通貨の信認が失われれば激しいインフレになるのか。(No.239)
2002年筆者は日経NEEDSという日経が開発したモデルを使って日本経済に関する試算をした。財政を拡大したら、日本経済はどうなるかという試算である。財政の拡大規模を10,20,30,40,50兆円の5通りとし、拡大の期間は5年間とした。それまで多くの識者に広く信じられていたことは、財政規模を拡大すれば、円の信認が失われ、円が暴落し国債が暴落し激しいインフレを招くということだった。しかし、日経モデルの結果によれば、そんなインフレなどない。極端な例として所得税も法人税も消費税もほぼゼロにするくらいの大減税で、どのくらいのインフレ率になるのか日経に計算してもらったが、景気は大きく回復するものの、インフレ率は5年間平均で僅か0.5%というものだった。この試算をどう思いますかとノーベル経済学賞受賞者のポール・サミュエルソンに聞いたら、インフレ率は気にしなくて良い。重要なのは景気回復なのだからと答えておられた。
日経もこういった分析をしておきながら、これを公表するのを嫌がる。カネを払って計算してもらったのに、試算結果を公表するなと圧力を掛けてきた。政府の政策が間違えていることを示す結果であり、公表すると政府からの委託を受けられなくなると考えたのだろう。日経新聞社で開かれたマクロモデルの専門家が集まる研究会で筆者が内閣府の試算に批判したのだが、内閣府は筆者をこの研究会に参加させるなと日経新聞社に圧力を掛けてきた。
質問主意書を使い、政府の考え「通貨の信認が失われれば激しいインフレになる」という政府の説は正しくないという追求が福田昭夫議員により行われた。政府は、通貨の信認が失われれば激しいインフレになるのだが、一方では消費・需要は伸びないと主張した。しかしながら、内閣府の経済モデルでも日経の経済モデルでも、それはあり得ない。物価は需要と供給の関係で決まるからだ。円の信認が失われ円安となり、輸入物価の上昇のお陰で激しいインフレになるのかと聞くと、そうではないと答えた。当然だ。アベノミクスでは1ドルが80円から120円になり、円は大きく下落したが、激しいインフレどころかデフレ脱却すらできなかった。だったらなぜ激しいインフレになるというのか。この質問に答えられなくなった政府は福田議員に圧力を掛け質問主意書を出せなくした。公然と憲法違反の言論弾圧を行っている。これで日本は自由主義と言えるだろうか。
この問題は20年間議論されてきたことだ。人は真剣に議論をしようとせず、「激しいインフレなど起こらない」と主張しようとすると、言論弾圧で黙らせる。こんなことを繰り返しているから、いつまで経ってもデフレ脱却ができない。デフレが日本を衰退させた。シャープは鴻海に買収され、東芝も危ない。アメリカにはアップル、グーグル、マイクロソフト、フェイスブックなど巨大ハイテク企業が次々誕生した。デフレになる前の1989年には企業の時価総額ランキングの20位以内に日本企業は14社も入っていたが今は一社もいない。日本トップのトヨタですら37位にまで落ちた。
財政を拡大すれば景気がよくなりデフレから脱却できることは誰もが知っている。なぜやらなかと言えば、通貨の信認が失われ激しいインフレになるからだと言う。しかし、激しいインフレになるためには、需要が激増しなくては無理だ。米、自動車、電気、書籍などの需要が激増するのは無理だと誰もが知っている。需要激増のためには可処分所得の激増が必要だが通貨の信認が失われただけではそれも難しい。激しいインフレなどという妄想から決別し、財政拡大がもたらす緩やかな可処分所得の増加によるゆるやかなインフレを待つべきではないか。
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コメント
今日は。higashiyamato1979です。つくづく政府はやり方が姑息です。庶民の懐にこれまでとは一転してお札が一杯あるようになればほぼ全ての問題が解決することは間違いないのですが・・・。正しい知識を広げていくことはもとよりかつて先人たちが持っていたお金に関する常識を取り戻さなければいけないと思います。
それでは決まり文句! お金が無ければ刷りなさい! 労働はロボットに!人間は貴族に!
投稿: higashiyamato1979 | 2017年3月17日 (金) 08時34分