内閣府計量分析室に電話して2018年7月9日に発表された『中長期の経済財政に関する試算』について質問した。
Q 消費増税のお陰で2019年度と20年度の物価がかさ上げされるはずで、半年前の予測では確かに物価ははね上がっていた。物価上昇率は2018年度は1.1%だが2019年度は2.1%にはね上がっていたが、今回の発表では2019年度は1.5%に下がっている。これはなぜか。
A それは政府経済見通しの方で置いている前提なのだけど、消費税増税にあわせて幼児教育の無償化というのが実施される予定でして、それが消費者物価を0.3%ほど引き下げると政府経済見通しでは見込んでいるということです。19,20でそれぞれ0.3%です。試算では0.6%だけ下がったわけで、残りの0.3%は政府経済見通しが下方修正された事から来てます。
Q 2020年も下方修正されてます。
A そうですね。足下の傾向も引きずって2020年も下方修正されました。
Q 具体的に下方修正の原因となるものがあったということですか。17年も18年も下方修正されているんですよね。例えば実質GDPを見ても2017年度も前回1.9%だったのが1.6%というように全般的に下方修正されていますね。2018年も前回1.8%だったのが1.5%に下がっている。
A そうですね。2017年度はGDP速報からの修正があって、実績が速報より下がっていたということになります。
Q 17年、18年は全体的に下がっていますね。
A はい。成長率に関してはそうです。
Q これは特殊要因があったりしたのですか。
A それは政治経済見通しでやられていて、詳細は知らされていない。
Q 部門が違うので、自分の担当でないということですか。
A そうです。知らされていないということです。
Q 10年以上前からさかのぼって見ると、だいたい下方修正するんですね。どうせ毎回下方修正するくらいなら、もともとズバリこの位だという予測を出した方がよいのではないですか。毎回過大な見通しを出しておいて、毎回下方修正をするというのはみんな知ってます。そんなことをやらずに、もともとこんなものだと出すわけにはいかないのですか。どうせすぐ下方修正するんだと政治家を含めみんな思っていますよ。天気予報だって今日は晴れと言っておいて、いつも雨が降ってくればみんな怒りますよね。
A はい。
Q その年の成長見通しくらいはだいたい分かるでしょう。民間でも出しているのがあります。日経新聞が民間のデータをまとめていますよね。
A はい。そうですね。
Q ESPフォーキャストというのがあって40くらいのフォーキャスター(機関)の予測の平均が出ています。比べてみると、そちらのほうが、内閣府試算よりよほど正確です。内閣府の予測は毎回大変上振れしています。これを正しい予測にしておかないと、政府として困るのではないですか。そうしないと正しい政策が出せないと思いますが。
A そうですね。政府経済見通しがどういった目的で作られているかということが重要なところになってくると思います。毎回はずしているようじゃあ政策へのコミットメントが弱くなるのではないかと思います。
Q 政府経済見通しが出される目的は知らされていないのですか。これは予測ではなく目標だと宣言するのならよい。でも目標だけでなく、予測も出して欲しいですね。
A そうですね。
Q いつも過大な成長予測を出しておいて、その後直ぐに下方修正をするのはおかしいのではないかと思います。これでは日本経済はよくならない。改善しようよと内部から声を出して欲しいですね。
A そうですね。
Q 来年消費増税をする予定なのですね。そうすると実質GDPは落ち込むだろうなと考えます。前回の2014年のときも落ち込みました。半年前の予測では落ち込むという予測が出ていました。17、18に比べ19,20はガタンと落ちていました。今回は落ちてない。どうしてですか。民間のESPフォーキャストも実質成長率ですが2019年は0.8%、20年は0.76%というようにかなり落ち込むという予測を出しています。ところが内閣府では1.5、 1.4と出している。こんなに成長しないと我々は素朴に思うのですが如何でしょう。
A 2020年に関しては消費が少し弱くなっていると言うことはあります。
Q この位の落ち込みですむんですか。
