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2018年2月11日 (日)

ハイパーインフレ以上に怖い長期デフレ(No.290)

日本の借金が膨れあがり、やがてハイパーインフレになると言う人がいる。しかしハイパーインフレに共通するのは極端な物不足である。現在の日本は物余りの状態であり、物不足になりそうもない。需要が極端に伸びて、スーパーもデパートも百円ショップもコンビニも棚から物が消え、街の至る所で食料品を求める長い列ができるような状況になるわけがない。そもそもそんなに買いまくったら家が物で一杯になって寝る場所もなくなるだろう。しかも物不足になれば外国からどっと輸入品が入ってくるし、中国、米国などが総力を挙げても供給が追いつかないほど日本の需要が伸びるなど考えられない。
ハイパーインフレを恐れる余り、十分な景気対策ができず、デフレ脱却ができなくなっている。日本人はもっとハイパーインフレについて知る必要がある。ベネズエラやジンバブエなどのハイパーインフレは政府自ら自国産業を崩壊させ供給力欠如に陥り極端な物不足でありながら、輸入も困難な状況に陥らせたために生じている。ドイツのハイパーインフレについて詳しく説明してみよう。
第一次世界大戦に敗北したドイツは連合国と1919年ヴェルサイユ条約に調印した。ドイツの支払う賠償金が1320億金マルクと決定されたが、なんとこれはドイツの税収の十数年分に相当した。毎年の支払額も46億金マルク(歳入の約7割)という莫大なものだった。イギリスやフランスなどの連合国は戦争に勝ったものの戦争で莫大な被害を被っており、その費用をすべてドイツに支払わせるべきだと主張し、このような巨額の賠償金の請求となった。しかしながら、このような巨額の賠償金はドイツ経済を破壊し、ヒットラーの台頭を許したという意味で、連合国にとって害あって益なしという結果になってしまった。
そもそも、賠償金というものは多ければ多いほどよいというものではない。1320億マルクと言っても、例えば1億マルク紙幣を1320枚刷れば返済可能というものではなかった。賠償金も正貨(金貨)で払わなければならなかったからだ。そういう意味では、お金を刷っても意味はなかった。賠償金だけでなく現物納付の義務もあった。5000両の機関車、15万両の列車、5千台の貨物自動車、4万頭の牛、12万匹の羊などだが、一般社会の賠償請求とは話しが全然違う。これらをドイツが生産してフランスが輸入しようとすると、フランスの生産者には大打撃になってしまい、フランスの生産者が反対するなどして、物納による賠償も進まなかった。
賠償金にしても、もしこの規模の賠償金の支払いが実現するとしたら、ドイツ経済が大発展し、近隣諸国がドイツの工業製品を輸入して外貨を稼いだ場合だから、そうなれば近隣諸国の工業は破滅する。そのことを予知したケインズは、この賠償額に強く反対したが押し切られた。
当然のことながら、賠償金の支払いは滞るようになった。それに怒ったフランスとベルギーは軍を派遣し、ドイツでも有数の工業地帯であるルール地帯を占領してしまった。ただでさえ戦争で生産応力が落ちているドイツで、ルール工業地帯まで没収されたわけで、失業者は町にあふれ、物不足でインフレとなった。ここまでくるとフランス軍はやり放題で、帝国銀行が所有していた128億マルクの金を略奪し、ミュルハイム国立銀行支店に保管されていた未完成の紙幣をフランス軍が奪い、これを完成紙幣にして流通させた。
これに対してドイツ人は反発し、一切の協力を拒む『消極的抵抗』を行った。鉄道を破壊し、フランス軍の列車を脱線させ、船は運河で沈没させた。占領地域の労働者はストライキを行ったがドイツ政府は政府短期証券をライヒスバンクで割り引かせでストライキ中の労働者の補償も行った。

