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2018年1月

2018年1月28日 (日)

内閣府計量分析室(オオカミ少年)が新しい試算を発表した(No.288)

2018年1月23日に内閣府より『中長期の経済財政に関する試算』が発表された。成長率予測が高すぎると経済財政諮問会議から批判され、全要素生産性を下げて成長率を下げたようである。どれだけ下げたかは図1で分かる。

図1

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黒の実線が今までの名目GDP の実績であり、点線が今回の予測である。ほんの僅かの下げだと分かる。名目GDPは2027年度には757.9兆円にまで増大する予測だ。この図で明らかなように、3%成長するのだと政府が言っているからそれに忖度する義務があり、それ以外の結果を内閣府計量分析室は出せない。その結果3%成長の試算を出すしかないのだ。名目GDPは2001年度518兆円だったのだから、その後ずっと3%成長を続けていたら2018年度には857兆円になっていたはずだ。世界の中ではこれでも低すぎるくらいの成長率だから、如何に日本経済が停滞しているかが分かる。

成長率を高めるには減税や歳出拡大をすればよいだけだ。そうすれば基礎的財政収支が悪化するから反対する人がいる。今回の試算で基礎的財政収支がどうなるかを示したのが図2だ。2026年まで赤字は続く。しかし赤字でも債務のGDP比(右目盛り)は下がり続けるというのが試算結果である。

図2

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ここから重要な結果が導かれる。債務のGDP比は基礎的財政収支が赤字であろうと黒字であろうと関係無く下がり続けるということだ。逆に債務残高は基礎的財政収支が赤字でも黒字でも増え続ける。どこの国でも同じだ。日本以外は債務残高の増大をそれほど気にしていない。なぜなら名目GDPも同時に増え、債務残高のGDP比はそれほど増えないからである。ということは基礎的財政収支など財政健全化には関係ない。債務のGDP比を下げることだけ考えれば良い。

図3は長期金利の推移と内閣府の予測との比較である。実績は黒い実線、今回の予測は黒い点線で示してある。それと共に2002年以降、各年の試算で予測された金利も示した。

図3

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笑ってしまうのは毎年金利が急騰すると予測し、実際はジリジリ下がり続け遂にゼロにまで下落したということだ。この試算が如何に馬鹿馬鹿しいものか、もしこんな失敗を気象庁がやったらどうなるだろう。天気予報で「明日から1週間程度は急激に気温が上がり続けるでしょう」と予報を出し同じ予報が17日間も連続で出されたとする。実際はこの17日間ジリジリ気温は下がり続けたら国民は何と言うだろう。どうしてこんな馬鹿な予報を出し続けるのかと問うと「総理大臣が気温が上がって欲しいと願っているからその願いに添うような予測しか出せないのです」と答える。各省庁はこの予測通りになると仮定して政策を策定し、マスコミもこの予測が正しいとして論評する。

これが気象庁の予報であれば、税金を使ってこんな予報など出さなくて良いと言われるに違いない。しかし経済予測の場合、国民もマスコミもこの試算が何か意味があるものと思い込んでしまい、緊縮財政が必要だと勘違いし20年もの間デフレから抜け出せなくなってしまい経済を衰退させてしまった。このままでは日本はどんどん貧乏になる一方だ。財政健全化と景気回復を同時に実現する方法を内閣府では示している。次のサイトの6頁を見て頂きたい。
http://www5.cao.go.jp/keizai3/econome/ef2rrrr-summary.pdf
公共投資を5兆円増やせば債務のGDP比は1.65%PTだけ減ると書いてある。これは公共投資だけに限らず、あらゆる政府支出について言える。内閣府にこのことを言うと、5年後には逆に債務のGDP比は増えると言う。図1を見て頂きたい。内閣府の5年後の予測は全く当たらない。信頼できるとすれば1年後だ。1年後にまた同じ検討をすればまた同じ結論に達し、それを5年間続ければよいだけだ。つまり減税・歳出拡大をすれば景気が回復するだけでなく財政も健全化する。

今からでも遅くない。減税・財政拡大をして消費を拡大し、デフレ脱却、経済活性化を実現し豊かな国の再建を始めようではないか。

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2018年1月26日 (金)

内閣府試算の詳細を内閣府に説明してもらいました。(No.287)

