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2016年8月

2016年8月29日 (月)

日本人が楽観的になるだけで、デフレ脱却・経済成長・財政健全化は実現する(No.210)

奇跡の経済成長を実現した日本だが、根拠のない悲観論が一気に経済を悪化させてしまった。2014年度の消費増税のお陰で消費が落ち込み、賃金の伸びはイマイチだ。社会保障負担は増えるが、社会保障制度に信頼できず、将来に備え今は節約しなければならないと国民は考える。2019年度には消費増税が待っているから尚更である。節約志向が続けば、企業は売上げが伸びないから設備投資など増やさないし、賃金を積極的に上げることもない。それが需要を冷やし、ますます景気が悪化するという悪循環である。

ヘリコプターマネー(ヘリマネ)なら、需要を増やし国の借金も増やさないということで、日本にとっての希望の光と思え、脚光を浴びたが、悲観論者が次々と反論する。

【法政大学の小峰隆夫教授】
そんなうまい話があるなら、世界中の国が既に実行しているはず。
【反論】
世界中の国の経済は穏やかなインフレであり経済は拡大している。そのような国でヘリマネをやれば、単にインフレ率が上乗せされるだけで、実質GDP成長率は上がらない。日本のように20年間需要不足・デフレで経済が停滞している国では経済立て直しの特効薬になる。

【翁邦雄京大教授】
ヘリマネならデフレから脱却できる。そのとき金利は上昇、国民はタンス預金を銀行預金に、銀行はそれを日銀に預ける。日銀は利払いが大変になる。
【反論】
日銀は損失を出しても潰れない。日銀の損失が気になるなら、国債を発行して得た資金で日銀を「救済」すればよい。ヘリマネでなくても、景気が回復してくれば必ず金利が上昇する。このとき日銀の損失をどうするかという問題は必ず出口戦略で検討しなければならない。問題を深刻化させないためには、一刻も早く景気を回復させる必要がある。

【年金運用5兆円の赤字だから年金が心配?】
年金積立金の運用で2016年4~6月期の運用収益は5。2342兆円の赤字だったので、我々の年金は果たして大丈夫かという報道があった。実は2001年からの累積収益は40.1898兆円の黒字なので、むしろ逆に年金は多くもらえるのかと期待する報道があってもよさそうなものだ。年金の一部は海外の株式や債券で運用されている。それ以外にも日本の外貨準備は126兆円、海外純資産は339兆円ある。例えば10%円高になれば、これらの資産価値は数十兆円目減りし、10%円安になれば10%増える。もちろんドルに換算すれば為替の変動があっても変化しない。

このように、日本には誤った悲観論が蔓延している。財政を拡大すれば、再び経済は成長を始め悲観論は吹っ飛んでしまうだろう。それを阻んでいるのが時代遅れのハイパーインフレのトラウマだ。1931年に始まった国債の増発と1945年の終戦直後から始まったインフレを結びつけようとする。当時は国民の6割もの農民が、やっと米を供給できていたが、今は農民の数は国民の僅か3%以下で、余るほど米をつくっている。米の爆撃で焼け野原になり極度の物不足になった当時と、物余りの現在では状況が違いすぎる。

物余りの時代にハイパーインフレなど来るわけがない。だったら、思い切った積極財政でデフレから脱却し、経済を成長軌道に乗せれば良い。それにより、国民は将来を楽観視するようになり、消費は拡大する。経営者も楽観的になり、設備投資が始まる。デフレから脱却し、経済成長で税収も伸び財政も健全化する。要するに日本人が楽観的になるだけですべてが解決するのだ。

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2016年8月16日 (火)

「ヘリコプターマネーならハイパーインフレ」は時代錯誤(No.209)

最近はヘリコプターマネー(ヘリマネ)の議論が盛んに行われるようになった。ヘリマネは政府が通貨を発行して国民に配ることを意味する。ヘリマネを推奨している前FRB議長のバーナンキが7月12日に安倍首相と面談した後、ヘリマネが実行されるのではないかと期待する市場関係者が多くなった。円は一時1ドル107円まで急落、株も上昇した。これは、ヘリマネによって日本がデフレから脱却するのではないかという期待の表れである。

これに反して一部の識者はヘリマネが実施されれば、通貨の信認が失われハイパーインフレになると主張する。そこで決まって引用されるのは昭和恐慌の際の高橋是清による日銀の国債引受だ。一方でこれは世界大恐慌に巻き込まれ昭和恐慌に陥った日本経済を世界でいち早く立ち直らせたとして世界的にも極めて評価が高い。これを一種のヘリマネと呼んでもよいのかもしれないが、今、高橋是清流の日銀国債引受を行ったとしたらでデフレから脱却でき景気が回復するだろうという予測に関しては多くの識者が同意する。意見が分かれるのは景気が回復した後に何が起きるかという点だ。

