政府は内閣府試算や日本の経済の現状に関して重大な誤認があるのではないかという疑問に関する質問主意書と答弁書(No.188)
コメントは最後に書きました。
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平成27年9月10日提出
質問第420号
政府は内閣府試算や日本の経済の現状に関して重大な誤認があるのではないかという疑問に関する質問主意書
提出者 福田昭夫
実質GDPでマイナス成長になっても対策は必要ないのかという疑問に関する質問主意書に対する答弁書(答弁書第393号、以下答弁書という)や首相官邸のホームページに書かれている内容を読むと、内閣府試算や日本の経済の現状に関して重大な誤認が含まれているのではないかという疑問がある。
これに関して質問する。
1.答弁書の「2について」であるが、「デフレからの脱却と経済生成に向けた取組が進み、デフレ状況ではなくなる中、経済の好循環が着実に回り始めた結果、企業活動や雇用を含む幅広い分野で、およそ四半世紀ぶりとなる良好な経済状況がみられるようになった旨を記述しているところであり」という記述がどこにあるか分からない。「平成27年度年次経済財政報告」の6頁には「およそ四半世紀ぶりとなる良好な経済状況の出現」というタイトルで説明がある。この根拠として2015年1-3月期の名目GDP成長率が前年同期比年率9.4%となったことで、1994年以降最大の伸びとなったというのがタイトルの根拠になっている。しかし、これは速報値であり、確報値では9.0%と修正され2011年7-9月期の9.2%を下回るのでタイトルの記述は間違いではないか。しかもこれは原油価格の下落によってもたらされた数字であり、アベノミクスの成果ではない。アベノミクスの成果と言うなら4-6月期の実質成長率年率マイナス1.2%を引用すべきではないか。
2.答弁書の「3について」であるが、「年平均」で0.1パーセントポイント程度の差が出るとあるが、これは「4年間の合計」での間違いである。成長戦略シナリオにおいて4年間の合計は一体改革ありでは7.6%、一体改革なしでは7.7%である。差は合計で0.1%である。四捨五入した誤差を考えても差は0.2%を上回ることはないから、平均で0.1%という主張は間違いではないか。実際どうなのかは、もう一桁数字を出せば明らかになる。
3.答弁書の「3について」であるが、2つの試算で「駆け込み需要とその反動減」や「社会保障・税の一体改革の考慮」は両方共同じように考慮されているのではないか。試算の考え方や、前提となる経済状況等が異なるとは具体的に何を意味するか。
4.答弁書の「4について」であるが、「我が国の財政状況は、国・地方の債務残高がGDPの2倍程度に膨らみ、なおも更なる累増が見込まれるなど、極めて厳しい状況にある」となっている。しかしながら、平成27年7月22日に内閣府から発表された「中長期の経済財政に関する試算」の経済再生ケースでは債務残高の対GDP比は今後減り続けるとある。答弁書はこの試算が間違いだと主張するのか。
5.先日トルコのアンカラで開かれていた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で9月5日に発表されたコミュニケでは「われわれは、債務残高対GDP比を持続可能な道筋に乗せつつ、経済成長と雇用創出を支えるため、短期的な経済状況を勘案して機動的に財政政策を実施する。」とあり、われわれとは日本も含まれている。内閣府の発表した乗数でも、財政出動によって債務残高の対GDP比は下がることが示されているのだから、当然政府は財政出動によって経済成長と雇用創出を支えることを国際公約したことになるのではないか。
6.現在のように世界的な不況の局面においては、経常黒字で対外純資産が多い国は積極財政で世界の景気の牽引役になるべきではないか。その意味でも日本は補正予算を組んで景気対策をすべきなのではないか。
7.首相官邸のホームページに「アベノミクス「三本の矢」」というタイトルで国民向けに現在の経済状況を示したページ(以下官邸ホームページという)がある。それによると実質GDPは年率+2.4%成長(2015年1-3月期)とある。しかし、最新のデータマイナス1.2%成長(2015年4-6月期)をここは書くべきである。わざわざ古いデータを載せるということは、国民を騙そうとしている意図ではないか。
8.官邸ホームページには実質GDP累計+2.0%成長(2015年1-3月期/2012年10-12月期)とある。その前のデータ2.4%は年率であるが、ここは2年3か月の累計である。国民に誤解を与える表現をわざわざ行っているように見える。ここは前の表記に倣って2.0を2.25で割って年率を計算して表示すべきなのではないか。