2018年1月23日に内閣府より『中長期の経済財政に関する試算』が発表されました。これに関して更に詳しい内容を内閣府の方に説明して頂きました。

Q 来年の消費増税をした場合としない場合の比較の試算は出しているか。
A 出していない。法律で消費税は上げることが決まっているから。
Q 2014年の5%から8%への引き上げの際は出した。
A 当時は引き上げが決まっていたわけでは無かったから。
Q 今回の試算で実質成長率は
2017  1.9%
2018  1.8%
2019  1.4%
2020  1.5%
というように、消費増税を行った結果成長率は下がっている。消費増税による消費の落ち込みによるインパクトか。
A 17年度の補正予算が18年度にかけて執行される。その先補正予算が無くなるので公需の剥落という面がある。消費税の影響は大きくないとは思うが切り離すことは難しいので何%分と示すことは難しい。
Q 今後補正予算は無いということは決まっているのか。
A 無いこともあることも決まっていない。18年度は当初予算しかないので無いとして計算した。
Q 景気を落ち込ませないように補正を組もうという動きはありますね。
A 我々には分かりかねる。18年度の当初予算で続いていくという絵を置いている。
Q 半年前の試算の実質GDPは
2017  1.5%
2018  1.4%
2019  1.8%
2020  1.9%
こちらは消費増税をしたら実質成長率は上がってしまった。
A 17,18年度に関しては政府経済見通しを使っていて低く出ていたが、17年度の7-9期の数字が出てきて上方修正されたから今回の試算でもそれが反映された。我々は「見通し」からデータをもらっているだけ。19、20に関しては、潜在成長率が高すぎるという御指摘を頂いた関係で下げた。その関係で成長率が下がった。成長率は全体的に下がっている。
Q 今後潜在成長率はずっと下がると仮定したのか。
A 上がり方を少し弱めるということです。夏の試算だと2.4%まで上がっていくとしていたが、今回は2%に留まるとしている。
Q 潜在成長率を変えればそんなに大きく実質成長率が変わるのか。
A はい。大きく変わります。
Q 2.4から2.0に下げたのは未来永劫下がると言うことか。
A 試算期間ではそう仮定している。一定の前提を置いた場合どうなるかを示した。
Q 潜在成長率を下げる客観的な理由はあったのか。
A 潜在成長率を決めるものとして資本、労働、全要素生産性の3要素がある。全要素生産性は経済財政諮問会議の議論に使って頂くために出しているが、経済財政諮問会議から上がり方が急では無いかというご意見を去年頂いた。そこで今回見直した。
Q 全要素生産性を下げたということは、過去のデータがいつも上振れしているということ、なかなか3%成長にはいかない。過去20年間遡って考えて内閣府では3%いくんだということを想定して作っているが実際はとてもそこまで行っていない。20年間名目GDPはあまり変わっていない。そういうことを考えてもっと全要素生産性を抑えた方がよいということだったのか。今まで全要素生産性をサバ読んでた?
A 経済財政諮問会議の意見に従う。今経済がどうであり、これからどうなる、その場合これからの財政状態をどうするというためのものですので、諮問会議の議論を踏まえて見直していくと言うことは結構あるということです。
Q 過去のデータを組み入れてということはしないのか。
A もともと過去のデータを組み入れて、例えば物価ですとバブル前の生産性に戻りますというような置き方をしたんですが、それぞれ過去のデータを参照していたということですが、参照方法を少し変えたということです。
Q 戻りますといいながら根拠なしに戻りますと言ってますね。しかしずっと戻らなかったですよね。戻らないんだからもう戻らないよと言った方が、ほとんど成長しないと言ったほうが当たっていたんですけどね。本当はね。
A まあ、当たっている部分と当たっていない部分はあるんですけど。
Q 当たってないですよ。3%成長はなかなかしなかった。
A 名目3%成長は ・・・ 2015年は名目3%成長したけど
Q 15年は原油価格が下がったから。原油価格の下落でGDPが押し上げられてますよね。
A その通りです。
Q あれはたまたまであってあれを持ち出すのはちょっとまずいと思う。
A そうです。
Q あの調子で今後も原油価格は下がりますか。
A 下がらないですね。原油価格がゼロになっちゃいます。おっしゃる通りでございます。
Q ありえないんで、あれはたまたまラッキーなのであって、アベノミクスの成果とは言えない。
A そういう面はあるかもしれない。
Q そういう外的要因がないと仮定すれば3%成長しないと客観的には見える。
A それは将来への目指すべき姿、政策効果が出ればと言うことで、成長実現ケースと今回名前をちょっと変えてますけど、昔は経済再生ケースと言ってました。3%成長するというケースです。こちらはそれを目指して政策をやっていく、それが発現した場合というケースいうことでして、もう一つ成長しない、全く成長しないというわけではないのですが、足下程度続きますというベースラインケースもお示ししておりまして、隠し続けたということではない。
Q まあ、2つ出してますが、自分はこう思うというもの、例えば気象庁の予測はあたっている訳です。
A 気象庁も幅を持って見てますけど。
Q 気象庁はいちばんありそうなケースだけを示しているわけですね。
A まあ、そうですかね。
Q 最大限こうなりそうだという予測を出すのも必要なのではないか。こうなりたいなという願望も出してもよいけど、最大限正しい予測も出して欲しい。
A 予測という品質では必ずしもない。
Q そう見えます。
A ええ、見えちゃえば仕方ないですけど。
Q 政府も各省庁もこれをベースに政策を作っているでしょう。だから将来こうなるという予測が欲しいですね。昨日の読売新聞にももっと信頼できる予測はできないのかと社説にありました。こうなるという信頼できる予測があれば安心して消費ができる。20年間、3%成長したかといえば全然3%成長していない。零点何%という低い成長率であるのに、毎回3%成長だという勇ましいことを言ってきた。金利を見てもすぐ上がるんだと言いながらずっと上がらない。今回はだいぶ修正されている。予想が外れてる。
A 予想しているわけでは無い。
Q 予想しなければダメです。政府の願望はこうだと言ってもらったって、それは今まで願望が実現してませんから。実現しない願望を何度言ってもしょうがない。
A まあ、そうでしょうけど。
Q 願望じゃあなくて見込みも出して欲しい。
A なるほど。
Q 願望ケースと見込みケースを出して下さい。
A 願望ケースと見込みケースですか。なるほど。
Q そうすれば、政府はどうやれば願望に近づくか分かるから真剣に考えると思うんです。今のように出してしまうと何もしなくても願望が実現するのかと誤解してしまいます。
A 御指摘有り難うございます。
Q ところで基礎的財政収支は半年前から悪化しているように見えるのですがなぜですか。
A 新しい経済パッケージで消費税を19年に10%に引き上げるときに人造り革命例えば幼児教育の無償化とかの政策になります。そのための財源として消費税増収分の一部を充てましょうということが決まってます。今回それを織り込みまして19年度以降歳出が出て行くようなことになっていて歳出が増えている。あとは成長率が下がると税収が少し下がる。その分で下げている分というのはあります。この2点になると思います。
Q 2018年に限ると、1.4%から1.8%に成長率は上がっている。人造り革命も関係無い。
A 18年度に関しましては17年度の補正予算が編成されて、執行のタイミングで、公共工事などはすぐにはなかなかできない。3か月で物を作れと言われてもなかなかできない。翌年度に執行される。歳出はいつかということ、成長率は上がっていてもそれほど工事は進んでいない。その点PBは成長がよくなっても悪化するということが起きている。
潜在成長率が下がれば成長率も下がり税収も下がる。
Q 基礎的財政収支の黒字化目標は何回も延期されている。最初は小泉さんが2011年度に黒字化すると言っていたが実際は2011年度は大赤字だった。それを2020年度にまで延期した。それも達成できないことが明らかになったので2025年度に延期し、それも達成できないから今度は2027年度だというんですね。
A 目標自体は2011年度と2020年度になっている。今回消費税の使途変更もあり2020年度は難しいですね、だから次の目標を考えて下さいということになっているのが事実です。試算での黒字化と黒字化目標とは必ずしも一致しない。
Q ただ試算結果は2027年度でなければ黒字化しないということですね。
A 歳出は、例えば公共事業は物価で伸びますとか、医療費・介護費とかは物価と共に年寄りが増えると医療費が上がるといった効果を織り込んだざっくりした試算になっている。我々は歳出自然体と呼んでいる。歳出改革を今進めている。その効果は入っていない。
Q 歳出改革と言いますが、歳出を削減すればするほど財政は健全化するのかという点に疑問に思っている。歳出改革と称して歳出削減をするといつまで経ってもデフレから脱却できない。そうなると税収も増えないしGDPは伸びないから債務のGDP比も下がらない。デフレ脱却をしようと言っているのに歳出を削減するのは本末転倒ではないかという気がする。
A 歳出を減らすことによってGDPは下がる。歳出改革とは単に減らしましょうということではない。
Q 減らすこともやりますね。減らせば借金が減るのではないかと誤解している人がいる。GDP比で減るのかというとなかなかそうはいかない。以前は乗数としてそれを出していた。公共事業を減らせばGDPも減り、債務のGDP比は逆に増える。
A そういう乗数は出していなかったと思います。
Q 出しています。2010年に出しています。
A 確かに初年度は債務のGDP比は増えます。5年目を見ると減っている。GDPを減らしても民需がカバーして戻ってくる。
Q 内閣府の試算をみれば5年後の予測など今まで当たったことがない。まるでデタラメな結果だ。ということを考えれば1年づつ計算したほうがよい。1年間だけ考えれば間違いなく公共投資を増やした方が債務のGDP比は減る。1年後にまた乗数を計算し直してみるとやはり公共投資を増やした方が債務のGDP比は減ると分かる。
A それは同じ結果になると思いますよ。
Q 同じにはなりません。毎年新しく計算すれば公共投資を増やしたままにしておいたほうが債務のGDP比は減っているという結果になります。乗数というのは毎年そんなに大きく変わりません。内閣府の文書にも書いてあります。長期予報は当たらないと。気象庁でもそうです。
債務のGDP比は今後下がって行くというのが内閣府の予想ですね。
A はい。
Q 基礎的財政収支は赤字が続いていくが、債務のGDP比は下がって行くのだからもう基礎的財政収支は関係無いのではないか。今後基礎的財政収支は無視していいのではないか。
A そういう御指摘ですね。どうでしょう。債務残高は増えますね。
Q はい。でもGDPのほうがもっと増えます。
A 金利はどうでしょう。
Q 金利は抑えることになったのでしょう。
A はい。でもそれは2%のインフレ率になるまでです。
Q 金利は最大限抑える。そうすると基礎的財政収支は気にしなくて良い。イケイケドンドンで財政を拡大せよ。何かまずいですか。デフレ脱却が簡単に実現できます。
A 金利ゼロですか。金利は基本的には市場で決まっていく。
Q でも日銀はゼロ程度に金利を誘導すると黒田総裁は言っておられる。
A それもいつまでもというわけではない。
Q 当分の間です。実際今回の試算では0%程度に下げることにしたのですね。2009年度まで0%、2020年度に0.4%というようにがんばるのですね。
A がんばるというか物価が上がってこないのでがんばらざるを得ないということですね。
 インフレ率が2%になるまでは金利を抑えるようにしてますが、それ以降はモデルで金利を決めている。日銀が使っている金利決定ルールに従うというようにしている。
Q デフレ脱却がずっと達成されない。小泉さんのときからずっとデフレ脱却を言ってましたね。デフレ脱却が願望に終わって夢が実現しない。だからここで一気にやってしまう。それをやらず、増税や歳出削減をやる。ぐずぐずやってたらずっと続くわけでしょう。なかなか可処分所得が上がらない。だから消費が伸びず本格的な景気回復ができない。これをずっと続けている。そろそろこのへんで終止符を打ったらどうですか。
A 試算は政府の方針を続けたらこうなりますというもので、各論というか何をすればこうなりますということはお答えできないということになります。
Q どういう政策をすればよいかを教えるのがこの試算の役割だと思う。政府の今の政策を続けていたらいつまでたってもデフレ脱却はできない。ではどうすればよいのかというときに、こうしたほうがよい方向に向かいますよというのを示す必要があると思います。新しい乗数をだしたらどうですか。乗数を隠しているのは問題ですよ。狂った羅針盤と言われているので、それを修理して正しい羅針盤を出して欲しいです。
A はい。検討しています。
Q 消費増税の税収の一部を歳出に使うと言っているのでその分が拡大するのかなと思ったがそうなっていない。
A 2020年度の社会保障関係費に入っている。
Q 歳出は前回に比べ減らす傾向がある。
A 予算がこうだったからこうなったということ。
Q 潜在成長率を下げた分、全部が下がったということか。歳出も歳入も
A まあそうですね。歳出は下がったし歳入は下がった。PBは悪くなった。
  ご意見のほうは承りました。
Q 乗数は出して欲しい。もう随分だしていない。
A はい。検討はしています。