ライヒスバンク自体が賠償問題の解決の一貫と考えられていたから連合国により国際管理されていた。その審査機関である評議員会の14名のうち、半数の7名は外国人(英国、フランス、イタリア、ベルギー、米国、オランダ、スイスから各1名)が任命され、発券業務の監督機関としての発券委員も外国人評議員が任命された。そしてこのライヒスバンクが政府から独立し、お金を刷りまくってハイパーインフレになった。このような状況は、アメリカにおいて通貨強奪したロス・チャイルド等の国際銀行家の手口を連想させる。
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2010/12/no22-c6e3.html
http://ajer.cocolog-nifty.com/blog/2010/12/no-d68c.html
コーヒー一杯飲むのに、トランク一杯分の紙幣が必要だったとか、薪を買うのにリヤカー一杯の紙幣が必要だったが、それより紙幣を燃やした方が安くついたとか、笑い話のような話しが伝わっている。1923年1月には250マルクであったパンの値段が1923年12月には3990億円にまで値上がりした。
ライヒスバンクはドイツ政府が発行した国債を大量に買った。それだけでなく、私企業の手形の割引も行った。例えば、自分の会社で1億マルクの手形を勝手に作ってライヒスバンクに持って行けば、現金にしてもらえるのだ。こんなことをしていれば、ハイパーインフレになるのは当たり前だろう。金融業の得意なユダヤ人がここぞとばかり、混乱に乗じて荒稼ぎをしているのを見て、ヒットラーがユダヤ人に反感を持つようになったと言われている。当時はマルクをライヒスバンクから借りる事ができれば、インフレで借金はほとんど無価値になってしまうのである。国際銀行家がライヒスバンクから巨額のマルクを借り、そのマルクでドイツ国内で価値のあるものを買いまくったためにインフレが加速した可能性がある。1月に100倍以上のインフレになってくると紙幣が足りなくなって企業や地方自治体まで紙幣を刷りまくるようになり、紙幣が街にあふれるようになった。下の写真はある銀行の窓口である。企業の経理係は従業員の日当払いに必要な紙幣を受け取るため、大きな柳行李(ヤナギコウリ)を持って連日銀行へ押しかけた。

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このすさまじいドイツのインフレも、あっという間に収束してしまう。ドイツ・レンテン銀行が設立され、国内の土地を担保として1923年11月15日にレンテン・マルクを発行し、1レンテン・マルク=1兆マルクのデノミが実行された。インフレを収束させたのは、政府が財政健全化を発表したからである。レンテン・マルクの発行限度が320億マルク、政府信用限度が120億マルクとされた。またドイツ政府は通貨発行でファイナンスしていた財政政策を転換し、10月27日には政府雇用者数25%削減、臨時雇用者の解雇、65歳以上の強制退職を実施した。この政府の発表により国民が政府を信頼し、インフレは瞬時に止まった。これをレンテン・マルクの奇跡と呼んでいる。次の図は藤木裕(金融研究2000.6)から引用したものである。

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興味深いのは、インフレは政府のアナウンスで一気に収束したのだが、実際は政府はその後もしばらくお金を刷り続けているということがこの図から分かることだ。アナウンス効果が如何に絶大かということである。
確かに凄まじいインフレではあったが、生産活動へのダメージはそれほどでもない。下図は『現代ドイツ社会経済史』から引用したものである。
国民一人当たりの生産量

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このグラフより一人当たりの生産量は1923年のハイパーインフレ時と1932年の世界大恐慌の影響による落ち込みの2回生産の落ち込みがあったかこが分かる。ハイパーインフレによる落ち込みは小さく、しかもこれはルール地方の占領に対するドイツ人のストライキを含む抵抗によるものであり、1920年からの20年という長い目で見れば生産は順調に拡大していったことが分かる。デフレが続き失われた20年と言われる期間で生産が停滞した日本が受けたダメージはこれよりはるかに大きいことが分かる。
ハイパーインフレ時に名目賃金は激しく上昇したにも拘わらず実質賃金は大きな変化はなかったというのが以下の図から分かる。
       出所;『ドイツ資本主義』小原四郎著

