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2016年5月

2016年5月29日 (日)

消費増税は2年半延期でなく無期延期とすべき(No.198)

安倍首相は5月28日、2017年4月に予定する消費税率10%への引き上げについて2年半先送りする意向を政府・与党幹部に伝えた。現在の日本の経済状況を考えれば、消費増税などできるわけがなく、当然の決定だろう。ただ、2年半の延期ということはまた将来の増税が待ち構えているという状況には変わりなく、日本には重い空気が立ちこめ、節約ムードは続くのではないか。いっそ、増税中止か、むしろ5%へ戻すべきだった。

財政健全化が遠のくという意見がある。しかし、これほど景気が悪いときに増税を行い、更に景気を悪化させては、財政が健全化することは決してない。ではどうやって財政を健全化するのかという問題だが、2002年と2003年にジョセフ・スティグリッツが来日し政府紙幣を発行し総需要不足を解消せよという貴重な提言を行っている。一部に政府紙幣の発行は日銀券と置きかわるだけで景気回復には役に立たないという反論があったが、そうならないように制度を変えればよいだけである。彼は江戸時代の通貨発行を引用している。当時は新たに発行された通貨を幕府の収入としたのである。通貨を追加発行し通貨の量を増やさなければ経済は拡大しない。政府紙幣発行を同様な位置づけにすれば、通貨発行益で歳入を補うことができ、それですでに財政は「健全化」するし日本経済はかつての成長軌道に戻ることが出来る。例えば政府が1兆円札を必要枚数だけ政府紙幣を発行しそれを日銀が引き受けることで日銀が国庫にその代金を振り込めば良い。

しかしながら、政府紙幣に頼らなくても次の2ステップで通貨の量を増やすことができる。
【第1段階】政府が市場で国債を売り、その売買代金で減税や財政資金に使う。
【第2段階】日銀が刷ったお金で国債を買う。
この場合では日銀が保有するのは政府紙幣でなく国債ということとなるのだが、刷ったお金が国民に渡るのは同じであり、経済を拡大させることができる。ご存じのように、異次元金融緩和によって、2013年度から日銀は国債を大量に買っており、第2段階はすでに十分すぎるほど行われているのだ。ということは、残るは第1段階だけであり、国債を適切な規模で発行し減税や歳出の財源として使えばよいだけなのである。その意味で消費増税は現在の日本で全く不必要だ。

国債は「国の借金」だとの主張があるが、国の一部である日銀が買い上げれば、借金は返済したこととなりもはや国の借金ではない。償還の際には返済しなければならないように思うかもしれないが、借換債を発行して「返済先延ばし」を永遠に続けることができる。

このような「安易」な資金調達法は「財政ファイナンス」と呼ばれ、一度この手段を覚えると、何回も使いたくなるので結果として悪政インフレを招くと主張する人がいる。しかしながら具体的に現在の政治家の中で、果てしなく財政を拡大したがっている人がいるだろうか。どちらを見ても緊縮路線の政治家ばかりで、強いて言えば亀井静香が積極財政かもしれない。それでも彼の考えている財政拡大規模はとても悪性インフレを招くような規模とはほど遠い。10~20年後には人工知能やロボットが人間の職の半分を奪うと言われている時代だ。通貨発行に関してもっと柔軟な考えを持つようにしないと人類を悲劇が襲うこととなる。

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2016年5月23日 (月)

安倍さん、本気で財政出動をやって下さい。(No.197)

G7の議長国となった日本がG7各国に財政出動を呼びかけている。方向性は正しいのだが、安倍さんは本気で財政出動をやる気になっているのだろうか。というのは我々日本経済復活の会は繰り返し財政出動を行うよう日本政府に求めてきた。その度に政府からは否定的な回答が返ってきた。例えば国会議員を通じ予算委員会や質問主意書などで行った質問に対する答弁等にそれは見られる。財政出動を拒否してきた理由として政府は次の2点を挙げる。
①国の債務が1000兆円を超え、これ以上次世代にツケを回せない。
②財政への信頼が失われると、金利が急上昇し国民生活に深刻な影響がでる。
しかし、G7で政府が各国に財政出動を勧めるというからには、これら①②が問題なしと判断したということだろう。