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2018年1月22日 (月)

デフレ下の緊縮財政政策は間違いだった(No.286)

日経平均は1989年12月29日に38915円の高値をつけたが、その後暴落し一時6994円まで下がった。最近やっと23000円台にまで回復したが、これでは失われた30年だ。名目GDPもこの20年間ほとんど変わっていない。政府はアベノミクスの成果を強調するが、経済予測の41人の専門家(機関)による2019年度実質成長率の平均が僅か0.77%でしかなく、世界中で際立って低い成長率だ。全く情けない。

 

一方アメリカ経済は好調で、経済音痴で構造改悪とも言える保護主義を唱えているトランプ大統領だが、大規模減税など積極財政で経済を刺激し高成長率であり、株価も史上最高を次々更新している。日本でも大規模減税や歳出拡大をすれば、同じように好景気になるし、インフレ目標達成、デフレ脱却、賃金上昇、税収増大は簡単に実現できる。なぜやらないかと言えば、国の借金におびえ、間違った経済理論が蔓延してしまっているからである。間違いが証明された例は数多くあり列挙してみよう。

 

①クラウディングアウト説:政府がカネを使うと民間の資金を奪い金利が上昇すると言われていた。日銀がお金を刷って国債を買えばよいだけで、今は日銀も政府も金利は制御可能であると認めているから明かに間違いだった。

②日銀券ルール:2001年に日銀券ルールなるものが設定された。これは日銀が保有する長期国債の残高を 日本銀行券の流通残高以下に収めるという政策上の自主ルールであり世界的に例が無い。日銀がお金を刷って国債を買う。これがある限度を超えて行うとハイパーインフレになるのではないか心配してこのような規則をつくって守ってきた。しかし、黒田日銀総裁はこのルールを停止し大量の国債買い入れを始めた。2018年現在、このルールの限度額を大きく超して日銀は国債を購入したが、ハイパーインフレどころかインフレ率1%にも達していない。明かに間違った政策だったことが証明された。

③2011年3月2日当時の日銀総裁の白川氏の財政金融委員会で国債を大量に日銀が買うとハイパーインフレになると発言したが、間違いだったことが証明されている。

④2013年9月6日黒田日銀総裁は増税を先送りして金利が急騰するリスクについて「万が一そういうことが起こった場合の対応は限られる」と発言、「どえらいリスクになる。」と言ったが、これも間違いだった。

⑤1982年、鈴木善幸総理は「財政非常事態宣言」を出したが、国の借金は現在の10分の1程度で全く非常事態ではなくこの非常事態宣言は間違いだった。

 

日本人は通貨増発を過度に恐れ、国の借金が怖くてたまらない。上記の①~⑤は明確に間違いだったことは誰の目にも明かだ。冷静に考えれば恐れるものは何もなくて、国の借金も現在日銀がお金を大規模に刷って一気に返済しているところだ。後は、国債をもっと発行し減税・財政拡大をすれば、経済は成長軌道に戻りかつての繁栄していた頃の日本が戻ってくるのだが、借金恐怖症がそれを許さない。国の財政を家計に例える話がいつも出てくる。日銀がお金を刷って借金返済を行っている事はその話の中には絶対に出てこない。中学公民の教科書にすら国債は国の借金だからいつか返さなければならないと教えている。国債を政府が発行し日銀がお金を刷って市中から国債を購入することは、通貨を増やす役割があり、それは経済を拡大するための成長通貨を供給するという役割もあるのだということも教えるべきだ。