9.官邸ホームページで夏季賞与:過去23年で最高水準とある。この数字の意味を内閣府に質問したら、厚生労働省に聞くように言われた。厚生労働省に質問すると、これは厚生労働省の数字ではないとの返事であった。しかし、これを裏付ける数字をどこか出されていないかを調べてくれた。そこで経団連の発表があると教えてくれた。しかし、経団連の数字は僅か140社のみの集計であり、しかも名目値である。厚生労働省は33000社を調べており、しかも実質値を計算してある。平成22年の平均を100とした場合
平成25年6月 137.7
平成26年6月 132.0
平成27年6月 128.1
となっており、下がり続けているわけで、過去23年で最高という表現は不適切ではないか。政府は厚生労働省のデータを信頼しないということか。
平成27年9月18日受領
答弁第420号
内閣衆質189第420号
平成27年9月18日
内閣総理大臣 安倍晋三
衆議院議長 大島理森 殿
衆議院議員福田昭夫君提出政府は内閣府試算や日本の経済の現状に関して重大な誤認があるのではないかという疑問に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。
議院議員福田昭夫君提出政府は内閣府試算や日本の経済の現状に関して重大な誤認があるのではないかという疑問に関する質問に対する答弁書
1について
内閣府が平成27年8月14日の閣議に配布した「平成27年度年次経済財政報告」では、デフレからの脱却と経済再生に向けた取り組みが進み、デフレ状況ではなくなる中、経済の好循環が着実に回り始めた結果、2014年度の企業収益が過去最高水準になり、また、有効求人倍率が2015年4月には23年ぶりの高水準となるなど、企業活動や雇用を含む幅広い分野で、およそ四半世紀ぶりとなる良好な経済状況がみられるようになった旨を記述している。(注1)
2について
「経済財政の中長期試算」(平成24年1月24日内閣府公表)では、社会保障・税一体改革を考慮した場合としない場合の平成25年度から平成28年度の実質GDP成長率について、「慎重シナリオ」においては、「一体改革あり」の場合は年平均で1.1%程度、「一体改革なし」の場合は年平均で1.2%程度との試算を、「成長戦略シナリオ」においては、「一体改革あり」の場合は年平均で1.8%程度、「一体改革なし」の場合は年平均で1.9%程度との試算をお示ししており、お尋ねの「年平均で0.1%PT程度の差」については、これらの差をお答えしたものである。(注2)
3について
先の答弁書(平成27年9月4日内閣衆質189第393号)3についてで、「それぞれの試算においては、試算の考え方や、前提となる経済状況等が事案瑠ことから、ご指摘の計数をもって単純に比較することは困難である」とお答えしたのは、試算の対象とする期間が異なることや、試算時点の違いにより前提となる個人消費を取り巻く経済状況が異なる等によるものである。(注3)
4について
お尋ねの「なおも更なる累増が見込まれる」に関しては、国・地方の債務残高の累増が見込まれる旨を述べたものであり、「中長期の経済財政に関する試算」(平成27年7月22日経済財政諮問会議提出)の「経済再生ケース」において国・地方の公債等残高が増加する試算結果となっていることと整合的なものとなっている。(注4)
5について
一般論としては、国際会議におけるコミュニケは、法的拘束力がなく、記載された事項は、国際公約ではない。政府としては、ご指摘のコミュニケを踏まえつつ、「経済財政運営と改革の基本方針2015」(平成27年6月30日閣議決定)第3章に定めた「経済・財政再生計画」に沿って、引き続き、経済と財政双方の一体的な再生を目指してまいりたい。(注5)
6について
政府としては、経済と財政双方の一体的な再生を目指しており、我が国の極めて厳しい財政状況を放置すれば、財政の持続可能に対する疑念の高まりが経済成長自体を阻害するおそれがあるという認識の下に、それぞれの国が置かれた状況を踏まえながら、適切な財政運営を行っていくことが重要であると考えており、積極財政を行うべきか否かについては、「経常黒字で対外純資産が多い」という理由で判断されるべきではないと考えている。なお、現時点で補正予算による経済対策を策定することは考えていない。(注6)
7について
ご指摘の「首相官邸ホームページ」は首相官邸ホームページに掲載されている広報ページ「アベノミクス「三本の矢」」を指していると考えられる。当該ホームページについては、本年5月に改訂したものであるが、本年6月30日に閣議決定された「「日本再興戦略」改訂2015」の内容を踏まえて現在改訂作業を行っているところである。なお、どのような指標を活用することが適切かについては広報の観点から検討を行うこととしている。(注7)
8について
ご指摘の表記については、第2次安倍内閣発足以降の経済成長について分かりやすく示したものであり、国民に誤解を与える表記ではないと考えている。(注8)
9について
