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2017年12月

2017年12月25日 (月)

デフレ脱却が必要な時に歳出削減を求める馬鹿なマスコミ(No.282)

政府は12月22日の閣議で2018年度の予算案を決めた。マスコミの論調は財政再建のため歳出削減をせよというものばかりだ。一方でアメリカでは10年で170兆円の大減税を行う法案が可決された。日本でも減税と歳出拡大をすれば、デフレ脱却が可能となり、国民の暮らしが豊かになり、大きく出遅れたAIの分野への投資も可能となる。なぜそうしないのかというと、国の借金が膨大だからという。しかし財政を拡大すれば、GDPが増えるのでGDP比で見たときの国の借金は減っていく。
http://www.tek.jp/p/

それなのになぜ積極財政に転じないのか。今、国の借金を増やすと、通貨の信認が失われハイパーインフレになるという誤った考えを持つ人が多い。そこで「通貨の信認が失われた例と通貨発行権行使で繁栄した例」を以下のサイトにまとめてみた。
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2017/12/post-85b4.html

ハイパーインフレは極度の物不足でないと起こらない。今の日本ではあり得ない。今の日本では日常生活で円の信認を問題にしなければならない状況は生まれない。給料が振り込まれたとき、このお金では近いうちにお店で物が買えなくなるかも知れないと思った人は一人もいないだろう。お店で円以外にドルなど代用貨幣しか使えなくなる事はあり得ないと誰もが信じているからだ。通貨の信認が問題になるのは2種類以上のお金が出回っているときだけだ。

例えば江戸時代、通貨は幕府の発行する貨幣と藩が幕府の許可を得て発行する紙幣である藩札の2種類であった。藩が藩札を乱発すると、人は藩札を持ちたがらなくなる。どんどん値下がりしてしまうからだ。最終的には、藩は藩札を出せなくなり財政破綻もあり得るから藩札が無価値になるかもしれない。山田方谷(1805~1877年)は信用を失った藩札を集めてたくさんの見物人の面前で焼き捨て、着実な準備金のもとに永銭(永札)と呼ばれる新紙幣を発行し貨幣の信認を取り戻し藩の財政を立て直した。今の日本では円を焼かなくても円の信用は十分すぎるほどある。逆に、円はデフレでタンス預金化している。

昭和初期の日中戦争では中国に100万人もの兵を派遣し戦った。戦費をすべて日本から送金したわけではない。占領した現地に発券銀行を設立しそれぞれ通貨を発行し戦費を調達した。日本軍は中国聯合準備銀行を設立し中国聯合準備銀行券を発行した。この銀行券の信認を得るために日銀発行の円と朝鮮銀行発行の円を聯銀券と等価にして聯銀券の信用を高めようとした。しかし、巨額の戦費を賄うために聯銀券を発行し過ぎたためにインフレになり信用を落とした。一方で蒋介石の国民党が法弊を流通させた。日本より資金力の勝る英米は法弊の後押しをし、印刷も英米が行った。その結果、信用という面で聯銀券は法弊に勝てなかった。このように2つの通貨が流通するときは、どちらの通貨を国民が信用するかで、通貨発行権を保有する者が決まる。通貨発行権は絶大な権利であり、戦争の勝敗はどちらが信用を得るかで決まると言ってよい。日本を統一した豊臣秀吉は金鉱を掌握し金貨で人を動かした。中国を統一した秦の始皇帝は貨幣を統一し様々な巨大事業を行った。

今の日本では円の信認は全く問題しなくてよいのだから政府は通貨発行権を駆使し急激に衰退を続ける日本を救うべきだ。減税・歳出拡大で新しく発行された円を国民に渡せば、消費が拡大しデフレから脱却でき、企業も思い切って未来への投資を行うようになる。国の借金などは新しく発行された円で買い取ればよいではないか。新しく発行された円は将来世代へのツケではない。将来世代も新しく円を発行できるのだから。

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2017年12月24日 (日)

通貨の信認が失われた例と通貨発行権行使で繁栄した例(No.281)

日本は20年もの間デフレから脱却できていない。財政を拡大すれば簡単にデフレ脱却が可能だ。しかし財政赤字拡大は将来世代へのツケを増やすという人がいるが日銀がお金を刷って大量に国債を買っている現在、財政拡大は事実上通貨発行権の行使であり将来世代へのツケは増えない。なぜ財政拡大をしないかと福田議員が政府に聞くと「通貨の信認、国債の信認が失われハイパーインフレになるから」という安倍総理からの答弁書が返ってくる。物余りの現在本当にハイパーインフレになるのかと聞いたときの安倍総理の答弁書例えば内閣衆質190第39号(平成28年1月22日)を引用する。

7について
 ハイパーインフレ-ションは、戦争等を背景とした極端な物不足や、財政運営及び通貨に対する信認が完全に失われるなど、極めて特殊な状況下において発生するものであり、現在の我が国の経済・財政の状況において発生するとは考えていない。

例え円という通貨の信認が完全に失われたとしても、日本国内で経済活動が完全に停止するわけではない。何らかの代替手段で売買が行われる。その代替手段が物々交換ではないことは安倍総理からの答弁書でも述べている。内閣衆質192第179号(平成28年12月9日)を引用する。

13について
 先の答弁書12についてでお答えした「通貨に対する信認を著しく損なう」とは、我が国の通貨に対する内外からの信認の低下を通じて激しいインフレが生じるような状況を述べたものであり、ご指摘の「日本国内では日本円が全く使えなくなる」及び「物々交換を除き国内すべての経済活動が停止する」という状況になるとは考えていない。

安倍総理の答弁書では国の借金が1000兆円を超えているのだから、これから景気対策をすれば、円の信認が失われ激しいインフレになるという主旨だ。それでは日銀の保有する国債を無利子・無期限の国債にコンバートすれば国の借金は激減するから景気対策が可能になるのではないかと福田議員が聞いたときの、安倍総理の答弁書を次に引用する。内閣衆質193第30号(平成29年2月3日)

御指摘の「コンバート」を行えば、財政運営及び通貨に対する信認を著しく損なう結果、激しいインフレが生じる旨を述べたものである。したがって、御指摘の「コンバートによって極端な物不足が生じる。」「コンバートによって激しいインフレが起きるということは消費が激増する」及び「コンバートによって消費・需要が大きく拡大する」とは考えていない。