しかし、G7で財政出動を呼びかけても各国それぞれの事情があり、足並みを揃えるのは簡単ではない。例えばイタリアとは安倍首相は5月2日首脳会談を行っており、財政出動を巡って一致したということになっている。しかしイタリアは日本と違いユーロを採用しているので、通貨発行権を持っていない。ということは財政赤字幅にも国債残高にも制限が掛かっている。日本のように中央銀行が無制限にお金を刷って国債を買うことはできないのだ。例えばユーロ導入国が実際に満たすべき基準は「国債残高がGDPの60%を下回ること」であったが、現在イタリアの国債残高はGDPの130%を超えており、更なる大規模な国債発行は躊躇するだろう。一方ドイツは第一次世界大戦後、ハイパーインフレを経験したことがトラウマになっていて、財政赤字をひどく嫌う。自国の経済状態は悪くないからこれ以上景気刺激をする必要はないという。

統一通貨である円が全国で使われている日本と比較してみると、大企業の本社が集中している東京はドイツに相当し、地方の自治体はイタリアやギリシャに相当する。税収は東京に集中するので、地方は赤字になりがちだ。そこで地方交付税交付金や公共事業などを通じてお金を地方に流して地方が赤字にならないようにしている。EUは共通通貨を採用し金融では統一したのに、そのような地方へお金を還流するシステムがない。これでは地方は衰退するばかりだ。EU各国は主権を有し、財政は独立しているから、豊かな国は貧しい国を援助しようとしないしする義務もない。各国それぞれ自力で財政黒字化の努力をせよという。これではいつかはユーロ圏は崩壊するのではないだろうか。

アメリカといえば、やはり景気はよくてむしろ徐々に金利を引き上げている時だから、この時点で財政出動は難しい。現在、最も財政出動をしなければならないのは日本だ。独自通貨を持っているのだし、財政破綻の恐れは全く無く、誰かに遠慮しなければならないわけではない。しかも失われた20年と言われる不況が続いている。債務残高が大きいと言っても景気が回復しGDPが増えてくれば、債務のGDP比は減ってくるのでむしろ債務残高は実質的に減ってくると言える。

安倍さん、財政出動を各国に呼びかけておいて、日本は逆に消費増税をやるという恥知らずの行為はあり得ないですよね。財政出動もたった10兆円程度でお茶を濁すのではダメですよ!!

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2016年5月18日 (水)

消費増税が日本経済に与える悪影響に関しての質問主意書(No.196)

今回の答弁書に関するコメント:
5についてと6についてで、「賃上げも順調で成長軌道に戻っており、名目GDPは29兆円増えた」との記述に対しては、反論は簡単で具体的な数字で示しましょう。実質賃金は下がっているし、国際的に見ても、日本の成長率は際だって低いとIMFも言っています。

7についてで、「国債の買い入れに量的な限界はない」という発言が正しいはずがないですね。国債を全部買い取った後もまだ買い取れるとでも言いたいのでしょうか。

8についてで、前回の答弁書では債務残高のGDP比が増え続けると言っていたのに、それは内閣府の試算と矛盾するだろうと指摘されると、今度は一転して債務残高が増え続けるのだと言い出しました。ということは事実上前回の答弁書が間違いだったということでしょう。

9から11についてで、金利の上昇が国民生活に悪影響を与えるかどうかについて2つの場合があると言っています。つまり経済成長率が高まり基礎的財政収支の改善する場合は悪影響はない、しかしそうでなく「財政に対する市場の信認が喪失し、金利が急激に上昇するような」事態になれば悪影響を及ぼすのだそうです。だから財政出動はいけないのだそうですが、安倍首相は各国に財政出動を呼びかけているのですね。矛盾しているのではないでしょうか。

平成28年4月22日提出
質問第255号

消費増税が日本経済に与える悪影響に関しての質問主意書

                      提出者 福田昭夫

10%への消費税再増税が再延期されることが決定したかのような報道がなされ、首相はそれを否定している。軽減税率が来年4月から実施されるのであれば、事業者はシステム改修などの準備を急がなければならないが、増税延期観測が浮上している現在、現場は困惑している。このことに関連して質問する。

一、10%への消費増税は延期されるだろうという予測は各種報道機関により出されており、株式市場にもすでに相当程度織り込まれていて、例えば小売り株は消費の逆風が弱まるとの見方から値持ちがよい。消費増税が延期されなければ株は暴落すると言われている。日本経済新聞とテレビ東京が2月26~28日に行った世論調査でも、来年の消費増税に対し「反対」は58%で「賛成」の33%を大きく上回った。このような予測や国民の声があるということをどのように考えるか。

二、3月18日の予算委員会で安倍総理は来年の消費増税に関し「経済が失速しては元も子もない」と発言している。これは消費増税で経済が失速した場合、社会保障制度にも悪影響を及ぼすという意味か。