高橋是清は、景気が回復した後、これ以上の国債の大量発行はインフレを招くだけで経済はよくならないとし健全財政を守ろうとした。しかしこれが軍事費拡大を要求していた軍の反発を招き、1936年高橋是清は2・26事件で陸軍青年将校に暗殺されてしまった。その後大蔵大臣に就任した馬場鍈一は軍事費が大膨張する政策へ大転換を行っていった。一部の識者は、もし現在ヘリマネなどの通貨増発策を行えば、この例のように、際限なくヘリマネを利用するようになりハイパーインフレになると主張する。だからヘリマネは良くないというわけだ。

しかし、以下の理由によりこの主張は誤解に基づいている。

①当時は日清・日露・第一次世界大戦と3回連続で戦争に勝利しており、占領地を広げつつあった。欧米諸国(特に大英帝国・アメリカ合衆国)の植民地支配から東アジア・東南アジアを解放し、東アジア・東南アジアに日本を盟主とする共存共栄の新たな国際秩序を建設しようという大東亜共栄圏構想があった。1937年に日中戦争、1939年からは第二次世界大戦が始まり「欲しがりません勝つまでは」というスローガンの下で、国民合意の上で国民生活を一時的に犠牲にしても軍事中心の財政政策を行うことになったのであり財政拡大に国民の支持があった。このように生活を犠牲にしてでも戦争を推進する考えを持つ国民は現在いない。

②それに軍の暴走は誰にも止められない状況だった。彼らは、東京の陸軍参謀本部の賛同者たちと連携をとりながら1931年9月に満州鉄道を爆破し、それを中国軍の仕業であるとして軍事行動を開始したのが満州事変である。軍は占領した現地で勝手に通貨を発行した。朝鮮銀行は朝鮮銀行券を、満州中央銀行は満州中央銀行券を、台湾銀行は台湾銀行券を発行し、軍は自ら戦費をまかなった。この軍の暴走を日本の国民は拍手喝采をおくったのだが、これも現在ではあり得ない。だからこそ国民は通貨発行で財源を得て軍事費に使うことを許したわけである。戦争で果てしなく領土を拡大できるという誘惑に駆られて財政をどんどん拡大していった。

③現在の日本はこれとは余りにも違う。平和憲法を持ち、戦争を強く否定する人ばかりである。そもそも、軍拡をして近隣諸国の占領などできるわけがない。例えば徴兵制を敷いて兵力を増強し他国を侵略し始めようと誰かが言い出したとしよう。しかし、たった2発の原爆を落とされただけで無条件降伏をしなければならなかった過去を考えれば、勝つ見込みはゼロで、意味の無い戦争には、ほぼ全員が反対するだろう。我々には平和に生きるしか道は無い。

では、戦争以外で果てしなく通貨発行をしたくなるような状況は訪れるのだろうか。公共事業も働き手に限界があり、世界大戦にための財政拡大ほどの規模で予算を拡大しようとは誰も考えない。福祉、医療、介護、教育、農業、研究開発など考えても、予算拡大には限度があり、人手不足が深刻化しインフレ率が高すぎるようになったら、それ以上の通貨発行に政治家や国民の支持は得られるわけがない。

例えば、安倍首相が一度ヘリマネを実施したとしよう。ああ、こんないい方法があるのなら何度でもやろうと思うようになり、果てしなく繰り返すようになるだろうか。実は現在でも国債を発行すれば、異常なほど低い金利で、いくらでも市場で売却することができ財源はいくらでも確保できる。2016年7月末で日銀の国債保有残高は373兆円であり毎年80兆円だけ保有残高を増やしている。政府が国債を増発すれば、事実上ヘリマネと同じことを行っていることになる。つまり今でも国債を増発して財政支出を果てしなく拡大できる。それを安倍首相はできるのにしないのは国民の理解が得られていないと判断しているからだ。ということは、ヘリマネに味を占めたとしても、国民の理解が得られない限り果てしなく財政を拡大することはないということを意味している。

そもそも高橋是清はヘリマネに味を占め、ヘリマネを果てしなく繰り返そうとしたわけではない。景気が回復しインフレ気味になった後は、財政拡大を抑えようとしている。更に日銀保有の国債を市場で売却している。麻薬患者が麻薬を止められないようにヘリマネが止められなくなったわけではない。高橋是清が暗殺された後に大蔵大臣になった馬場鍈一は軍の要請で国債を増発したが増税も行っているのだから馬場もヘリマネ中毒になったわけではない。軍が国債を増発させて軍事費をまかなったのは何も高橋是清の国債日銀引受に味を占めてそれを繰り返したということでも無い。軍はその前から朝鮮や満州等で通貨を発行し戦費を確保している。それと同じことを本土でも行っただけだ。

