デフレ下で増税は最悪のシナリオ(No.278)
自民、公明両党は個人軸に2800億円増税という2018年度の税制改正大綱を決めた。アベノミクスを始めた時は2年で2%のインフレ目標を達成することであったが、5年が経過した今、インフレ率はそれに遠く及ばずデフレ脱却はできていない。デフレが国の経済に深刻な悪影響を及ぼすことを理解していれば、当然のことながら今は減税と財政拡大による景気刺激しかないはずだ。しかしそれをやれば国債が暴落、通貨の信認が失われハイパーインフレになると政府は言う。それは古い経済学に基づいた議論であり、AI/ロボット化が進む現代では国を破滅に導く危険思想と言うべきだ。
12月15日の日経新聞に載った中山淳史氏のコメントが参考になる。例えばアマゾンが提供するデジタルサービスなどから得られる「豊かさ」を消費者余剰という形で試算する。例えばある商品を100円で買おうとしたら、90円で買えた。その場合は10円が消費者余剰だ。逆に売り手から見ると、90円でした売れなかったら生産者余剰はマイナス10円だ。結局、生産者余剰だけがGDPに組み込まれるからGDPの押し下げ要因になる。
このように生産性上昇は放置するとデフレを悪化させる。それを阻止できるのは政府であり、減税や財政拡大で財政赤字を増やし景気を刺激することだ。政府は景気対策をやれば通貨の信認が失われ激しいインフレになるという。しかし5年掛けて僅か2%のインフレを起こすことに失敗した政府が「激しいインフレ」について言及するなど自信過剰だ。激しいインフレを引き起こすためには深刻な物不足になる必要があるのだが、そのためにはどれだけ需要・消費を拡大しなければならないかに関しては内閣府の試算が参考になる。次のサイトの6頁を見て頂きたい。
http://www5.cao.go.jp/keizai3/econome/ef2rrrr-summary.pdf
5兆円の公共投資をすれば、消費者物価は0.07%上昇するとある。だから2%のインフレ目標に1年で達するためにはその30倍の公共投資が必要になるのだが、もっと長期でインフレ目標に達するのであれば、これよりずっと少なくてすむ。いずれにせよ、公共投資も増やさず、増税ばかりやっていてはデフレ脱却はできないというのが内閣府の結論だ。もし政府が内閣府の試算はあてにならないと主張するなら内閣府計量分析室を閉鎖し、民間のシンクタンクの試算を採用すべきだろう。
政府は国の借金がこれ以上増えると通貨の信認が失われ、たとえ需要・消費が増えなくても激しいインフレになるのだという。これが本当なら、需要と供給の関係から価格が決まると教えている現在の文部科学省検定の中学公民の教科書を書き換えなければならないし、現在出回っている経済書も根本から書き直す必要が出てくる。ニュートン力学も相対論も量子論も全て間違いだから物理の本は全部書き直せと言うようなものだ。価格が需要と供給の関係では決まらないというなら証拠を示す必要がある。そもそも通貨の信認というものは相対的なものだ。例えば山田方谷が生きた江戸末期には、藩が独自に発行する藩札と幕府の発行する貨幣の両方が流通していた。発行量が多すぎて信用が失われていた藩札を方谷は集め焼き捨て、保有する準備金を元にした発行額を限定した新しい藩札を発行して藩札の信用を回復し、藩の発展に貢献している。このように2つの通貨が使われている場合は、相対的にどちらを国民が信用するかは国民次第だ。しかし、現在の日本のように円が流通する唯一の通貨である場合、円が一気に信用を失い国民が別の通貨を使い始めるなどということはあり得ない。もちろん、ビットコインのほうがずっと使い勝手がよいからビットコインに乗り換えるという可能性は否定できないが、それはずっと先の話だろう。もしその時代が来るとすれば、人は円を売ってビットコインを買うわけだから、円は信認を失い、ビットコインだけが使われるようになる。
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コメント
今日は。higashiyamato1979です。財務省のプロパガンダを打ち破ることに全力を!
それでは決まり文句! お金が無ければ刷りなさい! 労働はロボットに!人間は貴族に!
投稿: higashiyamato1979 | 2017年12月24日 (日) 15時53分