下げることを目指すこととしている。一般論としては、経済再生を実現しGDPを拡大することと債務残高を抑制することが債務残高対GDP比の安定的な引き下げにつながることになる。したがって、経済再生と財政健全化の両立に向けて、引き続き、基礎的財政収支の黒字化を目指し、その改善に取り組んでまいりたい。

5について
 お尋ねの乗数については、「経済財政モデル(2010年度版)」(平成22年8月内閣府公表)において公表したものであるが、リーマンショック、東日本大震災等の影響を受けていない期間のデータが不足していることから、現時点では乗数を算出する基となる方程式の係数の見直しが困難であり、大きな変更は行っていない。
 今後、十分なデータの確保が可能となった際には、新たな乗数等の公表を検討してまいりたい。

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2015年6月15日 (月)

基礎的財政収支の黒字化を目標にするのは危険では?

政府は6月末にまとめる財政健全化計画で、2020年度基礎的財政収支の黒字化を目指す方針だと伝えられている。政府は基礎的財政収支の黒字化という目標を掲げるべきでないと考えますが如何ですか。これだけ経済状態が悪化している日本で、基礎的財政収支を黒字化にしようとすれば増税と歳出削減で、デフレあるいは恐慌に突入でしょう。

 

例えば、ギリシャは強烈な緊縮財政で基礎的財政収支は黒字を達成しています。しかしそのおかげでギリシャ国債は暴落し、国債の信認は完全に失われています。経済成長率もデフレが続き、成長率は2009年が-4.4%、2010年-5.45%、2011年-8.86%、2012年-6.57%、2013年-3.90%、2014年0.77%である。驚くほどの勢いで国が貧乏になっているのに、更に緊縮財政を強要され、もっと貧乏になれと言われている。基礎的財政収支黒字化はそういうものでしょう。基礎的財政収支の黒字化で日本をギリシャのようにすべきでないと考えますが如何ですか。基礎的財政収支などどうでもよくて、成長率さえ高められればそれでよいのではないですか。

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2015年6月 6日 (土)

消費税増税による景気の急激な悪化に関する質問主意書(No.180)

福田昭夫衆議院議員に日本経済復活の会の主張に沿った質問主意書を書いてもらい、それに対する安倍総理からの答弁書が返ってきたので、ここで紹介する。質問は消費増税を批判するものになっているが、決してアベノミクスを全否定するものではなく、質問の目的はあくまで日本経済復活の方法を政府に理解させることである。

質問1は政府が消費増税の悪影響を過小評価したことへの批判である。この点に関しては安倍総理は内閣府や財務省に対して不信感を持っているのではないだろうか。答弁書の「1及び2について」の中で「政府としては、今後とも、ご指摘の「消費増税の影響」など過去の経済財政政策の影響も含め経済動向を総合的に検証・分析しつつ、経済財政運営に万全を期してまいりたい。」と述べていることは評価できる。

質問3は「好景気は財政健全化に資する」ということを理解させたかった。つまり増税で景気を悪化させても、それにより景気が悪化すれば、税収が減り、名目GDPも減るので政府債務のGDP比は増えてしまい、将来世代へのツケを増やしてしまう。答弁書には「一般論としては、持続的な経済成長は、税収の増加を通じて財政健全化に資することとなる」ということを認めている。時間をかけてもこのことを理解させなければ日本経済の没落は終わらない。話を複雑にしているのは、2014年度に増税をしマイナス成長に陥ったのだが、税収は大幅に増えていることだ。円安・株高で輸出企業の業績が回復していることが一因となっている。増税の影響は個人消費の伸び悩みだ。増税が無ければ、景気は間違いなく良くなっていただろうし、デフレから脱却できていただろうし、財政健全化へと進んでいただろう。

その他の答弁は「お茶を濁した」程度の意味しかない。これは一応答弁をしたという体裁を整えるだけの価値しかない。この質問主意書で政府が全面降伏をするわけはないのだから、上記の2点でこの質問主意書は意味があったとすべきで、更なる前進はこれ以降の質問主意書に期待することにする。

