平成28年12月1日提出
質問第179号
トランプ氏の超積極財政に市場が好意的だったこと事に関する質問主意書
提出者 福田昭夫
トランプ氏が次期米国大統領に選出され、超積極財政政策が発表されたことを市場は好意的に受け止めダウ平均株価は史上最高値を更新した。またOECDはトランプ氏の掲げるインフラ投資など、各国の財政政策が世界経済を押し上げると予測している。一方日本においては財政が厳しいとして1982年9月に当時の鈴木善幸首相は「財政非常事態宣言」を出し、1995年11月にも村山富市内閣時代「財政危機宣言」が出されている。国の借金のGDP比は小さかったのに本当に財政は危機的だったのかという疑問が生じるがそれに対し政府は納得できる説明を行っておらず、積極財政は悪、緊縮財政は善と決めつけている。このように政府が財政に対する異常な考えを持つ国は世界的にも例がない。財政が厳しいなどと言って国民を騙し続けた政府はひたすら緊縮財政を続けた。その結果かつて奇跡の経済復興と言われた日本経済だが、一転して失われた20年と言われる深刻なデフレ不況に追い込まれてしまった。このことに関して質問する。
1.1982年9月に当時の鈴木善幸首相により「財政非常事態宣言」が出され、1995年11月に村山富市内閣で「財政危機宣言」が出された。当時本当に財政は危機的だったのか。
2.アメリカで超積極財政が市場に好意的に受け止められている。アメリカでは積極財政が許されて日本では許されない理由は何か。
3.日本でもアメリカと同様に積極財政に転じれば、株価上昇、デフレ脱却、インフレ目標達成、景気回復が期待できるのではないか。その場合通貨の信認や国債の信認が失われると考えているかもしれないが、アメリカでは通貨の信認や国債の信認が失われていない。
4.もしもこのまま日本が積極財政に転換せず内需拡大を怠り、一方でアメリカが積極財政を行えば、ドル高円安のため貿易不均衡が拡大する。製造業をアメリカに取り戻すと公約したトランプ氏だから、現在の日本の金融政策を円安誘導策と見なし対抗策をとると、日米の通商摩擦が再燃する恐れが出てくるのではないか。
5.アベノミクスは3本の矢ということになっていたが、事実上は金融政策だけで景気を回復しようとしていた。その理論的な支柱であった浜田宏一氏は、その考えが間違いであり金融政策だけでは不十分だったということを11月15日に日経新聞で明かにした。浜田氏の考えに同意するか。
6.ジャクソンホール会合の基調講演でノーベル経済学賞を受賞したクリストファー・シムズ氏(プリンストン大教授)が「金融政策が効果を発揮するには財政政策の裏付けが必要」と主張した。その論文を読んで浜田氏は自分の考えの誤りに気づいたという。「シムズ氏の論文を紹介され、目からウロコが落ちた。金利がゼロに近くては量的緩和は効かなくなるし、マイナス金利を深掘りすると金融機関のバランスシートを損ねる。今後は減税も含めた財政の拡大が必要だ。」というシムズ氏と浜田氏の主張をどのように考えるか。
7.浜田氏は国の借金のGDP比に関して「政府の負債である公債と中央銀行の負債である貨幣は国全体のバランスシートで考えれば民間部門の資産でもある。借金は返さずに将来世代に繰り延べることもできる。」と述べている。この考えに賛成するか。
8.政府は国民の持つ将来不安の解消のための努力を怠っているのではないかという疑問に関する質問主意書(質問第126号)の答弁書(以下答弁書という)の3及び8についての答弁は間違いである。質問主意書では「この家庭では離れで(つまり日銀が)お札を印刷することが許されていて、そのお金で借金を返している。」と例えた。答弁書では日銀による国債引受は財政法で禁止されていると主張したが、日銀が市場から国債を買うことはもちろん許されているわけであり、この答弁は間違いであると考えるが同意するか。