江戸時代、明治時代等、ヘリマネに相当する通貨発行は繰り返し行われていたのであり、高橋是清が最初ではないし、単にそれに味を占めて国債発行が繰り返されたわけでは無い。

戦後インフレになったのは、高橋是清のせいではなくて、米国軍の爆撃で日本が焼け野原になり、生産設備が破壊され極度の物不足になったのが原因である。食糧不足で餓死者まで出るようになったとき、人は闇市でわずかな食料を奪い合った。その結果当然物価が上がった。復興債の日銀引受が更にインフレを加速させた。これは傾斜生産方式と言われ、日本経済を復活させるために基礎となる石炭・電力・鉄鋼・海運などを中心に基幹産業の復興を最優先した。その結果、生産は急回復し、みるみる生活は豊かになり、驚異的な経済成長へとつながっていくのである。インフレになれば生活は破壊されるという主張は間違いである。戦後間もない頃インフレはすすんだがその間も生産は急回復し、みるみる生活は豊かになっていった。

物余りの現代、ハイパーインフレになるほどの深刻な物不足になるのだろうか。100円ショップや大型スーパーに行ってみればよい。おびただしい商品が並んでいるし、どの棚も空になるほどの、つまり終戦直後のような深刻な物不足が将来訪れるわけがないことは理解できるだろう。

つまり「ヘリマネならハイパーインフレ」は時代錯誤の考えであり終戦直後のインフレはもう来ないのである。

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2016年8月 8日 (月)

内閣府がまた消費増税の経済への影響は軽微だと言い始めた(No.208)

7月26日に内閣府より「中長期の経済財政に関する試算」が発表された。例年通り、この試算は国民を欺くものであり、オオカミ少年の名にふさわしい内容のものである。同様な試算は毎年発表されており、その一覧は以下のサイトで見ることが出来る。
http://www5.cao.go.jp/keizai3/econome.html
これは日本経済の中長期展望を示すために内閣府計量分析室が行った試算だが、国が様々な分野で将来展望を示すための試算を行う際にはこの試算がベースになっているから非常に大切な試算だ。マスコミもこの試算が絶対的に正しいものと信じており(騙されているのだが)それ以外は一切引用しない。こんな欺瞞的な試算に簡単に騙されてしまう人は余程経済音痴な人だ。

消費税が5%から8%に増税される前に内閣府は消費増税が経済に与える影響は軽微だと主張していた。
http://www5.cao.go.jp/keizai3/econome/h24chuuchouki.pdf

2081



ここには一体改革を行った場合(つまり消費増税を行った場合)と行わない場合(増税なしの場合)の比較がしてある。それによると増税ありの場合2012年から2016年までの4年間の実質GDPの成長率は合計で7.6%、増税なしの場合は7.7%であって、4年間の合計で僅か0.1%の差しかないと予想した。しかし実際は2013年度から2014年度の1年間だけでその30倍の3.0%の落ち込みがあった。その後も消費が落ち込み経済に深刻な打撃を与えたことは皆さんご存じの通りである。

このように国民を欺き、経済に大打撃を与えたことに反省したかと思ったら、そうではなかった。2019年10月に延期された8%から10%への消費増税の再引き上げへの予測が7月26日の試算に入っていた。
http://www5.cao.go.jp/keizai3/econome/h28chuuchouki7.pdf
次のグラフは内閣府が予測した実質成長率の推移である。
2082



IMFの予測もプロットしておいた。相変わらずオオカミ少年ぶりを発揮し、IMFよりはるかに高い成長率を予測している。それだけでなく懲りもせずまたこの消費増税の引き上げの影響も「軽微」と主張している。事実上影響は全く無いと言いたいようだ。実際実質GDP成長率は2018年度が1.8%、19年度が1.9%、20年度が2.0%なのだそうだ。そんなわけないだろと電話したら、増税時期が年度が始まる4月ではなく、年度の真ん中の10月だから駆け込み需要とその反動が丁度打ち消し合って全く見えなくなるのだそうだ。しかし可処分所得が下がることによる落ち込みがあるはずだと私は食い下がったが、その所得効果は入っているとの返事。このグラフから5%から8%への消費増税による2014年度の景気の落ち込みが極めて深刻だったことが分かるが、それに対して2019年度の消費再増税の影響は皆無だと主張する内閣府の主張を誰が信じますか。

要するに、内閣府は政府が希望する成長率を「鉛筆なめなめ」で書き写しているだけなのだ。とても試算と言えるものではないし、信頼に値するものでもない。現在のような経済運営では、2019年になっても、まだ経済は低迷している可能性がある。そのとき再び政府は消費増税をするのかしないのかの決断を迫られる。この内閣府の試算に騙されるなと言いたい。

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