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2016年7月

2016年7月31日 (日)

内閣府計量分析室がオオカミ少年であることが一目で分かるグラフ(No.207)

7月26日、内閣府は「中長期の経済財政に関する試算」を発表した。同様な試算は毎年発表されており、その一覧は以下のサイトで見ることが出来る。
http://www5.cao.go.jp/keizai3/econome.html
これは日本経済の中長期展望を示すために内閣府計量分析室が行った試算だが、国が様々な分野で将来展望を示すための試算を行う際にはこの試算がベースになっているから非常に大切な試算だ。マスコミもこの試算が絶対的に正しいものと信じており(騙されているのだが)それ以外は一切引用しない。しかし、次のグラフを見れば、この試算は全くデタラメであり内閣府計量分析室はオオカミ少年であるということがすぐ分かる。

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これは長期金利の予測で、この図で黒い右下がりの線が実際の長期金利の推移である。それに対して右上がりの15本の線は内閣府の予測であり、そこに書いてある数字が予測した年である。例えば今年2016年の予測は一番右にあり、今後長期金利は急上昇して数年もすれば4%を超える金利上昇となると予測する。もちろんこんな金利の急上昇(国債価格の急落)を予想する人などどこにもいないし、もし予想していたら国債を保有している人達が一斉に国債の投げ売りを始めるし、10年物国債がマイナス金利になるわけがない。実際は国債保有者は国債を売りたがらないので、現在国債市場では国債が品薄状態になっている。

1回だけの予想なら間違えるのも仕方がないかもしれない。しかし15回連続で急激な金利上昇を予想しており、それが全部はずれ、実際はむしろ金利はジリジリ下がり続けているのである。まともな感覚の持ち主であれば、金利は当分下がり続けるか、少なくとも低いままであり続けると予想するだろうし、その予想は内閣府の予想よりはるかに現実に近いに違いない。

内閣府計量分析室にどうしてこんな馬鹿な予測しかできないのかと電話で聞いてみると、「政府は実質2%、名目3%の成長と目標としている。このような高成長なら金利は高くならざるを得ない。だから内閣府としては立場上このような予測しかできない」という回答だった。要するに「お前達、首になりたくなかったら高成長の試算結果をだせ」と脅されているのであり、彼らは自分たちの意に反して間違いと知りながら試算を発表せざるを得ないのだ。一方政府・日銀はこのグラフを見て、「今の政策を続ければ、こんなに成長するのだ」と安心し、小出しの景気対策の逐次投入しかしない。そしてしばらくすると騙されたと気付く。2014年度の消費増税の際も「増税の影響は軽微」と予測した内閣府の試算にすっかり騙されて好調になりかけた経済を急激に悪化させてしまった。いつまでその繰り返しをやるのだろうか。

参考のために名目GDPの内閣府の予想と実際の名目GDPの推移を比較したグラフを次に示す。ここでも低迷するGDPに対して、いつも高成長を予想する内閣府のデータのコントラストが鮮明である。
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2016年7月27日 (水)

内閣府=オオカミ少年のウソにまた騙されるのですか(No.206)

7月26日、内閣府は「中長期の経済財政に関する試算」を発表した。
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2016/0726/shiryo_01-1.pdf
新聞各紙は2020年度の基礎的財政収支(PB)の赤字が5.5兆円だから財政健全化が厳しいと報じた。すでに何回も述べたように、内閣府の試算は全く信頼に値しない。過去の発表を見れば、発表がウソであったのは明かだ。もともとは2011年度には基礎的財政収支が黒字化するという予測であった。それが間違いだったという発表を行い、発表内容を次々変えていく。
第1回目のウソ 2006年7月 小泉政権末期に2011年度PBの黒字化を宣言
第2回目のウソ 2007年1月 第1回の宣言はウソでした。 14.3兆円削減なら0.2%黒字 になります。
第3回目のウソ 2008年1月 第2回も宣言もウソでした。 14.3兆円の削減を行っても0.1%赤字になります。
第4回目のウソ 2008年7月 第3回の宣言もウソでした。  14.3兆円の削減を行っても0.7%赤字になります。
第5回目のウソ 2009年1月 第4回の宣言もウソでした。 2011年度黒字化はできません。
ここで2011年度の黒字化を完全に放棄したが、なんと次は2020年度の黒字化にターゲットをすり替えた。
第6回目のウソ 2009年6月 第5回の宣言もウソでした。 2020年に黒字化す
るには消費税を13%にしなければなりません。
第7回目のウソ 2010年6月 2020年に黒字化する。 
第8回目のウソ 2011年1月 第7回の宣言もウソでした。2020年に黒字化する
にはGDP比で4.6ポイント(約22兆円)程度収支の改善が必要となります。
第9回目のウソ 2012年1月 第8回の宣言もウソでした。 2020年にPBを黒
字化するには消費税は17%にしなければなりません。
あきれて物が言えないのだが今回は2020年度はPB赤字5.5兆円というもの。マスコミはこのウソにすっかり騙されている。