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デフレ脱却ができない日本では実質賃金は下がり続けている。
次に失業者の推移を示した。

出所:現代ドイツ社会経済史

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失業率を3つの区間に分けて考えよう。1919年から1924年は敗戦の後インフレが進んでいた時期。紙幣の大量発行もあり『積極財政』と言える。敗戦で戦地から多数の兵士が引き揚げてきたが、時短労働も取り入れ失業者を低く抑えている。ただし1923年9月にそれを解除したこともあり一時的に失業者が増えた。1924年から1932年の間は緊縮財政で物価は安定したが、世界大恐慌の余波を受けたこともあり失業者は激増している。1933年にヒットラーが政権を執ると超積極財政が始まり、物価は安定させたまま失業者は激減、GDPは拡大していった。
現在の日本は積極財政を過度に恐れている。デフレはタンス預金が増加しお金が動かず経済が停滞する。消費増税は貧困世帯を苦しめ、お金は大企業の内部留保や海外投資に向かう。国の借金が増えることを恐れ、増税・歳出削減が進めば日本はどんどん貧乏になるばかりだ。

 

次にベネズエラのハイパーインフレについて簡単に説明する。

 

ベネズエラは原油確認埋蔵量は世界一であり世界全体の2割近い。チャベス前大統領による 『21世紀型社会主義』が失敗の始まりだった。石油収入を貧困層の医療や教育などに還元し、全国民を豊かにしようとした。物価を抑えるために、生産者に価格を無理に下げさせた。その結果経営が成り立たなくなり、 国内の製造業が衰退し、輸入品に頼る経済になった。マドゥーロ氏が政権を引き継いだ後、原油価格が半分以下に急落し外貨不足で食料品や生活必需品が買えなくなり、物不足がハイパーインフレを引き起こした。2015年の選挙では野党に敗北したが議会の権限を停止した。国民は国外へ逃亡している。

政府が大量の紙幣を刷っているので下図のようにハイパーインフレが進んでいる。

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  国営石油公社PDVSAは非効率な投資、納入業者への支払いの遅れ、米国の経済制裁、給与への不満などで従業員が離職し大きな打撃を受けていて生産が落ち込み、外貨が稼げない。独占的な輸入業者が不当な輸入品価格のつり上げを行っているために、輸入品の価格が異常に高くなっている。

最後にジンバブエのハイパーインフレを説明する。
もともとはローデシアという豊かな国で少数派の白人が政治の実権を握っていた。
ローデシア紛争の後、1980年ジンバブエ共和国が成立し黒人大統領が誕生し
「植民地時代に強奪された土地資産を黒人に委譲せよ」という法律が成立。大半の高い技術を持つ白人が国外へ逃亡し農業技術の低下と干ばつで、食糧危機に陥った。
また「外資系企業は保有株式の過半数を譲渡せよ」という法律が成立し、外国企業は国外へ逃亡し、これにより物不足になり物の値段が高騰した。
「物資は安く売らなくてはならない」という法律が成立し、企業は利益が出なくなって次々と倒産。失業者が激増した。失業者は物資の強奪を始め無法地帯になった。そしてインフレが進み、高額紙幣が量産された。

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結論としてはベネズエラもジンバブエも同じように政府が自国の産業を潰す政策を行っているために、供給不足になり物不足が深刻化しハイパーインフレに陥っている。日本の政治家がここまで愚かだとは思えないという理由で日本ではこのようなハイパーインフレになるわけがないと結論できる。しかしデフレ脱却を目指しながら増税・歳出削減という重大な間違いを犯しており、国の経済を衰退させている。一刻も早く目を覚まして欲しいと願う。

 

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コメント

 今晩は。higashiyamato1979です。やはり積極財政は全ての基本ですね。
 それでは決まり文句!お金が無ければ刷りなさい! 労働はロボットに!人間は貴族に!

投稿: higashiyamato1979 | 2018年2月11日 (日) 17時06分

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