 

財政健全化をいう言葉で日本経済を20年間も衰退させて来た。今こそ積極財政政策に転換し、成長する経済を取り戻すべきではないか。

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2018年1月 9日 (火)

三橋貴明逮捕の報道は悪質で異常(No.285)

三橋氏逮捕の報道が大げさに新聞各紙、テレビ等で一斉に流れた。しかし実態はどこにもある夫婦喧嘩にすぎず、喧嘩でカッとなって警察に電話し被害届を出したが、その後妻はそれを取り下げ一件落着しただけ。あのような大げさな報道は相応しくない。「夫婦喧嘩は犬も食わぬ」ということわざがある。何でも食う犬でさえ見向きもしないという意から、夫婦間の細かい内情などは 知りがたいものだし、すぐに元に戻るようなことなのだから、ほうっておけばよいということ のたとえだ。

夫婦喧嘩は通常夫婦で解決すべきことであり、警察も外部に漏らしてはいけないはずだ。ましてやこのように日本中に大げさなニュースとして報道されるべきものではない。あらゆる夫婦喧嘩をこのように扱うのであればまだしも、三橋氏だから意図的に情報をマスコミに流したのではないか。夫婦間の事は余程詳しく事情を知るのでなければ、外部の者は推測で口出しすべきではないのではないか。

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2018年1月 8日 (月)

政府も日銀も国債暴落はあり得ないと言っている(No.284)

茂木経済財政・再生相は2018年1月5日の記者会見で、中長期の経済財政試算の前提を見直す考えを表明した。日銀が長期金利をゼロ%程度に誘導する金融政策を続ければ今の想定より金利が低く抑えられる可能性があり、今後の試算に反映する方向で検討するとのこと。これは日銀が長期金利をゼロ程度に誘導できることを政府が認めたということであり、事実上国債の暴落はあり得ないと言っているのに等しい。

今までは日銀が金利をゼロ%程度に誘導しているのにもかかわらず内閣府は金利が急上昇する予測を出していた。筆者は内閣府計量分析室に電話し、それは非現実的でありゼロ金利への誘導を内閣府の試算に反映させるように話した。内閣府は「検討します」との返事だった。福田議員に「これで国債の暴落は起こり得ないことに同意するか」と質問主意書で聞いて頂くようお願いした。安倍総理からの答弁書:内閣衆質192第18号 平成28年10月7日は次の通りだった。
「国債の価格は、金融政策のみならず、経済・財政の状況等の様々な要因を背景に市場において決まるものであり、その動向について言及することは市場に無用の混乱を生じさせかねないことから、国債の価格の動向に関するお尋ねにお答えすることは差し控えたい。」

つまり政府は「国債暴落」という「増税を認めさせるための殺し文句」を失いたくないということだろう。長期金利は日銀が決めるのでなく市場が決めるのだと言い張った。しかし日銀は違っていた。我々の追求の効果があったのか2016年11月7日にホームページを書き直し長期金利は操作できるとした。

書き換えの前:
長期金利の水準は「人々の予想や将来の不確実性に左右される」として、操作が難しいとしていた。また長期金利は「なるべく市場メカニズムに委ねることが望ましい」とも書いていた。
書き換えの後:
マイナス金利と大規模な国債買い入れの組合せが、長短金利全体に影響を与えるうえで有効だとわかった。

そして今回の茂木大臣の発言は政府もやっと白旗を揚げ長期金利は日銀が制御可能であり、国債の暴落はあり得ないことを事実上認めたことになる。そうであればもはや積極財政に反対する理由は何も無くなった。国債の暴落があり得ないということは国債や通貨の信認が失われることはないということだ。積極財政は世界の中で際立って低い日本の成長率を高めデフレからの脱却を可能とし、可処分所得の増大で消費を刺激し国民は好景気を肌で感じるようになる。

金利を低めに設定するとGDPをより高くできる。でも過去の内閣府の予測をみると実際よりはるかに高い成長見通しを出して毎年下方修正をしている。その悪弊だけは修正して頂きたい。

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2018年1月 6日 (土)

内閣府計量分析室(オオカミ少年)は忖度があったと認めた(No.283)

内閣府は毎年2回、経済予測を発表している。これは単なる予測ではない。各省庁が将来計画を立てる際、すべてこの予測をベースとして計画を立てる。また、マスコミが国の財政などを論じる際はこの経済予測を必ず引用するし、別のシンクタンクの予測を引用することはないし、比較することすらしない。つまり我が国においては絶対的な存在であり、この点においては独裁国家の元首の「鶴の一声」的な存在である。

それではこの経済予測は日本経済学会が日本を代表する頭脳を集めた極めて正確な経済予測になっているのかというと、全くそのようになっておらず、実は小学生でも分かるほどの単純な間違いの連続になっているのだ。この内閣府の間違った経済予測が日本経済の衰退を招いている。この予測を行っている内閣府計量分析室は「オオカミ少年」と呼ばれており筆者は厳しく批判し続けている。

このような経済予測はたくさんの方程式を立てるのだが、その一つ一つがどれだけ信頼できるかを見るのが決定係数R2Cである。この係数は0から1の間の数値であり、1に近いほど信頼度が高い。通常このような予測をしようとしたら、0.8以上であるべきだとされている。例えば内閣府(2005)で発表されたシミュレーションは極めてお粗末なものだった。例えば住宅投資の方程式を見るとR2Cの値はなんと0.068である。このように途方もなく信頼度の低い方程式を使ったシミュレーションを発表することは、内閣府の信用を著しく落とす。ちなみに経済企画庁(1995)では住宅投資の方程式のR2Cは0.926となっている。この内閣府の予測が全く信頼に値しないことについては、次のサイトで更に詳しく分析されている。
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2010/10/no5-34a0.html

筆者がこのことを指摘した後、内閣府は若干改良したようだが、お粗末な中身を見られては困るのだろう。2010年の発表を最後に決定係数も方程式も発表しなくなった。
http://www5.cao.go.jp/keizai3/econome.html

内閣府は毎年1~2回経済予測を発表している。名目GDPの予測と実際の値の比較を図1で示した。GDPの計算方法は2016年に企業などの「研究開発費」を加える方式に改訂された。これにより2015年度のGDPは31兆6000億円かさ上げされた。黒の実線が旧基準でのGDP、灰色の線が新基準のGDPである。両者供ほぼ水平であるからこの間ほぼ成長しなかった事を示している。年間の平均成長率は0.18%であり、世界最低である。このように成長しない経済の成長率を予測するのは小学生でも分かる。物差しを持ってきてほぼ水平な線(ゼロ成長)を引けば良いだけだ。