ここで安倍総理が述べているのは「コンバートによって円の信認が失われ激しいインフレになる。しかし、極端な物不足になるわけでもないし、消費・需要が大きく拡大するわけでもない。」ということだ。極端な物不足にならなくても、消費・需要が拡大しなくても激しいインフレになるのだそうだ。一体誰がこんな馬鹿な経済理論を安倍総理に教えたのか。価格というものは需要と供給の関係で決まるということは中学の公民の教科書にもしっかり書いてあり、政府の経済理論が間違いであることは中学生でも知っている。馬鹿な経済理論が出てくるのは「通貨の信認」の意味を理解していないのが原因だ。そこで以下で通貨の信認が失われた例と失われなかった例を挙げる。これを読めば今の日本で景気対策を行っても通貨の信認は失われないことがはっきりする。是非、このような事を国会で議論して頂きたい。森友・家計問題よりケタ違いに重要な問題であり、今後日本経済が立ち直れるかどうかは正しい経済理論が理解できるかどうかに掛かっているのだから。

【例1】
ビットコインが円に置きかわる場合
これは次のサイトですでに詳しく述べた。
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2017/12/no279-74a0.html
ビットコインが今後も暴騰を続けたとしよう。それは逆に言えば円がビットコインに対し暴落を続けるということであり、最終的には円は価値がなくなる。人はビットコインで売買をするようになり、価値を失った円を1億円出しても鉛筆1本も買えなくなる。円で見れば激しいインフレだが、ビットコインでみれば物価は安定してくる。ビットコインのほうが、円よりも便利だし信頼できると国民が信じたとき円がビットコインに置きかわると言うことだ。円が暴落すれば国債も暴落し最終的に無価値になるから国の借金は消滅する。円を使っている限り低成長が続き、日本は諸外国に比べ貧乏になり続け、しかもどんなに増税しても国の借金は減らないことがはっきりすれば、国民は円に見切りを付けるということもあり得る。逆に、ちゃんと景気対策をやって諸外国並の成長率を取り戻せば、GDPが拡大し、国の借金のGDP比も減少し、円の信認も回復する。とはいえ、現時点では信用の高さでは円はビットコインをはるかに上回っている。

【例2】
山田方谷による財政再建
山田方谷(1805~1877年)は、幕末期に財政破綻寸前の備中松山藩5万石を立て直した。当時の通貨は幕府の発行する貨幣と藩が幕府の許可を得て発行する紙幣である藩札の2種類であった。藩札は地域通貨のようなもので、発行するには藩は兌換のための準備金を必要とした。備中松山藩では大火災もあり、大量に藩札が発行されたため貨幣に比べ値打ちが下がっており、偽札も出回っていた。このように信用が落ちた藩札が流通していては経済に悪影響を及ぼすと考えた方谷は1850年~1852年の間に藩札の回収を断行した。
1852年9月5日の朝8時から藩札をたくさんの見物人が見守る中で焼却した。遠方からも見物人が集まり、お祭りのような賑わいになった。

その後、着実な準備金のもとに永銭(永札)と呼ばれる新紙幣を発行した。これにより藩札の信用が回復し、それを元手に新しい産業を興すことができ財政再建を成し遂げた。この例では信用の落ちた旧藩札を焼き捨てて新藩札に置き換えて信用を回復している。現在の1万円札は、回収して焼き捨てなければならないほど信用は落ちていないし、現在の程度の財政赤字で落ちるわけがない。30万円の給料が自分の口座に振り込まれたとき、このお金は本当に信用できるのか、果たしてお店で使えるのかと心配する人は一人もいない。政府の財政赤字とは全く関係無く円の信用は完璧に得られているのである。しかも流通していたのが貨幣と藩札であり、藩札の信用が落ちれば貨幣を使えば良い。今の日本では円を使わない場合は代替貨幣はない。

方谷は殖産興業を推進し改良した備中鍬(くわ)を生産し江戸で大ヒットした。様々な特産品も開発、銅山経営も実施、農業指導もした。その結果10年で10万両あった借金を完済し、さらに10万両の蓄財まで成功した。

【例3】
太政官札の場合
1686年明治維新の際、維新政府の財源確保のため太政官札を発行したが当初太政官札は国民の信用は得られなかった。やむなく手にした商人は、そのまま両替商で、額面より安く小判などに換えたが額面の2割まで下落した。戊辰戦争で多額の費用を必要としたので、大量に発行された。印刷が粗末で偽造されやすく、偽札が出回った。信用を得るために1872年明治通宝が発行された。これはドイツの近代的印刷術を導入して印刷されたので、偽札防止に役立った。更に信用を高めるために1885年には、日本銀行が日本銀行兌換銀券が発行された。これは、政府が同額の銀貨と交換することを保証した兌換紙幣である。

このようにかつては円の信用を得るために政府は大変な努力をしなければならなかった。今は技術も上がり偽札の心配もほとんど無くなり、金や銀との交換を保証しなくても国民は完璧に円の価値を信用しているのである。財政赤字が拡大しても円の信用に疑義を抱く者などどこにもいない。

【例4】
中国で円が法弊に破れた理由
日本のような小国が、なぜ中国大陸だけで100万人もの兵を派遣し太平洋戦争を戦うことができたのか不思議に思うかもしれない。戦費は現地でお金を刷って獲得した。占領した現地に発券銀行を設立しそれぞれ通貨を発行し戦費を調達した。
韓国   ・・・ 朝鮮銀行     → 朝鮮銀行券
満州   ・・・ 満州中央銀行   → 満州中央銀行券
中国   ・・・ 中国聯合準備銀行 → 中国聯合準備銀行券
台湾   ・・・ 台湾銀行     → 台湾銀行券

しかし、いくら刷っても現地の人がお金をして認めてくれなければ価値はない。国全体を完全に統治できれば問題はないが、そうでない場合もある。

1937年から始まった日中戦争は困難を極めた。日本軍は中国聯合準備銀行を設立し中国聯合準備銀行券を発行した。この銀行兼の信認を得るために日銀発行の円と朝鮮銀行発行の円を聯銀券と等価にして聯銀券の信用を高めようとした。しかし、巨額の戦費を賄うために聯銀券を発行し過ぎたためにインフレになり信用を落とした。一方で蒋介石の国民党が法弊を流通させた。日本より資金力の勝る英米は法弊の後押しをし、印刷も英米が行った。その結果、信用という面で聯銀券は法弊に勝てなかったし、その結果戦争でも日本は中国を占領できなかった。

