内閣府計量分析室(オオカミ少年)がまた試算を発表した(No.234)
1月25日、例年のごとく内閣府は「中長期の経済財政に関する試算」を発表した。
http://www5.cao.go.jp/keizai3/econome/h29chuuchouki1.pdf
いつも見当違いの高成長を予測し、毎回大きく外れているので「オオカミ少年」とか「大本営発表」とか「狂った羅針盤」とか呼ばれている。筆者は毎回内閣府に電話し厳重に注意しているが、反省の色は全くなく、国民を騙す意図がありありと見える。
残念ながらマスコミはすっかりこのような子供だましの試算にすっかり踊らされているようだ。例えば日経新聞では「20年度黒字化困難に」「基礎的財政収支赤字拡大8.3兆円」という見出しのトップ記事が26日に出た。マスコミは試算に騙されて、あたかも増税や歳出削減が足りないから基礎的財政収支(PB)の赤字が拡大するかのように言うが、実際は単に内閣府の試算が嘘を言っているだけだ。
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2012/01/post-9754.html
なぜPBの赤字が拡大したかと言えば、税収が減ったから。なぜ税収が減ったのかと内閣府に聞いたら2016年度の成長率が落ちたからだという。今回の発表で2015年度の名目成長率は2.8%だが、2016年度は1.5%に下がった。1年前には2016年度の成長率は3.1%を予測していたから、大幅な下落(下振れ)だ。これぞ真に内閣府がオオカミ少年と呼ばれる所以だ。「来年こそは日本経済は大きく発展します」と予測し、来年になると、間違いでした、でも次の年はきっと大発展するでしょうと言う。オオカミ少年は毎年同じ嘘を言い続けているのに、なぜ、国民も政府もマスコミも騙され続けているのだろう。
反論する人がいるかもしれない。2015年度は2.8%成長していたのだから、2016年度は3.1%成長と予測しても不思議ではないと。しかしそれはおかしい。なぜなら内閣府は2015年度の名目GDPの成長の大部分は輸入価格の下落、主に原油価格の下落によるものだと言っている。
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2016/qe161/pdf/gaiyou1611.pdf#search=%272016%E5%B9%B4%EF%BC%91%EF%BD%9E%EF%BC%93%E6%9C%88%E6%9C%9F%E5%9B%9B%E5%8D%8A%E6%9C%9F%E5%88%A5%EF%BC%A7%EF%BC%A4%EF%BC%B0%E9%80%9F%E5%A0%B1%27
原油は1バレル当たり100ドルから50ドルに値下がりした。それが翌年も続いたら原油はタダになってしまい、値下がりは止まることは容易に推測できた。つまり2016年度に3.1%成長させるには原油をタダにしなければならないし、それはあり得なかったのだから当然3.1%成長でなく1.5%成長は予測できたはずだ。だからこれから内閣府はオオカミ少年という名称に変えるべきだ。国民を騙していることを簡単に知るには次のグラフを見ると良い。
地を這うような2本の黒い線は、実際の名目GDPの推移である。GDPの計算方法が変わり、下の線が従来の方法で計算したもので、上の線が新しい計算方法で計算したもの。アベノミクスが始まった2013年度から上昇に転じているように見えるが注意が必要だ。2014年度は消費税が5%から8%に上がり、物価がかさ上げされた。そのお陰で、GDPもゲタをはいたのであり、これは誰も望まない悪い物価高、歓迎されないGDPの伸びでありこのゲタは10兆円程度ある。2015年度は先程述べた原油価格の下落によるゲタであり、アベノミクスの成果とは言えない。安倍総理はアベノミクスで44兆円GDPが増加したと口癖のように言うが、国民を騙すのを止め、44兆円のうちで、アベノミクスの成果はかさ上げされた部分を除くといくらになるのか明かにすべきだ。実際はアベノミクスでは先進国では最低レベルの成長しかしていない。
上図で右上がりの線がたくさん引かれている。これらは各年度で発表された名目GDPの予測だ。毎年3%成長するだろうとして右上がりの線を引っ張っているからこのようになる。今年発表になったのは黒い点線だ。今年のものは新しいGDPの計算法で、それ以前のものは古いGDPの計算法で示してある。本当に3%成長をすれば、600兆円、700兆円はあっという間に到達するのだが、2015年度のGDPですら1997年度のGDPより低い。つまり20年前のGDPの水準さえ達していないというあわれなマイナス成長だ。こんな馬鹿なことをやっている国は世界中探しても無い。3%成長は夢の又夢だ。これだけの低成長を続けているのに、なぜ低成長の予測を出さぬのかと聞くと、彼らは政府は3%成長だと言っているのでそういった予測しか出せないと言う。つまり国民を騙す予測を出すように強要されている。
その最大のネックになっているのが、基礎的財政収支の黒字化という目標だ。目標達成のためには増税と歳出削減が必要だという。それも欺瞞的な内閣府試算(上図を見れば、この試算はデタラメであるのは明か)を元に緊縮財政が必要だと論じる。例えば今年の試算に騙された日経は「20年度黒字化困難に」「基礎的財政収支赤字拡大8.3兆円」と言った。ではどうして8.3兆円に赤字が拡大したかはすでに述べたように「今は経済は停滞してますが、来年は一気に成長します」という決まり文句が根底にある。来年になればまた同じ下方修正をすればよいだけ。なぜ、国民は、いや日経までもがそのトリックに気付かずあのようなトップ記事を書いてしまうのだろうか。
今回の発表で是非注目して頂きたいのは国債費の大幅な減少だ。例えば2024年の予測では、国債費は42.4兆円であった。1年前の試算では52.9兆円と予測していたから約20%もの減少だ。これは「長期金利を0%程度に誘導する」という日銀の新しい金融目標の効果と言える。金利がかなり長い間低い水準に抑えられると予測し、そのお陰で国債費は大きく減少するということだ。
最後に次のグラフを見て頂きたい。これは財政赤字と国の債務のGDP比の関係だ。
2025年まで大幅な財政赤字は続き国の債務は増加を続けるのだが、国の債務のGDP比は確実に減っていく。これを見れば、「基礎的財政収支や財政収支の赤字など気にしなくて良い。国の債務のGDP比さえ減ればいいんだから」という議論が成り立つ。それはGDPが増加するからそう言えるのである。積極財政で名目GDPが増えれば、間違いなく債務のGDP比を減らすことができる。これはどこの国でもやっていることだ。国の借金の増加など気にせず経済成長第一の政策に転換すべきだ。トランプ大統領と歩調を合わせ思い切った積極財政政策への転換を期待する。現在のような緊縮財政を続けるならGDPは伸びないから、債務のGDP比は増え続けるのだということは注意したい。
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コメント
今日は。higashiyamato1979です。「プライマリーバランスの黒字化」-この忌まわしいイデオロギーを全力を挙げて打破しなければなりませんね!
それでは決まり文句! お金が無ければ刷りなさい! 労働はロボットに!人間は貴族に!
投稿: higashiyamato1979 | 2017年2月 1日 (水) 10時42分