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2018年7月 9日 (月)

どうすれば労働生産性が向上するのか(No.308)

6月29日働き方改革法が成立した。失われた20年で日本の発展は止まったまま。これは労働生産性が伸びないからだと政治家は思っているのかも知れない。働き方を変えれば経済は成長するのだろうか。残業時間を減らして少ない時間で同じ生産量が確保できるなら生産性が上がるから成長するのだろうか。しかし、残業時間を減らしたら、給料も減るわけだから可処分所得は減り消費が落ち込み結果としてGDPは減る。

もしもデフレ脱却しGDPを増やしたいなら、残業時間を減らして給料を減らした分を何らかの穴埋めをして可処分所得を増やし消費を伸ばす必要がある。しかし政府がやっていることはその逆で、来年は消費増税を行い可処分所得を減らす政策だ。これに残業代を減らすと労働者にとってはダブルパンチだ。

筆者は1970年代から1980年代にかけて欧米の大学・研究所で素粒子論の研究を行っていた。この頃ドイツのテレビは時々日本経済の特集をやっていた。日本の奇跡の経済復興に注目が集まっていた証拠だろう。テレビでは「日本の会社では驚くほど休みも少なく長時間労働が行われている」という点にスポットが当たっていた。あんなに働けば経済成長もできると言いたいようだった。

1990年代の初めには日本の一人当たりの名目GDPは世界トップレベルだったが今や先進国で最低レベルにまで落ちてしまった。この原因が日本人が勤勉に働かなくなったとか、非効率は働き方になったからだとかと説明する人がいるかもしれない。あるいは生産年齢人口減少が原因と主張する人がいるかもしれない。ご承知のように失われた20年で日本の経済成長は急速に落ち込んだ。名目GDPと生産年齢人口と歳出の伸びを比較してみよう。
              名目GDP   生産年齢人口   歳出
1970年から1980年  327%    109%    492%
1980年から1990年  182%    109%    159%
1990年から2000年  114%    100%    129%
2000年から2010年   97%     94%    106%

GDPの伸びの急激な落ち込みは日本人の勤務態度などほとんど関係ない。この表で分かるように生産年齢人口の減少もほんの僅かであり、とても説明できない。歳出の伸びの急激な落ち込みと関係しているのは明かだ。かつてのように大幅に財政を拡大できるのだろうかと心配する人がいるかもしれない。そんなに心配なら10兆円、20兆円、30兆円・・・と徐々に財政拡大幅を増やしていけばよい。物価の動向を注視し、行き過ぎないよう配慮すればよい。ただし、これまでデフレが続いていたのであり、適正な物価水準を取り戻すにはある程度高めのインフレ率を目指した方が良い。

日本はすでに成熟した経済なのでこれからはそんなに大きく伸びないと決めつけている人もいる。しかし一人当たりの名目GDPを国際比較しても現在の水準は1970年代か1980年代のレベルにまで逆戻りしていて、まだまだ未熟な国家のレベルである。成熟した経済でも成長しないわけではない。1990年頃スイスとルクセンブルグは日本と共に一人当たりのGDPで世界のトップを争っていた。次に示すのは内閣府の国民経済計算報告(昭和30年~平成10年)であり一人当たりの名目GDPにおいて1993年と1994年、日本が世界一であった。

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2017年になると一人当たりの名目GDPは
日本              38439ドル
スイス             80590ドル
ルクセンブルグ    105803ドル
となっており、間違えた経済政策のお陰で日本はここまで貧乏になってしまった。日本より遥かに成熟したルクセンブルグやスイスも現在でも力強く成長を続けているのであり、経済政策を改めれば日本も今後大いに発展できる。

ルクセンブルグは年率4%~5%で成長している。アルセロール・ミッタルという世界最大の鉄鋼メーカーの本社はルクセンブルグにある。スカイプやeBay、アップルなどを筆頭として数多くのインターネット関連企業が本社機能をルクセンブルグに移転した。ユーロ圏における金融センターとしての役割を果たしている。外国の巨大企業が集まるのは税率が低いことと、様々な言語を話す人材が豊富にいることと、ヨーロッパの中心に位置していることの便利さもメリットとなっている。人口57万人の国に毎日20万人が国境をこえて通勤している。

スイスは物価が高く、高価な時計や医薬品を輸出している。金融機関の秘密性に基づく金融王国「秘密こそが収益」としている。富裕層の個人資産運用に活用されており、世界のオフシュア市場資金の3分の1を握っている。観光業も重要な産業となっている。税金が安く、独仏伊の3言語と英語においてのサービスが可能で企業の立地拠点として魅力であり世界の多国籍巨大企業がスイスに拠点を置く。対外投資収益の巨大な黒字となっていて GDP比では日本の2倍である。1990年代のバブル崩壊後も、金融システムは日本より遥かに健全な状態で維持されたから「失われた20年」を免れた。

スイスもルクセンブルグも歳出を大きく増やし続けているところが日本と異なるところである。日本もこれらの国と同様に歳出を増やし続けていたら発展できたのは間違いない。一時的な景気対策ではなく、計画的な財政拡大策が必要なのである。経済が拡大を始めれば海外の投資家にとっても日本という市場が魅力的になってくる。また外国企業の誘致には法人税を含む減税が必要となる。それに外国語教育も充実させなければならない。AIを使った外国語教育は期待できる。

労働生産性を上げるということは一人当たりの名目GDPを上げることと密接に関係しており、働き方改革だけではないことを忘れてはいけない。

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コメント

 今日は。higashiyamato1979です。経済成長こそが全ての基本ですね。
 それでは決まり文句! お金が無ければ刷りなさい! 労働はロボットに!人間は貴族に!

投稿: higashiyamato1979 | 2018年7月10日 (火) 16時23分

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