ご指摘の「夏季賞与:過去23年間で最高水準」という記載は、厚生労働省が公表している「毎月勤労統計調査」を根拠としている。同調査では、事業所規模5人以上の事業所における夏季賞与の前年比について、平成26年は2.7%増と、平成3年の6.3%増以来の数値となっており、「過去23年間で最高水準」という表現は不適切ではないと認識している。(注9)
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コメント
注1 間違っています。報告書に書いてあるのは、6頁でGDPを根拠としています。
注2 どこまで嘘を言い続けるのでしょう。中長期試算には2種類の数字が書いてあります。4年間の累積と平均です。増税をした場合としない場合とで差を求めるとき、誤差が少ないのは累積での差を求めるときであることくらいは誰でも分かります。わざわざ、自分の都合の悪い数字には言及せず、都合のよい数字だけを言及したということ自体、国民を騙そうとする意図が表れています。
注3 個人消費を取り巻く経済状況が変わってきたのだから両試算を比較すべきではないとの答弁。でも、消費増税前の試算でも、消費増税をすれば消費落ちる(つまり消費環境が悪化する)ことは考慮しなければなりません。つまり個人消費を取り巻く経済状況が変わることを考慮して計算しなければならなかったのに、それをしなかったということは致命的な内閣府の試算の欠陥と言えるでしょう。というより、始めから国民を騙すための試算だったというべきでしょう。
注4 議論のすり替えがある。前回の答弁書には債務のGDP比について書いている。しかし、今回は債務の絶対値だったんだという。自分が言っていることが支離滅裂であることを承知で答弁書を書いている。
注5 国際会議のコミュニケは国際公約ではないが、国際会議での発言はすべて国際公約になるという論理は理解できない。消費増税を国際会議で話したら法的拘束力が生じるのだろうか。
注6 どういう国が積極財政が可能なのか。「経常黒字で対外純資産が多い」国は積極財政はすべきでなく「経常赤字が続き対外純債務が膨大」な国が積極財政をせよというのか。それこそ財政破綻を気にするなということではないか。それとも世界中の国は緊縮財政をせよというのか。それは世界大恐慌への道だ。
注7 首相官邸のホームページを作り直すと言った点は評価できる。二度とこのような欺瞞的なホームページを作らないよう期待する。ふざけたホームページをつくったら、また追求しますから。
注8 これこそ欺瞞的な表現である。まあ、作り直すと言ったのだから、どのようになるのか見ましょう。
注9 平成26年は夏季賞与が前年比で2.7%増えたと言っても、すべての商品には消費税3%分が上乗せされた時であり、しかも輸入物価の値上がりもあった。そんなときに賞与が僅か2.7%上がったと言われても、誰が喜びますか。平成26年度は実質では賞与が下がっていることも厚生労働省は発表している。なぜ消費増税でゲタをはかされた名目値を自慢して、マイナスとなった実質の値を隠すのか。
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コメント
今日は。コメントが遅くなりました。higashiyamato1979です。相変わらずの低次元の政府の回答に対するご指摘見事です!
それでは決まり文句! お金が無ければ刷りなさい! 労働はロボットに!人間は貴族に!
投稿: higashiyamato1979 | 2015年10月12日 (月) 14時09分
政府も「国・地方の債務残高/GDP」比率は下げたいんですよね。
ただ、それだけでなく、
国・地方の債務残高をなるべく増やさぬために、政府でやれること(財政支出抑制&税率上げ=緊縮財政)をしたい。
そう政府は言い続けているわけですね。
いま程度の緊縮財政をしても 国・地方の債務残高は増え続ける。
だから、
「国・地方の債務残高/GDP」比率を引き下げるには、債務残高の増加率を上回る増加率でGDPを伸ばす必要がある。
政府が緊縮財政策を打つと 緊縮財政策を打たない場合よりGDPが減るのは承知している。
だから、
「国・地方の債務残高/GDP」比率の分母であるGDPを増やすには、緊縮財政策を打つことによる(緊縮財政策を打たない場合に比べての)GDP減 を補って余りあるGDP増を、
1.企業の国内投資額
2.家計の国内支出額
3.輸出額-輸入額
の増加によって実現しなければならない。
だから、政府は
1.に関して 企業への投資減税
2.に関して 労働者への給与増を企業へ働きかけ
3.に関して 円安誘導、原発再稼動、武器輸出解禁、TPP交渉
を行ってきた。
消費税率上げが
2.家計の国内支出増 を妨げる方向に働くことも承知しているが、
企業へ減税する分を家計から増税しないと 緊縮財政にならないので、
消費税率上げは断行するしかない。
こう政府は言っているわけですね。 緊縮財政ありきで。
投稿: hugoniot | 2015年10月25日 (日) 08時42分