質問第234号
消費税増税による景気の急激な悪化に関する質問主意書
                            提出者 福田昭夫

2014年4月に消費税率が5%から8%に引き上げられて以来、国民は節約に走り、消費は落ち込み、実質GDP成長率は2013年度の2.1%から2014年度には一気にマイナス1.0%程度に落ち込んだものと思われる。民間シンクタンクによる今後の実質GDP成長率の予測は5社平均で2014年度はマイナス1.0%、2015年度1.8%、2016年度1.7%となっている。
ところで、政府は消費税増税による経済への影響は軽微だと国民に説明してきた。
1 平成24年1月24日に内閣府より発表された「経済財政の中長期試算」の12頁において、消費増税を行った場合(一体改革あり)と行わなかった場合(一体改革なし)の比較がグラフで示されており、両方の場合消費増税は実質GDP成長率にほとんど影響しない、4年間の成長率の合計でも差は僅か0.1%とされているがこれは現実と大きく異なる。
2 平成25年10月1日閣議決定で消費増税に対して経済対策が示されている。その規模について「来年度4~6月期に見込まれる反動減を大きく上回る5兆円規模とし、3%の消費税率引上げによる影響を大幅に緩和する」としている。これは例えば財務省のホームページの「消費税率及び地方消費税率の引上げとそれに伴う対応について」の6頁にある。甘利大臣も同日の記者会見で補正予算の規模について「来年度4~6月期に見込まれる反動減、4月に消費税を引き上げると駆け込み、そしてその後に反動減があるわけであります。その反動減を大きく上回る5兆円規模といたします。」と述べている。
これに関連して質問する。

1 消費増税の前には消費増税の影響は少ないと政府は説明していた。この説明は間違いであったことを認めるか。
2 消費増税の影響を過小評価した原因を徹底的に調べ、二度と間違いを繰り返さないよう努力すべきではないか。
3 消費増税を行わず税率が5%のままであれば、2014年度の成長率は高いレベルであったと考えられる。好景気は財政健全化に資するのではないか。
4 消費増税の影響は深刻だから消費増税は行うべきで無いと主張していた識者はいた。今後過ちを繰り返さないためにも、そういった識者の意見を優先して取り入れるべきではないか。
5 2017年度に消費税を10%に引上げれば、再びマイナス成長に陥るのでないか。
右質問する。

答弁書第234号

内閣衆質189第234号

  平成27年5月29日  内閣総理大臣 安倍晋三
  衆議院議長 大島理森殿
衆議院議員福田昭夫君提出消費税増税による景気の急激な悪化に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。

衆議院議員福田昭夫君提出消費税増税による景気の急激な悪化に関する質問に対する答弁書

1及び2について
 消費税率(国・地方)については、経済状況等を総合的に勘案した検討を行った結果、平成26年4月1日に5パーセントから8パーセントへ引き上げることとしたところである。これに合わせて、消費税率の引き上げによる駆け込み需要の反動減を緩和して景気の下振れリスクに対応するとともに、その後の経済の成長力の底上げと好循環の実現を図り持続的な経済成長につなげるため、5兆円規模の「好循環実現のための経済対策」(平成25年12月5日閣議決定)等の経済政策パッケージを講じたものである。
 政府としては、今後とも、ご指摘の「消費増税の影響」など過去の経済財政政策の影響も含め経済動向を総合的に検証・分析しつつ、経済財政運営に万全を期してまいりたい。

3について
 仮定を前提とした過去の経済状況についてお答えすることは差し控えるが、一般論としては、持続的な経済成長は、税収の増加を通じて財政健全化に資することとなる。なお、安倍内閣としては、経済再生と財政健全化の両立を目指しており、消費税率の8パーセントへの引き上げに当たっては、名目及び実質の経済成長率、物価動向等、種々の経済指標を確認し、経済状況等を総合的に勘案した上で、平成26年4月に予定通りこれを行ったものである。

4について
 お尋ねの「識者の意見を優先して取り入れるべき」の意味するとことが必ずしも明かでないが、社会保障制度を次世代に引き渡していく責任を果たすとともに、市場や国際社会における我が国の信認を確保するため、平成29年4月の消費税率の10パーセントへの引き上げは、確実に実施することとしている。同時に、今後の経済財政運営に当たっては、引き続き、大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略の「三本の矢」からなる経済政策を一体的に推進することにより、経済の好循環を確かなものとし、経済再生と財政健全化の両立を目指してまいりたい。

5について
 4についてで述べたとおり、平成29年4月の消費税率10パーセントへの引き上げは、確実に実施することとしている。その上で、政府としては、経済動向を引き続き注視し、経済財政運営に万全を期してまいりたい。

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