三、「経済が失速しては元も子もない」のだから、これからしっかり経済対策を行って増税が可能な経済状況にしていくべきだという意見もある。しかし一時的な消費刺激策は消費の先食いになることもあり、かけこみ需要に拍車を掛け、逆に反動減を増幅する結果となり長い目で見れば経済に害になることも考えられる。つまり一時的な消費刺激策では消費増税による経済の失速を防ぐことはできないと考えるが同意するか。

四、多くの国民は将来の生活に不安を持っている。将来増税が控えており、社会保障制度も崩壊の危機にあるのではないか。国の借金は1000兆円を超え、どんなに消費増税を行っても社会保障制度はいずれ崩壊するから、節約してお金を貯めておかねばならないのではないかと感じている。そこに日銀がマイナス金利を始めた。もともと金利はほぼゼロだったので、更に下げても影響は少ない。しかしマイナス金利導入しなければならないほど、日本経済は悪いのかという印象を与え、ますます節約志向が高まっておりそれが景気の足を引っ張っている。金庫の売上げが伸びているということも、国民の不安を示している。一部では預金封鎖もあるのではないかと思っている人もいるようである。不安を除くために今政府がやるべきことは、消費増税を中止、もしくは消費減税を行い強力な財政政策を行うことだ。更に消費増税なくても大規模な景気対策を行えば国の借金のGDPは減っていき将来へのツケを減らすことが出来ることをマクロモデルを使った試算で国民に示すことだと考えるが同意するか。

五、このように国も国民もマスコミも来年の消費増税に関して強い関心が集まっている時なのだから、消費増税を行った場合と行わなかった場合の比較を、経済モデルを使って行い国民に示す必要がある。2014年度の消費増税の前、2012年1月24日に内閣府から発表された「経済財政の中長期試算」)においては消費増税を行った場合(一体改革あり)とそうでない場合の比較が行われ、実質GDPの4年間の合計で両者の差は僅か0.1%となっていたが現実では増税の悪影響はそれより遥かに大きかった。
また、2013年10月1日の甘利大臣は「来年度4-6月期に見込まれる反動減、4月に消費税を引き上げると駆け込み、そしてその後に反動減があるわけであります。その反動減を大きく上回る5兆円規模(景気対策の規模)とする」と発言した。
これらより、政府は消費増税の影響を軽視していたのは明かである。見通しが甘すぎたために、「経済が失速しては元も子もない」状態を自ら招いてしまったわけである。2014年の消費増税による経済の落ち込みからパラメーターを定めれば、来年の消費増税による更なる深刻な経済失速が予測できるのではないかと考える。実際は、政府はその事を理解しているが、その事実を発表していないだけだという推測があるが、この事に関しどのように考えるか。

六、政府は訪日客を2020年に4000万人に増やす目標を掲げている。外国人を歓迎し、大いに消費してもらう政策を進めているのだが、一方では、消費増税によって、可処分所得を減少させ日本人の消費を事実上減らす政策を行っている。なぜ、外国人を優遇し日本人を冷遇するのか。

七、景気対策としてのマイナス金利政策と量的緩和は相性が悪いのではないか。日銀は3月28日、金融緩和の為に実施した短期社債(CP)買い入れで当初予定していた6000億円分を買えず「札割れ」となった。これは債券購入で金利にマイナス0.647%という下限を設けたためである。マイナス金利ということは金利を受け取るのでなく支払うわけで、損失が生じる。逆にカネを借りる側では利益を得るという不健全な取引となる。このような「札割れ」は国債でも起きてもおかしくない。これは金融緩和の限界を意味しており、今後は財政政策に重点を移すべきではないか。

八.答弁書(内閣衆質190第174号、以下「答弁書」という)は、「我が国の財政状況は、国・地方の債務残高がGDPの2倍程度に膨らみ、なおも更なる累増が見込まれる」と述べているがこれは間違いではないか。なぜなら今年1月21日に内閣府から発表された「中長期の経済財政に関する試算」試算(以下「試算」という)の4頁には、今後国・地方の債務残高のGDP比は減少していくことが示されているからである。

九、答弁書では「ハイパーインフレーションは、戦争等を背景とした極端な物不足や、財政運営及び通貨に対する信認が完全に失われるなど、極めて特殊な状況下において発生するものであり、現在の我が国の経済・財政に状況において発生するとは考えていない。」
とある。このことより消費増税を延期しても、あるいは相当な規模の財政出動をしてもハイパーインフレにはならないと内閣は認識していると理解して良いか。