今回の発表もウソの羅列に間違いない。こんなウソの中に何か役立つ情報はないだろうか。半年前の発表と今回の発表のデータを比較するのは面白い。それは前回の発表は消費増税時期が17年4月としての試算だったが、今回は19年10月へ延期した場合の試算だから。2年半延期したことで財政は悪化したのだろうか。発表された試算を見ると逆に財政は改善したことが分かる。まず2020年度のPBだが、6.5兆円の赤字だったが、今回のPBは5.5兆円の赤字だから1兆円の改善だ。では債務残高はどうなったかと言えば、例えば18年度で比べると、前回は1054.5兆円、今回は1051.8兆円だから2.7兆円だけ債務は減っている。つまり、増税を2年半延期したことで、財政は悪化でなく改善している。そうであれば、19年10月に予定されている消費増税も無期延期すると更に財政は改善する。それだけでなく、17年度は消費増税を延期したほうが、しないほうより消費が伸びてGDPが拡大、国が豊かになるというメリットもある。

このように言うと内閣府の担当者は「様々なファクターがありますから一概にそうとは言えません」と答えた。そうであれば、増税を延期するかしないかだけを変えて2つのケースを比較して発表して下さいとお願いしておいた。とくに19年度の増税を再延期するかどうかを判断するために内閣府の試算を出してもらいたい。筆者と内閣府との電話でのやり取りを以下に書く。

Q:増税を延期する場合と延期しない場合の比較を計算すべきではないのか。
A:増税は閣議決定されていたことで、閣議決定されたことに反する試算はできなかった。
Q:しかし、リーマンショック級のショックがあれば増税を延期すると安倍総理も言っていた。しかも国際金融会合に増税反対派のスティグリッツやクルーグマンを招いて話を聞いていた。両方の選択肢を検討するのは当然であり、それをやらない限り、このような試算は価値がない。
A:そうですか。
Q:今回(7月)の試算と前回(1月)の発表を比べてみる。今回は増税延期、前回は増税延期しないケースである。比較すると2020年度の基礎的財政収支は延期の場合が1兆円改善、しかも国の債務残高も減っている。このことから、増税は延期したほうが財政健全化に資するのではないか。
A:様々なファクターがあり、一概にそうは言えません。
Q:だから言っているのでしょう。他のファクターは全部同じにして、増税延期ケースと延期しないケースの比較を発表せよと。
A:すいません。
Q:2019年10月にも増税するかしないかを決めなければならなくなる。今回の試算を見れば、増税しないほうが、財政健全化に資するという結果だから、2019年10月も同様でしょう。その比較を出して下さい。
A:また再び国際金融会合のような会合が開かれて検討することになるかもしれません。
Q:試算が毎年ひどく上振れしていて、毎年下方修正している。もっとまともな予測はできないのか。
A:短期の予測は経済見通し担当に聞いて下さい。

次に経済見通し担当に電話して質問
Q:名目GDP、物価、長期金利等毎年の予測が上振れしており、毎年下方修正している。もってお信頼できる経済見通しを出して欲しい。
A:今回の発表で2016年度、17年度に関してはこちらで担当したが、18年度以降に関しては、こちらは関与していない。名目GDP,実質GDP,設備投資、個人消費、などはこちらで数字を出すが、長期金利などは出していない。
Q:実質GDP成長率では16年度が0.9%、17年度が1.2%となっている。IMFの予測は日本が先進国の中で際立って低い成長率となっていて16年度が0.3%、17年度が0.1%と低い成長率を予測している。