A 政府としては駆け込み反動とかという影響を最小限に抑えるために特別な措置を講ずると骨太方針にも書かせて頂いている。それがどれだけの効果があるのかということは実際やってみなければ分からない。政府としては対策を行う予定ではあります。
Q 2014年のときは消費増税でほとんど落ち込まないという予測を出しておられた。しかし実際はガタンと落ち込んだ。5兆円の経済対策を出すのでこれは落ち込みを大きく上回る規模だと言っていた。財務省のホームページにも今でも書いてあるし、大臣もそう言っていた。しかし大きく落ち込んだ。
A そうですね。
Q 2014年の消費増税の前に、民間のESPフォーキャストは消費増税で景気は大きく落ち込むと予測していた。やはり民間予測のほうがあたった。だからESPの方が全然あたるじゃないかと素朴に思います。
A はい。政府見通しは当てにいっているのではなく、アベノミクスが上手くいったらこうなるという試算をお示ししています。
Q アベノミクス、つまり安倍首相に忖度して、首相の言う通りになったらいいなという首相の願望に沿ったものを出していると言うことですか。
A まあ、ある意味、うまくいったらということです。ベースラインでは現状のままではどうなるかというアベノミクスがうまくいかなかったらどうなるかという場合も出しています。
Q やはり消費増税は経済に大きな打撃を与えていますから、それを理解していただきたい。対策をしたつもりかもしれないが、2014年のときもこれで十分だとアナウンスしていたのですが、全然足りなかった。
A そうですね。
Q 今回も同じではないですか。もちろん希望的観測をお持ちかもしれませんし、私も希望的観測を持っていますが、現実はそんなに甘くなくて落ち込んでしまうのでは無いですか。
A おそらく2014年のときのような対応をすれば、同じような落ち込みをするだろうという危機感を持っている方は政府の中にも多くおられます。今回はその反省を踏まえて対策をしようということとになっています。補正、経済対策です。
Q 補正を組むのですか。予算案はでていますよね。100兆円を超えるとか超えないとか。4.4兆円の特別枠を設けるとか言っていますね。
A 消費税増税に伴う補正に関しては織り込んで計算はしてないです。
Q 2017年の歳出は98.1兆円になっていますが、半年前は99.1兆円と言っていましたね。下げてしまった。2018年は前回の発表と変わらない。2017年から少し下げた。2019年は99.0だから前回発表より少し増やした。4.4兆円の特別枠はここには反映されてないのですか。
A もう決まっているものだけ反映されています。将来のものに対しては反映していない。歳出がモデルの中でどのように決められているかと言えば、基本的には自然体での伸びと言います。賃金や物価に連動して増えるというような試算をしておりまして、賃金や物価が変わると歳出も微妙に変わることになっている。歳出改革といった努力を行う。19年度に関してはここだけは特殊で歳出改革は半分だけ織り込んでいる。それ以外はすべて自然体で織り込んでいる。
Q 歳出改革というのは増やす分も減らす分もあるということですか。
A 具体的には、予算のシーリングですかね。
Q シーリングは設けないと言ってなかったですか。
A 将来に関しては設けない。来年度予算では大まかな上限みたいなものは決められているかと思います。そういったものが歳出改革努力ですね。社会保障費を抑える、そうしたものを半分織り込むのが19年度です。夏試算は半分織り込むとして試算を計算しています。
Q 補正があるかもしれないと考えているのですか。
A 補正は決まっていないから織り込んでいない。
Q 2017年度の歳入が上振れしていたのですね。だからそのお金を使っていいというわけにはいかないのですか。
A 実際の政策はどうなるかということは分かりませんが、試算上は歳入が増えたからと言って歳出を増やすということはせず、歳出は物価などの伸びに従って伸びてていくという形にしています。
Q 新聞だと2019年度予算の100兆円超えは確実と書いてありますね。
A 特に報道などには左右されません。試算は試算の中で完結しています。
Q 長期金利ですが全般的に下げ気味ですよね。
A そうです。物価が足下低くなったために、日銀の2%の物価目標がうしろにずれてしまった。それで試算の前提では物価が2%ほどにいったときに0金利は止めるということにしていまして、0金利を続ける期間が長くなってしまって、金利が発射するタイミングが遅くなったのでちょっと低くなってしまった。