これから分かるように、信用というものは発行量だけで決まるのではなく、発行する主体が信用に値するかどうかということも強く影響することが分かる。現在円の信用を高めたいなら、財政を拡大しデフレから脱却し経済を強くする必要があるのである。

【例5】
皇朝十二銭の失敗
皇朝十二銭は708年から963年にかけて日本で鋳造された12種類の銅銭の総称である。最初に和同開珎が708年に発行された。これはわが国で流通したことが分かっている最古の貨幣である。その52年後には万年通宝への改鋳が行われた。この時、和同開珎10枚と万年通宝1枚との価値が等しいと定められ交換された。これは1000%のデノミである。新銭の発行ごとに1000%のデノミが行われたので、旧貨幣は価値を失ったため政府の発行する銅銭への信頼は失墜し、貨幣としては使わず大量に溶かして銅材にして新貨幣との両替を拒否した。当時の製錬技術は未熟で銅は資源の枯渇にさらされており価値は上がっていた。したがって高品位の銅で貨幣をつくると貨幣として使われず溶かして銅地金として使われるため、それを防ぐには貨幣に使う銅の品位を下げるしかなかった。品位が下がると益々貨幣としての価値が認められなくなったが、更に偽の貨幣も多く出回るようになり貨幣の信用を更に落とし、結果として流通しなくなった。当時の支配層が経済学の知識を持ち合わせておらず、ひたすら神社に新貨幣を奉納し流通を祈願するだけだった。これでは通貨の信認が得られる訳がない。

1000%のデノミは貨幣量を一気に10倍にすることを意味する。それが10~50年に一度行われたのだから、政府発効の貨幣は信用を失った。当時なぜ貨幣が使われなくなったかを政府は理解しておらず、対策も持ち合わせていなかった。1000%のデノミなど行わず、貨幣の信用を高める努力が行われていたら莫大な通貨発行益が得られることも理解できなかった。その後、政府による貨幣の鋳造の再開は600年以上後の1608年に鋳造された慶長通貨の鋳造まで待つことになる。

現在の日本政府は景気対策をすれば通貨の信認が失われると言っているが、「通貨発行すれば神のたたりがある」と言うのと同じレベルの発言だ。まさか通貨の流通量が10倍になるほどの景気対策をするわけはないだろう。デフレから脱却できる程度の景気対策を行うならむしろ通貨の信用は高まるのである。

【例6】
平清盛は宋銭を使って通貨発行権を行使
皇朝十二銭の失敗の後は、絹や米が代用貨幣として使われていた。平清盛は輸入された宋銭を貨幣として流通させるまで約200年間の貨幣の空白期間があった。平清盛は宋銭を使い事実上の通貨発行益を得た。当時日本国内で発見されていた銅山は採掘量が急速に悪化しており、市場の要求に答えるだけの良質の貨幣を供給することが出来ず、貨幣は宋からの輸入に頼った。平氏政権は日宋貿易で莫大な利益を得たのだから国産の貨幣を作ることもできたのかもしれないが、宋に貨幣の鋳造をまかせることで得られる利益で満足したのだろう。当時宋銭は日本だけでなく東亜アジア全域で使われた国際通貨だった。平家が貨幣を輸入するシステムを作ってくれたおかげで日本の経済は飛躍的に成長した。平清盛は貨幣の流動性の大切さを理解していた。デフレ脱却に失敗し続けている現在の財務省や日銀よりずっと賢い。

代替貨幣としての絹や米には次のような欠点があった。
(1)重くてかさばる
(2)長期の保存に不適
(3)品質によって価値にばらつきがある
これに比べ宋銭は小さくて軽いし、数えるのが簡単だし、長期の保存の可能ということで、通貨として流通するようになった。また余った貨幣は富として蓄えることもできるようになった。宋銭を皆が使うようになると、不便な代用貨幣である絹や米の価値は下がり、それらを大量に蓄えていた貴族たちは損害を被り、没落したという説がある。ということは平家と従来の貴族の地位の逆転は通貨発行権の行使が原因と言うこともできる。しかし、平清盛が64歳でなくなると、平家は滅びてしまう。その原因の一つに、飢饉がおき米の値段の暴騰、つまり金属貨幣の価値の暴落があると推測されている。つまり限られた量の宋銭では、もはや米が買えなくなったということだ。自前で貨幣を作っていれば状況は変わっていたかもしれない。

【例7】
江戸時代には改鋳で政府貨幣である通貨を増やした。
江戸時代初期までは金鉱からの採掘量が豊富だったが、それではだんだん足りなくなってきて貨幣改鋳を行い、お金の量を増やし続けている。つまり金の含有量を減らして貨幣の量を増やした。米価は一石が約一両程度で長期的に安定していたことから通貨増発で激しいインフレが起きなかったことが分かる。もちろん通貨の信認が失われることもなかった。改鋳による通貨増発が有効需要を拡大させ、経済発展に刺激を与えた。貨幣改鋳益はそのまま歳入に組み込まれた。その歳入に占める割合(%)を以下で示す。
年    貨幣改鋳益の割合(%)
1840    41.2
1841    51.4
1842    35.6
1843    25.6
1844    31.4
1845    33.3
1854    25,3
1855    25.3
1857    25.1
1861    49.6
1863    52.3
1864    70.3

江戸末期には改鋳益が増えている。これには2つの理由があった。第一の理由は開国に伴う金流出を防ぐ目的で行われたものであり、激しいインフレを招いた。これは国の内外で金と銀の交換比率が3倍も違ったために、金が大量に海外に流出したのを食い止めるために行われた。他に手段がなかったのだから仕方がない。第二の理由は近代国家をつくるための準備費用である。具体的には防衛費や製鉄所の建設費などである。

現在の日本は財政が不足した場合国債を発行することによって賄っている。そうすると利払いがかさみ、将来世代へのツケを残してはいけないという配慮から緊縮財政となり、デフレが慢性化し経済が衰退する。経済が発展するには成長通貨を政府が発行し絶えず経済を刺激しなければならないのだが、現在の日本政府はその事を全く理解していない。