十、答弁書では「財政に対する市場の信認が喪失し、金利が急激に上昇するようなことがあれば、経済・財政及び国民生活に大きな影響が及ぶと考えている」と述べている。金利上昇が生活に悪影響を及ぼすということであるが、内閣府の「試算」においては、長期金利は2020年には3.9%、2024年には4.6%まで急上昇しており、現在の政策が続くと国民生活は悪化するということか。

十一、それとも「財政に対する市場の信認が喪失し、金利が急激に上昇するようなこと」は2024年度まではあり得ないということが試算で証明されたと見なすべきなのか。
金利が急激に上昇するということは債券価格の急落を意味するから、債券全般から資金が引き上げられ、他の資産への買いが集中することを意味すると思われる。国債価格の急落による国家財政への懸念増大や、市中銀行の信用の喪失ということか。それは預金、ひいては、通貨への信認の喪失になり、国民全般における換物行動を促進し、物価上昇を高進させる。すなわち、「財政に対する市場の信認が喪失し、金利が急激に上昇するようなこと」とは、急激なインフレ、ハイパーインフレとほぼ同義になるのではないか。
一方、「財政に対する市場の信認が喪失し、金利が急激に上昇するようなこと」がハイパーインフレではないということであれば、それは適度なイ ンフレ(適度な債券や通貨の信認喪失によって生じる適度な換物行動に起因する適度なインフレ)になると思われる。その場合、内閣の「長引くデフレからの早期脱却」という目標に資するのではないか。
右質問する。

平成28年5月13日受領
答弁第255号
 内閣衆質190第255号
  平成28年5月13日
                    内閣総理大臣 安倍晋三
  衆議院議長 大島理森殿
衆議院議員福田昭夫君提出消費増税が日本経済に与える悪影響に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。

衆議院議員福田昭夫君提出消費増税が日本経済に与える悪影響に関する質問に対する答弁書

1について
 平成29年4月の消費税率の10%への引き上げ(以下「消費税率10%への引き上げ」という。)は、社会保障制度を時世帯に引き渡していく責任を果たすとともに、市場や国際社会における我が国の信認を確保するため、リーマンショックや大震災のような重大な事態が発生しない限り、確実に実施することとしている。政府としては、経済財政運営に万全を期してまいりたい。

2について
 ご指摘の安倍内閣総理大臣の答弁は、経済をしっかり成長させて、デフレ脱却を確かなものとする中において、税収を増やし、歳出改革も進めながら、財政健全化を進めていくという、経済成長なくして財政健全化なしとの安倍内閣の基本方針を述べたものである。

3について
 消費税率の10%への引き上げについては、経済環境を整える中で、実施することとしており、経済の好循環を力強く回すとともに、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要・反動減を標準化するなど、経済財政運営に万全を期してまいりたい。

4について
 消費税率10%への引き上げは、社会保障制度を次世代に引き渡していく責任を果たすとともに、市場や国際社会における我が国の信認を確保するため、リーマンショックや大震災のような重大な事態が発生しない限り、確実に実施することとしている。その増収分は全額、社会保障の充実・安定化に充てることとしている。引き続き、政府としては、「経済財政運営と改革の基本方針2015」(平成27年6月30日閣議決定)第3章に定めた「経済・財政再建計画」に基づき、経済と財政双方の再生を目指す経済・財政一体改革に取り組むことで、デフレ脱却・経済再生をはかりつつ、財政の持続可能性を確保してまいりたい。

5について
 平成26年4月の消費税率引き上げが消費に大きな影響を与えたのは事実である。このため、平成27年10月に予定されていた消費税率の10%への引き上げは18か月延期され、この間、大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略を柱とする経済財政政策を推進してきた。その結果、賃上げも順調に行われ、成長軌道に戻ってきている。政府としては、消費税率10%への引き上げに向けて、経済の好循環を力強く回すことにより、そのための経済状況を作り出していく。また、本年1月に内閣府が公表した「中長期の経済財政に関する試算」(平成28年1月21日経済財政諮問会議提出)は平成26年4月の消費税率引き上げが経済に与えた影響を踏まえて作成されており、「その事実を発表していない」とのご指摘は当たらない。

6について
 お尋ねの「外国人を優遇し日本人を冷遇するのか」の意味するところが必ずしも明らかでないが、観光立国の推進による訪日外国人旅行者の増加は地方を含む我が国の経済成長に寄与しており、また、アベノミクス「三本の矢」の政策によって、デフレではないという状況を作り出す中で、名目GDPは27兆円増え、雇用・所得環境も確実に改善していると考えている。