Q この試算で潜在成長率がかなり重要なパラメーターになっているということでしょうか。
A そうですね。この中長期試算というものは、経済財政モデルというもので基本的には、潜在成長率、まあ供給、潜在成長率が長期の成長を決めると言うことで、GDPとか実質GDPとか、実質GDP、まあ需要面が結局潜在成長率に収束するというみたいなモデルになっておりまして、ある意味経済のあすを作っているのはこの潜在成長率です。
Q 1982年から87年の潜在成長率は前回の発表では0.8%だと言っていたのに今回は0.9%になっているのですが、なぜ上がったのですか。
A TFP上昇率ですね。潜在成長率は別の部署で計算するのですが、国民経済計算の基準会計というものが2年前にありましてR&Dを含めるといったことがありました。それが今まで94年までしかなかった。それが82年まで伸ばされた。こうした影響で、潜在成長率自体は変わらない。潜在成長率は労働と資本とTFPで決まるが、資本がR&Dを含めることによって大きくなった。そうすると潜在成長率も大きくなった。
Q 以前聞いた話では、昨年夏の試算だと2019年度の潜在成長率は2.4としていた。それを今年の1月の試算では2.0に下げたと聞いています。今回の試算ではどうなっていますか。
A 半年前の試算と同じ2.0です。
Q 潜在成長率を下げた理由は何ですか。
A 経済財政諮問会議の委員から下げるように意見があったので下げました。
Q 経済財政諮問会議では具体的にモデルで計算しているのですか。
A 中長期試算というものは、経済財政諮問会議の求めに応じて作られているものなのですが、昨年12月の諮問会議において、伊藤元重委員からもっと形式的なパスにしたらどうかという御指摘を頂きまして、ちょっと潜在成長率を下げました。
Q 彼はモデルを走らせて計算したということなのですか。
A そういうことではなくて、試算をご覧になってということです。
Q 試算をご覧になって成長率が高すぎるから、低くしろよと。
A そうですね。
Q 成長率を下げるには潜在成長率だけではないと思います。潜在成長率をそういう使い方をしていいのかなと思うのですが、潜在成長率を下げれば成長率も下がるからいいじゃないかというのは単純すぎる気がする。それより過去10年か20年のデータにフィットするようにパラメーターを定めて、将来の予測をしたほうがいい。単なる一学者の勘に頼るより良いのでは無いでしょうか。伊藤先生から言われたから下げましたというのでは、モデルの計算にならない。鉛筆なめなめでやってるだけじゃないかということになります。
A そうですね。供給力を過去の実績に基づいていますからいいのではないかと思いますが。
Q 供給力と言いますが、本当に供給力で頭を抑えられているのか、みんな消費しないのは供給力が無いから消費しないのではなく、むしろ将来不安があるから、将来大増税があるのではないか、国の借金がこんなに大変だから、少子高齢化で自分たちの年金がもらえなくなるのではないかとか、色んな不安を日本人が持っている。だから消費が伸びない。政府がそういう心配はいりません。政府が保証しますから大いにお金を使って下さいといい、政府自身がどんどん使っちゃうということをする、例えば田中角栄みたいにやれば需要が出てきて、物価が上がりデフレから脱却でき、潜在成長率も上がってくる。
A そういう考えもあると思いますね。
Q 増税をやって国民はお金使うなと言うと国民はお金を使わない。そうするとだんだん経済が小さくなっていき貧乏になっていく。そういう経済にしないほうがいいのではないですか。日本の財政を見ても、財政規模が拡大していない。経済規模は財政規模でほとんど決まって財政が伸びない限り経済も大きくならない。実際財政支出をどの国でもどんどん伸ばしている。日本はちょっと景気対策をして直ぐ止める。そしてまた減らす。それを繰り返しているからいつまで経っても経済は大きくならない。歳入にしても26年前のレベルを超したとか言ってますが、他の国で26年前のレベルにやっと到達したという国は他にあるでしょうか。26年前に比べると何倍にもなっている、最低何十パーセント増えてるということで日本ほど歳入が伸びない国はない。これは政策の大失敗で国民がお金を使わないから歳入は伸びない。結局それは歳出を伸ばさないからだと思うのですが。