政府貨幣発行で天下統一

皇朝十二銭への信認が失われた後、600年以上日本では政府貨幣は作られなかった。政府貨幣の再開は1608年に鋳造された慶長通宝まで待つことになる。なんと600年もの間、政府は貨幣発行で国を豊かにできることを理解できなかったということだ。国家を統一し繁栄に導くためには通貨発行権を駆使することが不可欠である。豊臣秀吉は全国の金銀鉱山を収納し、大判・小判を鋳造し黄金 5000枚、銀30000枚を全国の大名・公卿(くぎょう)に与えた「太閤の金配り」を行った。1590年、豊富な資金力で天下統一し戦国の世を終わらせた。大阪城を築城し朝鮮出兵まで行った。

一方で、中国が統一されたのは紀元前221年の秦の始皇帝である。秀吉より約1800年も前のことだ。中国で貨幣を統一したのもやはり秦の始皇帝だった。渭水南岸に阿房宮という巨大な宮殿を建設し、70万人の労働者を動員して始皇帝陵を建設した。また何十万人という人々を動員し万里の長城の前身となる防護壁の建設に着手した。このような大事業を成し遂げることが出来たのも通貨発行権を使ったからだと推測できる。中国は日本より1800年も前に通貨発行権行使の重要性を理解していたことになる。

平成はデフレの時代であった。政府が通貨発行権を行使すればデフレはすみやかに脱却できたのに「怖くて」行使できなかった。「国債が暴落する」とか「通貨の信認が失われる」とか「ハイパーインフレになる」とか、全く経済を理解していない政府が日本を衰退させてしまった。

デフレで国が衰退する

デフレ経済では、通貨は放置しておいても価値が増す。そのため人はお金を使わないから消費は伸びず、その結果生産も伸ばす必要がなく経済の衰退を導く。デフレは国をジワジワ衰退させる恐ろしい病気だから絶対にどの国もデフレにならないようにするのだが、日本政府はデフレ脱却の方法を知らないようだ。

wikipediaより古代エジプトの通貨についての説明を引用する。古代エジプトでは、貴金属が貨幣として使われた。初期には金属を秤で量ってやりとりされたが、後期には鋳造貨幣が用いられた。興味深い例としては、モロコシなどの穀物を倉庫に預けた「預り証」が、通貨として使われたこともある。現在の通貨と違うのが、穀物は古くなると価値が落ちるということである。したがって、この通貨は長期保存の出来ない、時間的に価値の落ちて行く通貨である。結果として、通貨を何かと交換して手にいれたら、出来るだけ早く他の物と交換する事が行われたため、流通が早まった。その結果として古代エジプトの経済が発達したといわれ、この事例は地域通貨の研究者によって注目されている。また、ローマの影響下で貨幣が使われるようになった結果、『価値の減って行く通貨』による流通の促進が止まり、貨幣による富の蓄積が行われるようになりエジプトの経済が没落したという意見もある。

日本経済復活への道
ここで述べた事から日本経済復活の方法は明かだ。通貨の信認が失われないように注意しながら通貨発行権の行使、つまり減税とか財政支出の拡大をすることだ。皇朝十二銭の場合は通貨の流通量の10倍もの貨幣を発行してハイパーインフレを招き信認が失われた。しかし10兆円~20兆円程度の財政拡大であれば円の信認が失われることはない。円の信認が失われるときは、円に対抗して別の通貨が並行して使われ始めたときだ。例えばビットコインやドルだが、現時点で円で買い物ができなくなる店は当分国内では現れそうもない。日銀がお金を刷って国債を大量に買っている現在、政府が財政赤字を拡大するということは事実上の財政ファイナンスであり、通貨発行権の行使だから将来世代へのツケは増えない。それにより通貨の信認が失われるという主張が間違いだということは前述の7つの例から明らかだ。むしろそのような主張は「通貨発行で神のたたりがある」と言っているようなものだ。経済をきちんと理解すれば現在の日本で最適な政策は減税・歳出拡大で財政赤字を増やすことだということが自明となる。

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2017年12月18日 (月)

ベーシックインカムよりミニマムサプライ(No.280)

ミニマムサプライとは

日本人は多くの不安を抱えている。第一の不安は少子高齢化による将来不安である。自分の老後は大丈夫なのだろうか、本当に年金は破綻しないのか。第二の不安は国の借金が1000兆円を超えたという不安。財政が破綻すると大増税が待っているのか、あるいはハイパーインフレか、国債暴落か。第三の不安はAI/ロボットに職を奪われるのではないかという不安である。

これらの不安があるために、人は今貯金をしておかねばならないと考える。そこで消費が抑えられ、それがデフレ脱却を困難にし、不況を長引かせる。そのような不安除去のために考えられたのがミニマムサプライである。その精神は国が国民に最低限の生活を効率よく支えるというものである。万一会社が倒産しても、突然重い病気に罹っても、どんなに悪い状況になっても国がしっかり支えるシステムが確立していたら日本人の不安は軽減され消費は戻って来る。

長期的にはAI/ロボットが雇用を奪うのだから「労働はロボットに、人間は貴族に」という社会へ徐々に移行すべきだというのが筆者の提案である。
http://asread.info/archives/3856
経済システムを適切に構築すれば、財・サービスの提供はロボット(AI)に任せ、人間は貴族のような生活ができるという説である。もちろん、いきなりそのような社会が実現するわけがない。そのような理想社会に移行する中間段階ではどのような社会になるか一つの案を提示してみよう。ベーシックインカムに対しこの制度は最低限の供給を保証するという意味でミニマムサプライと名付けた。

物余りの時代、日本に関して言えば、本来食べられたはずの、いわゆる「食品ロス」は500万~800万トンである。これは、わが国のコメの年間収穫量(平成25年約860万トン)に近い。世界中で飢餓に苦しむ人々に向けた世界の食糧援助量の390万トン(平成23年)を大きく上回っている。このように物が溢れている時代なのだから工夫すれば、日本国内で生活に困っている人々を助けることなど、余裕でできるはずである。

「労働はロボットに、人間は貴族に」という理想社会に移行する初期の段階でできることを考える。国民は将来雇用がAI/ロボットに奪われるのではないかと不安を抱いているが、その不安を解消するシステムがミニマムサプライである。食べられるのに捨てている食糧を提供してもらったり、企業から寄付を受けたり、大量につくった極めて低価格の食料品や日用品(品数は限定する)を買い取ったりして、それを国営商店で無料で配布する。この商店には使えるけど使わなくなった衣服とか本とか日用品とか家具とか何でも持ってきてもらい、無料で配る。リサイクルにもなるし、これを利用すると誰でも最低限の生活は事実上無収入でも維持できることとなる。マイホームも同様で最低レベルの住居であれば、国が買い取った空き家にタダで住めるようにする。これにより路上生活者はほとんどいなくなる。無料で受診できる国営の診療所も開く。もっと本格的な治療を受けたいなら有料の病院へ行く。

