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2016年8月 8日 (月)

内閣府がまた消費増税の経済への影響は軽微だと言い始めた(No.208)

7月26日に内閣府より「中長期の経済財政に関する試算」が発表された。例年通り、この試算は国民を欺くものであり、オオカミ少年の名にふさわしい内容のものである。同様な試算は毎年発表されており、その一覧は以下のサイトで見ることが出来る。
http://www5.cao.go.jp/keizai3/econome.html
これは日本経済の中長期展望を示すために内閣府計量分析室が行った試算だが、国が様々な分野で将来展望を示すための試算を行う際にはこの試算がベースになっているから非常に大切な試算だ。マスコミもこの試算が絶対的に正しいものと信じており(騙されているのだが)それ以外は一切引用しない。こんな欺瞞的な試算に簡単に騙されてしまう人は余程経済音痴な人だ。

消費税が5%から8%に増税される前に内閣府は消費増税が経済に与える影響は軽微だと主張していた。
http://www5.cao.go.jp/keizai3/econome/h24chuuchouki.pdf

2081



ここには一体改革を行った場合(つまり消費増税を行った場合)と行わない場合(増税なしの場合)の比較がしてある。それによると増税ありの場合2012年から2016年までの4年間の実質GDPの成長率は合計で7.6%、増税なしの場合は7.7%であって、4年間の合計で僅か0.1%の差しかないと予想した。しかし実際は2013年度から2014年度の1年間だけでその30倍の3.0%の落ち込みがあった。その後も消費が落ち込み経済に深刻な打撃を与えたことは皆さんご存じの通りである。

このように国民を欺き、経済に大打撃を与えたことに反省したかと思ったら、そうではなかった。2019年10月に延期された8%から10%への消費増税の再引き上げへの予測が7月26日の試算に入っていた。
http://www5.cao.go.jp/keizai3/econome/h28chuuchouki7.pdf
次のグラフは内閣府が予測した実質成長率の推移である。
2082



IMFの予測もプロットしておいた。相変わらずオオカミ少年ぶりを発揮し、IMFよりはるかに高い成長率を予測している。それだけでなく懲りもせずまたこの消費増税の引き上げの影響も「軽微」と主張している。事実上影響は全く無いと言いたいようだ。実際実質GDP成長率は2018年度が1.8%、19年度が1.9%、20年度が2.0%なのだそうだ。そんなわけないだろと電話したら、増税時期が年度が始まる4月ではなく、年度の真ん中の10月だから駆け込み需要とその反動が丁度打ち消し合って全く見えなくなるのだそうだ。しかし可処分所得が下がることによる落ち込みがあるはずだと私は食い下がったが、その所得効果は入っているとの返事。このグラフから5%から8%への消費増税による2014年度の景気の落ち込みが極めて深刻だったことが分かるが、それに対して2019年度の消費再増税の影響は皆無だと主張する内閣府の主張を誰が信じますか。

要するに、内閣府は政府が希望する成長率を「鉛筆なめなめ」で書き写しているだけなのだ。とても試算と言えるものではないし、信頼に値するものでもない。現在のような経済運営では、2019年になっても、まだ経済は低迷している可能性がある。そのとき再び政府は消費増税をするのかしないのかの決断を迫られる。この内閣府の試算に騙されるなと言いたい。

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コメント

 今晩は。higashiyamato1979です。「増税ありき」の風潮は何としても正す必要がありますね。(決まり文句は省略します。失礼。)

投稿: | 2016年8月 9日 (火) 19時37分

経済評論家真壁昭夫の論評です。どうもリスクばかり主張しています。

最近、“ヘリコプターマネー”と称する経済政策
に対して、専門家の間でも様々な意見が出ている。
そうした政策への期待が高まったこともあり、為
替相場では一時ドル高・円安が進み、それを好感
して株式市場は上昇した。海外市場でも、日本の
経済政策に対する期待は高まっている。
“ヘリコプターマネー”とは、基本的に、金融政
策と財政政策を合体させた経済政策と考えると分
りやすい。この理論が提唱されたのは、ここ最近
のことではない。1969年、米著名経済学者、ミル
トン・フリードマンによって示された。フリード
マンは論文、『最適貨幣量』の中で次のような思考
実験を行った。「政府がヘリコプターを飛ばして上
空から紙幣をばらまき、直接、国民にお金を配れ
ばどうなるか」。これがヘリコプターマネーの起源
である。この政策の最も重要なポイントは、国民
にその対価を求めることなく、現金やそれと同等
の価値を給付することだ。政府は国債を発行し、、
それを中央銀行が引き受ける。財源を手当てした
政府は、際限なく経済政策を行うことができる。
日銀の財政ファイナンス
政府と中央銀行が合体したことにより、政府に
とっての債務残高は-、中央銀行の資産としての国
債保有残高によって相殺される。見かけ上、債務
は増加しない。言ってみれば、政府が好きな時に、
好きなだけ公的債務の問題を心配することなく給
付を行うことができる。そうなると、財政規律は
なくなり、中央銀行の独立性も失墜することは言
うまでもない。前FRB議長のバーナンキ氏は、
政府が非流通性の永久債(パーペチュアル)を発
行し、その債券を日銀が引き受け、ヘリコプター
マネーを実施する方策を考えているようだ。ヘリ
コプターマネーは、政府が打ち出の小槌を持つこ
とに等しい。政府は需要の回復や物価上昇を目指
し、望む物価水準が達成されるまで国民に対する
特定の給付を自由に供給することが可能になる。
実際、わが国こぐは広い意味でのヘリコプターマ
ネーは導入されたと考えられる。例えば1999年に
導入された、“地域振興券(商品券)”は、一種の
“ヘリコプターマネー”と言ってもよいだろう。
な弊害
注意が必要な点は、ヘリコプターマネーが可能
になった時、政府は有権者の支持を取り付けるた
めに、“ばらまき”を積極的に行い、際限なく紙幣
が増刷される恐れがあることだ。その場合、中長
期的に貨幣の価値は大きく減価するだろう。ヘリ
コプターマネーの行く先には、悪性インフレの発
生が懸念される。紙幣の乱発と急速なインフレ上
昇が発生してきたことは歴史を見れば明らかだ。
第二次世界大戦後のわが国では“傾斜生産方式”
による基幹産業の振興策がとられた。この時の復
興資金は、日銀が“復興金融債券”を直接引き受
けることで調達された。この結果、急速なインフ
レが進行した。今日、中央銀行は政府から“独立”
した存在であることが定められている。それは、
中央銀行が国債を直接政府から引き受けることを
禁止し、インフレの急伸を阻止する措置だ。わが
国で財政法第5条が“国債の市中消化の原則”を
定めているのも同様の理由だ。“ヘリコプターマ
ネー”は、長期的にどのような影響があるか。歴
史を振り返り、過去の教訓を学ぶべきだ。

投稿: | 2016年8月 9日 (火) 19時44分

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