図1

1831


驚くべき事に、内閣府は巨額の税金を使って名目3%成長というあり得ない成長率を仮定して予測を毎年行っているのであり、図に示されたような右上がりの曲線を予測した。もちろん、上記で述べたように小学生が物差しで水平な線を引くだけの単純な予測の方がはるかに正確な予測となるだろう。しかもこのような馬鹿な予測を十数年間続けているのである。内閣府は将来予測のできない無能な人間の集まりかというとそうではない。内閣府計量分析室に聞いて頂ければすぐ分かる。彼らは総理が名目3%成長したいと言っているのを聞いてそれに忖度しているし、内閣府計量分析室はそれを認めている。

2007年7月6日と7日に日本経済研究センターでマクロモデルの専門家が全国から集まって研究会が開かれ筆者も参加した。ここでは内閣府の人たちも参加しており、直接議論ができ筆者は内閣府のモデルを徹底追求した。会の後日経センターの人から私に電話があった。内閣府が日経に対し筆者を二度と研究会に参加させるなと言っていると伝えた。もし参加させるなら内閣府は今後研究会はボイコットするとのことだし日本経済研究センターとしては内閣府の命令には絶対に逆らえないようだ。内閣府は筆者による追求で追い詰められていることは間違いない。堂々と反論する自信がないということだ。筆者に協力的な国会議員は多数おり、その方々に政府に質問して欲しいと度々お願いしている。苦しい答弁が政府から返ってくるのだが、質問した議員に二度と質問するなと政府が圧力を掛けてきたこともあった。また筆者の経営する会社に「通常でない」税務調査が入ったこともあった。顧問税理士によればこれは明らかに会社の調査でなく筆者自身の身辺調査を行ったのだという。財務省からの圧力だったのだろう。

長期金利の予測も同様であり、図2のグラフで内閣府の予測と実際の金利が全く乖離していることが分かる。内閣府に言わせるとインフレ率は政府に忖度して2%にせざるを得ないし、長期金利はインフレ率に連動して動くのでやはり忖度して決められるから、現実離れしたものとなる。筆者は2016年9月に内閣府に電話し次のように質問した。

質問:いいですか。日銀は無制限の買い切りオペを指し値でやると言っているのですよ。だったら、0%に固定できるに決まっているではないですか。異次元の金融緩和を始めたのはずっと前のことです。毎年、80兆円も国債保有額が増加するように買いオペをやっているわけで、それが長期金利に影響しないわけがないでしょう。

回答:はい。影響はあるとは思いますが、影響を検討して来年発表することになると思います。

質問:いいですか。7月に発表した試算が無意味になったのですよ。金利を0%に固定する場合と金利がどんどん上がっていく場合で、結果は全然変わってきます。金利が0%に抑えられていれば、成長率も上がってくるし、物価も押し上げ、国債費は減ってきます。マスコミとかでもいつも取り上げられる2020年度の基礎的財政収支のマイナス幅ですが、このモデルで出された結果がいつも引用されているわけです。もはやこの結果が無意味なものになった現在、直ちに計算し直して発表すべきです。

回答:結果をまとめるのに時間がかかりますので直ぐは無理です。

図2
1832



果たして彼らはちゃんと検討したのだろうか。彼らの長期金利の予測がどう変わったか見てみよう。

       2016年7月    2017年1月
2016年    0.3(%)     0.0(%)
2017年    0.8(%)     0.0(%)
2018年    1.7(%)     0.5(%)

茂木経済財政・再生相は2018年1月5日の記者会見で、中長期の経済財政試算の前提を見直す考えを表明した。日銀が長期金利をゼロ%程度に誘導する金融政策を続ければ今の想定より金利が低く抑えられる可能性があり、今後の試算に反映する方向で検討するとのこと。再三我々が忠告した成果があったのか、進歩はしているようだ。これで内閣府も政府も長期金利は日銀が制御可能と結論したと見なしてよいということか。もしそうなら国債は日銀が指し値オペでいくらでも購入できるのであり、暴落はあり得ないと結論される。つまり積極財政を行えば国債が暴落するから積極財政はすべきでないという論理は完全に破綻することになる。このことに関し福田議員に質問主意書で聞いてもらった。

質問:日銀は2016年9月21日、金融緩和の目標を長期金利を0%程度とする金利目標に変更した。長期金利を0%程度とする金利目標は、国債価格支持政策であり、日銀が指定する利回りで国債を買い入れる「指し値オペ」などで実現する。これによって国債の暴落は起こりえなくなったと考えるが同意するか。
安倍総理からの答弁書:内閣衆質192第18号 平成28年10月7日
国債の価格は、金融政策のみならず、経済・財政の状況等の様々な要因を背景に市場において決まるものであり、その動向について言及することは市場に無用の混乱を生じさせかねないことから、国債の価格の動向に関するお尋ねにお答えすることは差し控えたい。
 日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、長期金利の操作を内容とする「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続するとしている。政府としては、平成25年1月22日に政府及び同行が共同で公表した「内閣府、財務省、日本銀行「デフレ脱却と持続的な経済成長の実現のための政府・日本銀行の政策連携について(共同声明)」」にもあるように、デフレからの早期脱却と物価安定の下での持続的な経済成長の実現に向け、政府及び同行の政策連携を強化し、一体となって取り組んでまいりたい。

質問:ということは日銀の金融政策は無効だという主張か。

安倍総理からの答弁書: 内閣衆質192第76号 平成28年10月28日
「日銀の政策は無効であり、日銀の目標にも拘わらず、金利が暴騰し国債が暴落する可能性」や「日銀の金融政策は無効だという主張」を述べたものではなく、また、内閣の「日銀に対する不信の現れや」「黒田総裁を再任する意思がない事の表れ」とは認識していない

ということで日銀は0%に長期金利を維持すると言っているのに、国債暴落は今後起こり得ないと断定することは控えたいようだ。しかし2016年と2017年の長期金利は日銀によりほぼゼロに抑えられており、長期金利は制御可能で国債暴落は起こり得ないと宣言すべきではないか。それにより国民の不安の一つが解消され消費拡大・景気回復に繋がる可能性もある。

いずれにせよ狂った羅針盤と呼ばれる内閣府の試算が日本経済を衰退に導いた。もし忖度せず、3%成長したいならどれだけの歳出拡大が必要だと総理に教えていたら、3%成長は実現しただろうし、3%成長が15年続けばGDPは250兆円以上増えていただろう。森友・家計問題で忖度によって国が被った損失があったのかもしれないが、内閣府による忖度で国が被った損失はその数十万倍の規模だということを国民は理解すべきだ。国会で議論すべきは森友・家計問題での忖度ではなく、内閣府の忖度だ。

内閣府に電話して、全然予測が現実と合っていないと追求すると、彼らは「これは予測ではなく目標だ」などと言う。それなら目標とは別に忖度しない予測も発表しなければならないはずだ。マスコミも政治家も内閣府試算が予測だと思っているからである。