もう一度計量分析室に戻って質問
Q:17年度の消費増税が19年10月に延期された。その効果が今回の試算に入っていれば19年度からの数字に効いてくるはずだがそれが見られない。
A:19年10月は丁度年度の中間点なので、年度の前半は駆け込み需要が発生し、後半はその反動がある。だかれ19年度のデータは駆け込みと反動が打ち消し合って、何も無かったように見える。
Q:しかし、消費増税は可処分所得を減らし、消費を減らす。駆け込みとその反動では説明できない効果があるはず。
A:それは入っている。4頁の物価のグラフを見て欲しい。
Q:長期金利に関しては経済見通し担当では計算しないと言った。計量分析室でどのように計算したのか。
A:名目GDP成長率や物価などから推測した。物価が上がって金利が上がらないのはおかしい。
Q:そもそも名目GDP成長率の予測が完全に間違っているから、試算のすべてが間違った結果を出している。

内閣府試算の致命的な欠点は、実質2%、名目3%成長を、何の根拠もなく仮定してしまう事だ。政府がそれを目標としているからそうするのだと言う。でも1997年度に521兆円であった名目GDPが2015年度には500兆円にまで下がっている。18年かけて21兆円下がった。それなのに毎年3%成長を仮定して計算してたら、間違った結果が出るのは当たり前だ。3%成長と言えばGDPが15兆円増えるということ。普通の国であれば、3%成長くらい当たり前だ。しかしデフレが続く日本では当たり前ではない。3%成長のためにはどの程度の財政出動が必要かを試算で示して欲しいものだ。

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2016年7月24日 (日)

中学の教科書で緊縮財政を教える馬鹿な日本の教育(No.205)

現在使われている中学公民の教科書には次のように書いてある(例えば東京書籍149頁)。「公債(国債)は借金ですから、政府は公債を買った人に利子を支払い、元金を返済しなければなりません。安易に公債を発行すると、利子の支払いや元金の返済がたいへんですし、将来の世代に負担を先送りすることにもなります。そのため、公債の発行は慎重に行わなければなりません。」つまり今の教育制度だと中学生にまで緊縮財政が正しいのだと教えている。

しかし、もしヘリコプターマネー(ヘリマネ)を認めるなら、このように教科書に書くことは間違いだということになる。ヘリマネなら無利子無期限の国債を日銀に引受させるのだから利払いも元金返済もないからだ。

第二次安倍内閣が発足する前、安倍氏は「日本銀行(日銀)の輪転機をぐるぐる回して無制限にお札を刷る」というヘリマネを思わせる発言をしていたが、首相になってからは財務省の圧力からか、そのような発言は影を潜めた。しかし7月12日にバーナンキ前米FRB議長を官邸で会談してから、政府がヘリマネを検討しているのでは無いかとの憶測が流れた。バーナンキ氏は2002年来日しヘリマネを日本に推奨している。政府・日銀によるヘリマネの期待が高まって一時円安株高が進んだが、黒田日銀総裁がヘリマネの実施を否定する発言が英BBCラジオで流れると一転円高株安になった。市場関係者はヘリマネは日本経済にとってプラスと認識していて、ヘリマネでハイパーインフレになることもないし、円の信認が失われることもないと信じている証拠だ。

しかし、ヘリマネの実現にはたくさんの壁がある。第一は財政規律という壁だ。これは日本経済の発展を阻害している最大の規制だ。江戸時代の為政者は賢かったから、通貨の適度の増発で巧みに経済を発展させることができたが、平成の為政者はそれができない。この財政に関する規制を緩和することこそ、日本経済を発展させるための最重要課題となる。第二は「60年償還ルール」。国債は60年で「完済」することになっている。ただし、新たに借換債を発行して発行残高は増え続けるのだからこのルールは何の意味もないのだが、借りたカネはきっちり返さなければいけないと言うだろうし、ヘリマネのように無利子無期限の国債は想定外だと主張するのだろう。第三の壁は日銀による国債の直接引き受けが財政法で禁じられていることだ。しかし、自民党は衆参で単独過半数を持っているのだからその気になれば、議会で承認してヘリマネも可能となる。