7について
 日本銀行による金融政策の具体的な手法については、同行の金融政策運営に関するものであり、同行の自主性を尊重する観点から、お答えすることは差し控えたいが、お尋ねの「金融緩和の限界」については、平成28年4月20日の衆議院財政金融委員会において、黒田東彦日銀総裁が、「当面、今後何年も国債の買い入れについて量的な限界あるいは技術的な限界が来るということはないと思っております」と答弁しているものと承知している。政府としては、平成25年1月22日に政府及び同行が共同で公表した「内閣府、財務省、日本銀行「デフレ脱却と持続的な経済成長の実現のための政府・日本銀行の政策連携について(共同声明)」}にもあるように、デフレからの早期脱却と物価安定の下での持続的な経済成長の実現に向け、政府及び同行の政策連携を強化し、一体となって取り組んでまいりたい。

8について
 お尋ねの「なおも更なる累増が見込まれる」に関しては、国・地方の債務残高の累増が見込まれる旨を述べたものであり、「中長期の経済財政に関する試算」の「経済再生ケース」において国・地方の公債等残高が増加する試算結果となっていることと整合的なものとなっている。

9から11までについて
 ハイパーインフレーションに係わるお尋ねについては、先の答弁書(平成28年3月18日内閣衆質190号第174号)八についてでお答えしたとおりである。
 また、「中長期の経済財政に関する試算」の「経済再生ケース」における名目長期金利は、経済成長率の高まりとともに上昇していることや、基礎的財政収支が改善していく姿となっていること等から、ご指摘の「財政に対する市場の信認が喪失し、金利が急激に上昇するようなこと」には当たらないと考えている。一方で、ご指摘の「財政に対する市場の信認が喪失し、金利が急激に上昇するような」事態となった場合には、経済・財政及び国民生活に重大な影響が及ぶと考えられる。
 政府としては、引き続き、「経済再生なくして財政健全化なし」との基本方針の下、「経済・財政再生計画」に沿って、「デフレ脱却・経済再生」、「歳出改革」、「再入改革」を三本柱として、「経済・財政一体改革」に取り組んでまいりたい。
 

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2016年5月16日 (月)

ヘリコプターマネーについての正しい考え方(No.195)

最近ヘリコプターマネーの議論が盛り上がっている。政府貨幣発行とか日銀の国債引受に関する議論が盛り上がったことはあったが、それとほぼ同じ意味のヘリコプターマネーという言葉で議論がされたことはほとんどない。この考えの提唱者はノーベル経済学賞受賞のミルトン・フリードマンであり1969年に発表された。2002年には前FRB議長のベン・バーナンキがデフレ不況対策として提唱した。実際にヘリコプターでお金をばらまくのではなく、刷ったお金が家計や企業に渡るようにする。

日本においては、わざわざヘリコプターマネーという言葉を使う必要はないのだが、ユーロ圏では事情が違う。政府貨幣発行も日銀の国債引受も政府の協力なしではできない。しかしユーロ圏は19カ国からなり、このすべての国の政府が賛成しなければ何もできない。ドイツは反対するだろうから、結局できないということだ。ヨーロッパで議論が盛り上がっているヘリコプターマネーとは、中央銀行であるECBがお金を刷って直接ユーロ圏の国民に配るという案だ。本来、中央銀行はお金を刷って国債などの資産を買うのだが、今回のアイディアは何も買わずひたすらお金を刷ってお金を配る。それなら19カ国の政府の協力なしにでもできるのではないかと考えているのである。マイナス金利でもデフレから脱却できないのなら、そういう方法も考えるべきではないかという論理である。この方法の欠点は、もし景気が過熱したとき、売りオペしてお金を吸収しようと思っても、売るべき資産がないので売りオペができないことだ。

幸いにして、日本の場合はずっと話は単純で政府貨幣発行も日銀の国債引受も必要はなく、次のような2段階で行えば良い。第一段階は政府が国債を発行し市場で売って減税や財政出動のための資金を得る。第二段階は日銀が市場から国債を買う。この二段階で行われれば、日銀の国債引受と全く同じことが行われたことになる。しかも第二段階はすでに日銀は十分すぎるほどの規模で行ったし、現在も行っている最中である。ということは残りは政府が国債の発行額を増やし、減税とか財政支出拡大を行うだけでよい。

