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2018年6月

2018年6月16日 (土)

財政健全化に関し財政の専門家と議論した(No. 307)

2018年6月13日の日経の経済教室に財政健全化に関し畑農鋭矢明大教授の記事が載った。これに関し、筆者は畑農氏に質問をし、議論した。通常経済の専門家は財政危機を煽る発言をするだけで、我々の反論を聞こうとしないが、畑農氏は謙虚な方であり丁寧に応じて下さった。
【畑農】
年利3%に上昇なら利払いは40兆円近くになる。(経済教室の記事)
【小野】
日銀は国債の発行残高の半分近くを保有しており、その利払いは国庫納付金として国庫に返って来ますが、そのことは考慮に入れておられますか。
【畑農】
今回、政府の利払い費として、国民経済計算の「財産所得」支払項目を用いています。
日銀納付金は国民経済計算では「所得・富等に課される経常税」として処理されているようなので、データ処理には反映されていないというのがお答えになります。
2017年度の納付金は総額7000億円程度です。
https://jp.reuters.com/article/boj-results-idJPKCN1IT0ZL
ここから国債利払いに基づく納付金分を切り分けることは難しいのですが、例えば5000億円程度とみましょう。
政府の利払い費10兆円のうち、約半分の5兆円が日銀に渡り、そのうち5000億円が政府に戻ってきていることになります。
少ない金額とは申しませんが、利払い費の大部分を占めるとはとても言えません。
また、時系列の推移↓を見ると、日銀納付金は上下変動が激しく、国債利払いに連動しているとは考えられません。
https://olive.saecanet.com/2016/09/19982014.html
以上を踏まえると、国債利払いが安定的に日銀納付金となって政府に環流するとは考えにくいように思います。
規模から見ても、推移から見ても、利払いが納付金として戻ってくることについては、議論する必要がないとは言いませんが、少なくとも主題にはならないと考えます。
【小野】
国庫納付金が意外と少ないのは、将来発生するであろう損失にそなえて準備金として置いておくのが一つの理由です。この準備金は将来国庫に入る可能性がある資金です。さらに異次元金融緩和期間に買った国債の金利は非常に低くて、金利の高いものは金融機関が持っているからだと思います。金融機関は利子の高いものは自分で保有しておいて、利子の低いものだけ日銀に買ってもらうようにしますよね。今後日銀が根こそぎ買ってしまったら、状況は変わります。
なおFRBの国庫納付金は
2014年  987億ドル
2015年  977億ドル
2016年  915億ドル
2017年  807億ドル
ですから10兆円程度です。
【畑農】
国庫納付金については少し勉強してみます。 情報をありがとうございました。
【畑農】
利払いを含む財政赤字GDP比を目標にすべきだ。(日経の記事での主張)
【小野】
利払いを含む財政赤字GDP比を目標にするより、債務残高のGDP比を目標にしたほうがよいのではないでしょうか。財政赤字が非常に多い国でも債務残高のGDP比は低くなっています。緊縮財政を行う国はGDPが拡大せず債務のGDP比は大きくなっています。つまり利払いを含む財政赤字GDP比を目標にするとデフレが進行し、GDPが縮小するため債務のGDP比は増大すると思いますが如何でしょう。
【畑農】
これは悩ましいところです。記事中でも触れたように、長期では、
債務残高GDP比=財政赤字GDP比/経済成長率
が成り立ちます(%表示ではなく小数表示です)。
経済成長率の想定に異論がなければ、どちらの指標をターゲットにしても理論的には同等です。財政赤字GDP比をターゲットにすると、経済成長率のことも考えなければならないので、債務残高GDP比を目標にする方が指標が単一で分かりやすいというメリットはあります。ちなみに、高い経済成長率を実現できるのであれば、許容される財政赤字GDP比は大きくなり、ご指摘のようなメカニズムは考慮されていると思います。
なお、この理論はケインジアンとして著名なドーマー教授の発案なので、元来は財政赤字を出しても良いという含意が強調されています。
限られた時間の中、メールで上手く返信するのはなかなか大変ですね。
不足や誤解があるかもしれませんがご容赦ください。
私自身も大変勉強になりました。