9.日銀は11月7日、ホームページ上で公表していた金融政策と長期金利の関係に対する見解を修正した。これまでは長期金利について日銀の金融市場調節で誘導することは「容易ではない」としていたが、マイナス金利と大規模な国債買い入れの組み合わせが「長短金利全体に影響を与えるうえで有効」と証明されたということで、長期金利を0%程度に誘導するという目標が可能であるとした。これは国債価格支持政策と呼ばれ、アメリカでもFRBは、国債利回りが上昇することを抑制するために、1942年から1951年まで米国債を買い支えた。これによって米国の長期金利は概ね2.5%以下に抑制された。この国債価格支持政策により、現在政府はほぼ0%の金利で資金を調達することができるのだから、これは財政が厳しくないことを意味しているのではないか。近い将来、金利の誘導目標が0%から引き上げられることがあったとしても、アメリカの例もあり、かなり長期間低金利に抑えられると考えられるので、財政は厳しくないということには変わりはないのではないか。
10.現在0%の金利であっても、将来金利が上がるかも知れないから財政が厳しいという論理は正しくない。将来金利が上がる可能性があるのは世界のすべての国にも言えることであり、世界中すべての国の財政が厳しくて、緊縮財政を行ったら世界大恐慌になる。長期金利が高い国は財政が厳しいが、低い国は財政が厳しくない。長期金利が低い国が率先して積極財政を行い世界経済の牽引役にならないと世界経済の発展はないと考えるが同意するか。
11.国の財政を家計に例える場合、例えば、銀行が家計Aに対し0%で金を貸すと判断し、その銀行が別の家計Bに10%の金利でなければ貸さないと判断した場合、Aの家計は厳しくないがBの家計は厳しいと言えるのではないか。その意味で現在の日本は世界で最も財政が厳しくない国の一つと言えるのではないか。
12.十二 答弁書の「一、二、四から六まで、九、十、及び十三について」で国の財政と家計に関して、それぞれの債務はいずれも期日までに返済する必要があるという共通点があると述べている。共通点はたったこれだけであり、質問主意書の二から八まで、相違点を詳しく説明した。共通点だけをホームページに書き、相違点を隠すということは国民を騙していることにならないか。
13.答弁書の12についてで、「コンバート」を行えば、通貨に対する信認を著しく損なうとある。通貨の信認が失われた場合、日本国内では日本円が全く使えなくなるという意味か。そうなれば、物々交換を除き国内のすべての経済活動が停止すると考えるが、政府はそのような事態が我が国で発生すると考えているのか。
14.答弁書の14についてで、政府の成長戦略において様々な改革を断行しているのは理解できる。ただ、この程度の改革で失われた20年からの脱却はできない。これなら経済が上向くと誰もが考え始めるようなトランプ氏並の大胆な積極財政政策を行わない限り、日本経済の停滞は続くのではないか。
15.積極的な財政政策により、国の借金のGDP比は下がるということは内閣府が平成22年8月に発表した乗数により示されている。類似した見解は2003年5月31日の日本金融学会60周年記念大会でのバーナンキ前FRB議長の講演の中でも述べられているし、二階俊博氏の二階ペーパーにも同様な記述があるが、このことに同意するか。
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平成28年12月9日受領
答弁第179号
内閣衆質192第179号
平成28年12月9日
内閣総理大臣 安倍晋三
衆議院議長 大島理森殿
衆議院議員福田昭夫君提出トランプ氏の超積極財政に市場が好意的だったこと事に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。
衆議院議員福田昭夫君提出トランプ氏の超積極財政に市場が好意的だったこと事に関する質問に対する答弁書
1について
ご質問の「財政非常事態宣言」とは、昭和57年9月16日における鈴木内閣総理大臣(当時)の記者会見を、ご指摘の「財政危機宣言」とは、平成7年11月14日における竹村大蔵大臣(当時)の記者会見を指すものと考えるが、これらの記者会見においては、極めて厳しい我が国の財政状況について国民に対し適切にお答えしたものと認識している。
2から4まで及び14について
お尋ねについては、米国の次期政権における積極的な財政政策を前提とする仮定のご質問であることからお答えすることは差し控えたい。政府としては、引き続き、デフレ脱却・経済再生を図りつつ、適切な財政運営を行っていくべく、「経済財政運営と改革の基本方針2015」(平成27年6月30日閣議決定)に盛り込まれた「経済・財政再生計画」(以下「経済・財政再生計画」という。)に沿って、「デフレ脱却・経済再生」、「歳出改革」、「歳入改革」を3本柱として、「経済・財政一体改革」に取り組んでまいりたい。