もう少し質の高い商品、美味しい食品等は通常の店で売っている。だからワンランク上の生活を望む人は、ワンランク上の仕事をしてより多くの収入を得るように努力する。もちろん国営商店が営業を始めればそれだけで一部の民間企業を圧迫することとなる。しかし多くの物を人手を省きながら消費者に届けることができるという意味で優れた制度である。これからの時代は物が溢れるが、それを国民にどうやって分配するのかが極めて重要な問題となるのだから、ミニマムサプライはそれに一つの解決策を与えることになる。一部の職は国営商店による無料配布で失われるのだが、失業者が出ないよう十分な財政的支援等様々な工夫をする。
①労働時間を短縮し、その分多くの職を生み出す。
②公務員を増やし、必要な職・多くの人があこがれる職を増やし職を失った人の受け皿とする。

ベーシックインカムでは貧乏人も金持ちも同額の収入を保証するために貧乏人にとっては額が少なすぎるし金持ちにとっては大した意味の無い追加収入となる。一方ミニマムサプライであれば、貧乏人にとっては贅沢さえ言わなければ生きていけるのだから、大きな安心感が得られる。何か大きなチャレンジをしてみたいという若者も、失敗しても最低限の生活は保証されるとなれば、チャレンジを恐れなくなる。小さな商店を細々経営していた人の一部等は廃業に追い込まれるかもしれないが、国が公務員を増やし、多くの人があこがれる職に就職できるようにするのであれば、救われる。

ベーシックインカムが莫大な財源を必要とするのに対し、ミニマムサプライは小規模の国営商店から始めて徐々に拡大することができ、最初はそれほど大きな財源は不要である。現代ではたくさんの無駄がある。まだ十分食べられるのに見栄えが悪くなり売り物にならないとして捨ててしまう食品、使えるのに傷物として処分する製品、引っ越しでいらなくなった物等も国が集めて国営商店で無料で配布する。リサイクルという意味もあるし、国民に対し最低限の生活を保証するという意味もある。ミニマムサプライとはそのようなシステムである。物が溢れている現在これができないはずがないし、今後物余りの傾向はどんどん強くなるのだからますますミニマムサプライの必要性は強まる。ミニマムサプライは本当に支援が必要な人々を集中的に支援する制度であり、しかも徐々に国営商店を増やしていくことによりスムーズに「労働はロボットに、人間は貴族に」という理想の社会へ移行できる。 

ミニマムサプライは、その前身と言えるかも知れない事業は民間レベルですでに始まっており、それを以下で紹介する。

フードバンク

包装の傷みなどで、品質に問題がないにもかかわらず市場で流通出来なくなった食品を、企業から寄附を受け生活困窮者などに配給する 活動およびその活動を行う団体があり、フードバンクと呼ばれている。まだ 食べられるにもかかわらず廃棄されてしまう食品(いわゆる食品ロス)を削減する取り組みであり、日本政府もその活動を支援している。2002年に活動が開始され、現在は数十の団体が全国で活動を行っている。

フードバンクの活動が始まったのは1960年代のアメリカである。まだ食べられる食品がスーパーで大量に破棄されていることを聞き、ヴァン・ヘンゲルがこうした食品を寄付してくれるよう頼み、生活困窮者に供給したのが始まりである。現在アメリカ最大のフードバンクのネットワークはFeeding Americaであり前米に200の会員フィードバンクを持つ。最初は捨てられる食品の有効利用として始まったが、今はバランスの取れた食品提供が重要視されている。寄付や行政機関からの助成金などで運営されている。また農務省が農家等の生産者から買い上げた余剰農畜産物の提供も受けている。

フランスのフードバンクはアメリカのフードバンクをモデルとし1984年に始まる。
フランスにおける生活困窮者への食糧援助政策は、EU による PEAD(最貧困者援助 欧州. プログラム、Programme Européenne d'aide aux plus démunis)とフランス政府 による. PNAA(食糧支援国民プログラム、Programme national d'aide alimentaire)の 二つから. 構成される。また国内の小売業者や生産業者からの寄付や一般市民からの寄付も活発に行われている。例えば2013年には、国民寄付によって2,500万食に相当する食料品が集められた。

その他、ヨーロッパ各国、カナダ、オーストラリア等世界各地でフードバンクの活動が行われている。

ミニマムサプライでは民間に頼らず、国が直接フードバンクの活動を参考にしながら食品など生活必需品の配布や居住地の提供を行い、生活保護費と組合せながら運営していくものである。

無料低額宿泊所とミニマムサプライ

食糧や生活必需品に加え考えなければならないのが住居である。これに関して日本には無料低額宿泊所というものがある。これは1951年に受け入れ開始し生活困窮者のために無料、または低額で住む場所を提供する社会福祉事業である。個室の床面積は7.43㎡以上、使用料は月5.37万円以下と定められている。しかし現実は生活保護費のピンハネが横行、劣悪な居住環境になっている場合が多くある。現在首都圏を中心に全国537カ所、入所者1.56万人、生活保護受給者 1.41万人となっている。国が定めた基準を満たさず、生活保護費をピンハネするケースがあり問題になっている。
男性Aの宿泊所の例:
木造階建ての空き家をベニヤ板で区切り30人が暮らす
月額約13万円の生活保護費の9割を居住費と食費として徴収される。

一方で、うまくいっている例もある。例えばさいたま市のNPO法人「ほっとポット」である。空き家の戸建て民家16軒を使った施設を運営している。計69人の高齢者らがグループホームの形態で生活し、全部屋個室である。社会福祉士が継続的に訪問し、専門性のある生活支援も行い、個々の能力に応じた生活安定を目標に生活支援もする。

このような成功例をベースにして、国が空き家を買い取って、無料宿泊所を提供するとするシナリオを考えてみよう。食糧や生活必需品等は無料の国営商店から調達する。このようなシステムを最初は小規模につくり成功実績ができれば全国に広めることにより、生活保護費に多少プラスした程度の費用で多くの生活困窮者が救えるのではないだろうか。