A はい。
Q 全要素生産性は足下では0.6でそれが1.5まで上がるのですか。
A デフレマインド解消で5年間で0.9%上昇で1.5%にまで上がると考えています。
Q 5年間で均等に上がっていくのですか。
A そうですね。機械的ではありますが、均等に上がっていくと考えています。
Q 上がっていく理由は何でしょう。
A これは仮定ですが、アベノミクスによる政策効果が発現したらデフレ前の姿に戻るだろうということです。
Q ということはこれまではアベノミクスでもデフレマインドは払拭されなかったということですか。つまりこれまではアベノミクスは失敗しているということですか。
A はい。TFPでみればこれまではそれほど上がっていないということです。これからの5年間で発現するということです。
Q 期待ですね。言ってみれば忖度と言えるかもしれないですね。
A そうですね。
Q この試算はマスコミも大きく取り上げるし、政府ももっぱらこれに頼っている。だからもっと正確な予測を出して欲しいという希望はあります。だから例えばESPフォーキャストを参考にしてほしい。過去の予測を比べてみれば、あちらの方がはるかに正しい予測を出している。あれを上回るような精度にしてほしい。政府が目標を出すのはよいのだけど、実際はどうなるだろということで、やはりESPを上回る精度で出して欲しい。気象庁でもどんどん精度は上がっている。大型コンピュータを駆使してもよいし、人工知能で判断させてもよい。ビッグデータを集めてできるだけ誤差を少なくして欲しい。誤差が大きいと政府が道を誤る。消費税増税をやって、あれは失敗だったと言うだけではすまない。国民はどうなるのか。他の国は成長しているのに日本だけはどうして成長しないのか。結局緊縮をやっているから、これにつきますね。他の国は歳出を増やし続け経済をどんどん拡大させている。
A アベノミクスで重要なのはまずは経済再生。そして財政の健全化も進めていくのが一番理想的ではあるのですが。
Q 財政健全化という意味ですが、債務のGDP比が減れば、財政健全化と言えるのではないか。プライマリーバランスが気になりますか。
A プライマリーバランスは政府が一番コントロールできるものです。
Q コントロールできないですよ。コントロールできるのであればもうとっくに黒字化しているはずです。小泉さんのときも2011年度黒字化するとして一生懸命やっていたけれど実際2011年度は大赤字だった。それで2020年度に延期してまた一生懸命やっていましたがコントロールできなくて無理ということになり、更に2025年に伸ばし、更に2027年へとズルズルと後へ伸ばしている。結局プライマリーバランスは政府がコントロールできない。
A 現実はそうですね。
Q 歳出を減らすとプライマリーバランス黒字化すると誤解している人がいます。しかし歳出を減らして歳入は増えない。GDPは減る。むしろ歳入は減るかも知れない。だからいつまで経ってもPBは黒字化しない。モデルで計算してみると分かりますが、逆に思い切って財政を拡大すると歳入が増えます。意外と財政健全化は財政拡大のほうが余程早く達成できる。他の国はPBなど気にしていません。ほとんどの国はPB赤字です。PBを黒字化しようという国は聞いた事無い。トランプさんもPBを黒字化しようとしていない。大規模公共投資、大規模減税で財政赤字は拡大、でも国民の支持はそれほど落ちてない。貿易戦争は支持できませんが、すごい積極財政ですよ。
A そうですね。
Q 失われた20年、デフレ脱却には何をすればよいのか。日本も積極財政をすべきではないのか。財政拡大でインフレ率は上がってきます。
A はい。そうですね。なかなかこの辺が難しいところです。財政を増やすにしても今までのような純粋なバラマキではいけなくて、やはり乗数効果を考えて、効果のあるものを選んでやる必要がありますね。それができれば、財政にもよい影響があると思いますし経済にもよい影響があると思います。
Q 内閣府は2010年度までは乗数を出していた。そこから乗数を計算しなくなった。それを見て政治家は何をやれば良いかが分かるわけですから是非出して欲しいですね。
A 我々としてもそういう希望はあるところであります。
Q 計算しようと思えば簡単に計算できるわけですから出せばいいじゃないですか。中でそういう運動を起こして下さい。是非出して下さい。
A はい。
Q 有り難うございました。