内閣府のモデルに翻弄され続けた政府

総理の意向を忖度した内閣府の予測だが、間違い続け「狂った羅針盤」と呼ばれた。その狂った羅針盤に政府が従ったために日本は国際社会の中で没落を続けた。その没落を先導した一つが「基礎的財政収支黒字化目標」であった。「基礎的財政収支が均衡していれば、毎年の政策的な経費が税収などの毎年の収入でまかなわれていることになる。基礎的財政収支が改善していく方向であれば、国債残高対名目GDP比の上昇スピードは抑えられ、財政破綻にはならない」とされた。しかし通貨発行権を有する日本で基礎的財政収支がどうなろうと財政破綻にならないことは財務省のホームページに書いてある。
http://www.mof.go.jp/about_mof/other/other/rating/p140430.htm
そもそも江戸時代には改鋳で財政赤字を補ったわけで、通貨発行益を歳入に組み込まなかったら赤字続きだったわけだが財政は破綻していない。

致命的な間違いは緊縮財政政策を行えば基礎的財政収支(PB)は改善するという判断である。デフレ経済下で緊縮財政を行えばデフレは悪化し基礎的財政収支は改善しない。2001年から始まった小泉・竹中財政では「痛みに耐えよ」とのキャッチで国民に痛みを与えたが、基礎的財政収支の黒字化はできなかった。2006年1月に内閣府により発表された試算「改革と展望」では、「今の政策を続けていけば2011年には基礎的財政収支が黒字化(正確には赤字がゼロ)する」という試算がでていた。そこで小泉氏は「2011年度に基礎的財政収支を黒字にする」という馬鹿な目標を掲げた。内閣府試算が狂った羅針盤であることを知らずすっかり騙されたわけだ。デフレ脱却を目標にしながら緊縮財政を続けた。

当然のことながら、その後毎年見通しの大幅な下方修正を続けることとなった。
①2006年1月  PB黒字化可能と発表。
②2007年1月  PB黒字化は不可能、しかし14.3兆円の歳出削減を行えば
0.2%の黒字にできる。
③2008年1月  14.3兆円の歳出削減を行っても、0.1%の赤
字になる。
④2009年1月  2011年度の基礎的財政収支は2.9%の赤字。
            消費税を12%にすれば、2020年度に黒字にな
る。
  ⑤2009年6月  2020年度に黒字化するには消費税を13%にしなければな
らない。
  ⑥2011年1月  2020年度に黒字化するには22兆円の収支の改善が必要。
  ⑦2012年1月  2020年度に黒字化するには消費税を17%にする必要があ
る。
  ⑧2017年7月  2020年度に黒字化するのは無理。
小泉氏が経済が理解できていれば、毎年間違い続ける内閣府試算が「狂った羅針盤」なのだと気付いただろう。2011年度黒字化目標のために国民に痛みを押しつけたが、2011年度の基礎的財政収支は大赤字となった。その後2020年度に黒字化目標はシフトされたものの、その目標さえも無理だと宣言した。

単に内閣府計量分析室が忖度し、首相が間違えた政策を実行しただけならそれほど大きな問題にはならなかったかもしれないが、その結果生じた日本経済の没落は目に余るものがある。例として一人当たりの名目GDPの国際ランキングを以下で示す。

図3

1833


かつて一人当たりの名目GDPは世界一を争っていた。バブルを潰したことがきっかけで下がり始めたが、小渕内閣の積極財政で若干取り戻した。その後小泉内閣で最も大きく順位を下げた。小泉内閣の時代いざなぎ景気を超え戦後最長の好景気といわれていたが、この時期世界的な好景気で緊縮財政でなければデフレ脱却ができ、成長経済に戻っていただろう。諸外国が大きく経済を拡大する中、日本は取り残され一人当たりの名目GDPのランキングは大きく下がった。世界に占めるGDPの日本のシェアも株価時価総額の日本のシェアも大きく下がった。需要不足が日本の製造業を没落させ、アップル、マイクロソフト、グーグル、アマゾンなどのIT企業が大きく時価総額を増やした。これにより将来世代へ残す遺産が大きく毀損した。これらは内閣府試算=狂った羅針盤が引き起こす原因の一つになったことは否定できない。

消費増税に関する内閣府の予測

2014年度に行われた5%から8%への消費税率引き上げに関して、内閣府は予測をおこなっており、それは次のサイトの12頁に行われている。
http://www5.cao.go.jp/keizai3/econome/h24chuuchouki.pdf
内閣府試算で示された図を図4で引用する。

図4
1834

この図から分かるように内閣府は消費増税を行った場合と行わなかった場合で4年間の実質GDPの成長率の差は僅か0.1%(1.9%と1.8%の差)であると予測した。しかし実際は2013年度の実質GDP成長率が2.1%であったのに対し2014年度はマイナス1.0%に落ち込んだ。つまり僅か1年で3.1%も落ち込んだのである。3年間の累積で0.1%の落ち込みとの予測が実際は1年だけで3.1%もの落ち込みだった。
2013年10月1日財務省が発表した「平成26年度予算及び平成25年度補正予算のポイント」には補正予算についての説明がある。その規模は「来年度4~6月期に見込まれる反動減を大きく上回る5兆円とする」のだという(12頁)。
http://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia260128/01-01.pdf
甘利経済再生担当大臣は同じ日に記者会見をし、補正予算の規模について「来年度4-6月期に見込まれる反動減、4月に消費税を引き上げると駆け込み、そしてその後に反動減があるわけであります。その反動減を大きく上回る5兆円規模といたします。」と述べている。
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2013/1001/interview.html
これは「5兆円の補正予算で十分すぎるほどの対策を打っておきますから、4-6月期の反動減などありませんよ」と断言しているのである。実際は年率にして7.1%、つまり1000年に1度と言われた東日本大震災の2011年4-6月期以上の深刻な経済の落ち込みになった。
どうしてこれほど大きく予想が外れるのか。政府は消費増税の景気への影響は小さいとしており、それに忖度して4年の累積で実質成長率を僅か0.1%下げるだけだと主張した。そのような僅かな落ち込みなら5兆円の景気対策は十分すぎるほどの対策だと主張する。消費税収をたっぷり増やして、対策費はこんなに少なくても済むと結論する。これも忖度された結論だ。
財務省と内閣府は同じモデルを使っており、財務省の予測と内閣府の予測は同じであり、これらのウソの源は内閣府である。1997年の消費増税の後、深刻な不況に見舞われ橋本首相は「財務省に騙された」と語った。一体我々は何度内閣府・財務省に騙されるのだろう。2019年10月に予定されている8%から10%への消費税率引き上げだが、内閣府は経済への影響はほとんどないと言っているが、どうして信じられるか。

なお、内閣府は2009年1月16日に発表した試算でも様々な消費税率で経済への影響を計算している(15頁)。
http://www5.cao.go.jp/keizai3/econome/h21sisan.pdf
結果は、実質GDPはどの税率でもほとんど変わらないという事だから現実から大きく乖離している。また名目GDPは2018年には639.9兆円になると予測しているから笑ってしまう。