2017年2月現在、生活保護を受けているのは163万世帯、214万人であり全体の1.69%である。生活保護費は総額3.7兆円でその約半分は医療費となっている。

食糧配布、生活用品配布、住居提供を生活保護費を活用しながら効率的なシステムを確立すれば、生活困窮者を救う強力な手段となるし、増え続ける社会保障費の効率的な運用にも繋がる。これをベースに「労働はロボットに、人間は貴族に」という社会を構築していけばよい。

既存の小売店への影響を少なくする方法

無料の国営商店ができれば、既存の小売店には一定の悪影響が生じる。その悪影響を最小限にするよう国は努力すべきである。売上げが落ちて廃業に追い込まれる小売店が出てくるかも知れないが、流通・小売全体としてみれば生産性は上昇するのであり、転職がスムーズにいくように財政支援をすればよい。少子高齢化が進む中、転職は人手不足の解消に役立つ。ただ、あまり急激な変化はよくないのだから、この国営商店は少しずつ広がるようにすべきである。事前に登録された生活困窮者のみが一定の量だけ配布を受けられるようにする。入り口で顔認証でチェックし無人化を図る。このような商店から遠い過疎地であれば、無人の自動運転トラックに巡回してもらえばよい。

現在は過疎に悩む地方自治体が空き家を安く提供し移住を支援する空き家バンクというものがある。場所によるが、このように過疎に悩む地方自治体とタイアップしてミニマムサプライを実現できる可能性がある。フルタイムの職に就けない人でも、このような過疎の村で、自分で食べるための野菜くらいは育てられるかも知れない。

ベーシックインカムvsミニマムサプライ

ベーシックインカムには様々な問題がある。例えば国民全員に毎月1万円配ると言っても簡単ではない。住所も銀行口座も持たない人にどうやって1万円を渡すのか。重複して受け取るのをどうやって防ぐのかなどの問題がある。2014年度には地域振興券が配られた。
振興券の総額        9511億円
新規消費喚起額      3391億円
財政出動した経費     2372億円
実質的な消費喚起効果   1019億円
となっており、意外と経費が掛かっていることが分かる。ばらまきだという批判もあるだろうし、理由が分からないお金は受け取りたくないという人もいる。月1万円では生活できないと生活困窮者は言うし、それでも14.4兆円という巨額の財源が必要となる。中流階級の人には1万円でも少し助けにはなるのだが、財源が税金だとすればプラスマイナスゼロだ。いや税金で徴収する費用と1万円を配布するために莫大な費用がかかることを考えればトータルでは大きなマイナスだ。

これに対してミニマムサプライは数々のメリットがある。
①ベーシックインカムに比べればはるかに少ない経費で実現できる。
②生活保護費と組み合わせることが可能で、生活保護費に若干の費用を加えるだけで良い。
③生活困窮者に適切な支援が可能となる。
④フードバンクや無料低額宿泊所での成功例をベースとして徐々に支援を拡充することができる。
⑤破棄していた物の有効利用になり廃棄物を減らすことも可能となる。
⑥一部の小売業の経営を圧迫するが、逆に小売・流通の大規模化が進み生産性の向上に資するとすれば、国を豊かにするのに役立つ。

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円が信用を失いビットコインに置きかわる日が来るか(No.279)

ビットコインの高騰が続いている。これは投機であり、いずれはビットコインの価格は元に戻るという説はあるが、そうではない可能性も否定できない。現在人は円を売ってビットコインを買っているからビットコインは高騰している。逆の見方をすれば円はビットコインに対し暴落している。将来、ビットコインがどの店でも使えるようになり、円が使える店など無くなってしまうことはあるのだろうか。

加藤出氏が訪れたストックホルムのラーメン屋には、「現金は使えない」という説明書きがあったそうだ。フィンテックを用いたキャッシュレス化が進んでいるのだ。もちろんこれはビットコインの話ではないのだが、スマホをかざすだけでどんな支払いでも可能であれば、円であろうとドルであろうとユーロであろうとビットコインであろうと関係無い。むしろ世界中どこでも使える通貨であれば何でもよいだろう。加藤氏が訪れたスエーデンでは名目GDPに対する市中現金流通額の比率は僅か1.4%にすぎない。つまり現金はほとんど使われなくなったということだ。

もちろんすぐに円がビットコインに置きかわるわけはない。進むとしても置き換えは徐々にということだ。現在全世界でのビットコインの時価総額は30兆円だというからまだたいしたことは無い。それでも2009年の頃から言えば1千万倍くらいにビットコインは値上がりした。ビットコインが使える店が増えてくると物の値段が円表示だけでなくビットコイン表示もされるようになる。ビットコインの値段は激しく乱高下すると思うかも知れないが、ビットコインの側から見れば円の値段が激しく乱高下しているのだ。例えばあなたの家の価格は円でみれば比較的安定しているが、ビットコインでみれば激しく乱高下しながら暴落しつつある。ビットコインがどの店でも使えるようになり円を使う人が減ってくると、人は徐々に不安になってくる。ビットコイン表示の自分の家の価格が暴落を続けているからだ。家だけでなく、株も銀行預金も現金も同じだ。

そうなってくると自分の財産をビットコインに替えておこうとする人が増えるからますますビットコインは高騰を続ける。日本人全員が大部分の円をビットコインに替えたころには、ビットコインの価格は安定してくる。そして使わなくなった円は日銀に戻っていき、日銀は役割を終える。早く財産をビットコインに替えた人は財産を増やし、遅れた人は財産を失う。例えば家を売り、その代金をビットコインに替え、そのビットコインで直ちに家を買い戻したのであれば、税金や交換手数料で損をするだけだろう。得をしたければまず家を売ってすぐにビットコインに替えそのままビットコインを持ち続けなければならない。待っている間にビットコインが高騰しビットコインで表示した家の価格が暴落した後に家を買い戻せば、元の家よりはるかに立派な家が買えるのである。

例えば円の暴落を防ぐために政府がビットコインの取引に厳しい規制をかけ、ビットコインが暴落する可能性もある。この場合はビットコインを持っている人は大損をする。財産が一夜にして消える可能性もある。ビットコインの売買にタッチしなかった人にとっては、損も得もなく高みの見物である。もしビットコインが広く使われるようになった後で、ある日突然ビットコインの取引禁止を政府が宣言するようなら大混乱を引き起こす。このような経済的混乱を政府は避けるだろうから、一気に取引禁止にすることはないだろうがジリジリ取引をやりにくくして日銀を救うことは考えられる。

