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2017年12月18日 (月)

ベーシックインカムよりミニマムサプライ(No.280)

ミニマムサプライとは

日本人は多くの不安を抱えている。第一の不安は少子高齢化による将来不安である。自分の老後は大丈夫なのだろうか、本当に年金は破綻しないのか。第二の不安は国の借金が1000兆円を超えたという不安。財政が破綻すると大増税が待っているのか、あるいはハイパーインフレか、国債暴落か。第三の不安はAI/ロボットに職を奪われるのではないかという不安である。

これらの不安があるために、人は今貯金をしておかねばならないと考える。そこで消費が抑えられ、それがデフレ脱却を困難にし、不況を長引かせる。そのような不安除去のために考えられたのがミニマムサプライである。その精神は国が国民に最低限の生活を効率よく支えるというものである。万一会社が倒産しても、突然重い病気に罹っても、どんなに悪い状況になっても国がしっかり支えるシステムが確立していたら日本人の不安は軽減され消費は戻って来る。

長期的にはAI/ロボットが雇用を奪うのだから「労働はロボットに、人間は貴族に」という社会へ徐々に移行すべきだというのが筆者の提案である。
http://asread.info/archives/3856
経済システムを適切に構築すれば、財・サービスの提供はロボット(AI)に任せ、人間は貴族のような生活ができるという説である。もちろん、いきなりそのような社会が実現するわけがない。そのような理想社会に移行する中間段階ではどのような社会になるか一つの案を提示してみよう。ベーシックインカムに対しこの制度は最低限の供給を保証するという意味でミニマムサプライと名付けた。

物余りの時代、日本に関して言えば、本来食べられたはずの、いわゆる「食品ロス」は500万~800万トンである。これは、わが国のコメの年間収穫量(平成25年約860万トン)に近い。世界中で飢餓に苦しむ人々に向けた世界の食糧援助量の390万トン(平成23年)を大きく上回っている。このように物が溢れている時代なのだから工夫すれば、日本国内で生活に困っている人々を助けることなど、余裕でできるはずである。

「労働はロボットに、人間は貴族に」という理想社会に移行する初期の段階でできることを考える。国民は将来雇用がAI/ロボットに奪われるのではないかと不安を抱いているが、その不安を解消するシステムがミニマムサプライである。食べられるのに捨てている食糧を提供してもらったり、企業から寄付を受けたり、大量につくった極めて低価格の食料品や日用品(品数は限定する)を買い取ったりして、それを国営商店で無料で配布する。この商店には使えるけど使わなくなった衣服とか本とか日用品とか家具とか何でも持ってきてもらい、無料で配る。リサイクルにもなるし、これを利用すると誰でも最低限の生活は事実上無収入でも維持できることとなる。マイホームも同様で最低レベルの住居であれば、国が買い取った空き家にタダで住めるようにする。これにより路上生活者はほとんどいなくなる。無料で受診できる国営の診療所も開く。もっと本格的な治療を受けたいなら有料の病院へ行く。

もう少し質の高い商品、美味しい食品等は通常の店で売っている。だからワンランク上の生活を望む人は、ワンランク上の仕事をしてより多くの収入を得るように努力する。もちろん国営商店が営業を始めればそれだけで一部の民間企業を圧迫することとなる。しかし多くの物を人手を省きながら消費者に届けることができるという意味で優れた制度である。これからの時代は物が溢れるが、それを国民にどうやって分配するのかが極めて重要な問題となるのだから、ミニマムサプライはそれに一つの解決策を与えることになる。一部の職は国営商店による無料配布で失われるのだが、失業者が出ないよう十分な財政的支援等様々な工夫をする。
①労働時間を短縮し、その分多くの職を生み出す。
②公務員を増やし、必要な職・多くの人があこがれる職を増やし職を失った人の受け皿とする。

ベーシックインカムでは貧乏人も金持ちも同額の収入を保証するために貧乏人にとっては額が少なすぎるし金持ちにとっては大した意味の無い追加収入となる。一方ミニマムサプライであれば、貧乏人にとっては贅沢さえ言わなければ生きていけるのだから、大きな安心感が得られる。何か大きなチャレンジをしてみたいという若者も、失敗しても最低限の生活は保証されるとなれば、チャレンジを恐れなくなる。小さな商店を細々経営していた人の一部等は廃業に追い込まれるかもしれないが、国が公務員を増やし、多くの人があこがれる職に就職できるようにするのであれば、救われる。

