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2016年6月

2016年6月26日 (日)

英国EU離脱とアベノミクスと参議院選(No.203)

大方の予想に反し国民投票で英国がEU離脱を決めた。英下院が設けたインターネットサイトには国民投票のやり直しを求める誓願署名が1時間で10万人の割合で増えているという。国民投票で離脱派の票は1741万票だったが、再投票を求める署名はそれを超えるかもしれない。移民排斥とか独立宣言とかで惑わされた英国国民には厳しい現実が見えてくる。株価暴落、ポンド暴落、英国国債の格下げ、海外企業が拠点を英国の外に移し、職が失われる。それだけでなく、スコットランドやロンドンが独立の動きを強めている。

国民投票も僅差でのEU離脱賛成だったから、ほぼ半数は反対だったわけだ。これから長い離脱交渉に移るが、その間に残留派が国民の多数を占めるようになる可能性は強い。議会は今でも残留派が多数を占めるわけで、新しい首相も残留派が選ばれたら、本当にEU離脱するのだろうかと疑問に思う。英国民が間違った情報の基に、間違った結論を出してしまい、それが二度と覆すことができないなどということがあるのだろうか。

これが対岸の火事とは思えない。24日の外国為替市場では円が一時1ドル99円まで急騰した。アベノミクス前の水準まで戻ってしまった。アベノミクスは3年半前に3本の矢で華々しくスタートし我々もそれを助けた。しかし、実際の中身は金融だけの1本の矢しか無かった。それも「異次元の金融緩和」という口先為替介入でしかなかったのではないか。金融緩和の規模で為替が決まるという数式を示す人もいたが、筆者はそれを信じなかった。実際、金融緩和は進む一方なのに、対ドル円相場は金融緩和前の水準に戻ってしまったではないか。むしろこの一時的な円安は、原発の停止により原油の輸入が増え貿易赤字になった影響であり、それが原油の値下がりで赤字が解消されまた戻ったと考えた方が理解し易い。また円安が進めば輸出が伸び景気が回復するという意見にも同意できなかった。そもそも、日本経済はそれほど輸出に依存しておらず、円安になってもそれほどGDPは伸びないことは我々が行った試算でも明かになっており、13年前から我々はその試算を繰り返し説明してきた。

今こそ計量経済学に基づく試算結果を尊重し経済再生を目指すべきだ。我々は2003年に日経NEEDSを使い試算を行い、結論を出した。日本経済の再生には金融緩和をしながら行う大規模財政支出しかない。政府は10兆円超の景気対策を考えているようだが、今日の状況では、それ以上の規模で複数年続ける必要がある。我々の一貫した主張は、日本経済の復活に必要なのは2本の矢、つまり異次元の金融緩和と異次元の財政出動だ。アベノミクスの3本目の矢である「民間投資を喚起する成長戦略」はこの2本の矢が放たれれば、間違いなく経済成長が始まるし、それによって民間投資は進む。NEEDSのシミュレーション結果を見れば、異次元金融緩和と消費増税の組合せでは景気回復は無理であることは明かだ。

今秋、もし十分な規模の財政出動が行われないなら、アベノミクスは完全な失敗に終わってしまう。ただし、そのことを国民が気付くまではまだ暫く時間が掛かるから今度の参議院選は与党が勝ちそうだ。改選となる議員は6年前、菅内閣の時選ばれた。当時民主党内閣は支持を失いつつあったとはいえ、それなりの議席を確保したが、今回民進党は国民に希望を持たせるような公約をしているように見えないから勝てない。3年前より安倍政権の支持率は落ちているので3年前より獲得議席はやや減るだろうが、6年前より大きく増える。そう考えれば結果は次のように推察できる。自民は単独過半数を確保。与党全体では十議席以上増加、民進党敗北。

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2016年6月19日 (日)

第137回 日本経済復活の会定例会(No.202)