日本政府にとっては、円が使われなくなると国の借金も意味をなさなくなる。国債の価値もゼロになるから国の借金も消滅する。ビットコインに対する円の暴落後は税金もビットコインで徴収する。極限まで円が暴落したら、円がビットコインに交換できなくなる。そうすれば国債を発行して歳入を確保することもできなくなり国は通貨発行権も失う。ビットコイン建てで財政赤字が蓄積すれば財政破綻の可能性も出てくる。そこまでビットコインに支配された経済を国が許すわけがないだろう。対抗して日本政府が独自の仮想通貨ニホコインを発行して、資金を調達するICO(Initial Coin Offering)を行ってビットコインに対抗するかもしれない。1ニホコイン=1円に固定する。これなら日本政府が発行するのだから、ビットコインよりも信用される。国民の信認が得られれば日銀の保有する国債をすべてニホコインに置き換えれば、国の借金は激減する。

しかし国際間の取引でできるようにするには海外でもこのニホコインが受け入れなくてはならない。仮想通貨はどこの国でも発行したくなるだろう。アメリカもアメコインを発行し、1アメコイン=1$とするだろう。これによりニホコインとアメコインの交換レートは変動することになる。これがビットコインとの違いだ。ビットコインが世界的に唯一の共通通貨として使われ始めたとすると世界各国の政府は通貨発行権を失い、為替変動という自由度も失ってしまう。つまりユーロ加盟国内で例えばギリシャの債務問題のような問題が世界中に広がってしまう。そのような問題を避けるという意味でもビットコインが円に取って代わるようなことはあり得ない。つまりビットコインの値上がりはどこかで限界を迎えるということだ。現在ビットコインの通貨としての役割は後退したと言われる。これはビットコインの高騰で送金手数料も上がってしまったからだ。もちろん送金手数料を下げればまた通貨としての役割が増す。

ニホコインを発行するのは日銀か政府かという問題がある。通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律の第4条には貨幣の製造及び発行の権能は、政府に属するとあり、第5条には貨幣の種類は、500円、100円、50円、10円、5円及び1円の六種類とするとある。ここにニホコインも書き加えればニホコインは政府貨幣となりその発行益が歳入に計上される。通貨を政府が勝手に発行すると激しいインフレになるという意見がある。しかし激しいインフレは物不足の時代にしか起こらない。物余りの先進国が深刻に考えなければならないのはデフレをどうやって防ぐかだ。政治家を見渡しても緊縮をやりたい政治家がほとんどで、激しいインフレになるほど財政出動をしようとする政治家はどこにもいない。つまり通貨を政府が自由に発行できるようにすれば激しいインフレになるというのは幻想にすぎない。

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2017年12月17日 (日)

デフレ下で増税は最悪のシナリオ(No.278)

自民、公明両党は個人軸に2800億円増税という2018年度の税制改正大綱を決めた。アベノミクスを始めた時は2年で2%のインフレ目標を達成することであったが、5年が経過した今、インフレ率はそれに遠く及ばずデフレ脱却はできていない。デフレが国の経済に深刻な悪影響を及ぼすことを理解していれば、当然のことながら今は減税と財政拡大による景気刺激しかないはずだ。しかしそれをやれば国債が暴落、通貨の信認が失われハイパーインフレになると政府は言う。それは古い経済学に基づいた議論であり、AI/ロボット化が進む現代では国を破滅に導く危険思想と言うべきだ。

12月15日の日経新聞に載った中山淳史氏のコメントが参考になる。例えばアマゾンが提供するデジタルサービスなどから得られる「豊かさ」を消費者余剰という形で試算する。例えばある商品を100円で買おうとしたら、90円で買えた。その場合は10円が消費者余剰だ。逆に売り手から見ると、90円でした売れなかったら生産者余剰はマイナス10円だ。結局、生産者余剰だけがGDPに組み込まれるからGDPの押し下げ要因になる。

このように生産性上昇は放置するとデフレを悪化させる。それを阻止できるのは政府であり、減税や財政拡大で財政赤字を増やし景気を刺激することだ。政府は景気対策をやれば通貨の信認が失われ激しいインフレになるという。しかし5年掛けて僅か2%のインフレを起こすことに失敗した政府が「激しいインフレ」について言及するなど自信過剰だ。激しいインフレを引き起こすためには深刻な物不足になる必要があるのだが、そのためにはどれだけ需要・消費を拡大しなければならないかに関しては内閣府の試算が参考になる。次のサイトの6頁を見て頂きたい。
http://www5.cao.go.jp/keizai3/econome/ef2rrrr-summary.pdf
5兆円の公共投資をすれば、消費者物価は0.07%上昇するとある。だから2%のインフレ目標に1年で達するためにはその30倍の公共投資が必要になるのだが、もっと長期でインフレ目標に達するのであれば、これよりずっと少なくてすむ。いずれにせよ、公共投資も増やさず、増税ばかりやっていてはデフレ脱却はできないというのが内閣府の結論だ。もし政府が内閣府の試算はあてにならないと主張するなら内閣府計量分析室を閉鎖し、民間のシンクタンクの試算を採用すべきだろう。

政府は国の借金がこれ以上増えると通貨の信認が失われ、たとえ需要・消費が増えなくても激しいインフレになるのだという。これが本当なら、需要と供給の関係から価格が決まると教えている現在の文部科学省検定の中学公民の教科書を書き換えなければならないし、現在出回っている経済書も根本から書き直す必要が出てくる。ニュートン力学も相対論も量子論も全て間違いだから物理の本は全部書き直せと言うようなものだ。価格が需要と供給の関係では決まらないというなら証拠を示す必要がある。そもそも通貨の信認というものは相対的なものだ。例えば山田方谷が生きた江戸末期には、藩が独自に発行する藩札と幕府の発行する貨幣の両方が流通していた。発行量が多すぎて信用が失われていた藩札を方谷は集め焼き捨て、保有する準備金を元にした発行額を限定した新しい藩札を発行して藩札の信用を回復し、藩の発展に貢献している。このように2つの通貨が使われている場合は、相対的にどちらを国民が信用するかは国民次第だ。しかし、現在の日本のように円が流通する唯一の通貨である場合、円が一気に信用を失い国民が別の通貨を使い始めるなどということはあり得ない。もちろん、ビットコインのほうがずっと使い勝手がよいからビットコインに乗り換えるという可能性は否定できないが、それはずっと先の話だろう。もしその時代が来るとすれば、人は円を売ってビットコインを買うわけだから、円は信認を失い、ビットコインだけが使われるようになる。