今後ともよろしくお願い申し上げます。
【小野】
債務残高GDP比=財政赤字GDP比/経済成長率
この式ですが、日本は長い間、成長率はほぼゼロでしたから左辺は無限大ですか。
債務残高GDP比は財政赤字を増やせば、無限大から徐々に下がってくるということで
財政拡大をすれば債務残高GDP比は下がると言ってよいのですか。そうであれば内閣府の試算や日経NEEDSを使った試算結果どおりになりますが。大部分のマクロモデル研究者はそれを認めないですね。
【畑農】
債務残高GDP比=財政赤字GDP比/経済成長率
については、成長率が0だと、許容される財政赤字GDP比も平均して0ということになります。財政拡大の評価は、財政拡大の効果、特に長期的な効果に依存します。短期的に成長率を引き上げるだけではダメで、財政拡大が長期的に成長率を引き上げるのであれば、より大きな財政赤字が許容されると思います。私の現在の認識では、財政拡大により長期の成長率を劇的に引き上げることは難しいだろうと思います。
【小野】
例えば財政赤字をどんどん拡大するとしましょう。インフレになりますよね。
そうすると名目成長率は劇的に引き上げることはできますし、赤字を続けるとすれば長期的に名目成長率を引き上げることは可能だと思いますが如何でしょう。もちろん、実質成長率はどうなるかは別の話です。日本もバブル崩壊前はそれなりのインフレ率があり、成長もしていましたが、バブル崩壊して後デフレになっては成長しなくなりました。私は財政赤字を適切なレベルまで拡大すればデフレは脱却できたし、今でもデフレ脱却は可能だと考えていますが、如何でしょう。
それから過去にインフレが進んだ国、今でもインフレが進んでいる国ですが債務GDP比は
ジンバブエ 78%
アルゼンチン 52%
ベネズエラ  34%
トルコ    28%
など、日本より遥かに低い値です。日本も思い切って財政赤字を拡大すれば債務のGDP比は一気に下落するだろうと考えてますが如何でしょう。終戦直後も一気に下落しました。
【畑農】
一般にインフレになれば、債務GDP比は低下するとは思います。
ただし、それはインフレによって貨幣や国債の価値が相対的に低下し、国民から見た資産(貨幣・>国債)が毀損したからでしょう。
つまり、増税の代わりに(国民の)資産の目減りで(国民に)負担させているに過ぎないと思います。
【小野】
インフレ税という考えですね。高度成長期にはインフレになりました。その間、1ドル360円から1ドル80円まで円高が進みました。貨幣の価値が相対的に上がったわけです。これは製造業で投資が行われ労働生産性を上げた結果でしょう。減税を続けながら税収は増えていきました。
デフレ経済では企業は投資を躊躇し、生産性が上がらず、一人当たりのGDPにおいて日本は国際順位を大きく下げました。税収も上がらなくなりました。
デフレは国民を貧しくするという証拠でしょう。どの国もデフレは絶対に避けますね。
インフレで債務GDP比を下げることができれば、国民は自信を取り戻し、将来不安を
無くし、再び消費が伸びてくるでしょう。それは国民が豊かになるということです。
【畑農】
日本では随分長い間、大きな財政赤字を出してきましたが、デフレのままですね。
財政赤字を拡大すると本当にインフレになるのでしょうか?
物価と財政の関係を表したFTPLなどの議論もありますが、実証的証拠はまだ十分ではありません。
私も十分な答えを持っているわけではありませんが。
【小野】
私はインフレになると思っております。
インフレにならないということであれば、アメリカのように大型減税を日本もやればよいと考えます。インフレにもならないし、国民も生活が豊かになりますしこんなに素晴らしいことはありません。経済学というものは、国民の生活を豊かにするためにあると考えます。
【畑農】
それから、バブル期の高成長は一時的なものと理解しています。
つまり、バブル期の高成長は長期で維持できるものではなかったように思います。
日本では随分長い間、大きな財政赤字を出してきましたが、デフレのままですね。
【小野】
バブル期の高成長は一時的なものだったかもしれません。しかし、60年代、70年代
の高度成長は一時的とは言えません。インフレでしたし、国民は生活が豊かになりつつ
あるとの実感があり将来に希望を持っていました。デフレになってからは生活が貧しく
なりつつあると感じ、将来に不安を抱くようになりました。デフレよりインフレのほうが
よいのではないでしょうか。