                                                                                平成28年6月19日
                            日本経済復活の会 会長 小野盛司

講師 ①秋元 司  衆議院議員 自民党国土交通部会長
       2004年の参議院議員選挙において、32歳という最年少で初当選。自民党全国比例区で竹中平蔵氏に次ぐ第2位の得票数で当選した。
参議院では委員会の質問数で最多記録を作るなど一期目から活躍し注目される。予算委員会等で日本経済復活の会の主張に基づいた質問により、マスコミにも取り上げられた。
その後2012年の衆議院議員選挙で当選し衆議院議員となり現在に至る。
来年予定されていた消費増税は2年半延期が決まった現在、先進国で際立って低い日本の経済成長率をどうやって高めるのか、秋元先生と徹底的に議論する。
②宍戸駿太郎 先生 筑波大学名誉教授、元国際大学学長、元筑波大学副学長   
③小野 盛司 日本経済復活の会会長 
会の活動報告、『日本経済復活への道 -刷ったお金は使いなさい-』 

○ 日時 平成28年7月21日(木)午後6:00時~午後9:00時
                 (開場5:45、講演開始6:00)

○ 場所 東京都文京区春日1‐16‐21 文京シビックセンター 4階 区民会議室 会議室B
TEL 03-3812-7111

1921


○ 会費 1500円(資料代を含みます。食事は出ません。)当会合に関する一切の問い合わせと、御来会の可否は小野(03-3823-5233)宛にお願いします。メール(sono@tek.jp)でも結構です。ご協力お願いします。  

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消費増税延期で、来年度の実質GDP成長率の予測は0%から1%に上昇(No,201)

2014年度の5%から8%への引き上げの際は、政府は経済に対する影響は軽微だと宣伝し、4年間の成長率の合計で僅か0.1%しか差が無い豪語していた。菅内閣で経済政策のブレーンを務めた大阪大学の小野善康氏は、なんと消費増税を行ったほうがGDP成長率は上がるのだという珍説を唱えた。実際は我々が厳重に警告したとおり、2014年度の消費増税は経済に深刻な悪影響を及ぼした。

来年度に予定されていた消費増税が実施された場合と延期された場合で実質GDP成長率はどれだけ違うのだろうか。その答えは日本経済フォーキャスター39人(機関)による予測で知ることができる。2017年度の実質GDP成長率は増税が実施されるとして計算されていた5月の予測では0%であっったが、増税延期として計算された6月の予測では0.96%となった。つまり増税を延期すれば実質経済成長率を約1%押し上げることができることが示された。本格的な経済モデルによる試算で「増税をやっても経済には影響は軽微」だとか、「いや逆に経済成長は加速する」とかという馬鹿な水掛け論争に完全に終止符を打つことができる。

もちろん、1%程度の成長率で満足してよいわけはない。2017年の実質成長率は米国では2.23%、ユーロ圏は1.59%、中国は6.31%と予測されており、まだまだ低すぎる。我々の提案は、増税延期でなく税率を5%に戻す消費減税を行うことだ。先程述べたように、フォーキャスター達の予測(試算)では、8%から10%への消費増税により成長率は0.96%押し下げられる。逆に8%から5%への消費減税を行ったとしたら、成長率押し上げ効果はその1.5%だから0.96%の1.5倍、つまり1.44%PTだ。それ故2017年度の実質成長率は2.4%との予想となる。もちろん、もっと詳しくは駆け込み需要とその反動、そして予定していた軽減税率なども考慮に入れて詳細に試算する必要があるのだが、5%に消費税率を戻せば失われた20年が終わり、いよいよデフレ脱却に向かうのは明かだし、安倍首相は日本経済を救った英雄として歴史に名を残すことになるだろう。残念ながら、実際は減税どころか3年後には再度消費増税をすると宣言しており、国民の節約志向は続き、これでデフレ脱却ができるかどうか分からない。

政府は今秋にも5~10兆円の景気対策をやると言っている。これも一回きりなら心許ない。6月19日の日経新聞には安倍首相の経済ブレーンの一人である藤井聡内閣官房参与(京大教授)が「2016年に15~20兆円の補正を」と大型補正予算の編成を提言している。失われた20年からの脱却ならこの程度は最低でも必要だろう。それでは、財源はどうするのかと必ず聞かれるだろう。赤字国債を発行すればよいだけだ。しかしそれは将来世代へのツケを残すという心配をする人がいる。7世紀後半、日本最古の貨幣の可能性がある富本銭が発行されて以来、徐々に政府はお金を作って国民に渡している。お金が増えなければ経済は絶対に成長しない。