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2017年12月11日 (月)

無料低額宿泊所とミニマムサプライ(No.277)

物が溢れている時代に我々はいるのにも拘わらず、一方で生活困窮者がいる。溢れた物を集めて国営商店を通じて生活困窮者に配布するシステムが筆者が提案するミニマムサプライだ。このことはすでに以下で説明した。

http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2017/07/post-240c.html

http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2017/08/no262-a489.html

生活困窮者に対する支援は生活保護やフードバンクなど様々な形で行われているが、これらを統合しシステマティックに効率的に行うべきだというのがミニマムサプライの考え方だ。

 

食糧や生活必需品に加え考えなければならないのが住居である。これに関して無料低額宿泊所というものがある。これは1951年に受け入れ開始し生活困窮者のために無料、または低額で住む場所を提供する社会福祉事業である。個室の床面積は7.43㎡以上、使用料は月5.37万円以下と定められている。しかし現実は生活保護費のピンハネが横行、劣悪な居住環境になっている場合が多くある。現在首都圏を中心に全国537カ所、入所者1.56万人、生活保護受給者 1.41万人となっている。国が定めた基準を満たさず、生活保護費をピンハネするケースがあり問題になっている。

男性Aの宿泊所の例:

木造階建ての空き家をベニヤ板で区切り30人が暮らす

月額約13万円の生活保護費の9割を居住費と食費として徴収される。

 

一方で、うまくいっている例もある。例えばさいたま市のNPO法人「ほっとポット」である。空き家の戸建て民家16軒を使った施設を運営している。計69人の高齢者らがグループホームの形態で生活し、全部屋個室である。社会福祉士が継続的に訪問し、専門性のある生活支援も行い、個々の能力に応じた生活安定を目標に生活支援もする。

 

このような成功例をベースにして、国が空き家を買い取って、無料宿泊所を提供するとする。食糧や生活必需品等は無料の国営商店から調達する。このようなシステムを最初は小規模につくり成功実績ができれば全国に広めることにより、生活保護費に多少プラスした程度の費用で多くの生活困窮者が救えるのではないだろうか。

 

2017年2月現在、生活保護を受けているのは163万世帯、214万人であり全体の1.69%である。生活保護費は総額3.7兆円でその約半分は医療費となっている。ベーシックインカムとして一人当たり毎月1万円配るとすると、年間14.4兆円が必要となるが1万円では暮らせない。生活困窮者にはあまり助けにはならない。中流階級の人には少し助けにはなるのだが、財源が税金だとすればプラスマイナスゼロだ。いや税金で徴収する費用と1万円を配布するために莫大な費用がかかることを考えればトータルでは大きなマイナスだ。

 

食糧配布、生活用品配布、住居提供を生活保護費を活用しながら効率的なシステムを確立すれば、生活困窮者を救う強力な手段となるし、増え続ける社会保障費の効率的な運用にも繋がる。これをベースに「労働はロボットに、人間は貴族に」という社会を構築していけばよい。

 

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2017年12月 4日 (月)

税収がバブル期並になっても全然駄目な理由(No.276)

来年度(2018年度)の税収は27年前のバブル期並だとマスコミは言う。あたかも今はバブル期並の好景気だと言いたいのだろう。OECDのデータを使って各国の歳入の比較をしてみた。
          出所:OECD Economic Outlook
2761



グラフから分かるように、27年前と比べれば歳入は途上国なら約10倍、先進国でも3倍前後になっていて、27年前と余り変わらないのは日本だけだ。これは名目GDPの伸びと密接に関係がある。

2762


この図で分かるように、諸外国では名目GDPは急速に拡大しているのに対し、日本だけは停滞したままだ。バブルの時代、日本は豊かさを実感した。やがて日本が世界一になるという期待から資金が世界中から流入し、株も土地も値上がりした。しかし、株も土地も持たない人のねたみからか、バブル=悪という論調がマスコミを支配した。持てる者と持たざる者の争いに見えた。バブルを潰せば持てる者から持たざる者へカネが流れるとでも思ったのだろうか。残念ながらバブル潰しは持てる者も持たざる者も同時に貧乏にしてしまった。世界中から集まったカネは蜘蛛の子を散らすように逃げてしまった。

バブルが崩壊し一気に貧乏になってしまった日本に、カネは戻って来なかった。これが日本だけが発展しない理由だ。しかしカネは自国で刷ればよく、それにより海外へ逃げ出したカネの穴埋めをすることはできる。その意味でお金を刷る政策であるアベノミクスは正しいのだが、増税と歳出削減による財政健全化目標がアベノミクスを台無しにした。

そもそも財政健全化目標はEUの目標を真似たものだった。EUのように独自通貨を持たない国々がそれぞれカネを刷っていくらでも使ってよいわけがないのは当然なのだが、それを独自通貨を持つ日本が真似てはいけないのは自明だ。そのEUだがグラメーニャ財務相は、ユーロ圏改革の最重要課題として、EUの財務協定(財政健全化)を成長重視の内容に改めるべきだとの見解を明かにしている(12月2日の日経新聞)。成長を生み、技術革新を後押しする公共投資は一般の歳出と分けて扱い、成長にもっと焦点を当てると述べている。

お金を刷って歳出を増やせばどうなるのか。マクロ計量モデルを使ったシミュレーションでも明かなのだが、歳出を拡大すれば経済は拡大し、歳入も増えてくる。

2763


この図でも日本だけが歳出を増やしていないことが分かる。結論は簡単だ。歳出を増やせば、デフレから脱却でき、GDPが増え、それに比例して税収が増え財政が健全化する。財政拡大の「実験」をして財政が健全化しなかったらどうするのかという質問が必ず出てくると思う。デフレ下で緊縮財政を行うという経済理論に反する「実験」を行って、国を貧乏にしてしまった。次は、その失敗を反省し、積極財政に転換してはどうだろう。

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2017年12月 2日 (土)

税収がバブル期並になっても全然駄目な理由(No.276)

OECDのデータを使って各国の歳入の比較をしてみよう。

2761

どこの国でも歳入はこの27年間で劇的に増えている。27年前の水準程度であるのは日本だけだ。これは名目GDPの伸びと密接に関係がある。

2762


名目GDPを伸ばしたければ歳出を増やすしかない。

2763

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