内閣府のモデルでも、日経NEEDSでも財政を拡大すると債務のGDP比は下がります。
成長率も上がります。モデルが間違えてますか。
【畑農】
短期的にはその(モデル)通りと思いますが、長期で維持できるとは思いません。
伝統的なケインズ政策は短期的な拡張効果しか持たないと考えています。
逆に言えば、不況期にケインズ政策は依然として有効だと私も思います。
しかし、財政の持続可能性のような長期的課題には無力(場合によっては有害)です。
【小野】
短期的には実証済みと考えるべきでしょう。長期ではどうでしょう。
日本は失われた20年と言われております。諸外国でこのように長期にデフレが続いた例はありません。デフレは短期で終わらせなければならないと誰もが考えているからではないでしょうか。短期でケインズ政策が有効ならば、一気に財政政策でデフレを脱却させたほうがよいと考えております。財政政策を止めればまたデフレに戻るという考えがあるかもしれません。財政拡大政策を止める必要はないのです。どこの国も毎年財政を拡大し続けており、日本もそのような普通の国になればよいだけです。

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2018年6月11日 (月)

デフレ脱却してないのに消費増税はやめましょう(No. 306)

日本経済復活の会は2003年に創設され、様々な活動を行っている。その活動の一つが新聞の1面を使った意見広告である。1回目は2007年10月26日の朝日新聞で「日本はここまで貧乏になった」という見出しだった。当時、マスコミの論調は小泉改革で戦後最長の景気回復になったというものだった。この意見広告で、かつて日本は一人当たりのGDPは世界最高であったのに、小泉内閣の緊縮財政政策で18位にまで落ちてしまったと説明した。これにより、マスコミはこれではいけないという論調へと急変した。2回目は2010年6月22日に読売新聞に「積極財政で財政が健全化する」というタイトルで出した。これは日経の日本経済モデル(NEEDS)を使った分析結果を紹介した。

今回「デフレ脱却してないのに消費増税はやめましょう」というタイトルで3回目の意見広告を出そうとしている。発行部数の多い読売新聞になると思う。7月か8月に出す準備をしている。2014年の消費増税は大失敗だった。折角景気回復が見え始め、失われた20年から遂に脱却できるという時に、消費増税が景気を落ち込ませ、その余波がまだ続いており、デフレ脱却の見通しが立たなくなった。あの消費増税がなかったら、その後の世界の景気回復、原油価格の下落という追い風に乗って日本経済は大きく拡大し、アベノミクスのお陰でデフレ脱却、税収増大、そして財政健全化の達成という歴史に残る快挙が達成されたと考えられる。

あの消費増税の失敗に懲りず、政府はまた来年の10月には8%から10%へ税率を引き上げようとしている。再度景気悪化が目に見えている。普通の国であれば消費増税で特に経済が悪化するようなことはあまりないと言われる。しかし日本は特別であり消費増税で通常の国では考えられないほどの深刻な消費の落ち込みがある。少子高齢化で年金が危ない、国の借金が膨大だから将来大増税があるなどという不安が伴い消費を落ち込ませる。今政府がやるべきは、需要拡大策により毎年収入は増えていくのだと国民が信じるような活発な経済状態に持って行くことである。

現在国会議員の中で我々と同じ方向性の議員グループが2つあり、これらの会と新聞の意見広告が何らかの連携が取れないか現在模索中である。
(1)日本の未来を考える勉強会:代表安藤裕
政府に対して財政政策に関する提言をした。提言は同党の衆議院3回生議員(約100名)のうち28人の連名で、消費増税の当面の凍結と2019年経済危機を乗り越えるための20~30兆円規模の景気対策を求めた。
(2)故郷を支援する参議院の会:会長吉田博美、事務局長西田昌司
自民党の西田昌司参議院議員らのグループ約100人は財政再建より20~30兆円の基盤強化投資を積極的に行い、経済成長を重視する政策を提唱している。
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日本経済復活の会では、この新聞の意見広告を出すために、同じ考えを持つ方々に寄付をお願いしています。出稿料は配布する範囲によりますが、首都圏版であれば200万円程度になります。日本経済を救うために、是非ご協力をお願いします。
【寄付金の振り込み先】
みずほ銀行 動坂支店 普通預金 8027416
日本経済復活の会 代表 小野盛司

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