IMFは7月19日世界の経済成長率の見通しを発表した。それによると世界全体では2016年が3.1%、2017年が3.4%の成長と予測した。日本の成長率は世界中で際立って低く、16年が0.3%、17年が0.1%と予測されている。例えば米国は16年が2.2%、17年が2.5%、ユーロ圏は16年が1.6%、17年が1.4%となっており、先進国の中でも成長率の低さが際立っている。このままデフレ脱却ができなかったら、かつて世界一豊かであった国がいずれ貧乏な国の仲間入りをしてしまう。我々の子孫に、そのような惨めな国に住まわせたいだろうか。

江戸時代の為政者は賢かった。改鋳など行い、国民が使えるお金を徐々に増やしていき経済を発展させ国民の生活を豊かにしていった。通貨増発だが、現代風に言えばヘリマネを繰り返して活用したわけだ。通貨増発の速度も節度をもって行われたため、ハイパーインフレも通貨の信認が失われることもなかった。ヘリマネが無理でも思い切った大規模補正予算を期待したい。同様な効果は期待できるのだから。

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2016年7月 3日 (日)

伊藤元重氏の「ヘリコプターマネー」論(No.204)

6月27日の読売新聞、「地球を読む」で伊藤元重氏が述べた「ヘリコプターマネー」論は興味深かった。議論は日本の困難な経済状況から脱するには、ある程度のインフレが必要だということから始まる。しかし金融政策だけではインフレを起こすことは無理、だから金融と財政の両輪で政策を遂行する必要がある。そこでヘリコプターマネーと呼ばれる政策に注目する。つまり政府の発行した国債を中央銀行が買い取って所有し続ければ、政府は国債を償還する必要がない。アベノミクスとの違いは、金融緩和だけでなく、政府の支出が増えて需要が増える。それで実際に物価や賃金が上がる気配が強くなれば、物価上昇の期待が高まる。

そこで問題となるのは、財政再建はどうなるのかということ。国際的には財政の健全さは債務のGDP比で判断される。日本では200%を超えている。分子の債務は1000兆円、分母のGDPは500兆円である。債務を減らそうとして毎年10兆円の財政黒字を出しても1000兆円を半分にするには50年かかる。そもそも10兆円の財政黒字を出すことはほとんど不可能なことである。一方分母である500兆円のGDPは名目3%の成長が続けば30年でおよそ2.4倍になる。債務が1000兆円のままでも、GDP比は85%程度まで下がる。名目3%程度の成長はどこの国でも実現している。仮に実質ゼロ成長でも消費者物価が4%上昇すれば名目成長率は3%程度になる。つまりインフレは債務のGDP比を減らすのに有効である。

伊藤元重氏のような著名な経済学者がこのような主張を行うことは大変歓迎すべきことであり、我々が2003年以降行ってきた説明は伊藤氏の議論を補強するものとなる。インフレ率を上げる確実な方法は財政規模を拡大することだ。そうすると名目GDPは増加するし同時に実質GDPも増加する。また赤字国債の発行額も増えるので国の借金も増える。しかし、借金の増加速度より名目GDPの増加速度の方が大きいので借金のGDP比は減ってきて財政健全化が実現する。多くの人は赤字国債を増発すれば、財政健全化に逆行すると考えているが、実際はその逆で、財政拡大が財政健全化に役立つのである。

そんな馬鹿なと思うかもしれないが、例えば終戦直後の積極財政が結果として国の借金を減らしたし、それ以外に多くの例がある。世界185カ国のうちで、債務のGDP比がダントツでトップなのは日本の248%である。世界の中には放漫財政の国はいくらでもあるのだが、そのような国はインフレになり、債務のGDP比は日本よりずっと低い。つまり、日本が思い切って積極財政を断行し、インフレ率2~3%を実現したら、債務のGDP比はみるみる下がってくるということだ。逆に財政赤字を無くそうとデフレなのに緊縮財政を続ければ、債務のGDP比はどんどん増えていく。さすがにそのような馬鹿な国は世界中捜しても日本しかない。だから日本の債務のGDP比は、ダントツで世界一になってしまった。

デフレを続けた代償は余りにも大きかった。日本の一人当たりの名目GDPは1993年には世界第2位だったが、2014年には20位まで下がってしまった。かつては世界に誇る日本の製造業だったが、長引くデフレですっかり国際競争力を失ってしまった。今からでも遅くは無い。伊藤元重氏推薦のヘリコプターマネーで日本経済の復活を目指そうでは無いか。

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