2011年2月20日の毎日新聞に内閣府のシミュレーションについての記事がトップ記事として大きく載った。2010年5月上旬に鳩山由紀夫氏と菅直人氏が内閣府から報告を受けていた。内閣府が作成した「消費税増税シミュレーション」だ。それによると、消費税率を15%にまで引き上げても、国の債務のGDP比は増え続けるというもの。このグラフを見て、彼らは「うーん」とうめいたまま、言葉を失ったそう。安倍総理もこのシミュレーションを参考にすべきだ。消費税率を15%にしても債務のGDP比は増え続けるのなら消費税率を上げる意味は全く無い。債務のGDP比を下げたいなら財政を拡大するしかない。

内閣府は消費増税の際の景気落ち込みを正しく予測できなかったが、その後は同様の予測の発表は控えている。2016年1月21日に発表した「中長期の経済財政に関する試算」では、来年の消費増税が行われた場合の試算だけ発表し、増税が延期された場合との比較は発表していない。なぜ比較を発表しないのかと電話で聞くと内閣府は「増税は法律で決まっていることだから」と主張した。しかし安倍首相はノーベル経済学者で増税反対派のスティグリッツやクルーグマンを招き意見を聴いていたし実際増税は延期された。内閣府の真意は「どうせ比較の試算を出しても当たらない」から発表しないほうがよいということだろう。

積極財政で国の債務の対GDP比は減少するという結論

赤字国債を増発して積極財政を行えば債務のGDP比は増加し将来世代へのツケは増えると誰もが思っている。忖度する内閣府としても計量モデルでそういう試算を示したいのだろうが、どんなにモデルにトリックを仕掛けようとしてもその逆の結果になってしまうのだ。それはそうだ。債務のGDP比が237%で世界で断トツのトップでありそのような国で積極財政政策が実行されれば、債務もGDPも同程度に増加する。債務がGDPの2.37倍もあるのだから、債務が1%増えるときGDPは約2.37%増える。だから債務のGDP比は減少する。納得いかない人は債務が1000兆円、GDPが500兆円とし

1000
――――
500

という分数に分子分母に同じ数を加えてこの分数の値が減少することを電卓で試して頂きたい。1000兆円が1010兆円になると1%の増加だが、500兆円が510兆円になれば2%の増加であるから分母のほうが増加率は大きいことが分かる。

つまり景気対策をすれば、GDPが増えて債務のGDP比は減っていく。このことを内閣府では毎年のように発表していた。例えば次のサイトの「経済財政モデル(2010年度版)」の「1.概要・乗数」を開いていただきたい。6頁に次のように書いてある。
「公共投資を5兆円増やせば債務のGDP比は1.65%PT減少する。」
http://www5.cao.go.jp/keizai3/econome.html
つまり公共投資を増やせば国の債務はGDPの増加により実質的に減ってくるのだ。逆に公共投資を減らせば財政はむしろ悪化するという驚くべき結果が内閣府で示されている。このような結果は毎年のように内閣府から発表されていた。これは何も公共投資に限らずどの種類の歳出でも同様である。

当然のことながら、債務のGDP比が大きくなればなるほど、これを減らすのは容易になる。つまり財政の拡大により債務のGDP比は大きく減少することになる。内閣府の試算はこれを裏付ける。5兆円の公共投資だが、債務のGDP比の減少幅は2007年には1.01%だったが、2010年には1.65%にまで拡大した。現在債務のGDP比は更に増えているから減少幅は2~3%程度まで拡大していると予想される。

 2005年6月6日、財務省は「財政問題に関するシンポジウム」を開いた。内容は国の債務が増えているので、増税・歳出削減が必要だということをPRしようとするものであった。最後に質問の時間があったので、筆者はその場で反論させて頂いた。財務省がその会場で配布した多数の資料で引用していた内閣府の試算の中にでてくる数字をそのまま引用し、増税(または歳出削減)をすると景気が悪くなるだけでなく、債務のGDP比が増大し財政も悪化するので、害あって益なしではないのか、逆に景気対策をすると、財政が健全化するではないかと質問した。それに対する財務省側からの反論は一切なく、その場におられた経済財政諮問会議のメンバーである吉川洋東大教授は事実を調べて回答しますと言っておられた。何と経済財政諮問会議の吉川先生ですら、その事実を知っておられなかった。シンポジウムが終わってすぐ、吉川先生は私の所にやってこられ、名刺を渡して調べますと言って下さった。
 その後、吉川先生は筆者の主張が事実であることを知り、私に「国の債務がこれだけ多くなると、むしろ景気対策をしたほうが、債務のGDP比は下がるのですね」と言っておられた。更に内閣府経済財政諮問会議民間議員秘書室の浅田氏より正式の手紙を受け取った。その手紙も私の主張が正しいことを確認するものだった。

それなのに公共投資を減らそうとするのはおかしい。減らせば減らすほど財政は悪化してしまう。

このことに関し質問主意書で滝議員が質問したら次のような答弁書が返って来た。
「内閣衆質166第62号 2007年2月23日
個人所得税を継続的に減税し、又は公共投資を継続的に増額するような景気刺激策を行った場合について、一定の仮定の下、これらの乗数表を用いて計算すると、御指摘のように、
公債等残高の国内総生産比率は、当初の一年目及び二年目は低下するが、三年目以降上昇すると考えられ、中期的にみて財政健全化に寄与しない可能性があることが示されている。」

つまり1~2年は財政が健全化するが3年目以降に悪化するかもしれないというもの。しかしその議論はおかしい。そもそも図1で分かるように3年目以降の予測をこのモデルで行う事は全く意味がないことは明かだ。このモデルで予測できるとしたらせいぜい1年後までだ。1年後であれば、所得税減税又は公共投資の増額で国の債務のGDP比が減ることが確認できている。こういった景気対策を行った1年後にもう一度試算をやり直しどうすべきかを判断すればよい。乗数の値は大きく変わるわけがなく、ほぼ同様の結果が出るはずだから翌年は所得税減税又は公共投資の増額をすべきだと結論が出るのは間違いない。こういった試算は毎年行っていけば、3年目以降でも同様な結果が得られるのは疑う余地はない。

上記主張の正しさを更に確認する試算「日本経済の進路と戦略」が2008年1月17日に内閣府から発表された。ここでは緊縮財政型のケースAと積極財政型のケースBとを比較して頂きたい。
http://www5.cao.go.jp/keizai3/econome/h20sisan.pdf
①ケースA 緊縮財政型         ②ケースB 積極財政型
  2011年度の予測           2011年度の予測
  名目GDP 574.0兆円        名目GDP 577.2兆円
  債務残高 787.1兆円                債務残高 790.6兆円
  債務/GDP=137.1%        債務/GDP=137.0%
  基礎的財政収支=-1.4%       基礎的財政収支=-1.6%
この2つのケースを比較して分かることは、緊縮財政は積極財政に比べ、政府債務の増加を抑えPBは改善するが、景気が悪化し、GDPは減少する。GDPの減少率のほうが、債務残高の減少率より大きいために、債務残高の対GDP比は増えていく。つまり緊縮財政のケースAは基礎的財政収支が改善するが債務の対GDP比は増加し、将来世代へのツケを増やしてしまう。