そんなに簡単なことならなぜやらないのかという疑問がわく。日本は1000兆円を超える借金があり、それ以上借金はできないという反論が返ってくる。しかし、借金が1000兆円だと言っても、それが多いか少ないかはGDP比で考えないと分からない。借金のGDP比が200%を超えていて、世界最悪だという人がいる。しかし、お金が家計や企業に渡れば当然需要は拡大し、経済は活性化しGDPは増える。もちろん借金も増える。分子が借金で、分母がGDPだ。減税や財政拡大を行ったとき、分子も分母も増加するのだが、どちらの増加速度が大きいのだろうか。マクロモデルを使って計算すると、間違いなく分母の増加速度のほうが大きくなって、国の借金のGDP比は減っていく。つまり財政は健全化するということだ。

世界中捜しても日本以外、債務のGDP比が200%を超えた国はいない。もちろん財政赤字が日本以上に深刻な国もいくらでもあったが、借金も増えるがGDPも増えるので債務のGDP比は200%にまで増加することはない。日本はデフレでGDPが増えないから債務のGDP比がこんなに増えてしまったわけで、適切な規模で景気対策を行えば普通の国のようにGDPが増え、財政は健全化していくのだ。

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2016年5月 8日 (日)

人工知能の発達で緊縮財政政策が「破綻」する(No.194)

安倍総理は欧州歴訪を行い国際協調で財政出動を行い落ち込みつつある世界経済を救おうと呼びかけているようだ。長年積極財政の必要性を訴えてきた我々としては、非常に歓迎すべきことであり、安倍首相がそのような呼びかけをするのであれば、もちろん来年の消費税増税は中止し、スケールの大きな財政出動を行うものと期待している。

ところで新聞各紙で報じられたのだが、経済産業省は『新産業構造ビジョン~第4時産業革命をリードする日本の戦略~』という興味深いレポートを4月27日に出している。ここでは①現状放置の場合と②変革があった場合の2つのシナリオでの試算を行っている。この試算は内閣府の試算に対応しており、内閣府では①はベースラインケースと呼んでいて、2020年度のGDPは547兆円になり、②は経済再生ケースと呼んでいて、2020年度のGDPは592兆円になるとしている。政府に雇われて試算を行っている内閣府にとっては、立場上政府目標である実質成長率2%、名目成長率3%が実現した場合のシナリオを示さざるを得ないのであり、これが②のケースで、2020年度頃GDP600兆円を実現するという安倍首相の目標はこの試算がベースとなっている。しかしながら、内閣府や経産省の人達と話しても、誰もこんなにうまくいくとは考えていないようで、もっと現実に即したシナリオが必要になる。これが①のベースラインケース(経産省では現状放置シナリオと呼んだ)だ。

では、①②の差はどこからくるのか。もちろんどれだけ需要が伸びてくるかで決まる。それは金融政策でも構造改革でもなく、財政政策の差だ。その意味で①は緊縮財政(現状維持)であり②は積極財政である。その差が雇用のという面でどのように現れてくるかを詳細な試算で示したという意味でこのレポートは興味深い。筆者は「労働はロボットに、人間は貴族に」というキャッチで、これからの社会は変革していかねばならないと主張している。経産省の試算はこの主張を裏付ける。試算は2015年度と2030年度の比較を行っている。

従業者数でいうと、現状を放置した①の場合は735万人減少する。AIに職を奪われた人が失業者になり、安い賃金でも就職しようとするからデフレが悪化する。一方②の積極財政で需要を喚起し続けた場合は従業者数の減少は161万人に抑えられる。人口は減るのだから従業者数が少しばかり減少するのは構わない。それに急いで就職しなくても大学や大学院に進学する人が増え、しっかり政府が奨学金で支えるならそれもよい。

このレポートでは、どの分野でどれだけの従業者数の変化があったかを詳細に分析している。最も大きく増えるのは「サービス(低代替確率)」だ。このことは「労働はロボットに、人間は貴族に」を主張した筆者の拙書にも詳しく書いた。作家、タレント、小説家、俳優、料理人、デザイナー、音楽家、カメラマン、芸術家、陶芸家、園芸家、棋士、落語家、プロスポーツなどが増える。テーマパークも増え、旅行を楽しむ機会も増加し、娯楽産業が発展する。

このレポートが警鐘を鳴らすのは、現状の緊縮政策では、AIが職を奪い、大量の失業者が発生し、悲惨なデフレが続いてしまうということだ。安倍首相にも是非このレポートをしっかり読んで欲しいと願う。

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