秀吉や家康の時代は金銀が豊富に産出したから、それで金貨・銀貨を大量に作ることができた。それができなくなった後は、金銀の含有用を減らしながらお金を増やして行って、通貨発行益を政府の財源に組み込み国の借金をむやみに増やし、国民を恐怖のどん底に落とすような馬鹿なことはしなかった。別な言葉で言えば、1300年以上の間、ヘリコプターマネーで国民にお金を渡すことで、国を発展させ経済を拡大させてきた。平成の大失敗は、通貨発行=悪と決めつけたためにデフレが続き経済の発展を止めてしまったことだ。

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2016年6月12日 (日)

銀行の国債離れが示す金融緩和の限界(No.200)

三菱東京UFJ銀行が、財務省の国債入札に有利な条件で参加できる資格である「国債市場特別参加者」という資格を返上する見通しとなった。日銀が大量に国債を買い始めて以来、国債の金利が下がり始め6月10日には長期金利はマイナス0.15%になっている。つまり10年間この国債を持つと、利子がもらえるのでなく利子を払わなければならない。こんな国債でも売れるのは、日銀が購入価格以上の価格で買ってくれるからだ。裏返せば、日銀が買わなくなったら、国債は間違いなく暴落する。年間80兆円マネタリーベースが増えるように日銀は国債を買っているのだが、いつまでも買い続けられるわけがなく、あと2年が限界だと言われている。いつか日銀が国債を買わなくなって、国債が暴落すれば、国債を保有している金融機関は大損害を被る。金利が下がれば下がるほど、国債価格は上昇することとなる。現在の金利低下は国債バブルと言ってよい。

バブル崩壊の前に国債購入を控えようという三菱東京UFJ銀行の方針は理解できる。しかし、これは同時に金融政策の限界を示しているとも言える。もし日銀が金利のマイナス幅を拡大し,国債価格の更なる上昇(国債バブルの更なる過熱)をさせるなら、金融機関の国債離れが更に進む可能性があるから日銀が金利を更に下げるのは難しくなった。国債購入を更に加速するのであれば、購入の限界に達するまでの期間が更に少なくなることを意味するだけだ。ETF(上場投資信託)の購入拡大の可能性はあるが、株式相場への露骨な介入として批判される可能性があり、いずれにせよ100兆円規模ではとても行えないし、景気下支え効果は限定的だ。

結局アベノミクスの3本の矢のうち、第1の金融政策はもうこれ以上無理であり、第3の民間投資を喚起する成長戦略だが、アベノミクスで民間投資は喚起されていないのでこれも無理ということだ。第2の財政政策だけは明らかに効果があった。実際10.3兆円の補正を組んだ2013年度の経済は好調であった。好調な経済を取り戻すためには、財政出動しかない。将来へのツケを増やすという人がいるが、GDPも増えるので国の借金のGDP比はむしろ減少し将来へのツケは減る。

財政出動によって金利上昇を心配する人がいる。ソシエテジェネラル証券チーフエコノミストの会田卓司によれば、財政支出の拡大を国債でファイナンスし、ネットの資金需要が5兆円程度(GDP対比1%程度)増加すると、長期金利は0.065%上昇、10兆円なら0.13%程度の上昇だそうである。この程度の金利上昇は金利のマイナス幅を小さくし国債バブルを縮小させるのであるから、むしろ好ましいと言える。「金利上昇=悪」という主張の人がいる。質問主意書に対する政府の答弁書にもそのようなことが書かれていた。しかし、現状では金利上昇は善と言わざるを得ない。資金需要が出てきて金利が2%位まで上昇してきたら、こんなよいことはない。