内閣府のモデルの問題点を追求しようと自見庄三郎議員は2008年3月14日の参議院予算委員会で福田総理に公開討論会で決着を付けよと要求した。福田総理はやってもよいと言い、太田弘子経済財政担当大臣に公開討論会を開くよう指示し、太田大臣はそれを了承した。2008年8月8日に公開討論会は開かれたが、太田大臣はよほど自信がなかったのだろう。出席しなかった。予算委員会で総理の前での約束を反故にした。大臣の発言はそんなに軽いものだろうか。内閣府のモデルは日本経済にとって決定的に重要な意味を持っている。その中身を徹底的に説明すべきであり、約束した公開討論会を担当大臣が逃げ出すようなことは国民を侮辱する行為である。

内閣府が逃げの姿勢を見せているのは明かだ。実際、2010年を最後に内閣府は使っている方程式や乗数を公表しなくなった。質問主意書で再三に渡って乗数を公表するように求められているのにである。なぜ公表しないのかという質問に対しては暫くの間は「リーマンショック以後、様々な経済データが不安定になったので乗数を決められないから」と答えていたが、そのうち「乗数は2010年に発表したものと余り変わっていないから」へと答えを変えた。

債務のGDP比が今後どうなるのかに関する内閣府の2011年から2017年の間の7回分の試算を図5で示した。

図5

1835


2011年の内閣府試算は国の債務の対GDP比はひたすら増え続けるというものだった。首相は「このままでは財政が破綻するぞ。だから増税・歳出削減を認めよ」と国民にアピールしたかったのだろうし、内閣府も忖度して試算結果を出していた。2011年1月21日に発表された試算では債務のGDP比は2009年度が164.3%であるのに対し2023年度には199%まで増えると予測した。
http://www5.cao.go.jp/keizai3/econome/h23chuuchouki.pdf

この予測に対して筆者は城内実議員にお願いし質問主意書で以下の質問をしてもらった。
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2011/02/no46-c47b.html
「上記試算によれば2023年度には国債費が税収を上回る。国民が納める税収のすべてを使っても国債費を払うことができなくなるという経済は、正常ではないと考えるが見解如何。」
この質問に対し菅直人総理の答弁は
「内閣衆質177第40号 平成23年2月10日
中長期試算の成長戦略シナリオにおいては、名目長期金利の上昇等を反映して、2023年度の国債費は大幅に増加することとなっており、結果として税収を上回る形となっている。このことは、成長率が高い成長戦略シナリオにおいても、平成三十五年度の財政状況は深刻であることを示している。」
であった。

この質問で政府は戦略の見直しを迫られたに違いない。「税収のすべてを国債費に使わなくてはならないような社会にしようとしているのか」という批判に晒されるのは間違いないからである。そうなって国民がなんのための納税かと疑問を抱くようになっては困る。図5で分かるように翌年から内閣府は債務のGDP比はだんだん下がって行く試算を示すようになった。下落率もだんだん大きくなっている。政府は基礎的財政収支の黒字化が困難だと認識するようになり。債務のGDP比が下がればよいではないかとの主張に変化しつつあるように思える。これはまさしく我々が日本経済復活の会をスタートした当初から主張していたことであり、大変歓迎すべきことである。

なお2017年のグラフが急に下がったのは、GDPの計算方法を変えGDPがかさ上げされたためである。安倍首相は債務のGDP比を下げることを目標にしたいようであり、この意向を内閣府は忖度し、将来は債務のGDP比は下がるのだという試算をどんどん出すようになったということだ。例えば2017年1月の試算では2025年度の債務のGDP比は169.6%にまで下がると予測した。そんなに気軽に予測を変えることができるのかと疑問に思う人がいるかもしれないが、内閣府計量分析室の人たちは真面目な人たちだから自分たちの雇い主に対しきっちり忖度しているのである。結果として国債費は税収よりずっと少なくなり、上記の質問主意書にも対応できている。

唯一気がかりなことは、忖度はともかくとして債務のGDP比は本当に下がるのかということである。実際内閣府の試算で債務のGDP比を下げる原動力となっているのは名目GDPの増加である。残念ながら政府は緊縮財政を続けており、なかなか名目GDPの成長率は伸びてこない。名目GDPを伸ばすにはやはり物価を上昇させるべきであり、早期に2%のインフレ目標を達成させるべきだ。そのためには減税と歳出拡大が必須だ。

2014年4月28日にNHKなどマスコミは「2060年度 債務残高は8000兆円余に」という財政制度等審議会の発表をしつこく報じた。債務のGDP比は397%になるのだそうだ。詳細は以下のサイトに
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2014/04/post-b994.html
またその報道の元となった財政制度等審議会が発表した論文は以下のサイト
https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia260428.html
の資料7-1と資料7-2にある。
債務残高は8000兆円余、債務のGDP比は397%という数字は視聴率を上げるためには好都合な数字なのだろうが、発表された分厚い論文にはそのような数字はどこにも書いてない。財務省の担当者に聞いたところ、記者発表の席で質問がありその質問に応じて出した数字であり、論文には書いてないのだそうである。要するにこのような膨大な論文を記者は読む気はない。視聴率を上げるための数字を無理矢理出してもらい大々的なマスコミ報道となった。

この財政審の分析はEU諸国の財務状況を改善するための数式に当てはめていることで、通貨発行権を持たないEU諸国と持つ日本ではやれることは全く違う。このことを財務省の担当者に言ったら「そうですね」との返事だった。

財務省は債務のGDP比がどんどん増えれば財政危機だから増税が必要になるぞと言いたいのだろうか。しかし、国にカネを貸しているのは国民だ、債務のGDP比が激増した世界では国民は巨額の資産を持ち、それを使わずに大部分を国に貸している。平均的な国民が例えば1億円の貯金を持ちその大部分を国に貸していて、自分たちは小さなアパート暮らしでの質素な生活に耐えていると考えればよい。自分たちの生活費を増やさずに、国に貸すお金を果てしなく増やせば、国の債務のGDP比は果てしなく増える。それは空想の世界にすぎず、そんなに貯金があるなら国に貸すのでなくもっと自分に使うはずだ。そうなれば消費が拡大しGDPが増え債務のGDP比は下がってくる。つまり債務のGDP比が限りなく増えることなどあり得ない。

内閣府(2005) 日本経済中長期展望モデル(日本21世紀ビジョン版)資料集 平成17年4月内閣府計量分析室
経済企画庁(1995) 第5次版EPA世界経済モデル-基本構造と乗数分析-

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