ベーシックインカムが莫大な財源を必要とするのに対し、ミニマムサプライは小規模の国営商店から始めて徐々に拡大することができ、最初はそれほど大きな財源は不要である。現代ではたくさんの無駄がある。まだ十分食べられるのに見栄えが悪くなり売り物にならないとして捨ててしまう食品、使えるのに傷物として処分する製品、引っ越しでいらなくなった物等も国が集めて国営商店で無料で配布する。リサイクルという意味もあるし、国民に対し最低限の生活を保証するという意味もある。ミニマムサプライとはそのようなシステムである。物が溢れている現在これができないはずがないし、今後物余りの傾向はどんどん強くなるのだからますますミニマムサプライの必要性は強まる。ミニマムサプライは本当に支援が必要な人々を集中的に支援する制度であり、しかも徐々に国営商店を増やしていくことによりスムーズに「労働はロボットに、人間は貴族に」という理想の社会へ移行できる。 

ミニマムサプライは、その前身と言えるかも知れない事業は民間レベルですでに始まっており、それを以下で紹介する。

フードバンク

包装の傷みなどで、品質に問題がないにもかかわらず市場で流通出来なくなった食品を、企業から寄附を受け生活困窮者などに配給する 活動およびその活動を行う団体があり、フードバンクと呼ばれている。まだ 食べられるにもかかわらず廃棄されてしまう食品(いわゆる食品ロス)を削減する取り組みであり、日本政府もその活動を支援している。2002年に活動が開始され、現在は数十の団体が全国で活動を行っている。

フードバンクの活動が始まったのは1960年代のアメリカである。まだ食べられる食品がスーパーで大量に破棄されていることを聞き、ヴァン・ヘンゲルがこうした食品を寄付してくれるよう頼み、生活困窮者に供給したのが始まりである。現在アメリカ最大のフードバンクのネットワークはFeeding Americaであり前米に200の会員フィードバンクを持つ。最初は捨てられる食品の有効利用として始まったが、今はバランスの取れた食品提供が重要視されている。寄付や行政機関からの助成金などで運営されている。また農務省が農家等の生産者から買い上げた余剰農畜産物の提供も受けている。

フランスのフードバンクはアメリカのフードバンクをモデルとし1984年に始まる。
フランスにおける生活困窮者への食糧援助政策は、EU による PEAD(最貧困者援助 欧州. プログラム、Programme Européenne d'aide aux plus démunis)とフランス政府 による. PNAA(食糧支援国民プログラム、Programme national d'aide alimentaire)の 二つから. 構成される。また国内の小売業者や生産業者からの寄付や一般市民からの寄付も活発に行われている。例えば2013年には、国民寄付によって2,500万食に相当する食料品が集められた。

その他、ヨーロッパ各国、カナダ、オーストラリア等世界各地でフードバンクの活動が行われている。

ミニマムサプライでは民間に頼らず、国が直接フードバンクの活動を参考にしながら食品など生活必需品の配布や居住地の提供を行い、生活保護費と組合せながら運営していくものである。

無料低額宿泊所とミニマムサプライ

食糧や生活必需品に加え考えなければならないのが住居である。これに関して日本には無料低額宿泊所というものがある。これは1951年に受け入れ開始し生活困窮者のために無料、または低額で住む場所を提供する社会福祉事業である。個室の床面積は7.43㎡以上、使用料は月5.37万円以下と定められている。しかし現実は生活保護費のピンハネが横行、劣悪な居住環境になっている場合が多くある。現在首都圏を中心に全国537カ所、入所者1.56万人、生活保護受給者 1.41万人となっている。国が定めた基準を満たさず、生活保護費をピンハネするケースがあり問題になっている。
男性Aの宿泊所の例:
木造階建ての空き家をベニヤ板で区切り30人が暮らす
月額約13万円の生活保護費の9割を居住費と食費として徴収される。

一方で、うまくいっている例もある。例えばさいたま市のNPO法人「ほっとポット」である。空き家の戸建て民家16軒を使った施設を運営している。計69人の高齢者らがグループホームの形態で生活し、全部屋個室である。社会福祉士が継続的に訪問し、専門性のある生活支援も行い、個々の能力に応じた生活安定を目標に生活支援もする。

