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2018年9月21日 (金)

ベーシックインカムより優れたJOD(Job-on-Demand)(No.320)

最近ベーシックインカムの議論が頻繁に交わされるようになった。AI/ロボットが雇用を奪ったときの経済システムについて検討しなければならない時期が来たと感じているからであろう。しかし、ベーシックインカムには様々な問題がある。第1は巨額の財源が必要となることだ。例えば国民全員に毎月1万円を配るだけで、年間14.4兆円の財源が必要となる。これを増税で賄うとすれば、例えば消費税率を数%も上げる大増税となる。生活困窮者にとっては月1万円では生活できないし、富裕層にとっては、そんなカネはもらっても余り意味が無いと感じるだろう。例えば消費増税で賄った場合、貧困層からカネを巻き上げ、富裕層にばらまく形となり批判は免れない。もし生活するに十分なカネを全員に配ることができたとしても、国民が労働意欲を失うのではないか、あるいは暇をもてあますのではないか。働くことに生き甲斐を見出していた人たちを失望させるのではないかなど、様々な問題が発生してくる。

この代替案として筆者はJOD(Job-on-Demand)を提案している。これは以下の拙書で紹介した。
『労働はロボットに、人間は貴族に ロボット ウイズ アス』小野盛司(2005)
筆者が提案するのは、国民全員に同額のカネを配るのでなく、各人がどのような仕事に生きがいを感じるのかを調べ、それが実現できるように国が後押しをするということだ。もちろん「いっぱいカネを稼ぎたいから医者になりたい」という人も多い。国民全員を金持ちにするのは無理だ。なぜなら金持ちか金持ちでないかは相対的なものであるのだから。未来社会では供給力は格段に拡大していると考えられるから、それなりに誰もが今より金持ちになっており、価値観は現在よりかなり変わっていると思われる。生活に必要なものの大部分は誰でも入手可能になっているはずだから。

未来社会で人はどのような職業を選びたがるだろうか。例えば
作家、タレント、小説家、俳優、評論家、記者、料理人、デザイナー、科学者、研究者、発明家、歌手、カメラマン、芸術家、陶芸家、園芸家、棋士、落語家、野球やサッカーの選手
などがあるかもしれない。例えば歌手になりたいという人が多数いたとしよう。現在では歌手で生計を立てることが出来る人はほんの一握りしかいないが、JODでは国が強くサポートする。余程歌が上手くないと、リサイタルでも聴衆が来てくれないだろうが、それでもうまくアレンジして歌う場所を提供する。採算を度外視すれば結構できるだろう。下手でも公務員として雇ってやり生活に困らないほどの給料を出してやればよい。そしてヒット曲を連発する歌手には給料を高くするとか、スポンサー契約等様々な副収入を許す。公務員であっても副業禁止などの制限は一切かけないので、天井知らずの収入が許される。

筆者は半世紀近く前になるのだが西ドイツに暮らしていた。当時多くの日本人音楽家と西ドイツで出会った。日本と違い、西ドイツでは音楽家に対する国の支援があり生計を立てていけるのだと言っていた。オペラなど入場料も随分安かった。JODでは様々な分野で国が支援をしていけばよいのだ。国民の人生を充実したものにするにはそれがなにより大切だ。

医者になりたいという希望者が多いかもしれない。この時代医者が金持ちとは限らない。人間の医者よりAI/ロボットの方が正確な診断が可能になっている可能性があるからだ。医学の研究で膨大な論文が発表されており、人間は最新の研究論文まで含めて全部読んで理解するのは無理だ。しかも個人カルテが電子化されその人の病歴、検査結果、治療履歴、個々の薬の効き具合、アレルギー反応等膨大な情報が記録されており、それらをすべて考慮に入れて治療方針を決定するとなると、人間の医者よりAI/ロボットの方がずっと優れているということになっているだろう。そうであれば医者とて、それほどの高給が稼げる職業ではなくなっている可能性がある。今だと大病院では長時間待たされた後、診察で医師と話せるのはほんの短い時間で誤診も多い。未来の医療では、人工知能がまず自宅で詳しい説明を聞く。簡単な検査も自宅でできるようになる。そこで薬を処方して終わる場合もあれば、その診察を踏まえて病院で診察を受けることもある。医師は補助的な役割の事が多くなるからそれほど金持ちにならないのではないか。

JODが優れているのは、最初は小規模にスタートし、次第に規模を拡大することが可能なことだ。ベーシックインカムの場合は少額の配布でも巨額の財源が必要となる。それは貧乏な人も裕福な人も全員にそして一律にお金を配ろうとするからである。JODの場合は失業者が増えてきたらその人達がどんな職業に就きたいかを聞いて対応すればよく、はるかに少ない人数を相手にした対策なのではるかに少ない財源で大きな効果がある。そして段階的に適用範囲を拡大して行けば良い。                                                                                                                                                                                                                                                                                            

特にやりたい仕事はないような人、何をすればよいのか自分では分からない人は国で仕事を提案すればよい。未来社会ではAIの進歩が決定的に重要になるし、そのためにはビッグデータが欠かせない。そのための生活モニターになってもらい生活を快適にするためのあらゆる種類のアンケートに答えてもらえばよい。政府の政策に対する意見、各テレビ番組の感想、日常使っている器具、自宅の住み心地等あらゆる質問をネット経由で答えてもらう。このような人に対して公務員として給料を払う。これなら寝たきり老人でも仕事ができる。公務員として雇うのはどこまでかと言えば必要に応じてということでそれがJODの意味である。AI/ロボットがどこまで人の雇用を奪うのかに応じてその規模を決めれば良い。

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コメント

 今晩は。higashiyamato1979です。全国民が読むべき素晴らしい提案です。
 それでは決まり文句! お金が無ければ刷りなさい! 労働はロボットに!人間は貴族に!

投稿: higashiyamato1979 | 2018年9月22日 (土) 17時15分

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