2年で2%のインフレ率を実現すると言った日銀だが3年以上経過しても目標達成がいつになるか見通しが立たない。三菱東京UFJ銀行の「反乱」により国・日銀・金融機関の3者もたれ合いの構図が崩れ始めた。傷が深くなる前に、財政出動で景気を回復させ、金融に過度に頼らなくてもよい経済状況を一刻も早く作り出すことが望まれる。

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2016年6月 5日 (日)

増税延期のシミュレーションを発表しなかった内閣府の大罪(No.199)

予想通り、来年予定されていた消費増税は延期された。3月に増税反対派でノーベル賞受賞経済学者のスティグリッツとクルーグマンが国際金融経済分析会合に招かれて首相官邸で消費増税延期の提案を行った頃から、安倍総理が増税延期を考えていることが公然の秘密となっていた。

 

しかしながら、内閣府は今年の1月21日に発表した「中長期の経済財政に関する試算」では、来年の消費増税が行われた場合の試算しか発表していない。筆者は内閣府に電話して消費増税が延期された場合の試算も出すよう強く要求した。しかし、内閣府の返事は「法律で決まっていることだから」と言って、消費増税が延期された際の試算を出すことを拒否した。消費増税延期が決まった先週も内閣府に電話して同じ質問をしたら、同じ返事の繰り返しだった。「法律で決まっていても、法律は国会で変えればよいだけで、実際安倍総理は延期を決めた。」「首相は半年前から増税延期について考えていた。」「国民の7割程度は増税反対だった。」「政府はノーベル経済学者で増税反対派のスティグリッツやクルーグマンを招き意見を聴いていた。」「日本のエコノミストの多くが増税延期を主張していた。」などと筆者は矢継ぎ早に次々と質問を浴びせかけたが、内閣府の回答は「法律で決まっていたことだから」の繰り返しで、まるで回答になっていない。国民を馬鹿にするにもほどほどにしろと言いたい。

 

内閣府の本音は「俺たちは、安倍首相に増税延期をするなと圧力をかけているんだから、お前は黙ってろ」ということだろう。シンクタンク各社やIMF等のシミュレーションで示されているように、もし消費増税が予定通り行われたら、来年日本はデフレに逆戻りするに違いない。内閣府にとっては、日本経済がどんなに悪化しようと国民がどんなに苦しもうと関係ない。増税をさせようと必死だ。内閣府が増税の場合と増税をしない場合の比較試算が出せない理由がある。それは、5%から8%への増税を行う前に行った試算が大失敗だったことだ。増税の影響は軽微だとした。実質GDPにおいて両者の差は、4年間の合計で僅か0.1%だとしていたが、実際は2013年度から2014年度の1年間でその30倍のマイナス3%にも達した。このデータを取り入れて試算をすれば、2017年の日本経済は悲惨な状態になるのは明かだから、公表しない。影響は軽微と発表すれば、前回の失敗の反省は無いのかと非難される。ジレンマだ。

 

しかし、増税延期は決まってしまったのだから、今後増税延期の場合を計算して発表せざるを得なくなった。いずれにせよ内閣府の試算は狂った羅針盤と呼ばれ、大本営発表のようで、「経済は順調に回復」といつも発表し、後になって「思ったより悪かった」と下方修正している。毎年7月頃結果をまとめて発表しているが、今年はどうなるか分からないと内閣府は言う。今年も例年通り大幅下方修正をするだろう。例年と違うのは、消費増税をした場合としなかった場合を正直に比較せざるを得なくなったことだ。1月に出した試算は消費増税をした場合、今後出す試算は消費増税をしなかった場合である。1月の試算では、消費増税をした場合、2017年度の実質GDPは0.6%で2016年度の値の1.7%より1.1%も下がる予想だ。消費増税延期となれば、実質GDPは2017年度は逆に2016年度より増える予想になるのではないか。経済規模が縮小でなく拡大基調になるのであれば、こんな素晴らしいことはない。僅か5.8兆円の増税のために経済を壊してしまっては元も子もない。増税延期の場合のシミュレーションを内閣府はもっと早く発表する義務があった。

 

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