5及び6について
政府は、大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略を柱とする経済財政政策を一体的に推進してきたところであり、引き続き、金融政策だけではなく、あらゆる政策を総動員していくこととしている。
また、政府としては、経済と財政双方の一体的な再生を目指しており、我が国の極めて厳しい財政状況を放置すれば、財政の持続可能性に対する疑念の高まりが経済成長自体を阻害するおそれがあるという認識の下に、適切な財政運営を行っていくことが重要であると考えている。
7について
お尋ねについては、仮定のご質問であることからお答えすることは差し控えたいが、一般論として申し上げれば、公債は、その保有者にかかわらず政府の債務であることに代わりはない。
我が国の経済財政運営に当たっては、国・地方の債務残高がGDPの2倍程度に膨らみ、なお更なる累増が見込まれるなど、極めて厳しい財政状況にあることを踏まえ、経済と財政双方の一体的な再生を目指す必要があると考えている。
8について
先の答弁書(平成28年11月18日内閣衆質192号、以下「先の答弁書」という。)3及び8についてでお答えしたとおり、財政法(昭和22年法律第34号)第5条本文においては、「すべて、公債発行については、日本銀行にこれを引き受けさせ、また、借入金の借り入れについては、日本銀行からこれを借り入れてはならない」とされている。
現在、日本銀行が行っている国債買い入れは、2%の物価安定の目標の実現という金融政策を目的とし、同行が自らの判断で、市場で流通しているものを対象に実施しているものであり、ご指摘の「この家庭は離れで(つまり日銀が)お札を印刷することが許されていて、そのお金で借金を返している」という例えを使用することは不適切である。
9及び10について
国債金利は、様々な要因を背景に市場において決まるものであり、その動向について言及することは市場に無用の混乱を生じさせかねないことから、御指摘の金利水準の動向を前提としてお尋ねにお答えすることは差し控えたい。
また、我が国の財政状況は、国・地方の債務残高がGDPの2倍程度に膨らみ、なおも更なる累増が見込まれるなど、極めて厳しい状況にあり、政府としては、経済・財政再生計画に沿って引き続き財政健全化の取り組みを着実に進め、国債に対する信認を確保してまいりたい。
11及び12について
お尋ねの「国の財政を家計に例える場合、例えば銀行が家計Aに対し0%でお金を貸すと判断し、その銀行が別の家計Bに10%の金利でなければ貸さないと判断した場合、Aの家計は厳しくないが、Bの家計は厳しいといえるのではないか。その意味で現在の日本は世界で最も財政が厳しくない国の一つと言えるのではないか。」については、国債金利は、様々な要因を背景に市場において決まるものであるため、一概にお答えすることは困難である。
我が国の財政状況は、国・地方の債務残高がGDPの2倍程度に膨らみ、なおも累増が見込まれるなど、極めて厳しい状況にあり、政府としては、経済・財政再生計画に沿って引き続き財政健全化の取り組みを着実に進め、国債に対する信認を確保してまいりたい。
また、ご指摘のホームページについては、こうした我が国の財政状況について国民の理解を深めることを目的として、我が国の財政を家計に例えた資料を掲載しているものであり、「共通点だけをホームページに書き、相違点を隠すということは国民を騙している」とのご指摘は当たらない。
13について
先の答弁書12についてでお答えした「通貨に対する信認を著しく損なう」とは、我が国の通貨に対する内外からの信認の低下を通じて激しいインフレが生じるような状況を述べたものであり、ご指摘の「日本国内では日本円が全く使えなくなる」及び「物々交換を除き国内すべての経済活動が停止する」という状況になるとは考えていない。
15について
ご指摘の「積極的な財政政策」の意味するところがかならずしも明かではないが、我が国の財政については、極めて厳しい状況にあり、デフレ脱却・経済再生を図りつつ、その持続可能性を確保することが重要である。