このような成功例をベースにして、国が空き家を買い取って、無料宿泊所を提供するとするシナリオを考えてみよう。食糧や生活必需品等は無料の国営商店から調達する。このようなシステムを最初は小規模につくり成功実績ができれば全国に広めることにより、生活保護費に多少プラスした程度の費用で多くの生活困窮者が救えるのではないだろうか。

2017年2月現在、生活保護を受けているのは163万世帯、214万人であり全体の1.69%である。生活保護費は総額3.7兆円でその約半分は医療費となっている。

食糧配布、生活用品配布、住居提供を生活保護費を活用しながら効率的なシステムを確立すれば、生活困窮者を救う強力な手段となるし、増え続ける社会保障費の効率的な運用にも繋がる。これをベースに「労働はロボットに、人間は貴族に」という社会を構築していけばよい。

既存の小売店への影響を少なくする方法

無料の国営商店ができれば、既存の小売店には一定の悪影響が生じる。その悪影響を最小限にするよう国は努力すべきである。売上げが落ちて廃業に追い込まれる小売店が出てくるかも知れないが、流通・小売全体としてみれば生産性は上昇するのであり、転職がスムーズにいくように財政支援をすればよい。少子高齢化が進む中、転職は人手不足の解消に役立つ。ただ、あまり急激な変化はよくないのだから、この国営商店は少しずつ広がるようにすべきである。事前に登録された生活困窮者のみが一定の量だけ配布を受けられるようにする。入り口で顔認証でチェックし無人化を図る。このような商店から遠い過疎地であれば、無人の自動運転トラックに巡回してもらえばよい。

現在は過疎に悩む地方自治体が空き家を安く提供し移住を支援する空き家バンクというものがある。場所によるが、このように過疎に悩む地方自治体とタイアップしてミニマムサプライを実現できる可能性がある。フルタイムの職に就けない人でも、このような過疎の村で、自分で食べるための野菜くらいは育てられるかも知れない。

ベーシックインカムvsミニマムサプライ

ベーシックインカムには様々な問題がある。例えば国民全員に毎月1万円配ると言っても簡単ではない。住所も銀行口座も持たない人にどうやって1万円を渡すのか。重複して受け取るのをどうやって防ぐのかなどの問題がある。2014年度には地域振興券が配られた。
振興券の総額        9511億円
新規消費喚起額      3391億円
財政出動した経費     2372億円
実質的な消費喚起効果   1019億円
となっており、意外と経費が掛かっていることが分かる。ばらまきだという批判もあるだろうし、理由が分からないお金は受け取りたくないという人もいる。月1万円では生活できないと生活困窮者は言うし、それでも14.4兆円という巨額の財源が必要となる。中流階級の人には1万円でも少し助けにはなるのだが、財源が税金だとすればプラスマイナスゼロだ。いや税金で徴収する費用と1万円を配布するために莫大な費用がかかることを考えればトータルでは大きなマイナスだ。

これに対してミニマムサプライは数々のメリットがある。
①ベーシックインカムに比べればはるかに少ない経費で実現できる。
②生活保護費と組み合わせることが可能で、生活保護費に若干の費用を加えるだけで良い。
③生活困窮者に適切な支援が可能となる。
④フードバンクや無料低額宿泊所での成功例をベースとして徐々に支援を拡充することができる。
⑤破棄していた物の有効利用になり廃棄物を減らすことも可能となる。
⑥一部の小売業の経営を圧迫するが、逆に小売・流通の大規模化が進み生産性の向上に資するとすれば、国を豊かにするのに役立つ。

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コメント

 今日は。higashiyamato1979です。これらが実現すれば日本の貧困問題は劇的に改善するでしょう。
 それでは決まり文句! お金が無ければ刷りなさい! 労働はロボットに!人間は貴族に!

投稿: higashiyamato1979 | 2017年12月24日 (日) 16時24分

無料スーパーがオーストラリアに誕生したみたいです。
https://www.asahi.com/articles/ASK775T1GK77UHBI037.html

会長の先見の眼は素晴らしいです。

投稿: MAN | 2017年12月29日 (金) 04時03分

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