政府としては、平成32年度の財政健全化目標の達成に向けて、引き続き、「経済再生なくして財政健全化なし」との基本方針の下、経済・財政再生計画に沿って、「デフレ脱却・経済再生」、「歳出改革」、「歳入改革」を三本柱として、「経済・財政一体改革」に取り組んでまいりたい。
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コメント
1について
1982年も1995年も、日本の財政は極めて厳しかったのだそう。つまり34年間ずっと財政は極めて厳しかったのだと主張している。
国の債務のGDP比が1982年は62%、1995年は95%であった。ということは、国の債務のGDP比が62%以上なら、財政は極めて厳しいということになる。諸外国の債務のGDP比を見ると
アメリカ 105%
イタリア 138%
ベルギー 106%
スペイン 99%
フランス 96%
カナダ 91%
イギリス 88%
ドイツ 70%
オランダ 65%
というわけで、先進国は軒並み62%以上なので、財政が極めて厳しいことになる。しかし、財政が極めて厳しいなどと言って緊縮財政を続け、その結果デフレ経済が続いている国は日本だけだ。どんなに頑張っても62%以下になる可能性は無く、頑張る意味がない。62%から200%以上に増えても、国債暴落とかハイパーインフレとか通貨の信認の喪失とかという惨事は起きなかった。財政は厳しいと言ったのはウソだったに違いない。
2から4まで及び14について
トランプの積極財政が市場に好意的に受け止められたということは、「財政が厳しいから積極財政政策を行われれば大変なことになる」ということがウソであることを明確に証明することなので、答えようがなかったということだ。
5及び6について
アベノミクスの教祖が、間違えていたと言ってしまったのでは、反論しようもないですね。
7について
これはアベノミクスの教祖である浜田先生の意見であり、仮定の質問ではない。日銀が保有者の場合、利子は日銀納付金として政府に返してもらうことになっている。さらに借換債を発行しいくらでも繰り延べが可能である。その意味で政府の債務というのは適当ではない。実際家計の債務において、そのようなことはあり得ない。
8について
「この家庭は離れで(つまり日銀が)お札を印刷することが許されていて、そのお金で借金を返している」という例えを使用することは不適切だと主張するのだが、なぜ不適切なのかの説明が一切ない。だったら、適切に例えてみよ。例えられないなら、家計を国の財政に例えるのを止めよ。
9及び10について
国債金利に言及したら、市場に混乱を与える??何を言っているのだろう。日銀がホームページで長期金利の記述を変えたことを聞いているのであり、それが前回の答弁書の記述と矛盾していることを追及しているだけだ。なぜ逃げるのか。
11及び12について
何を馬鹿な事を言っているのだろう。家計Aと家計Bが銀行から借り入れをするときの金利について話しているだけで、ここでは市場に決まる金利とは全く関係ない。中学生でも分かるくらいの易しい質問だ。
13について
日銀保有の国債を無利子無期限の国債に替えてやったらどうかという質問に対し「通貨の信認が失われる」と答弁した。そうなると、日本円が国内で使えなくなり、あらゆる経済活動がストップするということかと質問したら、そうではない。ハイパーインフレになるということだと答えた。しかし内閣衆質190第39号において「 ハイパーインフレ-ションは、戦争等を背景とした極端な物不足や、財政運営及び通貨に対する信認が完全に失われるなど、極めて特殊な状況下において発生するものであり、現在の我が国の経済・財政の状況において発生するとは考えていない。」と答えているので明らかに矛盾している。
15について
質問には答えられないという答弁である。
答弁の中で「我が国の財政状況は、国・地方の債務残高がGDPの2倍程度に膨らみ、なおも累増が見込まれるなど、極めて厳しい状況にあり」という文章が3回出てくる。しかし「1について」で、債務のGDP比は62%でも財政は極めて厳しいのだと言っている。結局日本はどんなに増税をやろうと、どんなに歳出削減をやろうと決して財政が極めて厳しい状況から抜け出すことはあり得ないということを言いたいのだろう。だったら何のための増税・歳出削減か。